いしずえ

第一巻春雪の巻

 さらにこのY班長は自分の地位にあぐらをかいて、部下にたいしては徹底した暴君であった。

 どなる、なぐる……それは彼の言葉と行動の代表的なものであった。時計の針が少しおくれているといっては給仕をどなり、そしてなぐった。

 時々、あきれてしまって、腹をたてる気にもなれないこともあった。その一例をあげるならば……、或時Yは食事にとりかかってから、給仕に急いで大根おろしを食べるから大根を買ってくるよう命じて走らせた。しかし大根おろしが運ばれてきたときには彼の食事は終っていた。彼はカンカンに怒ってその給仕をなぐりつけたのである。万事がこの調子であったから、同室の将校から給仕にいたるまで、彼をきらい、憎んでいた。

 五月の半ばのことであった。

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  1. 2014/06/01(日) 08:58:31|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 地方の安慶特務機関の経済課長から、十三軍司令部の政務班に電話がかかってきた。それは「参謀長命令では、六月一日づけで塩を値上げするようにきているのに、地方ではどんどん上げて売っているが、一体どういうわけであるのか」という問い合せであった。

 この電話をうけた戸松は、日頃班長に不信の感を抱いていたので、彼に報告せずに直接参謀長の部屋のドアを叩いた。

 軍の報告は班長、主任参謀、高級参謀を経て参謀長に達する規則になっていた。しかし何かしら不正のにおいの感ぜられる事件であったので、戸松は絶対的心服と尊敬をはらっている参謀長に直接うったえたのであった。

 前田参謀長の寛容そのものの豊かな顔には忽ち怒りの閃光がさっと走り、

 「六月一日以内の値上げは絶対いかん」

と、軍人らしい肚の底から発せられたような一声で厳命した。

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  1. 2014/06/02(月) 19:56:16|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 一日何万俵とうごく塩のことであるから、一俵につき一円(当時の金で)あがっても何万円という利益になる。半月も前から勝手にあげて得た莫大な利潤は、当然裕華公司の関係者のふとろこにも入ることになる。

 「今日は一つ、Y班長に泡をふかせてやれ」

 戸松は心中つぶやきつつ自分の机に帰るや、早速軍用電話で九個師団毎にある全部の特務機関経済班をよび出し、全機関にいっせいに参謀長の名で、

 「六月一日以前に塩を値上げして売る者があったら厳罰にせよ」

と命令を出した。

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  1. 2014/06/03(火) 22:35:05|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 果せるかな、Y班長は電話の最中に顔色を変えて、

 「その電話待て!」

とどなったが、戸松はそれをしりめにかけて、尚も命令を送った。

 ついにY班長は、怒髪天をつくの勢いで席を立つや、つめよってきた。上官をさしおいて直接命令する戸松に対する怒りと、自分の分野をおかされ邪魔されることに対する憤りとが、Y班長の全身を炎のようにもえ上らせていた。

 地位を十二分に利用することを知っている古参将校と、正義心のつよい新米の部下とは、机をはさんでついに激論をはじめた。

 突然Y班長は手をあげると、戸松の頬にはげしい平手打をくらわせた。

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  1. 2014/06/04(水) 14:16:54|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 戸松もカッとなったが、ぐっと怒りを噛みこんで、

 「もう一つこちらの方もぶて!」

といって、反対の頬をむけた。Y班長はたじろぎためらっていたが、気を取り直してかビシャリとなぐりつけてきた。そこで戸松は、

 「その服をぬげ!」

と一喝した。

 「天皇からもらったその階級章のついた服をぬげ、それを着ていたら俺はかかれん。」

 「これは俺の服だ」

 「貴様の服ならば行くぞ」

 ついに二人は組合って、挌闘になってしまった。

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  1. 2014/06/05(木) 10:47:53|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 片方は日頃の暴力を最大級に発揮し、他の一方も若さの激しさからそれに負けていなかった。戸松には相手が上官であることは、最早心の中になかった。彼の行動を支配するものは、組合っている相手が、日本軍人の名誉を損ずるゆるしがたい人間であると云う意識だけであった。

 彼らは二匹の闘犬のようなはげしさで闘っていたが戸松の若さが彼を投げとばした。

 同室の将校、給仕は総立ちとなり、手に汗をにぎり、息をのんで観戦し、仲裁することをわすれていた。その中に物音をきいて階下の兵要地誌班の将校達も駆け上がってきて、みんなで引きとめようとしたが、どちらが上官なのかわからないため、迂闊に手も出せなかった。その時戸松は上衣をぬぎすてていたからである。

 もみ合っている中に、全エネルギーを発散させてしまって二人はへとへとになり、Y大尉はよろよろと自分の机に引き上げて行った。

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  1. 2014/06/07(土) 09:04:53|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 日頃「怪しからん奴だ」と思っていても、上官であるが故にがまんしていたが、今日はその相手と徹底的に衆目の中で闘ったのである。若い戸松には、男としても満足感があった。彼は矛をおさめ、身なりを整えはじめた。

 すると、向こうから又もやY大尉が口ぎたなく罵り出した。彼ももうこれ以上喧嘩する気はなかったのであるが、部下に反撃をくったくやしさが彼の誇りを傷つけ、心をちりぢりに乱していた。その乱れた心をすみやかに統一して、上官としての尊厳な態度にかえり、鮮やかに次の行動にうつることはとうてい彼には出来なかった。

 怒りと憎しみの虜になった彼は、対等にかまえてくるこの部下を、徹底的に面罵せずにはおられなかったのである。

 戸松の心もまだ冷静にかえってはいなかった。日頃の鬱憤を思いきりYに叩きつけてやりたかったのである。彼ははったとYをにらまえて、

 「貴様は天皇から貰った階級を利用して不正をやっている賊だ。キサマのような将校が重要な席に胡座をかいているから、蒋介石が重慶で抗戦をつづけているのだ。キサマのような商人くずれの下劣な将校がいるために、日本人も中国人もみんな困っているのだ。そう云うバカヤロウの為に、見ろ何一つ解決してゆかんじゃないか」

と、大声でどなり返した。

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  1. 2014/06/09(月) 11:18:54|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 「上官に対してバカヤロウとは何だ」

 Y大尉は、又もいきり立ってあらあらしく立上った。

 「もう一度やる気か?」

 戸松もぬっと立上り、上着をぬぎすてて云った。

 まわりの人達もY班長にはよい感じをもっていなかったから、戸松が徹底的に叩きのめしてくれればいいがとひそかに思っていた。彼らは机や椅子を取りのけて、二人のために闘争の場所をつくったりして喧嘩に協力した。一番よろこんだのは給仕たちであった。日頃よくビンタをくらわせる班長が、ポカリポカリなぐられるのは痛快なことだったのである。

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  1. 2014/06/10(火) 15:21:42|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 又もや激しい挌闘になった。しばらく闘っている中に、今度はY班長は床に思いっきりたたきつけられてしまった、そして、

 「やめた、もうやめた」

と手をあげつつのびてしまった。そのだらしない姿に、もう一度

 「バカヤロウ」

と一言あびせかけて戸松は自分の席にかえった。

 しばらく青くなってぐたりとしていた班長は、やがて服装をととのえると全身に怒りをみなぎらせながら、部屋から出ていった。彼は上官の参謀長兼特務機関本部長補佐官渡辺四朗大佐に報告にいったのである。

 その年の始め、全軍に戦陣訓が出され、それによると上官暴行が最も重罪となっていた。正規の軍法会議にまわれば銃殺になる可能性もあった。

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  1. 2014/06/11(水) 10:02:15|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 戸松も冷静に返ってみると「少しやりすぎた」とは思ったが、地位を嵩にきて部下を圧迫し不正を行う上官にたいしては、誰かが思いきった反撃を加える必要があるとも思った。(日頃同僚の不平不満を耳にしていたのである。)そこで彼は潔く観念し、どのような刑にも服する覚悟をきめたのである。

 半時もすぎたころ、彼の机の上のベルがジージージーと、何事かを宣告するように重圧的にひびいた。戸松は判決を受けるような気持で、落着いて参謀長兼特務機関本部長補佐官渡辺大佐の部屋に向った。途中大佐の部屋から出てきたY大尉と廊下でバッタリ出会ったが、二人とも無言のまますれちがった。Y大尉の事だ、憎悪にまかせて何をしゃべったかわかったものではない。おそらく部屋にはいるやいなや、まず大佐の一喝をくらうにちがいない。沈痛な思いがさっと全身をおそってきたが、それをふりはらうようにして彼は扉をあけた。

 渡辺大佐は机を前にして立っていた。そしてハッタと戸松をにらみつけるようにして云った。

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  1. 2014/06/13(金) 14:37:08|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 「今、Yから喧嘩の一部始終をきいた。お前にはお前の云い分があるだろう。いってみい」

 予想を裏切ったこの公平な言葉は、戸松の覚悟を一層いさぎよくさせる力をもっていた。

 「興奮してやった行動を、冷静になってからとやかく説明することは好みません。Y大尉の報告のとおり処分をねがいます」

 大佐は眼をらんらんと光らせながら、

 「う、う~ん」

と、ひくく唸るような声を発してから、

 「よしっ!!この喧嘩はお前が勝った」

と、大声で云い放った。

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  1. 2014/06/15(日) 08:46:29|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 全く思いがけないこの宣言に、戸松はしばし驚いて、身体の各機能が一時停止したように感じた。そして次の瞬間、この上官が自分の志を認めてくれたことにたいする喜びが、どっとふき上ってきたのである。

 大佐はさらに、

 「Yは一時間もお前の悪口をいっていたが、今のお前の態度にはほれぼれした。しかし、Yもお前も俺の部下だ、今後意見がちがったら、喧嘩する前に俺のところへ来い」

と、いかにも親分らしい重々しい口調でいった。

 (もしこのとき、渡辺補佐官が、正規の手続をとって軍法会議にまわしたら、戸松は軍内部の不正を摘発し、軍の粛正に生命をかけて闘う覚悟をしていた)

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  1. 2014/06/16(月) 13:59:21|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 結局、戸松が各機関に発した命令は有効となり、塩は厳重に六月一日から値上りとなった。

 彼は軍の勤務につくやいなや、こうした華々しい事件をひきおこしたのであるが、その外にも見ること聴くこと、心の重くなるような事が多かった。料理屋や飲み屋には将校や兵隊がむらがり、軍を相手とするこうした業者が、我が世の春と栄えていた。その上日本内地からは、いかがわしい女が山と運ばれてきて、中国大陸は不幸な女の捨て場所のような状況であった。

 のち「いしずえ」大阪地区の指導員になった松下輔は、丁度この頃戸松と知り合った。彼は泰県の特務機関の情報課長をしていた。

 あるとき、彼は情報関係のことで、その地方の警備隊長、某少佐をたずねた。部屋の前に立つと、中からドタバタとただならぬ物音がひびいてくる。

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  1. 2014/06/17(火) 13:30:36|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 「何事か?」

と、あわててハンドルをまわすと、鍵がかかっていて開きそうもない。

 そのころ、上官暴行がひんぱんに起っていて、日頃部下を酷使する将校を下士官や兵隊が切りつけたり暴れたりする事件がしばしばあった。そこで松下も、

 「さては?」

と考え、隊長をたすけてやらねばならないと思った。

 彼は、必死になって扉を蹴破り、中にとびこんだ。そして次の瞬間、彼はそこに棒立になってしまった。

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  1. 2014/06/18(水) 00:14:36|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 そこには、中国の若く美しい女が裸にされて立っていた。それはさんざん抵抗を試みたと思われるいたいたしい狂女のような姿であった。

 一瞬にして一切をのみこんだ松下は、彼女の下着を証拠として持去り、この事を機関長に報告した。

 この婦人は、最近結婚したばかりの中国の警察隊長の第二夫人で、その結婚式に招かれていった彼の某少佐は、夫人の美貌にすっかり心を奪われてしまった。そこで彼は部下に命じて隊長をころさせ、夫人をさらって来たのであった。

 この事件があって間もないころ、前田正実参謀長の前線視察が行われた。当然このことは、機関長から参謀長に報告された。

 参謀長は、早速全軍を集めるように命じ、ずらりと居並ぶ将兵の顔を悲痛な面持で見まわしたのち、おだやかにしかも悲哀をこめて例の事件の大略を話してきかせた。そしてそのあとで訴えるように訓示したのであった。

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  1. 2014/06/19(木) 08:27:04|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 「この将校の行為は、当然軍事裁判にかけて厳罰に処するが、しかし残念なことに、今全軍がこのように道徳的にくずれているところに問題がある。ここで、二人、三人を罰してみたところで、表面化されないこの種の多くの事件がおきている。厳重にしらべて銃殺するとしたら、多くの人間を殺さねばならないであろう。

 この聖戦の目的はアジアの解放である。が、もはや聖戦を行う皇軍にふさわしくない軍人があまりに多すぎる。こういう尊い目的をもつ皇軍がこんなことでは、その目的を果すことは出来ないだろう。皇軍の使命を今新たに自覚して、アジアの模範となるような行動をおこしてもらいたい」

 この参謀長の声には、くずれゆく軍人精神を、防ぎとめることの出来ない自己の無力さにたいする悲哀があふれていた。権力によって部下をどのようにでも責め罰することは出来る。しかし部下をこのようにまで堕落させた軍上層部の指導力の無能さはいかにして解決されるのか~

 前田参謀長は豊かな人間性をもった武人であった。それゆえに、部下の罪は己れに発するものであることを知っていたのである。

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  1. 2014/06/20(金) 16:48:46|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 参謀長の喪心からそくそくと訴えるその言葉に全軍は声なく、将兵は眠れる魂のめざめを覚えたのであった。

 日本軍の軍規が乱れ、堕落がはげしかったとは云え、中には前田参謀長や渡辺大佐の如き将校がいて、軍規のくずれをやっと防ぎ支えていた。しかしながら「良貨は悪貨に駆逐される」というグレッシャムの法則のように、少数のすぐれた精神は多数の頽廃の前には無力に等しかった。彼等は民族の魂の喪失を眼の前にながめながら、慨嘆し悲憤するのみで、これにどのような手を下すべきかわからなかった。なぜならばそれは、軍人精神がくずれる以前に、人間としての日本人全般の魂が、もうすでに内部的にくさりつつあったからである。

 軍人が日本の誉れであった明治のころは、軍人である以前に人間としてすぐれた者が多かった。

 明治初年、日本軍創設のころ、維新の功労者であった西郷隆盛は、政府の初代首相という名誉ある地位に推されたが、これを頑として断わり、

 「おいどんは兵隊じゃ、兵隊の方はやる、政治は政治家にやってもらおう。その相談は二度と来るな」

と、あの大きな眼をむいて睨んだものであった。

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  1. 2014/06/21(土) 17:41:29|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 「軍人は政治にかかわらず」とは、政治を知り、軍事を知って、その分をわきまえる者の等しく考えるところだったのである。

 このように己の本分をよく知り、名誉や地位にとらわれず、淡々として自分の道にはげんだ人達が多かったからこそ、明治の大業は成功したのであった。

 彼らはいかにして公に奉ずるかをかんがえ、地位よりも自分の能力を発揮できる場所を求めていた。井上馨もその一人であった。

 朝鮮問題が日本の天目山となっていた明治の中頃、朝鮮に送る外交官の人選が大いにもめていた。そのとき、内務大臣であった井上は自ら公使の役を買ってでたのである。彼はそのころ、政界では伊藤博文につぐ高い地位にあったから、国に奉じようとするその高潔な心事は、あっぱれな政客として賞讃されたものであった。

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  1. 2014/06/22(日) 17:54:22|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 明治末期にいたると、大山、児玉、黒木、山県、乃木、東郷等々、そうそうたる名将が日本軍を指導していた。

 彼らは功を競わず、自分の能力を生かしつつよく協力して、日本の危機をすくったのである。

 茫洋として賢愚のけじめもつかないような大山大将は、大腹の人であった。彼は人の話を諾々として一方的に腹中におさめていたが、自重大岐路に立った時には、その高き識見と叡智をもって断乎として断を下したものである。そうなるともう何人といえどもその決断を動かすことが出来なかった。

 例えば~旅順攻略の折、乃木大将は百日にわたる難戦に多くの部下を失い、精神的過労のため神経衰弱になっていた。いよいよ最終的総攻撃にうつるとき、大本営や満州軍の間に軍司令官を更迭して、戦いを有利にみちびかねばならないという声がしきりにおきてきた。山県参謀総長も、満州軍参謀部もこの意見に同意し、最後に総司令官大山大将に、これは軍部の総意であるから承認ねがいたいと申入れた。ところが大山大将は、再三その意見に答えなかったが、最後に、

 「乃木を代える必要はない。軍の団結は将師の精神にある。第三軍の将兵は、乃木の下で命を投げ出しておる。乃木は戦力の中心であった、その源は精神だ。戦いのやり方が下手だというなら参謀を代えるとか、他に工夫もあろう。今度の総攻撃は乃木にやらせる」

と、厳として言い放った。

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  1. 2014/06/23(月) 11:07:32|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 大山の言葉は鶴の一声であった。名将ぞろいの当時の軍部は、その一声で一糸乱れず統制されていったのである。

 いかなる知謀も勇気も、すぐれた精神のもとにこそ実を結ぶものであることを、大山大将はよく心得ていた。それ故に彼は乃木大将の精神と児玉大将の知謀をあわせて、最後の難戦に立ちむかわせ、歴史に名高い戦勝をえたのであった。

 士はよく士の志を知るというが、大才大山大将にこれ程までに人物を買われていた乃木大将も、軍神の名に恥じない立派な武人であった。

 旅順開場のとき、各国の写真班や、米国からは映画技師まで特派され、乃木大将に光栄ある会見の場面を撮らせてほしいと願いでた。すると、大将は大喝して、

 「それは敵将にたいして無礼であろう。後にまで恥を残すような写真は、日本の武士道がゆるさぬ」

と、追い返してしまった。そして彼らの泣かんばかりの再三の懇願に、やっと会見後ステッセル将軍に帯剣してもらって、友人として列んだところを一枚だけとることを許したのである。

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  1. 2014/06/24(火) 17:10:39|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 戸松の父は日露戦争のとき、この第三軍に加わっていたから、乃木大将を尊敬すること、それはもはや信仰というべきものであった。この父から、幼児のころより当時の武将の偉さを肝にきざむほどにきいていた戸松は、長じては先輩からその逸話の数々をきき、それらは魂の糧となって彼を内面的に育ててきたといってもよかった。

 武器、弾丸、兵力、それを生み出す国家経済、どれ一つとってもくらべものにならない強大なロシアを相手にして、きたえ上げられた精神と協力と統師によって、聖戦にふさわしい戦いをした明治の軍に比べ、今この大陸に恥を掻き捨てている日本軍が、同じ民族のものであるとは思えなかった。

 あの香り高き武士道は、もはやどこにもない。あるのはきゅうきゅうとして自己の保身と栄達をはかる風潮のみである。

 誰がいったい、日本人のあの高貴なる香りを奪い去ったのか……

 それとも~なぜに日本人は、自らの手でこの魂の宝を捨てさってしまったのか……

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  1. 2014/06/25(水) 11:06:50|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 Y班長のごとき、泰県の警備隊長のごとき、いやそれよりも、もっともっと悪徳な多くの軍人を、広漠たるこの戦いの野に放って、一体日本は何をしようというのであろうか……

 戸松はこの中にあって、自分はどのような行動をおこすべきであるかを真剣に考えずにはおられなかった。

 彼には、日本がくずれきたった原因を、つかみ出すことは未だ出来なかった。只直観的に日本が堕落と無謀の向って走っていることを感じとっていたのである。

 そしてその直観は正しかった。

 昭和の日本には首相はおれども、世界経綸ある識見をもって国民を指導する政治家はいなかった。また、部下にひきずり廻される将軍はあっても、部下を統師してゆける名将に欠けていた。

 国民は軍部をおだて、軍部は政治をかきまわし、政治家は御輿のようにその時々の勢力にかつぎまわされていた。日本は道を見失いつつあった。

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  1. 2014/06/26(木) 14:28:20|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

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國 乃 礎

Author:國 乃 礎
   綱 領
政官財・癒着根絶
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国賊売国奴殱滅
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