いしずえ

第一巻春雪の巻

 ところで真珠湾の奇襲攻撃の成果ははなばなしく、一挙に数隻の巨艦をパール・ハーバーの水底にしずめてしまった。

 日本の朝野は胸もつまるほどにこの成果に興奮し、強大な軍をもった誇りにいさみ立っていた。これについで「マレー沖海戦」「スラバヤ海戦」「珊瑚海海戦」と、十六年暮から翌年の春にかけての連勝は、海国にふさわしい見事な快勝ぶりで、日本海軍の勢いは、東雲の空にはえる日輪のごとくに思われた。

 こうなっては、昨日までの反戦論者もぴったりと口をとざし、今更のように自国の力を見直し、国力の進展を信ぜざるを得なかった。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/08/01(金) 17:20:22|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 アジア解放の革命としての日中事変

 日本本国のこのようなめざましい変化を、戸松ははるかに瞳目してながめていた。

 日本民族の能力を発揮すべき場所は満州であると考えて、勇壮な気持をいだいて渡満したのは、つい五年前のことである。そこでは、日本の対満政策に失望した。

 そして荒木大将から、「戸松君、問題は満州ではないよ、中国だよ。君の理想を一つ中国でとげてくれないか。」と励まされて上海に渡ったのが、二年前である。

 ところが、ここ中国でも、日本軍は広大な地域に点在したまま、大陸の黄土に足をとられたように動きがとれないでいた。いつになったら終戦の日がくるのか、誰にも皆目見当もつかず、後方部隊では戦争していることすらわすれるような日がつづいている時、突然、日米戦争がはじまったのである。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/08/02(土) 10:22:08|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 満州から、中国へ、それから仏印へ、次いで太平洋へと、日本軍の戦域は、今や地球の半分を占め、その意気たるや正に軒昻たるものであった。だが一歩退いて深く考えてみる時、北からソ聯という強者にねらわれ、背後に支那と矛をまじえ、又ここで前面に米英という強敵と交戦するということは、いかにも危険で無思慮のように思えた。これは兵法の下の下たるものであることは、素人にもわかることである。日本の指導者達の頭は健全なのであろうかと、戸松は疑わざるを得なかった。

 広大な大陸に軍兵を駐在させたまま、日中事変一つ片づけられないのに、この上果てしない太平洋を戦場として、世界の二大海軍国を相手に戦って、万一長期戦になった場合、どこに救いの道を見出すことが出来るだろう。負けなくとも勝つことはおそらくできないであろう。

 この上は、一日も早く国民政府と和陸して、腹背に敵をもつ不利を解消すべきである。そこで彼は休暇をとり、帰国して、彼の意見を先輩に説いてみようと思ったのである。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/08/03(日) 20:37:40|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 十七年の春、二年ぶりに帰った日本は、異常な緊張と希望につつまれていた。

 男も女も、老いも若きも、すべての人が、戦争を国家の最高の目的として、よろこんでそれに協力し、身も心も捧げきっていた。

 ラジオから流れる軍歌の勇壮なメロディは、人々の心に生き生きとした活力をあたえ、一瞬の怠惰な気持さえゆるさない力をもっていた。「小人閑居して不善をなす」とは、統一と目的のない自堕落な社会のことばであって、すべての人が一丸となって、希望をもって一つの方向にむかっている時には、人間は純粋ですばらしい。

 この協力と献身と統一が、戦争の時ばかりでなく、民族文化の発揚にもちいられるならば、おそらく、一大文明を形成して、広く人類に貢献することもできるであろう。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/08/04(月) 09:16:32|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 しかし、今日本が立ちむかっているのは、文化の競争ではなくて、武力の戦いである。そしてこの戦いを意義づけるために、「八絋一宇」の精神が強調されていた。国の道統とむすびつけなければ、民族的団結をもりあげることが出来ないからである。

 日本の思想が、一度も世界性をもって他民族に普及されたことがないのであるから、いきなり「八絋一宇」をかかげてみても、国際的にはさっぱり通用しないことであったが、日本を神国と信じている国民は、日本が世界の中心となって、一大家族世界をきずくことを夢想していた。

 そのための聖戦であると思うことに、民族的な誇りさえ感じていたのである。

 戸松は荒木大将、永井柳太郎氏等の先輩をたずねた。なにしろ勝ち戦の最中であったから、大部分の人が日本海軍の期待以上の威力に希望をかけていた。そして、日中事変もアメリカにつながるものであったから、アメリカとの勝敗が一切の解決点であるという考えがつよかった。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/08/05(火) 16:49:29|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 中国問題にたいしては、これといって適切と思われる意見をきくことも出来なかったので、戸松は安部先生夫妻とともに、東北の温泉めぐりをしてみようと考えた。

 学生時代から、慈父のように、又或時は厳父のように指導し、きたえて下さった先生である。その恩義を謝するいみでも、又先生とゆっくり語り合うためにも、丁度よい機会だと思ったのである。

 湯瀬ホテルに四、五泊している間、先生と戸松は、もっぱら世界問題、日米問題、中国問題を熱心に語りあった。

 戸松は、すでに世の中から引退している、かつての老政治家の情熱を、もえたたせずにはおかないような迫力でうったえていった。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/08/06(水) 05:37:18|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 「日露戦争の時も確勝のもてない戦いでした。あのまま長びいたらおそらく、ロシアに勝てなかったかも知れません。しかしあの時にはイギリスという同盟国があって、親身になってたすけてくれました。それにアメリカのルーズベルトが親切に仲裁役をひきうけて、日本の条件がもっともよい時を見はからって手をうってくれました。イギリスとアメリカがいなかったら、あの時の戦争はみじめな最後だったかもしれません。

 ところが、今度は一国として、日本の味方になってたすけてくれる国はありません。ドイツやイタリヤは、地理的なつながりはないし、あんな状態では日本をたすけるどころではないでしょう。

 アメリカとたたかって、完勝するなどとは考えられないことですから、適当な時に仲裁してくれる国をつくっておかねばなりません。そのためにも、戦略的にも、中国と戦いつづけるのは不利で、早く和陸すべきだと思います。」

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/08/08(金) 09:13:38|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 「全くそのとおり~、そうしなければならんでしょう。」

 先生は、ひざを叩いて共鳴した。それに意をつよくした戸松は、

 「わたしも中国にいるからには、重慶との和平工作をやってみたいと思うのですが、なにしろ、重慶に関係のある中国側の実力者をぜんぜん知らないものですからねぇ。」

と、日頃の野心をほのめかした。

 「周仏海はどうです。彼ならわたしは知っていますよ。彼が京都大学にいる時、わたしをたずねて来たことがあります。」

 「先生、それはありがたいです。一つ紹介状をかいていただけますか。」

 「よろしい、書きましょう。」

 戸松の心はもはや帰心矢のごとしとなった。まず、周仏海にわたりをつけ、彼を通して和平の道をひらくことが出来るかも知れないと思ったからである。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/08/09(土) 09:57:36|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 周仏海首相への工作

 周仏海は、中国南京政府の行政院長(総理)であり、大蔵大臣でもあり、また中央銀行の総裁でもあった。

 彼は鹿児島の七高時代、すでに中国共産党の幹部になっていた。七高を出ると、河上肇教授を私淑して京都大学にすすみ、熱心に共産主義の講義に耳をかたむけた。

 そして彼は、河上教授の理論にはっと突きあたるのを感じたのである。河上教授はこういうのである。

 「マルクスの資本論によると、資本主義生産が最高度にまで発展したときには、しぜんに共産主義にならざるをえないようになるものである。このマルクスの原則論にしたがうと、中国は農業国で、資本主義が発達していないから、共産主義は発展できないだろう。」

 河上教授の講義は、周の信念に大きな動ようをあたえた。彼が安倍先生をたずねて、先生の社会主義理論を傾聴したのも、この頃のことである。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/08/10(日) 13:00:43|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 当時、彼が中国共産党の中にしめる位置はたかく、中国共産党創立者陳独秀の失脚後、再建のメンバーの委員長が周仏海であった。故国にかえってからは共産党と袂をわかち、国民党に入り軍事主任として、蔣介石の信任が厚かった。

 彼の転向の動機が、河上教授の共産主義の講義にあったことはいうまでもないが、共産主義が国情にあわないことをしって、さっとそれをすてた彼の心境は、主義にたいする節操よりも、その愛国心に左右されていたのである。

 どのような主義も、理論も、国家民族の発展に役立ってこそ貴いのであって、国土や国民性にあわないものは、観念としては立派でも具体的にそのまま用いるべきでないことを、彼はよく知っていた。主義のための主義ではなく、あくまでも具体的国家を前提とした主義だったのである。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/08/11(月) 09:03:57|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 彼は蔣政権のもとでも大変重く用いられていたが、汪精衛が重慶を脱出すると、同時に彼もそのあとを追った。

 「隣りあった日本と中国が、いつまでも戦っていることは、アジアのためによくないことだ。」

 というのが、彼の主張であった。

 戸松は彼のこのような思想経歴や、主張を知っていたから、かねてからその人物に魅力を感じていた。

 今度上海に帰ったら、思いきり動いてみよう。あらゆる方法をこうじて、周を動かし、和平の道をひらいてみよう。戸松の心はおどった。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/08/12(火) 23:28:46|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 それにつけても、この先輩は、彼自身のためには、なんという不思議な力をもった老人であろう。彼がゆきづまっている時、常に次の段階を開いてくれるのはこの先輩であった。しかも、はじめから単刀直入に要求したことは一度もなかった。いつも彼の行動を報告し、未来への理想をかたっている時、思いもかけぬヒントと方向をなに気なく示してくれるのであった。

 八十年の先生の深い人生の経験は、その偉大さに平伏し圧倒されている者には、人間としての目標であり憧憬であったが、戸松はそれだけでは満足しえなかった。

 彼は先生の内部にとびこんで、自分の手で先生の中にたくわえられているものを引出したのである。先生も彼のために惜しみなくそれをあたえつづけた。それが全く無意識のうちに、ごく自然に行なわれていたということに驚嘆せずにはおられない。この二人の関係は、師と弟子の道をしめす最高のものといえよう。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/08/13(水) 15:25:16|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 戸松の先生を尊敬すること、それはもはや信仰ともいうべきものであったが、事、主義主張になると、容赦なく肉迫していった。先生はそれを大きく抱きとり、温くはぐくんでくれたのである。

 湯瀬温泉からの帰途、彼は安部先生夫妻を能代市の自宅に案内し、ここで彼の両親や親類の盛大な歓迎をうけた。

 東京に帰るや、先生の紹介状を手にすると、彼は勇躍上海にむかって出発した。

 (頭山満翁からは重慶の蔣介石総統宛の手形を貰った。)

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/08/14(木) 09:23:16|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 日米戦の戦況

 太平洋をせましとばかりに、東から南に戦域をひろげて活躍をした日本海軍の華々しい戦果は、多くの日本人のむねに、今もつよい印象となってのこっているが、衰運にむかっての敗戦の記録は案外うとんぜられているようにおもわれる。

 興隆にむかいつつあった日本が、一夜の夢のごとく弱小国の位置におちた戦いであるから、この中には民族的反省の要素が多く内在している。

 今ここで、その戦いのあとをつぶさにつづっていくことはできないが、記憶をよびおこす意味で、その大略をしるしながら、それに影響されつつ動いていった人間のあゆみをたどっていくことにする。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/08/15(金) 08:36:10|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 華々しき戦い

 この春、戸松が日本に帰ったころは、あいつぐ戦勝に日本人の心はわきたっていた。

 昨年春(十二月八日)の真珠湾攻撃では、世界戦史に大きくのこる成功をおさめ、軍民ともに「これなら、アメリカに勝てる」という自信をいだいていた。

 猛訓練された優秀な航空隊、それに決死の特殊潜航艇は、いずれももえるような愛国の勇士によって編成されていた。

 当時の連合艦隊司令長官は、山本五十六大将であった。

 日本海軍の作戦は、二十数年来アメリカ艦隊を撃滅することが目的であったから、十六年もマーシャル群島を中心とした海戦訓練が目的となっていた。それを夏以来、ハワイ航空戦に変更して、真珠湾の地形にあった猛訓練をつづけてきたのであった。

 山本大将はべつに戦争を決意してこのような訓練を命じたのではないが、航空力の進歩が作戦をここまで進展させたのである。そして海戦決定とともに、これが実践化したのであった。

 ハワイ攻撃の二日後(十二月十日)のマレー沖海戦では、イギリスの戦艦と日本の飛行機が対戦し、一時間半の決闘のうち、日本の飛行機が大将した。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/08/16(土) 14:12:29|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 主力戦艦と飛行機の大群とたたかったらどちらが勝つか今まで世界にその戦列がないだけに、どのような軍事専門家も、それまでははっきり断定できなかった。

 しかも、このときのイギリスの戦艦は、新鋭プリンス・オブ・ウェールズと高速船艦レパルスで、イギリスが不沈戦艦として世界に誇っていたものであった。この二艦の出現は日本の南方作戦に脅威をあたえ、イギリスはこれによって、完全に日本をシンガポール以北におさえることができると信じていた。

 この巨艦を九十五機の日本航空部隊が撃沈したのである。碇泊中の戦艦を奇襲するのとちがって、戦闘体勢にある戦艦をうちやぶることはなみなみのことではない。

 世界はこの戦いに驚愕の眼をみはった。日本海軍自身が、思いがけない戦果におどろいたのはいうまでもないが、イギリスの驚きは狼狽にちかかった。首相チャーチルが、撃沈の報告の電話をいそいで切って男泣きしたということにも、イギリスにあたえた影響をはかりしることができる。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/08/17(日) 10:09:30|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 この戦闘いらい、海賊のやりかたが大きくかわり、大鑑と巨砲で対決する時代はもはや過去のものとなってしまった。

 この戦いの結果、南方の海上は完全に日本海軍の支配するところとなり、陸軍部隊は安心して海をわたることが出来るようになった。

 かくして、十七年二月には、シンガポールは我軍門にくだり、イギリスの東洋一のねじろであったこの地に、日の丸の旗がひるがえったのである。

 さらにフィリピンにむかった軍は、リンガエン湾に上陸し、一月二日にはマニラを占領し、五月七日にコレヒドール要塞を占領した。マッカーサー大将(後の元帥)は、すでに三月下旬頃この要塞を脱出していた。当時の日本の朝野は、部下を残して逃げだしたこの敵将を冷笑し、アメリカ軍をも軽蔑したものであった。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/08/18(月) 09:19:45|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 パレンバン攻略部隊は、二月十八日に完全に南部スマトラを確保し、ジャワにむかった軍は、英、米、オランダの連合海軍に上陸を妨害されたが、日本海軍はこれを全滅させ、陸軍はジャワ東西から上陸して、三月九日には敵軍を全部降伏させた。

 ジャワ沖では三回にわたって華々しい海戦がくりひろげられたが、中でもスラバヤ海戦では、日本戦艦から発せられた遠距離魚雷は、米英の魚雷の五倍の威力をもち、その航走はあとも見えない優秀さであったから、大砲もとどかない遠くを航海している敵艦を、大火煙をあげて轟沈させた。

 敵艦同志は、沈みゆく僚艦が機雷にふれたものとばかり信じこみ、はるかな日本戦艦から魚雷が発せられたものとは気づかなかったのである。

 勢いに乗じた海軍はつづいて印度洋の作戦にもことごとく完勝し、息つくひまもなく東ニューギニヤのポートモレスビーを攻略して、ここからオーストラリヤを爆撃する作戦をたてた。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/08/19(火) 13:53:05|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 アメリカとオーストラリヤにとっては、これは大変な脅威であったから、かれらはけんめいに阻止しようとした。

 五月八日未明、両軍は珊瑚海にあいまみえ、猛烈な航空戦を展開したが、この海戦でも我が軍の枝倆はアメリカ軍より大分すぐれていた。そして、アメリカの主力空母レキシントン(赤城級)を撃沈させ、ヨークタウンを中破し、他にも二隻撃沈させた。アメリカにくらべると、日本の損害ははるかに少なかったのである。

 このように、冬から晩春にかけての日本軍の作戦は見事に成功し、世界の二大海軍をむこうにまわしての無謀な戦いも、勝てる見込みがたってきた。

 打ちつづく戦勝の朗報は日本の津々浦々にひびきわたり、南から北へと次々に咲きすすむ桜の花も、日本の春をことほぐかのごとく、一段と華やかに咲きこぼれ、緊張の中にも人々は花見の酔をゆるしあった。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/08/20(水) 09:12:31|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 衰運のきざし

 戦争がこの辺でおわるものなら、この上ない幸運であったが、アメリカは真珠湾の復讐を誓って、その強大な経済力と生産力を、日本潰滅に結集していた。

 「真珠湾をわすれるな」

というアメリカ国民の合言葉は、戦力を増強させるエネルギーともなり、彼らは本格的な戦いはこれからだと思っていた。

 出発を今だと考える者と、優位のまますでに半ばを過ぎたと思う者との間には、精神的緊張の相異があった。

 日本軍の方には、無意識的な心のおごりと油断が生じつつあった。うちつづく勝ち戦は、戦術的にも技倆的にも日本軍の方が一段とまさっていたから、敵をあなどる気持がおのずからおきてくるのも、無理からぬことであったかも知れない。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/08/21(木) 09:21:38|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 一般の国民も、「大和魂」という日本精神は、決戦にのぞむ将兵を鬼神のごとくにさせ、どのような敵もこれに打ち勝つことは出来ないものだと信じていた。

 そして相手を、精神的鍛錬のないもろい国民であるかのように誉めていたのである。

 ところが、アメリカもイギリスも、一度も戦争に負けたことのない国で、彼らにも、大和魂にも劣らないほどの強烈な国民精神があった。

 イギリス国民には、最後までねばりぬいて必ず勝利をにぎりとる錬鉄のごとき精神があり、アメリカ国民にも、相手を打倒するまで、絶対に後へ退かない旺盛な精神があった。

 この彼らの不屈の精神をしる少数の者は、彼らが必ず巻きかえしてくるにちがいないと思った。それらの人々は、米英を屈することはとても出来ないことであるから、戦いが有利なうちに妥協すべきであると考えていたが、戦勝に気をよくしている人々にそれを説いてみたところで、とうてい受け入れられることではなかった。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/08/22(金) 10:50:48|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 海軍の指導者達は、出鼻をくじかれたアメリカ軍が陣容をととのえなおすのを待っていることは不利だと考えた。日本は戦いが長びくほど戦力の底が浅くなり、敵は長びくほど、勢力を増大することができるのである。

 そこで、この機をのがさずアメリカ艦隊を太平洋上にさそい出して、早期に決戦をこころみなければならないということになった。

 その決戦場をソロモン方面にするか、或いはミッドウェー方面にするかの二つの方法があったが、山本大将はミッドウェーの方を主張した。そこは、ソロモン方面よりずっと危険性が多かったが、敵を進撃にさそうにははるかに確実性があるというのである。

 ミッドウェー攻略は、軍令部と連合艦隊の間にしばしば論争がくりかえされたが、四月十八日の敵機の日本本土空襲は、この作戦を決行させる契機となった。

 連合艦隊は、五月二十七日と二十九日に分かれて広島湾を出撃した。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/08/23(土) 09:23:31|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 ミッドウェー攻略は、一ヵ月前にすでに六月七日ときめられていたが、アメリカの情報網は想像以上にするどく、電波探知能力も非常に進歩していたから、日本のこの作戦や艦隊のうごきは、もう二、三週間も前にアメリカにはわかっていた。ミッドウェーに向って進行中の艦船の電信も、ことごとく敵にキャッチされ敵潜水艦がしつこく後をつけて日本軍の行動をくわしく本国に報告していたから、日本艦隊の行動はつぶさにアメリカ軍の手にあつまり、ゆっくり作戦をねり、迎えうつ体勢がととのっていたのである。

 このようなアメリカの科学的な戦いのすすめ方にたいして、日本はあまりにものんきであった。偵察のため出没する敵の潜水艦をみとめても、「潜水艦の一隻や二隻、なにほどのことが出来るか。」というので、歯牙にもかけなかった。

 打ち続く勝戦が心に油断をあたえていたのか、それともアメリカの探知能力を甘くみていたのか、あるいは思いがけない濃霧にであったりしてあわてたのか、敵にたいする警戒と注意が足りなかった。

 この不用意さは、攻撃にあたっても敵の状況判断を楽観的なものにし、敵の航空母艦はミッドウェー附近の海面にいないものと想像判断した。そして、ミッドウェー攻撃がはじまってから、やおら偵察をはじめたのであった。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/08/24(日) 21:05:06|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 その時まで、一回も敵の空母の在否をたしかめるための偵察飛行を行なわなかったのである。

 この相手をあなどった楽観的判断と、敵の用意周到な「待ち伏せ」を探察しようとしなかった慢心とが、悲運をまねいたものと云ってよい。

 ミッドウェー基地の攻撃にむかったのは真珠湾攻撃の勇士ばかりであった。技倆といい、実戦の体験といい、つぶよりの強者ばかりであったから、相当な戦果があがるはずであったが、情報をもとに作戦をねり、前から待ち伏せしていた敵のわなにはまり、期待はずれにおわってしまった。

 迎え撃ってきた敵の戦闘機のていこうを破って、基地上空についてみると、他の飛行機も人間も退避したあとで、飛行場とバラックが白々とあるだけであった。

 しかし、この時の空中戦では、たった二機を失っただけで敵の四十機をうちおとし、日本荒鷲の神技には、敵も舌をまいてしまった。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/08/25(月) 09:57:35|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 この攻撃の不首尾は、第二次攻撃の必要を生じた。そこでその旨を本艦に送電して、第一次攻撃隊は帰路についた。

 母艦に残っていた第二次攻撃隊は、敵空母の万一の出現にそなえて、艦船攻撃の装備をして偵察機からの情報をまっていた。そこへ基地攻撃隊からの電報がはいったので、あわてて武装をとりかえにかかった。

 船艦をせめる時につかう魚雷と大型爆弾をとりはずして、陸上用の爆弾にかえたのである。

 半時もかかってこの取りかえ作業がおわったころ、ミッドウェー基地からの敵の逆襲をうけ、それをやっと退けてやれやれと思っているところへ、偵察機からの重大ニュースが入った。

 敵の空母があらわれたというのである。

 敵の偵察機は三時間も前に我が方の空母群を発見して、味方にその行動を通報していたのに、日本の方は偵察にぬかりがあった。このため敵に先手をうたれる結果になってしまったのである。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/08/26(火) 08:56:07|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 敵空母が近づいたからには、もはや基地攻撃どころではない。又もやてんやわんやの大さわぎとなった。将も兵も気も転倒せんばかりである。

 とりかえたばかりの陸上爆撃の装備を、再び艦攻用爆弾にとりかえねばならない。

 攻撃隊の発進の準備は、文字どおり死にものぐるいですすめられ、やっと第一機が飛び立つところまで進んだ。

 ところが……ああ、なんと……天運は我についてきたのである。

 その瞬間、雲間から敵空母の急降下爆撃機が、猛烈な体当たりをみせて突っこんできた。その大型爆弾は、たちまちにして赤城、加賀、蒼竜の日本の母艦をうった。

 そして、それは出発をまって列んでいた飛行機に点火し、艦は一大火焔につつまれてしまった。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/08/27(水) 06:33:05|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 敵をうつために、あれ程あわてて装備した魚雷や爆弾は、まるで自爆のために用意したようなものであった。

 飛行機がとびたった後ならば、災害もこれ程ではなかったであろうが、たった五分のちがいで貴重な大型空母を、三隻まで廃艦にしてしまったのである。

 ひとり残った空母「飛竜」は、鬼神のような大活躍をして、敵の空母を一つは大破し、一つは撃沈させたが、これも敵の爆撃機におそわれて火災をおこし、いずこともなく流れ去ってしまった。

 真珠湾で戦功をあげて、国民から国の護り神のようにたよられ愛されていた赤城、加賀、蒼竜、飛竜の四艦は、七ヶ月ののちにはかくしてあえなくも世を去ってしまったのである。

 全く思いがけない大敗戦であった。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/08/27(水) 23:46:46|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 日本海軍の虎の子の貴重な空母を四せきも失った上に、三百機以上の飛行機と練達な将兵を多数失って、主力艦隊は片手をもがれた格好となり、戦わずして引きかえさねばならなかった。

 これは天運というべきであろうか。天運というには、あまりにも精神的周到さが欠けていたような気がする。

 一般国民は、これだけの大きな敗戦を、ついに戦争が終るまで知らされなかった。わたくしはそのころ海軍省にいて、戦死傷者名簿を整理していたが、たしか七月頃、赤城、加賀等から発せられた死傷者名簿が、連日のように三百名、四百名とかためられて大量報ぜられてきたのを覚えている。

 「はてな」とは思ったが、まさか四艦こぞって葬られたとは夢にも知らなかった。武官の間にもそうした話が交わされているのをきいたこともなかった。

 負け戦の報道は、国民の意気をそぐという理由で禁ぜられたのであったが、外交にしても、戦争にしても、国民に真実を告げなかったことは、かえって国民をあやまらせ、国運をかたむける結果になっていたのである。

 「由らしむべし、知らしむべからず」の封建時代の為政者の教訓は、依然として昭和の指導者の頭を支配していて、彼らは国民の眼をひらかせて指導することをせず、盲目にして思う方向にひっぱっていたのであった。

 これに比べてアメリカは、事実を常に国民にしらせ、国家の悲運を国民にうったえて、奮起をうながしていた。そのため真珠湾の大敗は国力を一層かためる結果になり、めざましい勢いをもって戦力が回復していたのである。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/08/28(木) 22:06:51|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 周仏海との面会

 日本海軍の華々しい勝利の宣伝のかげに、このような衰運のきざしが、無惨な状態であらわれていたとは露知らず、戸松は理想に胸をふくらませて、意気ようようとして上海に帰ってきた。

 早速、周仏海に面会を申込んだが、南京政府の副主席であり、大蔵大臣であり、中央銀行の総裁である周は、政治と経済の権力者であったから、なかなか時間的余裕がなかった。

 秋になって、やっと黄浦江岸にある中央銀行で会うことができた。

 その日、戸松は花野四平をともなって行った。花野は戸松に好感をよせ、彼の主張に共鳴して、滬西の戸松の家に妻子とともに住みこんでいた。

 彼は戸松より年長であった。大学時代相撲と柔道できたえたという二十三貫の体軀は、堂々としていて、戦国時代の豪傑を思わせるようないかめしい風貌とともに、威風あたりをはらわんばかりであった。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/08/30(土) 12:14:24|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 彼はそうした自分の外形的な条件を十二分に利用することを心得ていて、自分を実力以上に見せることを常に研究し、又いつもそれに成功していた。

 まだ年若く、やややせぎみの戸松は、自分に欠けているものをそえるためにも、この豪傑然とした花野を同行者としてえらんだのである。

 周仏海は中肉中背の中年男で、(当時四十七歳位だったろうか)一見してもの腰のやわらかい紳士であった。

 むきあって対してみると、人をそらさないやわらかい応対にくらべ、その四角ばった顔には思慮ぶかい叡智がみなぎり、その眼はらんらんとした光をたたえていた。それは内にいだいている情熱と理想が、おだやかな社交性につつまれて、深々とかがやいているといった感じであった。

 彼は日本語が達者であったが、自分が話す時には必ず中国語でかたり、通訳させた。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/08/31(日) 10:20:26|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

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國 乃 礎

Author:國 乃 礎
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マスコミ横暴撲滅
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