いしずえ

第一巻春雪の巻

 それは外交上の儀礼なのか、それとも自国の誇りのためか、或いは万一の時には通訳の誤訳として責任をのがれるためなのか~そのいずれかか、或いは全部であったかもしれない。

 とにかく彼は戸松の説明を熱心にきき、それに答えて、花野にむかって北京語でかたった。

 すると、通訳までが花野にむかって話すのである。

 そのうちに周仏海が、いろいろ質問をはじめた。ところが、当の花野は、絵にかいた武者人形のように黙って語らない。

 彼より若く、一まわり小さい戸松が、そばからそれに答えてとうとうと弁じはじめたので、周の顔に「はてな?」といったような影が走り、

 「どちらが戸松さんですか」

と日本語できいた。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/09/01(月) 09:06:57|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 「わたくしです」

と戸松がこたえると、今度はごく自然に戸松の方に顔をむきかえて、熱心に語りかけてきた。

 こうした時にも、社交なれた彼の態度には、わざとらしい変化がなく、ゆとりがあって洗練されていた。

 人を見なれてきたこの政治家も、さすがに花野の威風には眼をうばわれたのか、一見して彼を主客と思いこんでいたものらしい。

 約一時間ばかり、日米問題、日中問題、アジアの平和について、お互いの考えを語りあった。戸松は一貫して日支の和平を強調した。

 一国の大政治家が、無名の青年とかくも真摯な態度で語りあうということは、周がいかに真面目で熱心な政治家であるかということを意味している。

 その日は結論まで到達せず、互いに認識しあった程度で他日を約して別れた。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/09/02(火) 01:47:55|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 それからのち、戸松は毎日のように、周から二回目の面会の通知がくるのをまっていた。

 しかし、一ヵ月たっても、二ヵ月たっても、三ヵ月たっても、なんの音沙汰もなかった。

 周仏海とは縁がなかったのであろうか~いかにもこちらの意見に賛成し、その才識をみとめたかのように見えたのは、支那人に共通な社交上のジェスチャーであったのか~

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/09/03(水) 13:31:13|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 亜細亜同盟結成

 名刺交換会を開く

 戸松は、滬西の家に、今まで親交のあった人々や、親日的支那人をあつめて、日中提携の民間運動をすすめた。

 満州時代の知人である牧谷、堀下、中田の三氏も、満鉄を止めて妻子を内地に残したまま、はるばるやってきた。彼らは戸松の才腕と人間に魅力を感じていたから、彼が必ず大業をなしとげるにちがいないと固く信じていたのである。

 陸軍の関係者や、一般の日本人など、戸松を知る人達は、気軽にこの滬西の家に出入りした。

 彼は又、中国人からも親しまれ、支持されていた。聨銀銀行の頭取である潘三省氏は滬西のこの洋館を住宅として提供してくれたし、朱順林という事業家は、情報収集活動に対する経済的な援助をひきうけていた。

 又、重慶との和平の道をつけるためには、多くの情報を手にいれなければならなかったが、その任は四川省出身の日本留学生が多数あたっていた。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/09/04(木) 08:34:03|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 その他にも、多くの親日的中国人が、「先生々々」といって集ってきた。中国の「先生」というのは、相手にたいする一般的な敬称で、日本の先生ほど権威のあるものではない。一応社会的地位をもっている男性は、すべて「先生」とよばれている。

 滬西の家は、日中の社交場であり、アジア問題の研究所でもあるといった風で、ここでは民族を超越した親交がむすばれていた。

 更に、戸松は、亜細亜同盟を組織し日中の有名人の間の提携を、名刺交換会をもつことによって実現させようと努力した。それはパークホテルのような一流ホテルの広間で、上海在住の支那側と日本側の知名士が、名刺を交換しあって歓談するのである。このため彼自身も、両国の多くの指導級の人々を知ることが出来、社会的にも、人間的にも得るところが多かった。当時大いに協力したのだが頭山秀三氏であった。もちろん義弟の森田正雄はいうまでもない。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/09/05(金) 10:29:46|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 陸軍の一連絡官にすぎない彼が、これだけ広範にわたる仕事をなし得ることが出来たのは、潘三省や朱順林からの経済的援助があったほかに、軍(泉鉄翁少将)の援助があったからである。

 彼はそうした活動費を、いかにして最大限に生かしてつかうかに心をくばった。

 彼が酒にも煙草にも縁のない人間に生まれたということは、理想にひたすら邁進するように神が配慮したものと思われる。

 その上、幼、少年期を、不況時代の東北の農村にそだったことも、彼の生涯の衣食住の質素な生活を支配したといってもよい。

 あれが食べたい、これを飲みたいという飲食物にたいする特別の慾求がないばかりでなく、何を出されても、不平不満をもつということがなかった。仕事に夢中になっている時には、二、三日つづけて同じものを食べさせても、彼は文句をいわなかった。そういう時には手のこんだ料理も、一切れの塩鮭も、彼にとっては同じことだったのである。只食欲をみたせばそれでよかった。これは安倍先生の生活態度に影響されたのかもしれない。

 このように、自分の生活に無慾で金がかからないということは、理想を遂行する上にきわめて都合がよかった。

 そのため、人々が余程活動費をつかっていると思うほど、彼は仕事のために金をだすことを惜しまなかったが、自分の生活はいつもピーピーしていた。

 わたくしとの結婚問題がおきたのも丁度その頃で、お互いに顔も身もとも知らないまま、只安部先生に一切を托して上海と東京にへだたったまま婚約したのである。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/09/06(土) 09:07:18|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 日本は負けなくとも勝つことは出来ない

 周仏海の見解

 日本海軍の実力の前にかたく沈黙はしていても、内心懐疑的な者も少なくなかった。彼らはアングロ・サクソンの気風と技術と能力とを知っていたからである。

 彼らがいかに気をもんでみたところで、対米戦に向って総立ちになっている軍部や、一般国民の与論の突風のような勢いにあっては、その力は一葉の枯葉にすぎなかった。

 こうした中にあって、戸松は又別の角度からこの戦争をうれえている一人であった。それは四面に敵をもつ日本の戦略的不利についてである。前に進まんとするならば、まず背後に和をむすび、側面をおさえておかねばならない。

 限られた力を拡げるだけ拡げ、伸ばすだけ伸ばした日本の行動に不安を感じた彼は、政府がやらないならばオレがやってみようという意気込みで、日中の和平運動に立ちあがったのであった。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/09/07(日) 11:14:10|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 この和平工作は既述のとおり、今まで色々の人によって試みられたものであったが、日中相互間の警戒心と国内の意見の不一致は、ことごとくこれを失敗させてしまった。

 太平洋に軍をすすめた今、政府はもはや蔣介石を相手に、じっくり話しあうことなど考えてはいなかった。アメリカを倒すことが、一切の問題の解決点であるという意見がつよかったから、日本の関心はもっぱらその方面にそそがれていた。

 このような国内の無関心と困難性の中にあっても、戸松は自分の信念をすてることは出来なかった。

 「アジアは一つにならねばならない。アジアが分裂したまま欧米とたたかうということは愚であり、悔を千載の後に残すことになる。」

 彼の信念は、日本の戦略的盲点をおさえていたところにあった。

 同じ思想にたつ南京政府副首席の周仏海と、誠意をかたむけて語りあってからは、彼の信念にはさらに希望の火がともり、周仏海とていけいして行動をおこす日をひたすら待ちつづけていた。

 ところが、五ヵ月を過ぎても周からは何の音沙汰もない。彼は半ばあきらめ独力で民間の和平運動をすすめていたのであるが半歳もすぎて、もはやわすれてしまいそうな頃、やっと周からの連絡があった。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/09/08(月) 08:58:19|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 敵のガダルカナル島上陸

 このように戸松が周仏海からの便りを心待ちしている間に、太平洋の戦局は日を追うて日本の不利にかたむいていった。

 この凶運のきざしは、ミッドウェーの敗戦にあったが、これまでの相つぐ連勝によって、疾風のいきおいで南進をつづけていた軍部は、これだけの事で望みをすててはいなかった。

 山本五十六大将のひきいる連合艦隊は、ほとんど無疵であったし、戦艦や空母も建造中であったから、太平洋上で決戦したならば勝はまだ我にありと信じていた。

 問題は広い占領地域の政治、民心の宣撫にあった。軍人は政治屋に早変りし、内地からも多数の文化人や報道陣をよびよせて、原住民のけいもうと経済開発に没頭した。

 そのてんやわんやの最中に、アメリカ軍がガダルカナル島に上陸したのである。これはアメリカの日本攻略作戦の第一の布石であった。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/09/09(火) 10:25:52|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 ここから飛石づたいに北上して、フィリッピンをとりもどし、更に台湾、沖縄を制して日本本土にせまろうという遠大な作戦をたてていたのである。日本は戦争を一休みして政治に力をいれはじめ、アメリカはこの時から本腰で戦争にかかったのであった。

 気のせわしい日本人に、この気の長い作戦計画がただちに読みとれるはずはなかった。大本営はこれを単なる局地上陸戦とかんがえ、彼らをしりぞけることは朝飯前だと考えていた。しかし、一方海軍の方はここに敵の航空基地をゆるすことをおそれていた。

 そこで早速、陸海軍協同作戦によるガダルカナル島の奪還戦がくりひろげられたのである。

 陸軍のこれまでの常識では、アメリカ兵は弱い者とされていたから、今度の戦いも、かんたんに結末がつくものと予想していた。

 そこで少数の兵力を派遣して、全米軍を捕虜にする意気ごみで攻撃にかかったのであるが、敵は思ったより手ごわく、日本軍は潰滅の悲運におちいってしまった。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/09/10(水) 11:03:10|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 陸軍はさらに兵力を増強して、今度こそ大丈夫だという自信をもって、第二回目の総攻撃をおこなったが、このときも一昼夜にわたる激しい闘いののち潰滅的な打撃をうけることとなった。

 日本のこの二回にわたる攻撃に、アメリカは日本がガ島を奪還しようとしている意図を知り、大至急で兵力を増強して、この地をふたたび日本にゆずらない決意をもってまもりを固めていた。

 二回の失敗にあわてた日本陸軍が、強兵をほこる仙台師団を中軸とする大兵力をもって、三度目の総攻撃にかかった時は、敵はすでに戦力をたくわえ、猛然とむかえうつ体勢がととのっていたのである。

 第一回目の攻撃の時から、これだけの用意周到さをもってかかっていたならば、なんなくアメリカは敗れ去っていたのであろうが、もはや時おそくガダルカナルは難攻不落の城と化していた。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/09/11(木) 09:31:09|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 今度こそ必勝間違いないと信じていた三次攻撃隊も、あっけなく惨敗し、日本は今更のように、アメリカ軍の実力を見直したのであった。

 このガダルカナル島における陸軍の戦闘に相呼応して、沖合でも連日のように砲声と爆音がたえなかった。陸兵の輸送、補給、それにともなう援護のため、両国の海軍はしばしば海戦をくり返した。

 それは、マレー沖、スラバヤ沖、ミッドウェーのような大海戦というほどのものではなかったが、毎日休みなく戦いがくりかえされ、平和な南の海も今や死の海と化してしまった。

 中でも「南太平洋海戦」とよばれるものと、「第三次ソロモン海戦」とよばれるものは、華々しい戦闘であったが、これは一勝一敗で、敵も味方も多くの損失をこうむった。そして多数の飛行機と熟練した搭乗員を失った両国の機動部隊は、それぞれ本国に引揚げたのである。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/09/12(金) 08:12:02|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 吸血の地獄ソロモン戦

 機動部隊と戦艦による華々しい消耗戦は、このようにして引分け状態で週末をつげ、航空機は敵のガダルカナル基地から発するものと、ブーゲンビルからとぶ我方の空軍だけになってしまった。

 そのころ(十七年十一月)ガダルカナル島南部には六つの飛行場が整備され、航空機の数も何百という勢力であったから、日本空軍の少数の航空力ではとうてい太刀打ちならず、もはやソロモン群島は敵の制空権下にはいろうとしていた。

 海軍のおそれていたことが、いよいよ現実となってあらわれたのである。

 アメリカ軍の機械化は、日本軍の予想もつかないほどに進んでいたから、あれよあれよという間に、基地も兵力も航空機も、拡大、強化されて、日本があわて出した時には、及びもつかない勢力となっていた。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/09/13(土) 09:39:36|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 日本軍がシャベルやツルハシをつかって、多数の兵を動員して飛行場を整備するのとはちがって、アメリカ軍は、わずか二、三人の兵力で短時間に同じ仕事をやってのけた。その能力はすべてはブルドーザーという機械力であった。

 このようなアメリカの超大級の作業能力や生産能力を過少視していた大本営は、敵のガダルカナル上陸を、それほど重大に考えてはいなかった。ところが敵は上陸するや、すぐさま飛行場に着手し、バラックの兵舎が建った時には、すでに飛行場は完成していて、上陸一週間後にはどんどん飛行機がとび立ち、日本基地にむかって航空戦をいどんできた。

 日本軍はこれを神業ではないかと驚いた。そこで、あわてて航空機を補充して対戦し、ここにソロモン消耗戦をくりひろげることとなった。そして、真珠湾、印度洋、ミッドウェーと、生きぬいてきた練達の勇士も、敵の群なす大軍につつまれてはせんかたなく、あたら南海の空に華と散り果てて行ったのである。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/09/14(日) 13:11:29|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 しまいには、日本の航空基地からは、ごく稀にとび立つ程度となり、ソロモン群島の空は全くアメリカの自由の空と化し、日本の軍艦や商船は、近づくことがとうてい不可能になってしまった。

 その頃、ガダルカナル島には、一万五千人の日本守備隊がいた。彼らはジャングルの中にひそんでいるのだが、敵はしつこく彼らを探索しては攻撃を加えてくる。その上、栄養失調、マラリヤ、慢性下痢でたおれる者が続出し、さながら生きながらの地獄であった。

 制空権を敵ににぎられた今、彼らの露命をつなぐ糧食をはこぶには、高速力の駆逐艦によるか、海底をゆく潜水艦によるより外方法がなかった。

 駆逐艦群は昼間はブーゲンビル島のショートランド湾内にかくれて、夜になると一斉に食糧をつめたドラム缶を両舷側につるして出かけ、ガダルカナル島海岸近くにこれを投げこんだ。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/09/15(月) 13:35:07|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 すると、陸兵が泳いできて、これを陸に上げるのである。これは毎晩、草木もねむる時刻におこなわれた作業であった。

 昼間は又、湾内にやすんでいると、毎日のように敵機が爆撃に来る。そこで大きな円を描いて、グルグル湾内をにげまわったり、器用に艦首と艦尾を左右にふってこれを避けたりした。これもそのうちに毎日の行事のようになってしまって、練達な艦長などは、興味をもって敵を心待ちするようにさえなった。

 しかしなんといっても、海戦の訓練をつづけてきた駆逐艦が、本来のはたらきをすてて敵の空軍や魚雷艇の警戒の間をぬいながら、輸送の役割をはたすということは無理な作戦にちがいなかった。

 これは将兵に「なんのための海軍々人か」という懐疑心をおこさせ、戦局の前途に暗い気持を抱かせる危険性をもっていた。

 当時、輸送のために、本来の目的からはずれた活躍をしていたのは、独り駆逐艦だけではなく、潜水艦も動員されていたのである。三十八隻の潜水艦が輸送につかわれ、このために喪失した数も多大であった。

 元来、潜水艦は洋上の船舶を攻撃することが目的であるのに、攻撃用の魚雷を片づけてそこに缶詰をつみこみ、毎日運搬をしていたのである。敵の潜水艦は我が軍の連絡を断つために攻撃作戦を展開しているのに、我方の潜水艦はそれを見ながら歯ぎしりして運搬作業をくりかえさねばならなかった。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/09/16(火) 16:52:18|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 その頃、アメリカはガダルカナル島に三個師以上の将兵と数百機の航空機をそなえていたから、これを維持するための補給は容易のことではなかった。これを米本土から輸送するのであるから、その量においても距離においても、ブーゲンビルから補給する日本の比ではない。これを日本の潜水艦がたえず攻撃していたならば、敵に甚大な打撃をあたえ、相当の戦果をあげ得たであろうが、残念なことに、この時はもっぱら副業的役割につかわれていたのである。

 このような不自然な作業を、あえておこなわねばならないこと自体が、すでに敗北を意味していた。事実、将兵の士気と戦力は日ましに喪失しつつあった。

 そこで、ガダルカナルの奪還はもはや見込なしと見た大本営は、十八年早々、この作戦を打切って撤退することに決定した。大本営はこれを「転進」と国民に発表したが、北にむかって転進した以上は退却そのものにほかならなかった。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/09/17(水) 09:52:37|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 敵空軍のはげしい爆撃下に、三回にわたって、延べ六十隻の駆逐艦によって撤退輸送がおこなわれ、十八年二月中旬には全艦無事で全員を救い出し、陸海軍ともに六ヵ月にわたる苦戦からやっと解放されたのである。

 しかし、敵は勢いに乗じて尚も反撃をゆるめず群島を飛石づたいに追跡してきて、ソロモン諸島はあたかも日本の血を吸いとる地獄の様相を呈してきた。

 この頃になると、敵の航空兵力も海兵隊もますます強大となり、空母数も六十隻を出るほどであったから、日本は物量において完全に圧倒されていたわけである。

 日本の生産が加法的にふえるのに比べ、アメリカの生産は乗法的に増加していた。そして、日本は生産するかたわらから使って、どんどん消耗するのに比べ、アメリカは消耗するより生産される方が多いため、結局、日本の戦力を消耗させたのと、一歩進攻しただけ彼の勝であった。もはや、小学生の算数能力でもこの戦いの勝敗が予測できるほどに彼我の力はちがってきていたのである。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/09/18(木) 00:36:46|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 心眼を失なった日本軍

 ソロモン戦をここまで追求してみる時、日本海軍が旭日の勢いで南方に戦線をひろげつつあるさなかに、戸松が日本の行動に不安を感じた直観は正しかったといえる。

 彼が案じたごとく、日本はその実力を越えて進みすぎたのである。勝ち戦の軍は、勢いに乗じてややもすると進みすぎるものであるが、力の限度を越してしまうと、進攻軍と退却軍の立場が逆転するということは、冷静な判断をもつものには一応推測されることである。

 後方の補給線はだんだんと延び、爆薬、糧食、燃料の補給も困難になるし、住民の協力をうることもむずかしくなり、軍の戦力はしらずしらずのうちに減退してゆく。

 このような時、体勢をととのえなおした敵の逆襲を受けると一たまりもない。今までの華々しい勝ち戦は一転して敗勢と変じてしまうのである。日本は丁度、その危機に遭遇していた。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/09/19(金) 09:41:46|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 北は満州、西は中国大陸の奥地まで、南はソロモン群島の果てまでも、遠く敵を追うた日本は、その兵力量、補給量の限度を越え、すっかりのびきった格好となっていた。

 これが深遠な作戦構想によって統帥されていたものであるとは、とうてい思われない。大正以後の日本には、政治に一貫した攻略と主体性がなかったように、軍事にも明識ある統帥が欠けていたのである。自国の実力の限度と、敵の実力と作戦を見定める見識もなく、勢いに乗じて進みすぎたところに、無理を生じ、弱点と隙を露出する原因があった。

 このとき、あの明治の大山のごとき非凡の将軍が、最高統帥者としていたならば、このように向こうみずの憍慢な軍にはならなかったであろう。

 明治の将帥は、常に大局をみる明をもっていた。全戦全勝の満州軍が攻勢にはやって北進を主張し、総司令官の優柔不断を非難しているような場合でも、大山は一人黙々として、砲弾と人員とをにらみ合わせ、攻勢限度を越えるような事はしなかった。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/09/20(土) 09:10:22|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 又、重大な作戦は政略の線にそうて立て、軍が政略をはなれて独走するようなことはなかった。

 いわんや昭和の軍のように、政治を動かし政治をひきずりまわすような、分を逸脱するような事はしなかった。軍人たるの本文をわきまえていたのである。

 文と限と断を心得ているものは、自己のもつ力をあやまりなく発揮させ、その目的に到達することが出来る。しかし、それを無視するものは、力をいたずらに浪費するのみで効なく、欠陥を露出して挫折してしまう。

 人間一人一人の人生においても、分と限と断をあやまりなく知ることは、凡庸にとってむずかしいことであるから、ましてや、戦争のさなかにおいて、秘密につつまれた敵の実力を計算にいれて、分をたて、限度を知り、正しく断じていくことは困難なことであろう。

 人間の能力の明、不明は、この時にこそはっきりと分かれるものと思われる。

 大正、昭和の知識と技術万能の時代に教育された人間は、実力はあってもその力の用い方にあやまり、眼先はわかっても大局を見る明にかけていた。根源的な古典思想と行によって肚をねった明治の達人のごとき心眼は、とうてい望むべくもなかった。

 「心眼」を失った日本国民の慢心は、ついに南太平洋上に一大旋風を巻きおこすこととなり、それはやがて猛然たる破壊力となって、わが本土におしよせてきたのである。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/09/21(日) 11:19:08|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 南方の洋上で、このような悲劇がかくも早くおこりつつあるとは、日本国民のほとんどが知らされていなかった。

 上海は国際都市であるだけに、アメリカの情報もながれてはいたが、これは敵の逆宣伝としてききながすことにし、自国の報道を信じないわけにはいかなかった。戸松も日本は、二年や三年は優勢のまま敵を圧してゆくにちがいないと信じていた。

 優勢なうちに、支那ともアメリカとも和陸する道をこうじておかねばならない。戦いの最中に、彼はもっぱら和陸の機会や方法を考えていた。

 アメリカのような巨大な国を相手にして、徹底的に降伏させることは、おそらく不可能なことであるから、戦局が好調にある時講和して、国際的優位を確保しなければならない。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/09/22(月) 08:48:46|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 名将大山巌が、日露戦争のとき、もっとも重視していたのは、やはりこの戦をやめる機会であった。朝鮮や中国のような、近代文明にはるかにおくれている国が相手ならば、たたいておいて握手することも出来るだろう。しかし、あの強大なロシアを相手にしては、国の資源がかれはてるまで戦っても、勝負がつかないであろう。そこで休戦の潮時をかんがえる必要が生じてくる。

 大山は満州軍総司令官を拝命した時、一番先にこの事をうれえ、山本海相にこの役目をたのみ、勇躍戦地にむかったのであった。

 児玉大将も、開戦と同時に他国の調停を心にいれて作戦をねっていた。最初から両国の力をにらみ合わせ、まず五分五分であるという見込みのもとに、解決を第三国にもとめることにして、緒戦に勝利をえて交渉を有利にしなければならないと考えていた。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/09/23(火) 23:39:05|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 そのため日本は、旅順攻略、奉天会戦というような大作戦のおわる度に、積極的にアメリカに調停を依頼し、日本海海戦の大勝を機に講和を成立させたのであった。

 大山、児玉の知謀と見識は、四十年後の日米戦にも、当然そのまま生かされねばならないはずのものであった。

 戸松は軍にあったとはいえ、端末の仕事をしていたのであるから、勿論戦いの大局をつかんでいたわけではないが、彼の直観は「講和」をいそぐべき時であると考えさせた。

 民間で平和運動をすすめながら、彼はよく蔣介石にむかって説得している自分を夢想した。そしてそれを実現可能にする方法はないものかと考えつづけていた。

 やがて上海に春がおとずれ、血にまみれたガダルカナルの苦戦も撤退も知るよしもなく、彼は四月に帰国して結婚し、一ヵ月後にわたくしをともなって再び上海に帰った。

 異国における雲をつかむような結婚生活の印象は後にゆずることとして、周仏海との交渉を一段すすめることとする。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/09/24(水) 16:55:23|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 周仏海からの使い

 上海に帰って半月をすぎた頃、滬西開納路の戸松の家に周仏海の使いとして、上海保安司令官熊剣東将軍が副官の大佐をつれてやってきた。その時わたくしも家にいたと戸松は云うのであるが、わたくしには熊剣東をむかえた記憶が特別に残っていない。なにしろ、沢山の未知の顔が毎日のように出入りするのであるから、あれこれとはっきりとした区別がつかなかったのである。

 それに、周仏海とのこのような工作がおこなわれていた事をわたくしが知ったのは、終戦後のことで、彼は仕事の上の機密を、性格もはっきりつかめない新妻にもらすような事は絶対になかった。

 雲をつかむような彼の一面が、たえずわたくしをいらいらさせ、果ては彼との生活を絶望的なものにさえしたのであったが、彼はそれを知ってかしらずしてか、仕事の事は一切無言であった。

 熊剣東は、同じ開納路の住人であった。戸松は役所にいくとき、いつも彼の家の前を通っていたが、ものものしく兵卒によってかためられている門前にさしかかる度、この家の主はどんな人間であろうかと思っていたものであった。

 その主が、ものものしく従者をしたがえてやってきたのである。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/09/25(木) 09:12:56|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 熊は中肉中背の精悍な感じの男であった。獄中で日本語を勉強したとかいっていたが、かなり上手であった。彼は軍人らしい率直な口調で、

 「わたくしは、周閣下から貴男の調査をたのまれまして、半年の間、色々の面から貴女を調べてみました。

 ところが、貴方が誠実な愛国者であるということと、中国のためになる人だということがわかりましたので、そのことを詳細に周閣下に報告しました。周閣下は早速あなたにお会いしたいから、都合をきいてくれと云われますので、今日は閣下のお使いとして上ったわけです。何時頃お会い下さるか御都合を承り度いのです。」

 彼は、苦闘の中をいく度もくぐりぬけてきたような力強い眼で、戸松をみつめながら云った。

 戸松は内心おどりあがらんばかりの喜びであったが、それは顔色には出さずおだやかに周の申し入れを受け、日を定めて面会を約したのであった。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/09/26(金) 09:30:39|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 白い密談室

 さわやかな初夏の一日、戸松は熊剣東に案内されて、フランス租界にある周仏海の私邸をおとずれた。

 政治家であり、財界人である彼は、洋風の広荘な邸宅に住んでいた。熊剣東と戸松をのせた自動車が門に近づくと、扉がさっと両方にひらかれ、そのまま広い庭にとすべりこんでいく。玄関までの約五十メートルほどの道の両側は、一面の花畑である。

 花は平和のシンボル、初夏のさわやかな空気の中に馥郁とただようその香気は、訪れる人の心をすがすがしくなごませる。

 いつくもある応接間を通りすぎて、奥の一室に案内されると、そこにはすでに周を囲んで数人の人々が威儀正しく待ちうけていた。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/09/27(土) 08:53:17|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 天井も四面の壁も、白一色の清浄な感じの部屋である。この純白な雰囲気は、人の心に一点の汚れも企みも許さぬものを暗示していた。

 部屋はさして広くなく、日本の十畳位のものであろうか。壁を背にぐるりとソファーが並び、正面にこの家の主周仏海がたんぜんと控えていた。並居る面々は、六人とも全部保安隊の師団長で、熊剣東の部下であった。

 紹介がおわると、早速用談である。周は前回よりも一段と打ちとけた態度で、

 「この部屋は防音装置が完全ですから、ここで語られた事は、絶対に外部にもれることがありません。今日は一つ、お互いに心底をあかして語り合うことにしましょう」

と、まず、今日の会談にたいする自分の態度をあきらかにした。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/09/28(日) 11:14:06|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 さき程、熊と戸松が入ってきて、一応挨拶のざわめきがしずまり、お茶が運ばれるや、うしろの扉にピーンと鍵がかけられたのは、その為であったのか。誠実を求めるような純白な部屋、防音装置、鍵、いかにも中国の政治家らしい配置である。おそらく、ここで彼の関係する一切の政治的機密事項が検討されるのであろう。

 六ヵ月にわたるめんみつな熊剣東の調査報告は周仏海をして、すっかり戸松を信用させていた。

 とことんまでその人間を知らない限り、自分の手の中を見せないところが、いかにも中国の政治家らしい。一回の面会で、すぐにも次の連絡が来るように考えて、じりじりして待っていた自分を戸松は内心はずかしく思った。

 この前の中央銀行での面会の時は、戸松の方が積極的に意見をのべて、周はもっぱら聴き役の方であったが、今日は、周の方が自分の考えを披瀝して、戸松の同意を求める側であった。

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/09/29(月) 08:41:05|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 「アジアのために、日本と中国は手をむすばねばならないということに、我々の意見は一致しているのですが、今日は一つ、その和平の道をどう開いていくかを、ゆっくり話しあいたいと思うのです。

 わたくしの考えでは、日米戦争は日本が負けないにしても勝てる戦いではないと思います。若し日本が負けたとしたら、おそらく中国は共産軍に制圧されてしまうでしょう。

 日本の力が弱ったら中国の共産軍が急速に勢いづくということは、蔣介石総統には一番よくわかっていますし、総統はそれを内心おそれております。総統ばかりではない、そのことは英国あたりもわかっているはずです。

 ですからここで日本と中国が和陸して、蔣総統にアメリカを説かせる方法をこうじなければなりません。日本が敗れるということは、中国を共産国にし、やがてはアジアを共産化してしまうことになりますから、その一点に関しては、アメリカといえども妥協せずにはおられないでしょう。

 戸松さん、アジアの将来を思うならば、これは今すぐにもはじめなければならないことですよ」

                  (43 43' 23)

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  1. 2014/09/30(火) 10:37:57|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

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國 乃 礎

Author:國 乃 礎
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政官財・癒着根絶
マスコミ横暴撲滅
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