いしずえ

第一巻春雪の巻

 この夫はまた新たに何かを決意したのかも知れない。

 「なにをそんなに不安そうな顔をしているんだ。ぼくが気が狂ったとでも思っているのかね。白衣を着て、身心ともに清浄になってかかるんだよ」

 彼の着想、彼の心の内奥には、とうてい手がとどきそうにもない。わたくしは、はるかに凡人だなあと、自分の心をかみしめて見る思いである。志を立てて人生を進む者と、己れの我意のまま慢然と過している者との違いを事々に見せつけられる。

 彼の道はきびしくて、世俗の外にある。わたくしのあゆんできた道は、安楽で低俗だ。人間というものは、このようにして自分を試み磨いていかねばならないものであろう。玉のごとき名刀は、いくたびも灼熱でやきなおしながら精根をこめて打ち上げねばならないものである。

 鋭敏ではあるが、病的でひ弱い現代人の神経、物ほしそうにきょろきょろして常に動揺しているその態度、生活することだけに疲労している香りも味もないその精神、悲しむべし、わたくしも又その現代の潮流に流されている一人であった。

 爛熟した近代文化の弊害の中にうもれつつも、心あるならば人間としての抵抗を試みなければなるまい。彼の精神態度は、人間が造りながらすでに超人化した文明の悪風に、敢然と立ち向っていく性質のものであった。

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  1. 2015/01/01(木) 21:52:43|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 断食の前夜

 志る粉と鮨と水炊きと

 いよいよ二十一日間の断食をはじめるというその前日、戸松は外出の支度をととのえながらいった。

 「今夜はどこかで御馳走してあげるよ、明日から断食だからね~そうだなあ~三竹に四時までに来てもらおうか」

 「うわあ、豪勢ですねえ。だけど、三竹ってどこにありますの?」

 「知らないのかね、何回もあの前を通ったじゃないか……」

 しようのない奴だ~というような顔をしていたが、

 「それじゃあ、秀寿司の前に立っていてくれ。あそこなら知っているだろう……四時だよ」

 四時だよ~という言葉に力を入れて、彼はあたふたと出ていった。どこかで誰かと面会する約束があるか、それとも会合の時間がせまっているかのどちらかであろう。

 秀寿司というのは、虹口の繁華街にあった。その真向いに、松本洋服店という紳士服の専門店があって、ここの主人が戸松の思想に共鳴し、精神的に彼の運動を支持していた。

 散歩のたびに戸松はよくこの店に立寄り、店先の椅子にどっかりと坐りこんでは、主人相手に大声で快談を放っていた。

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  1. 2015/01/02(金) 14:13:47|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 或時、丁度食事時になったので、主人がわたくしどもをつれて前の秀寿司ののれんをくぐり、ちらし寿司を御馳走してくれたことがあった。

 この時の鮨の旨かったこと……唯一の大好物である鮨と、結婚いらい四ヵ月も絶縁していた時であったから、わたくしはこの店の鮨に賞賛を惜しまなかった。

 戸松は鮨類はあまり好まない、そのため、味のよしあしもはっきりわからない。

 彼はその時のわたくしの心理的、肉体的欲求を計算にいれないで、この店の鮨は上海一の鮨だと思いこんでしまった。そして、人にもよく~あそこの鮨は旨いですよ~と語った。

 この秀寿司の近くに、みどり屋という、しす粉屋があった。

 小振りの丼に九分目にいれたしる粉一杯十五銭で、中にまるめて平たくした大きな餅が一つどっしりと沈んでいた。

 食の細い者ならば、このしる粉一杯で十分食事の代りにもなろうという代物で、味もあっさりとした、いわゆる田舎じるこという種類のものであった。分厚い餅にかぶりつきながらすする素朴な小豆汁の味は、日本の田舎に育った者を云いしれぬ郷愁へとさそう。

 そのためか、この店は日曜日ともなれば、いつも日本の兵隊でいっぱいになった。

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  1. 2015/01/04(日) 22:10:10|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 カーキー色の軍服に、星を一つか二つ着けた連中が、店いっぱいにつめかけて、婦人客にまじって真面目な顔をしてしる粉をたべている様は、異様な壮観であった。

 あっちからも、こっちからも、お代りの声がかかる。七、八人いる給仕の女達は、キーキー声をはりあげながら、三十程もあるテーブルの間を走りまわっていた。

 小豆のすきな戸松も、餅という附属物が丼いっぱいにがんばっていては、とても二杯は食べられないらしい。

 ところが、若い兵隊達は、ポケットの小銭のゆるす限り、胃袋が全く満足するまで食べようと、決心しているもののごとくであった。

 前に、二つ三つと食べ空を積み重ねている者が多かった。

 将校は料亭で酒におぼれ、兵はしる粉屋にあつまって満腹する~後方部隊は敵から隔絶し、戦争意識を失いかけている。その上、場所は上海だ。人間のあらゆる欲望をかきあつめて、謳歌しているような、自由と遊惰の巷である。

 理想もなく、誇りも失いかけた将兵が、こうした環境と集団生活の中で求めるものは、肉体の満足だけであった。

 みどり屋でしる粉を一杯食べて、七友小築の近くまできてうどんを一杯食べる。これが二人で外出した時の戸松の夕食であった。このうどん屋にも、兵隊がいっぱいいた。

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  1. 2015/01/05(月) 11:38:16|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 秀寿司のちらしをわたくしが激賞してから、彼は義理をたててか、二度ほど鮨を御馳走してくれた。

 しかし、これは一人前一円三十銭だから、ぎりぎりの生活者には少々懐がいたい。人間というものはげんきんな者で、やっぱりここには兵隊は集まらなかった。

 戸松の御馳走といえば、しる粉かうどんか、いいところで秀寿司のちらしであったが、今日は三竹だという。三竹が水炊き料理を看板にする料理屋だということは、来客の話でよくわかっていた。

 水炊きという料理は、わたくしにはまだその美味しさが理解できなかった。単純な料理のようにみえながら、その味が混沌と深く具体的でない。これは少々頭の頽げはじめた食通の食べるものだと思っていた。その水炊きを御馳走してくれるつもりらしい。しかし……料理屋であるから、ほかにも何か出来るだろう……。

 外で正式に夕食をとるということは、若い妻にはやっぱりよろこびであった。三時には身支度をととのえ、三足の草履をずらりと並べて、どれにしたものか……と、あれこれはきかえてみた。

 丁度時間を見はからって家を出たつもりであったが、秀寿司の前には、すでに戸松が待ちくたぶれたような顔をして立っていた。近づくがいなや先に立って歩き出した。

 「皆待っているよ」

 「ごめんなさい、草履の緒の工合がわるくって……」

 草履をえらんでいたとは云えないから、緒の工合がわるいことにしてしまった。

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  1. 2015/01/06(火) 10:27:47|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 「村上君達も待っているといったんだが、今先にいってもらったところだ」

 「はあ……」

 どうやら客は大勢らしい。しかも血気の青年達のようである。鍋をつつきながら、食べて飲んで、気えんをあげて、~天下国家を論ずる情景が今から想像できた。

 これでは、半衿をとりかえたり草履をえらんだり、細かく神経をつかう必要はなかった……と、ひそかに思った。

 三竹は、高級料理屋などという構えではない。三流どころだろう。

 玄関でうける感じが既に殺風景で、一流料亭にみる、あの重々しさと、床しさと、艶やかさとの入りまじったような雰囲気がない。

 通された部屋には、すでに五、六人の若人が、テーブルを囲んで煙草をふかしていた。村上青年を中心とするグループである。上座だけがあいている。戸松とわたくしは、そこにゆったりと席をとった。

 「何にするかね?みんな水炊きでいいだろう。どうだ」

 女中のもってきたメニューに眼をくれようともせず、戸松はみんなの顔を見まわしながら云った。

 「賛成」

 太い声、低い声、いろいろの声が賛意をあらわした。

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  1. 2015/01/07(水) 15:53:45|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 メニューには、鳥や魚の鍋料理の外に、うなぎ料理もあげられていた。

 「わたし、水炊きよりもうなぎの方がいいわ」

 どうせ御馳走になるなら、ほしい物を食べた方がいい。うなぎもわたくしの数少ない好物に一つだった。

 「よし、それではうなぎ一人前だ。水炊きは、魚や貝や野菜の入る、あれがいいね」

 「はい」

 一切のみ込み顔で、女中は下って行った。

 暫らくして、持ち出された料理は、いわゆるチリ鍋であった。うす味の出し汁で、野菜や魚介、ぎんなん、豆腐などを、一度に煮ながら食べるのである。

 立秋は過ぎたとはいえ、残暑は酷しい。

 日はかたむきかけたとはいえ、熱せられた空気はむし暑い。

 鍋からは、ほかほかと白いゆげが立ちのぼり、人々の顔はぎらぎらと汗ばんできた。

 飲みものだけは、よく冷えている。若人達は、冷たいビールをのみながら、チリ鍋からあげた魚や野菜を、フーフーふきながらせわしく食べはじめた。

 丁度その時、篠原青年が遅れて入ってきた。わたくしはテーブルの角にまわって、彼のために席をあけてやった。

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  1. 2015/01/08(木) 10:37:08|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 彼はきちょうめんな挨拶をおえると、戸松とわたくしの間にどっかとすわり、今運ばれてきたばかりのうな重にいきなり手をかけるや、自分の前にひきよせた。

 箸をとり、蓋をあけると、

 「うん、うまそうだなあ」

 彼は満足そうに、蒲焼を見すえた。

 鳶に油揚をさらわれたとはこの事であろう。わたくしは内心がっかりした。彼に席をあけてやるために、もそもそ動いている時に、女中がテーブルの中ほどにそれをおいたまま、立去ったのである。彼が自分のために運び出されたものだと思ったのも無理はない。

 「篠原!!」

 とつぜん、村上の声が、

 「それはお前のじゃあない、それは奥さんのだ」

と、笑いをふくみながらもきびしく制した。

 「お前はまずビールだ。飯を食うには早い」

 向こうの席からビールびんをかたむけて、こちらにさしむけている。

 「いやあ、すみませんでした。好物なもんじゃから、ついうっかりして」

 右手を頭のてっぺんから断崖絶壁のような後頭に撫でおろしながら彼はすっかり恐縮してしまった。再び蓋をしてわたくしの前に差し出したが、わたくしはもう、それを口にする意欲を失っていた。

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  1. 2015/01/09(金) 13:30:42|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 「篠原、君も一つ注文したらいいではないか」

 やっと気付いた戸松が、にやにや笑いながら云ったが、

 「いや、彼は水炊きだって人の二倍は食うですから、ぜいたくさせちゃあ駄目ですよ」

 村上は先輩ぶって、彼にかわって辞退した。

 酔がまわりはじめると、若者の意気はあがり、声高く熱弁になる。

 青年の純粋性は、上官の横暴と横着さと怠慢を許せないらしい。相手もいないのに、酒の勢いにあおられて、眼をひからせて激怒し罵倒した。

 彼らは信じていた~彼らこそ、真の愛国者であって、日本も中国も、アジア全体が彼らの活動を期待している~と。

 又、彼らは、天皇の絶対的信仰者でもあった。

 もちろん、天皇を人道的、政治的に理解して仰ぐのではなく、伝統的価値として、父祖伝来の習慣的信仰の対象として、ひたすら尊び敬っているのであった。

 彼らは無条件に天皇を現人神としてみとめ、天照大御神の生れ代りだと信じている。

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  1. 2015/01/10(土) 09:55:03|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 彼らの胸にいだく天皇は、偉大なる力をもっていた。数知れぬ多くの神々が、天皇の背後にあって、日本をまもっている。神である天皇の聖徳は広大無辺であって、あまねく世界のすみずみまでゆきわたるべきものであった。

 八紘を一宇として、全人類はすべて天皇を中心にして、はらからにならねばならない。そのための聖戦なのである。

 彼らのこの主張は、日本人としてすこぶる具体的で純粋なものであった。だが、世界の現実からは飛躍しすぎていた。

 彼らは天皇と日本を信じ、そのためには一切をかかげるように躾けられ、教育されてきたのである。彼らは天皇のために死に、国家に奉ずることを最大の誇りとする。

 酒の勢いをかりると、この一すじの思いに益々尖鋭的になっていく若人たちに、戸松は自分も酔ったような興奮した声で、じゅんじゅんと説ききかせていった。

 彼が真剣に話し出すと、座談でもゆうに百人には徹底するだろう。コップ半分のビールもろくろくのめない癖に、人が酔いはじめる頃になると、自分もけっこう半ダースものんだ程に真赤になって、気勢をあげはじめる。

 しかし~どんなに興奮していても、彼の論旨には、過去と理想を現実の場にむすびつける一貫性があった。

 彼はくりかえし主張する~。

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  1. 2015/01/11(日) 12:48:39|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 日本も中国も、革新しなければならない段階に来ている。今革新しないでずるずるといったら、未来の破滅は大きく、とりかえしがつかないようになるであろう。

 革新の必要がおきると人類は必ず戦争する。革新が戦争をまねいているのであって、戦争が革新するのではない。

 日本は自らが革新されねばならないし、聖戦の目的も、中国の革新を手伝って、中国四千年の垢をとりのけることである。

 日本はアジアの盟主として、アジアの善をもって、アジアの悪を根絶しなければならない。

 だが、これも今の段階では手おくれになった。太平洋において、アングロサクソンと雌雄を決している今、アジアの革新に立ちむかっているいとまがない。まず急ぐべきことは中国との和平と停戦である。

 撤兵には反対のわれわれであったが、アジアの運命は大きなカーブにさしかかっている。ここでこれを見のがして武力行使をつづけていたら危険である。現実をみつめて、歴史の方向を見定めねばならない段階に来ている。現在は撤兵による停戦和平しかない。

 彼はこんこんと、アジアの遭遇している運命をとき、声をおとして、今回の計劃をかたってきかせた。

 高杉晋作を尊敬している彼は、やはり自己の内部に晋作的なものをもっていた。

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  1. 2015/01/12(月) 11:16:41|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 つねに時世の流れをみつめつつ、五歩も六歩も先を考えていた晋作の胸中は、容易に同志には理解されなかったときいている。晋作は咳こみつつある時は血を吐きつつ、同志後輩に自分の主張をとききかせた。

 そのころは、封建的因襲が根深く、身分制のつよい時代であったが、彼はたんなる倒幕論者ではなく、人間性の平等と尊厳をとなえていた。

 自己の立場にたって考えるのではなく、他をふくめた共通の立場にたっての考え方をしていたのである。

 武士を基準に考える青年武士の中にあって、彼は民衆(ことに農民)とともに、新しい時代をひらかんとし、とかく自藩にとらわれがちになる志士の中にあって、常に世界の中の日本を見つめていた。

 時勢は推移し、時代も人も変ったが、この思想は、そのまま戸松の中にも現存していた。

 日本の立場から中国をみるのではなく、彼はアジアの中の日本、アジアの中の中国をかんがえていたのである。

 日本と中国の繁栄は、アジアの力を充実させ、アジアの善を興隆させることにある。これを可能ならしめる主動力となるのが日本である。これが戸松の思想の根底であった。

 われ近代の信長たらん、われ昭和の晋作たらん~これは彼の日頃の口癖であった。

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  1. 2015/01/13(火) 13:50:00|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 小人は同じて和せず

 その朝はよく晴れわたっていた。

 上海公園のみどりを渡ってくるそよ風は、さわやかな香りを室内に運んでいた。

 白絹の着物をまとった戸松は、テーブルの前に端然と座して読書していた。かたわらには十冊ほどの分厚い本が二つにわけて積み重ねられている。断食二十一日間のこの本は全部読みあげられる予定であった。

 もはや、言葉をかける隙すらあたえない~昨日の彼と今日の彼は全く別人であった。

 わたくしとは、なんらの共通点もない、遠い人のように思われた。

 わたくしは、隣りの部屋に自分の物をそっと、足音をしのばせるようにして運び、用事以外の時は彼から全く離れて暮すことにした。

 別に仕事もないので、こちらでもひっそりと本を読んでいると、昼頃、ふらりと彼の白い姿があらわれた。

 「朝飯はたべたかね」

 「ううん……」

 急に声をかけられてびっくりしたわたくしは、いたずらを見つけられた子供のように、まともな返事もできなくて、あわてて頸をふった。

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  1. 2015/01/14(水) 15:17:21|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 「だめだ、あんたまで断食してはいかんよ」

 「だって、あなたが召上らないのに、わたし独りが十分に食事をしていてはわるいわ。二日に一食でいいわ」

 「馬鹿なことをいってはいかんよ。そんなセンチメンタルな心づかいは迷惑だ。そういう親切心は愚劣だよ。
 自分の生活を規律正しくまもることが、今の場合あんたの義務であり責任だよ」

 「はい」

 しぶしぶ立上って、わたくしは台所に下りていった。

 それ以来、一日に一食の食事をひとりでぼそぼそと食べた。

 暑気のため食欲もなかったが、一合づつ炊く配給米は、冷酷なほどまずかった。

 じゃがいもを一貫目ほど買ってきて、出しじゃこと一緒に甘辛く煮つけたのを、来る日も来る日も食べつづけた。

 二日に一度、彼はわたくしが食事をしているところへ、ふらふらとあらわれてきた。

 一週間目には頬はげっそりと落ち、眼はひっこんで瞳だけがきらきらと閃光を放っているように見えた。

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  1. 2015/01/15(木) 13:19:23|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 そうした彼の姿を直視しては、食べたものも食道の中途につかえ、ひしひしと罪の意識すらわき上ってくる。

 彼はそばに近よって、じろりと食膳をみわたして、

 「又じゃがいもか~あれほど偏食するなと云ってあるのに。どうして、あんたはそうがんこなんだ。

 明日は、魚か、肉をたべなさい。ぼくの代りに食べなさい。きらいだきらいだといって食べずぎらいしないで、あんた自身の偏食をこの際なおしてみたらどうかね~。

 命令だ、肉を食べろ、断食する決心で肉をたべろ~」

 おわりの一言は一段と厳粛な声で、彼は命令した。それは神そのもののごとく権威があった。

 やせ細った頬や顎にひげがぼやぼやとのび、油のぬけた髪の毛が耳の上までたれ下り、彼はキリストの面影をやどしてそこに立っていた。

 山上の垂訓をするキリスト、暁に祈るキリスト、最後の晩餐のキリスト~ひたすら道をきわめんとする聖者の真摯な姿~それと同じような雰囲気をただよわせて、彼はそこに立っていた。

 わたくしをこの世の俗塵の中につきはなして、彼が昇天してしまうのではあるまいか~しばし、わたくしはそうした錯覚にとらわれた。悲愴感が全身をはしった。

 「髭を生しているとこわいのかね。剃るよ」

 彼の顔を見て、ふるえあがっていると思ったのであろうか、彼はにやにやと顔をくずし、今度はしずかにさとすように、

 「いいかね、人に同調して自分の生活をくずしてはいかんよ。この期間にあんた自身も修養したらいいだろう。小人は同じて和せず、君子は和して同ぜずだ」

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  1. 2015/01/16(金) 14:01:59|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 友、南方より来たる

 彼の生活は規律正しかった。

 午前中四時間読書し、疲れると坐っていた場所にそのまま仰むけにねて休む。その時はねむっているのか、目覚めているのかわからない程ぐったりしている。

 はだけた白衣の間から肋骨が一本一本くっきりと見え、それが呼吸の度に上下にうごく。

 午後も夜も、さらに二時間づつ書見し、九時に寝床に入り、翌朝七時までねむる。

 積み重ねた本は、一冊一冊すばやいスピードで読みあげられていった。重要な箇所にはていねいに赤線がひかれ、そのまま彼の頭脳の中にも吸収されていくようだ。

 だが、十日もすぎると、さすがに憔悴ははげしくなった。洗面所にいったり、書物を整理するために動いたりすると、呼吸が荒くなるのがはっきりとわかった。

 丁度その頃、南方のスマトラから、園田がひょっこりやってきた。

 「どうしたんだね、病気か」

 「二十一日間の断食だよ」

 「ふーん、今日は何日目かね」

 「十三日目だよ」

 「十三日目にしては元気だなあ」

 一年ぶりに会った二人の男は、つい昨日別れてきた人のように、挨拶にもならない言葉をかわしながら、しばし互いを凝視した。

 園田は、満鉄いらいの友人である。

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  1. 2015/01/17(土) 14:06:44|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 十三年来、北支軍司令官、今村均中将の下で、宣伝班長として活躍していたが(当時、彼の部下に雑誌「平凡」の社長、岩堀喜之助氏もいた)太平洋戦争となるや、選抜されて十七年春、陸軍司政官としてスマトラに赴任したのであった。

 丁度そのころ、日本軍は華々しい緒戦の勝ちに乗じて南方の島々を占領し、戦争から政治へと早変りしていた。

 そのため、後方勤務の軍人や軍属が、どんどん南方へと派遣されていった。園田は済南に妻と妹を残し、単身でスマトラに渡った。軍政がやっと端緒についたばかりの時であったから、家族そろっての受け入れ態勢は、まだととのっていなかったのである。

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  1. 2015/01/18(日) 17:10:01|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 彼は上海十三軍司令部に立ち寄り、留守宅のことを戸松に依頼した。生来ののん気者も、女だけの生活には、さすがに心が残ったものであろう。

 「時々、行ってみてやってくれよ」

と、念をおして空に旅立っていった。

 その彼が、なにやら浮かぬ顔をして、のっそりと帰ってきたのである。

 「なにかあったのか」

 戸松は友の元気のないのが気になった。

 「うーん、南方には、もう仕事らしい仕事もないものだからねえ」

 「引きあげてきたのかね」

 「済南で新しく仕事をさがそうと思うんだ。北支で動く方が面白いからね」

 「やっぱり軍の仕事をするのか」

 「多分そうなるだろう。まあ、一度内地へ帰って出直してくるよ」

 「春に帰ってきたばかりじゃあないか」

 「いや、今度の帰国は重大な用件をになっているんだ。命をかけてもいいと思っているんだよ」

 そこで、戸松は今回の計劃をつぶさに語ってきかせた。

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  1. 2015/01/19(月) 14:53:31|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 じっと眼をこらしてきいていた園田は、上半身をのり出すようにして、

 「ぼくもついて帰るよ、君の部下になって一緒に行動することにするよ」

 「そうか……うん、それは都合がいい。一人よりは二人の方が勢いがつくからね」

 「全く、いいところへ帰ってきたものだ。女房の事件を解決して、済南で君をまつことにするよ」

 「妻君の事件とは何かね、なにか問題をおこしているとでも云うのか」

 「妹から度々手紙でしらせてきているんだが、同じ会社の男と外泊したり、旅行したりしているというんだ」

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  1. 2015/01/20(火) 23:53:41|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 人ごとのように撫然と云いはなったまま、園田はぐっと息をつめるようにして腕を組んだ。自分の言葉と自分の思いに動じまいとするかのごとく……

 きく方も、ぎょっとしたような眼で友を見すえたまま、しばし声がない。

 ややたって……

 「君、それは大問題じゃあないか」

 黙々としている園田を叱りつけるように、戸松が真にせまった声で云った。当の園田は腕組したまま、尚もさりげない声で、

 「帰ってみないことには、どの程度の事実かわからないけどね~

 しかし、まあ、七割までは事実と思って間違いないような気がするんだ。女房はおとなしい女ではあるが、情にもえやすい危険性をもっているからね。とにかく、ぼくの留守中、勤めさせたのが間違っていたよ」

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  1. 2015/01/21(水) 16:42:20|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 「内地へ返しておけばよかったなあ、こんなに道義のくずれている現地に、女房をおきざりにしておく法はないよ。油断があったよ。だが、これが事実だとすると、妻君も妻君だなあ~」

 「妹からは、一度帰ってすっかり解決してくれとやいやい云ってくるし、ぼくも毎日が不愉快でたまらんしね。

 それに、スマトラには情熱を打込んでやるような仕事が何もないんだ。希望も張合いも、変化もない毎日でね、あのままいたら気が狂ってしまうよ」

 彼が南方の島に、日本の未来を切り開こうとして、勇壮な決意をもって渡ったのは、もう昔の夢となっていた。最近は、その惰性化した無意味な仕事と、刺激のない退屈な生活に辟易していたのである。

 園田には、軍の南方政策が既にゆきづまっていることなど、わかるはずはなかった。

 ソロモンにおけるアメリカの猛反撃は、日本軍部をあわてさせ、中央は大きく動揺していたから、もはや占領地域の政治どころではなかったのだ。何もしらない現地が、方針を見失って行きづまるのは当然であった。

 園田はその行きづまりを、スマトラは活動すべき何ものもないところだと見てとった。

 こんなところに長くいるよりも、早く北支に帰りたいという気持と、妻に対する疑心とが、同時的に彼の心をゆさぶりたてたものであろう。急いで旅立ってきたのか、中型のトランク一つの軽い身支度であった。

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  1. 2015/01/22(木) 15:05:15|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 二万元のダイヤモンド

 そのトランクをあけると、彼は一枚の合オーバーをひっぱり出した。うすいグレーの上品な色であった。

 折り返した裾の両端をかるく手さぐっていた彼は、

 「ここだ」

と、いいながら縫目をほごし、中から薄絹にくるんだ小さな物をひっぱり出した。

 なんだろう……

 貴重品をあつかうように、慎重に動く彼の指先をじっと見ていたわたくしは、現われでた品物の意外さに、

 「あっ……」

と、思わずつぶやいた。

 それは、白金の台にのった、大豆粒ほどのタイヤモンドであった。

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  1. 2015/01/23(金) 16:22:43|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 その美しい石は、武骨そのものの、大きな黒い手のひらにそっとのせられて、野人の中の美女のように、誇らしげに輝いていた。

 園田と宝石……奇妙なとりあわせに、戸松もしばし、あっけにとられて眺めていたが、

 「なんだね、その石は?」

 「ダイヤモンドだ」

 「そいつがダイヤモンドか?」

 宝石の価値なんかには、関心ないぞといったような声だ。

 「いったい、どうしたというのだ」

 君のように無趣味な、金もない者が、どうしてそんな物を持っているのか……と怪しむような聞き方である。

 それには答えずに、

 「奥さん、これ指にはめてごらんなさい」

 包んだ布ごと、そっとわたくしの前におしやった。わたくしは、黙ったまま、それをつまみあげて、中指にそっとはめて見た。

 指を動かすと、その小さな石は、魔法をもっているかのごとく、神秘な光をまきちらす……その光は、天使ごとく清らかで、花嫁のごとくあでやかで、女神のごとく高貴であった。

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  1. 2015/01/24(土) 09:12:56|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 これは、女性がもっとも祝福され、もっとも貴ばれている時につけるにふさわしい~と、じっとみつめながら考えていた。

 すると、その思いを打ちやぶるように園田が、

 「この石を、上海で金に代えたいだよ」

と、ぽつりと云った。

 「いったい、いくらに売る気なんだ」

 「二万元以上に売れる筈なんだ。金でもって帰るより、宝石を買ってかえる方が割がいいと云われたもんだからね。もし……」

と、云いかけて、尚も宝石にみとれているわたくしの方に顔をむけ、

 「もし、奥さんがほしいのだったら、君がとっておいてくれてもいい。君の都合つく金だけもらえれば、後はいつでもいいよ」

 「うっかりした事を云ってくれるなよ。女房にねだられたら困るじゃあないか。ダイヤモンドを買ってやるような身分じゃあないからなあ……」

 戸松は愉快そうに笑ったが、その声はカラカラに渇いてかすれていた。親しい友との邂逅に、肉体の衰弱をわすれているのかもしれない。

 わたくしは指輪をはずして、そっと園田の方にかえした。

 何時までも眺めていると、それに執着しているように思われそうだからである。夫にダイヤを買ってもらうことなど、夢の夢たるものだと思っている。それだけ、今のわたくしどもの生活には、縁遠いものであった。

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  1. 2015/01/25(日) 13:54:27|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 友のために金をつくる

 「二万元か……」

 戸松は独り言のようにつぶやいた。周仏海から渡される毎月の工作金二十万元から都合するつもりなら、今すぐにも、その指輪を自分で買いとることは出来るだろう。それは簡単なことだ。

 が、しかし……ものごとを混同することは許されない。

 指輪の件は、仕事の金とは関係なく、別の方法をもって解決されねばならなかった。

 「よしっ、なんとかしよう。そのダイヤで二万元つくってやるよ。心あてがある」

 「そうか、それじゃあ紹介状を書いてくれよ。今日すぐぼくが行ってくるよ」

 「君ではだめだ。相手は銀行の頭取で潘三省という男だ。一かどの実業家だ。それに、こちらも商人ではない。もの売りの真似は出来ん。

 友人のために、二万元ほしいと申込むだけだよ。その代りこの宝石を進呈したいといって差出せばいい。それがもし、二万五千元のねうちがあったとしても、ぼくは知らないよ」

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  1. 2015/01/26(月) 09:06:38|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 「それは、かまわん。だが、その身体で行けるのかなあ」

 「大丈夫だ。若し苦しくなったら帰りは自動車をよんでもらう。が、まあ大丈夫だと思う。そうだなあ、リンゴを二つばかり、ジュースにしてのんで行こうか」

 わたくしは階下におりて、松下夫人にリンゴを持っていないかときいて見た。気のいい彼女は、冷蔵庫にあるから入り用なだけつかってくれという。なるほど中粒の青リンゴが、七つ八つ入っていた。三つを皮ごとすってしぼると、薄茶色の汁が大茶碗にいっぱいになった。

 それをうまそうに、ごくごくと喉をならしてのみほすと、戸松は白絹の着物のまま、ステッキを片手に出かけていった。

 肉の落ちた身体は、一まわり小さく見えたが昻然とはった両の肩や、風をおこして動くすばやい足の運びは、いつもとかわらない。よく茂った街路樹の下を、彼が歩調もみださずに遠のいていくのを、わたくしは後をつけながら見送っていた。

 スコットー路の曲り角にさしかかった時、彼はいきなりパッと走り出し、その姿は建物の向こうに消えてしまった。

 それは「あっ」という間の、風のように早い動きであった。走り出そうとする電車めがけて、荒い息を吐きながら走っているであろう彼の姿を想像しながら、わたくしは只唖然としてそこに佇んでしまった。

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  1. 2015/01/27(火) 15:14:58|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

新聞 いしずえ 新年号 1月1日発行 №30

新聞 №30

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  1. 2015/01/28(水) 14:12:41|
  2. 新聞

第一巻春雪の巻

 約二時間もたった頃だろうか。戸松はよろめくように階段をのぼってきた。

 テーブルの前に、どっかと腰を下すと、

 「もう一度、ジュースをつくってくれ」

と、かすれた声で云った。満身の力を出しつくした後のように、ぐったりとしている。

 まず、水を一杯、息をもつかさずのんだのち、袂から札束をとり出し、園田の前につみ重ねた。

 「二万元だ、潘頭取が快く出してくれた。ダイヤはおあずかりしておきますよと云ったよ」

 「申しわけない、全くえらい目にあわせてしまった。恩にきるよ」

 「なにを云うか、友人のために、これくらいの事が出来なくてどうするか」

 「土産代りだ。少し取っておいてくれ」

 園田は札束をとりあげ、何分の一かを分けようとした。戸松はそれを片手で制して、

 「土産をおきたいのなら、その合オーバーを置いてゆけ、金はいらん」

 園田は、とうとう合オーバーをとりあげられてしまった。

 戸松はジュースをのむと、寝床をとらせ、その上にぐったりと横たわってしまった。もう話をする元気もないらしい。

 断食の友を相手には、長居も出来ないと思ったのか、園田もそうそうに腰をあげ、済南での再会を約して、再び旅立っていった。

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  1. 2015/01/28(水) 14:26:49|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 それから、何ときかすぎ、夕闇が音もなくしのびより、総てのものが静寂につつまれようとしていた。彼の眠りはこんこんと深く、やせた顔はいよいよ青ざめて、力なくみえた。筋ばった手足は、生命を失ったかのようにぐったりしたまま、びくとも動かない。この旬日、生命の補給力を断たれた肉体は、ひっそりと息をころして、悲しくも生命をまもりつづけているかのように思われた。

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  1. 2015/01/29(木) 15:24:20|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第一巻春雪の巻

 東京から持ってきた十冊ほどのトルストイやシェイクスピアの文学書も、ほとんど読みつくしてしまい、今日は戸松の書棚から一冊ひきぬいてきた。アドルフ・ヒトラーの「マインカンプ(わが闘争)」である。

 それは貧乏な画工から身をおこし、あっという間にドイツ全民衆の心を一手ににぎりしめ、一世の英雄として世界にそびえている鉄人の自叙伝であり、又ナチスの指導原理ともいうものであった。生いたちからペンをすすめた力づよい文章は、トラクターで開墾をすすめていくようなたくましさと敏活さをもって、その思想と行動を勇壮に展開していく。

 昨日までよんでいた文学書が、大きな劇場で演ぜられている芝居であるとするならば、このマインカンプは、眼前に渦巻き躍動しているヨーロッパの社会そのものであった。

 ヒトラーは、「人を説得する力は、偉大な文筆家ではなく、偉大な演説家である」と、主張しながら、彼自身の著書には天才的説得力があった。

 わたくしは、ぐいぐいひきこまれるように、彼のウィーン時代をよみつづけた。

 彼はするどい刃物で、ずたずたに切り割るように第一次大戦前の旧オーストリヤのあらゆる社会を切断してみせる。

 どこを切っても、とりつくろった表皮の内部はぶよぶよに腐敗している。そのどの面にも血うみがよどむように、ドイツ系オーストリヤ民族の、故国ドイツへの憧れと郷愁が疼いている。

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  1. 2015/01/30(金) 11:37:45|
  2. 永遠の道 戸松登志子著
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Author:國 乃 礎
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