いしずえ

第二巻受難の巻

 国乃礎運動は一時代一時期を画する政治権力(内閣政府)とちがって、過去・現在・未来、三世一貫の原理原則を貫いて行くものであるから困難を伴うが、しかし民族の生命であり本質であるが故に、この道この運動が成り立たずして、単なる政権や新興宗教の類では、日本民族の再生蘇生復興は成立するものでない。国乃礎運動は、西欧模倣に溺れ後進性を脱却できぬ国民を自覚させ、日本の本来性を基調とする人類生存革命の担手たらんとするものである。それ程重大な大運動であることを構成員会員は自覚し認識して、具体的計画の下に割当てられた任務を「永遠の今」直ちに足下より断行し、救世済民の光輝を放つべきである。

 これが我々国乃礎の不滅にして類なき栄誉であり誇りである。

 この思想理念を抱懐したのは受難時代、祖国に遺言の書・生存法則論を書き続けていた南方戦線にあった頃である。

                  (43 43' 23)

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  1. 2015/06/01(月) 14:30:00|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 日中事変解決運動

 姦婦

 北支方面軍司令官横山勇中将との交渉もあり、事変解決運動を園田と共に行動することになっていたので戸松は済南に下車した。

 大洪水の度に下流を変えるという、黄河の流れる北支の平原の中程に済南がある。中国史を彩る北の都北京と南の都南京の中間、上海から汽車で約二十時間の地点である。ここで園田が待っている。着いた夜は旅の疲れで一別以来の事情をきく事はできなかったが、翌朝、園田は戸松を公園にさそい出した。

 町の中央は低い丘状をなしていてうっそうと木立の茂りあう自然公園をつくっていた。

 木の間をもれる朝の光は、露をふくんでしっとりとしめった空気と土をやさしく愛撫し、木々の間にさわやかな明るさを漂わせていた。

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  1. 2015/06/02(火) 09:01:52|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 園田はむっつりとしたまま歩きつづけている。彼の心は、苦悩の淵をさまよいつづけているらしい。理性と平静を失うまいとして、じっと踏みこらえているその悶々の波動が、しじまをぬって伝わって来る。

 戸松は、昨夜から、すでに暗い事実を感じとっていた。彼の妻の姿が家の中に見えないということが、悲劇の前奏曲のごとく、すべての事を暗示していた。

 戸松は友をいざなうようにして、木の下蔭のベンチに腰を下した。あたりには人影もなく、意識をもたない木々だけが、黙然として人間の悩みを見下していた。

 「妻君はどうしたのかね」

 相手の心の焦点へ、戸松はまっすぐに突っ込んでいった。

 「うーん」

 園田は深い吐息ともうめきともつかないような声を放ち、むんずと腕を組みながら、吐き出すようにいった。

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  1. 2015/06/03(水) 09:07:44|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「君から電報がきたら、あわててホテルへ逃げていってしまったよ」

 「それは、一体どういう事なんだ」

 「奴は君が苦手なんだ。君が潔癖できびしい男だという事を知っているからなあ。自分の犯した罪を、君に裁かれるのがこわいのだろう。俺の決断が、君の言葉に支配されることも、奴はちゃんと知っているんだ」

 「あの事は、やっぱり事実だったのか……」

 「うん……相手の男をつれてきてあやまっていたよ。俺の眼の前で、二人が別れることを誓うと、泣きながら云うんだ」

 「で……許したのか、君は……」

 だらしがないぞ……と云うように、戸松は友の横顔にするどい一瞥をなげた。そのきびしい語気に抵抗するかのように園田は云った。

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  1. 2015/06/04(木) 22:38:09|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「誰がゆるすものか、すべて君と相談の上決めることにしているのだ」

 「それで妻君がおれを恐れて逃げて行ったのか」

 園田は腕組をとき、右手をベンチの背にかけると、ぐるっと戸松の方に向きなおった。

 「君はこういう場合、どうしたら一番いいと思うかね」

 暗い瞳が友を信頼し、その答えをじっと待っている。戸松は、まず本人の考えを冷静に検討してみることが先だと考えた。

 「君自身の考えはどうなんだ」

 「ううん。いよいよ決断するとなると、妙に迷いがおきてくるのだ。その男と別れられないといってタンカでも切れば腹立ちまぎれに殺してでもやりたくなるだろうけれどね。悪かった許してくれと泣いてあやまられるとこっちも長いこと一人で放っておいたんだからという憐びんの情がわいてきたりしてね。今後過ちを犯さなければ、俺だけががまんすればいい事なんだ、というような気もしたりするんだ」

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  1. 2015/06/05(金) 08:48:41|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「君らしい考え方だ。だが、人生は長いんだぞ、一時のそうしたセンチメンタルな気持が、永くつづくと思うか。そしてこの事件はなかったこととして君の人生から払拭してしまうことができるか。その自信が君にあるのか。それに、妻君に二度と過ちを犯させないという確信と保証がもてるか」

 戸松はさっと上半身を左に向け二人は向き合うようにして互の眼を凝視した。

 「さ、どうだ」と詰め寄るように、戸松の眼はきびしく光った。気力にあふれた友の目に圧せられたように、じっと足下の土に眼をおとすと、園田は力なくいった。

 「そういう自信があるくらいなら悩まないよ。ないから迷うのだ。どうするのが一番いいか、君の意見をきかしてくれ給え」

 「よし、第一考えて見給え。女房が油断をしていると何をやらかすかわからんような女だということがわかっていて、仕事に熱中し打ち込んでいけるか。男は仕事に生命をかけていくものだ。だが、その仕事にかかげ切って行くためには、妻に対する信がまず心の支えになるものだ。妻に対する不信と懐疑は心を乱し、仕事と人生を荒ませてしまうよ。そうじゃないか」

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  1. 2015/06/06(土) 10:22:59|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「それはそうだ。その通りだ。それに、夫婦の間にはいい時ばかり無いからなあ。何か気まずい事があった場合、この女房は己を裏切ったことがあるんだ、という憎しみがつきまとって来るからなあ」

 本来は従順なおとなしい女である。されど夫と遠く離れては孤独にたえられず過ちをおかしやすい女、すでに大胆な過失をおかしてしまった女、この呪わしい宿命の妻をいかに処置すべきか。殺してやりたい程の怒りと、許しを乞うしおらしさへの憐憫と、過ちやすい天性への懐疑と、この三つの矛盾した心の綾が、園田の心を乱し、動揺させているのであった。

 「とにかく君の意見に従う事にしよう。俺の心は平常でない。別れた方がせいせいするだろう。しかしあんなにあやまられると、どうも心が鈍るなあ」

 園田は未練がましく、同じ言葉をくり返し、同じ迷いの渦巻の中を、いつまでもぐるりぐるりと廻っている。

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  1. 2015/06/07(日) 14:23:40|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「男というものは大体そういう者さ。相手が強く出れば却って強くなれるものだ。反対に憐憫をそそられると、気合ぬけしてぐったりなってしまうものだ。しかし、人間というものは、おかすべからざる一本の道を立てておかねばならないものだ。具体的には男は節操、女は貞操だ。節操のない男は値打ちが無いように、貞操をもたない女は、女としての価値がない。君の妻君は道徳的責任が何であるかわからん無教養な女だ。人生と男を甘く見ているよ。君のあいまい不徹底な態度は、相手に人生をあやまらせることになるぞ。人間の社会の道義的掟や夫婦の道というものが厳しく厳粛なものであるということを思い知らせてやることだ!!第一不義や破廉恥なことをいいかげんな処置でうやむやにしてはいかん。姦通などということは自己否定であり夫無視であって最も重大な罪だ。区々たる感情に溺れることなく毅然たる態度でのぞむべきだ」

 戸松の意見をうなずきながら聞いていた園田はやがて顔をあげ、眼を据えて、決然といい放った。

 「うん、決断しよう。離縁してしまうよ。そうしたいのが、俺の本心でもある」

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  1. 2015/06/08(月) 13:47:27|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「僕なら姦婦姦夫を連れ出して一思いに銃殺する。それは男の場合も同じで、国家を裏切れば殺されるのだ。姦通した男と女は一分一秒と雖も許しておけないからね。妻を愛すれば愛する程そうせずには居られないのだ」

 戸松の声は、自分の言葉に激して、さらに怒りをふくんで震えた。

 「ところで、別れるとなると、どういう方法をとったらいいだろうか」

と園田は、怒り出した友に遠慮するように、おずおずと話題を方法論へとすすめた。

 「そうだなあ」

 二人は黙ったまま、前方の木の幹をみつめ、思いを鎮め高めんとするかのごとく、枝づたいに梢を見上げた。ややたって、戸松はおだやかな調子でいった。

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  1. 2015/06/09(火) 13:42:02|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「本人には実家もあり、親もあることだ。それに仲人だってあるだろう。肉親立会いの上で離縁すべきだろう。本人には君の本心を知らせないで一切を水に流したような顔して、一緒に内地に連れて帰ればいい。そしてそろって妻君の実家へ行くのだ。娘夫婦が暫らくぶりに外地から帰ったということで大歓迎するだろう。その席上で、堂々と故あって今日限り離縁すると宣言し、そのまま席を立って帰るがいいだろう。そして後は交渉を断ってしまうことだ。この方法が男の責任と愛情を裏切り、誠実と面目を傷つけた女への代償だと思う」

 戸松は友に意見を語っている中に、我ながら名案だと思った。情に流されやすいこの友が、異国の地で、一対一で解決をつけることはむずかしい。又離別するとしても、済南の町へ、思慮の浅い女をこのまま放り出すような無責任なことはすべきでない。せめて親の元へ送り届けるのが男の情愛というものだ。

 「うん、そうしよう。それが一番賢明のようだ」

 園田はすっくと立上ると、

 「そうしよう、そうするよ」

と力づよく繰返した。

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  1. 2015/06/10(水) 13:50:23|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 背徳の妻

 園田の夫人は夕刻かえってきた。

 彼女は戸松が済南を立ち去るまで、ホテルにとどまっているつもりであった。潔癖で厳しい夫の友人さえいなかったら、ゆっくり時間をかけて情に弱い夫の心を手元につかみとってしまう事ぐらい、不可能なことではなかった。

 彼女は夫を、いや、男というものを、嘗めきっていた。

 園田は一見、頼り甲斐のあるたくましい男性にみえる。彼はおだやかに、じっくりと人の話をきく。彼がニヤニヤと笑いながら、ウンウンと自信ありげにうなずいているのを見ると、人の希望や願いを一切のみこんで、かなえてくれそうな大きさを感じさせる。

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  1. 2015/06/11(木) 14:48:10|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 感傷的か、あるいは解放的な女は、そういう種類の男には、つい気楽な親しみをもつ。そして信頼して寄りかかる。

 それは男と女という異質の立場から、純粋にもとめあう生新なものではなく、春日和にさそわれて、知らず知らずの中に林の奥に入りこんでいたという類のものである。

 であるから、彼のふところには、精神的、物質的に欠乏している女が容易に迷いこんでくる。もし、彼に野心があるならば、そして物心両面に実質的に豊富な内容があったなら、彼の生涯には無数の女性が、群列をなしてつらなってきたことであろう。

 だが、彼は女に満足をあたえる程の金持でもなければ、親鸞のごとに法悦をあたえるほどの精神家でもなかった。

 そのため、一度その広いふところに飛びこんだ小鳥は、思ったより中が淋しいのにがっかりした。園田の夫人がそうであった。

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  1. 2015/06/12(金) 13:41:34|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 夫は鷹揚で豪快そうに見えながら、経済的には力なく、やさしく親切でありながら、その無頓着なのん気さは桁はずれていた。

 一方夫人の方は、事務的才能があり、英文、邦文のタイプに熟練していたから、のん気な夫にかわって書類や手紙をことごとく処理し、またたく間に彼の生活を牛耳るようになっていた。

 結婚前に得た夫のたくましい印象は、一切を妻にまかせ切った家庭生活の中では、真昼の行灯のように淡くなり、夫は無能者のごとくのんびりしていた。

 女は近視的肉眼をもって一切を判断し、現象に支配される。夫の価値は、社会的地位とその収入と学歴とによってさだまり、そのどれもが思わしくない時には、家庭にたいして誠実で真面目な夫であることが、よりつよく要求される。

 であるから、家庭で手をやくようなしまりのない暢気者の夫は、いつしか妻の尻に敷かれ、軽視されるようになる。

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  1. 2015/06/13(土) 13:11:26|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 園田の夫人も、いつしか自分が夫にまさる女であると思うようになっていた。

 彼女は少しばかり美人であった。その上体格も大きく、おし出しが立派に見えた。それに、娘の頃に身につけた特技は、自立してゆけるだけに熟達している。

 彼女は外見は大人しく従順にみえるが、心の中では夫を軽蔑している。夫は大まかで鈍感なのだ、その上物事にこだわらず寛大ときている。夫にかくれて他の男性と遊ぶことは、ヘソクリを隠しておくぐらいの安易な気持ちだったかもしれない。

 相手も妻子があり、そろそろ家庭に嫌怠をおぼえはじめた男である。夫の留守中、退屈しのぎに一週間や十日の旅行をたのしむには、丁度手頃の相手であった。

 赤道の直下で、夫は夫なりに適当に楽しんでいるであろうと、甘く考えていたのであるが、風のたよりに噂をききつけて、夫がはるばる南方から帰ってきたのである。

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  1. 2015/06/14(日) 15:50:15|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 しかし、人の好い夫は、涙をもってあやまれば、ゆるしてくれそうに思われる。彼女は夫の友人が、よけいなおせっかいをせずに、早く済南を去ってくれればいいがと、ホテルの一室で待ち希っていた。

 そこへ、園田がひょっこりと迎えにあらわれたのである。昨日の今日だ、親友が去るには早すぎる。

 「戸松には、お前のやったことは話せなかったよ。いくら友達でもはずかしくてね……」

 彼は何くわぬ顔で妻を見ながら、

 「もう、帰って来いよ」

と、うながした。

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  1. 2015/06/15(月) 15:45:04|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 夫人の眼は「しめたっ」と叫ぶかのように、瞬間よろこびにかがやいた。もう大丈夫だ。夫が親友にも打ちあけないで、一切を過去の彼方に封じこめようとしている以上、もう誰にたいしても怖れを抱くことはない。神にすら憚ることはないのだ。

 帰宅した彼女は、いそいそとして主婦の座につき何事もなかったような顔で夫の友を遇した。

 甲斐々々しく茶菓をもてなしている妻に園田はおだやかに、労るかのようにいった。

 「戸松君が、今度東京でしばらく仕事をするのでね、俺もそれを手伝うことにしたんだよ。君も長い間一人でいたんだ。今度内地へ一緒にかえらんか」

 「え?ほんと……うれしいわ」

 夫の腹中を計り得ず、彼女は子供のように単純によろこんだ。暗雲は去り、たちまちにして晴天になったのだ。彼女の顔はうきうきと華いでみえた。

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  1. 2015/06/16(火) 14:23:59|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 園田と戸松は、黙って眼を見合わせた。このおろか者が……二人の眼はあきれたように軽蔑の色をただよわせている。

 彼女は自分の背徳が、どれほど大きな苦悩を夫にあたえたかを知らない。

 ましてや、夫の心が、海の彼方にあるときより、さらに遙かに去りつつあることも、又離別すら決意していることも、読みとることは出来なかった。

 郷里の親元に送りとどけられる身であることもしらず、ひそかに男の甘さにほっとし、夫の愛の大きさをよろこんだのであった。

 その夜、園田は戸松を小さな酒場にさそった。

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  1. 2015/06/17(水) 15:53:48|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 彼が済南駐屯の十二軍に勤務していた時の先輩同輩数人に、戸松の話をきかせ、共鳴者になってもらうつもりである。

 だが、戸松は、初対面の彼らにいきなり自分の事変解決案を語る気持はなかった。

 時世を論じながら、まず彼らの人物と思想をたしかめてみなければならない。酒はこういう場合あつらえ向きの雰囲気をつくった。

 しばらくの間は、日米の戦況が話題にのぼり、海軍の遠大な作戦計画にみんなが期待をよせあった。

 大陸の土に安住している彼らには、南太平洋上の戦いの実相はわからない~遠洋の波に空に、どのように悲惨な戦いがくりかえされているか、急速に激増しつつあるアメリカの大機動部隊に追いまくられながら、海軍がいかに必死のあがきをつづけているか~誰一人わかってはいなかった。太平洋上の勝利が、日本のあらゆる問題を一挙に解決してくれるものと信じて、ゆっくりそれを待っているといった気分である。

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  1. 2015/06/18(木) 17:10:54|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 戸松も日本が太平洋で破れるとは思っていない。だが、勝つためには、日本民族が半減するくらいの覚悟をしてかかるべきだと考えていた。

 暢気な奴らだ……戸松は肚の中で舌打ちした。そして、いくらかにがにがしい口調で自論を切り出した。

 「戦争というものは民族をあげてやるもので、前線にあるものだけに期待をかけることは出来ませんよ。国民一人一人が自分の責任をはたさないことには、勝利は得られないですからね。

 われわれ中国にいる現地人は、まず日中事変をどうするかということを、責任において考えなきゃならんと思うんですがねえ。

 大陸政策は完全に行きづまっていますしね。このまま為すこともなく占領をつづけていたら、中国民衆の反感を買うばかりですよ。この事変の性格は、戦争よりはむしろ中国革新に重点がむけられるべきだと思いますね。僕は、日本が日中事変にたいする対策を、ここらで一変すべき時だと思っていますよ」

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  1. 2015/06/19(金) 13:20:47|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「この事変の性格は、始めから終りまで、戦争による屈服にきまっているはずですよ」

 一番年長の園田の上官であるという男が、「何を唐突なことをいうか」……というような昻然たる顔できり返してきた。東大出身という学歴が彼自身を選良意識にかため、第二の天性となった尊大さが一声のもとに他を屈服させずにはおかないと云うような雰囲気をただよわせていた。

 彼は軍ではあまり仕事をしない。朝出勤すると、ソファーにうずくまって長い時間かかって新聞をよむ。そして給仕を叱りとばしながら、書類の山に盲判をおしてゆくのが一日の大部分の仕事なのである。東大出身という学歴は、今では一つのアクセサリーのようなもので、実質的にはなにも生かされていないのであった。

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  1. 2015/06/21(日) 21:36:22|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 青年期の幸運と努力で、たまたま得たそのアクセサリーを、人前にちらつかせながら、彼は漫然と社会の上位に安座している人間の一人であった。そして、彼も日本特有の型にはまった固定的な思考能力しかもっていなかった。

 「熊襲を平らげるには新羅を征伐しなきゃならんからね。米英を討たんことには、日中事変の解決はありませんよ。重慶がねばるのは背後で米英がしりおししているんですからね。アメリカがへたばったら、蔣介石はたちまち降参するにきまっていますよ」

 彼は公式のような議論を、卓見であるかのごとく勿体ぶって主張し、それから、ゆっくり一座を見まわしながら、

 「この戦争に勝った暁には、日本人も忙しくなるなあ。北に西に南に、アジア一円を指導しなきゃならんからなあ。こうなると、もう十年若い方がよかったなあ……」

と、東条の代弁者のように、大東亜共栄圏の理想をほのめかして、愉快そうに笑った。

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  1. 2015/06/22(月) 23:02:41|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 日本のインテリ―の考え方は甘いなあ……戸松はがっかりした。園田氏の夫人が背徳の苦悩を感じないことに、女の曖昧な愚鈍さを見たが、今また、インテリ―と称する男の、頭脳の単一さ浅薄さにおどろいたのであった。

 「僕は戦争に勝ったとしても、その後に、日本に全アジアをひきずっていくだけの指導力があるかどうかが心配ですね。

 戦争は、武力と闘魂がすぐれておれば勝てるでしょうが、終局目的の他民族を統合していくということは、それよりももっとむずかしいことですからね。

 自然に同化してくるような高い精神文明をもっていないことには、成功はとても望めませんよ。とにかく、武力だけではだめですね。道義的にも高い民族性がないと……

 その点が僕は心配なんですよ。この頃の日本人は中国を同化するどころか、反対に同化されるような精神的低弱さがめだちますからね。戦争に勝ったら、その勢いで何をやり出すかわかりませんよ」

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  1. 2015/06/23(火) 09:21:54|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 第一次世界大戦後の国内的混乱の中で生い育ち、満州事変とともに国家観、世界観にめざめた彼は、日本の政治外交に、高遠な哲理のないことを不満としていた。

 彼は思う~成吉思汗の大元国や、シーザーのローマ帝国の夢のあとを、そして、ナポレオンのきずいたフランス大帝国の崩壊を~

 更に思う~十字架上に人類の罪を背負って消えていった一人の聖なる人の遺業を~

 聖者イエス・キリストは形の上ではたしかに敗北した。だが……彼の精神は後につづく多くの人々によって、支えられ高められ護りつたえられて、二千年後の今日も永遠の権威をもって人類を支配しているではないか。

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  1. 2015/06/24(水) 09:30:06|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 武力による征服の夢ははかなく、偉大なる精神による指導はとこしえにゆるぎがない。百年の計をたてずして、その時々の勢いに乗じていく危険と愚かさを、今の日本人は考えているであろうか……

 園田氏の友人達も、やっぱり思考をもたない日本人の一部であった。

 「あなたは心配性の人ですね。勝てば官軍、負ければ賊軍でな。天下は勝ったものの物ですよ。敗者はしたがうことにきまっているんだ。それに日本には、世界を指導するだけの原理だってあるしね。八紘一宇の皇道ですよ。ごらんなさい。満州だって立派に皇道に服しているじゃあありませんか。もうすでに成功の雛形がありますからね」

 「なるほど……満州ですか。満州政策は決して成功しているというわけではありませんよ。武力にものをいわせて、おしつけているにすぎませんよ。植民地政策を遂行しているだけのことですよ。日本人と満人との待遇が、あんなにちがっていたら、将来満人の不満が高まっていくんじゃないかと、僕は心配になりますね。満州軍にしてもだ。なにからなにまで、日本の方式にしたがわせようとしている。満人には満人の尊崇すべき先祖があるはずだ。それを無視して、東方にむかって皇太神宮を遙拝させているんですからね。強迫的に形だけおしつけても、彼らが果して天照大御神の子孫であるという実感をもつかどうか、疑問だと思う。日本の思想というものが、軍人が解釈しているように、片手に武器をもって、圧制によって他民族に一方的におしつけていくものであるのかどうか、もう一度掘り返して真意を正してみなければならないと思いますね」

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  1. 2015/06/25(木) 14:26:41|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「あなたは又馬鹿にものごとを深刻に考える人ですね」

 彼らは、そんな事はどうでもいいではないか、そういう事は誰か責任ある人に考えさせればいいではないか~というような顔をした。

 戦争も政治も、誰かがやってくれる。日本人がへまなことをやる筈がないから、一つ一つ勝利と成功をおさめてくれるにちがいない……というような、滬西の夫人達と共通した安易さがあった。

 中国にいる日本人は何をなすべきであるか……彼らは考えたこともないようである。

 上司の命令にしたがって忠実にうごき、仕事のない時には又何日でも、のんびりと徒らに過しているだけであった。

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  1. 2015/06/26(金) 11:17:55|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 こういう連中と何時間語らったところで、創造的な力が生まれてくるはずがない。彼らの頭は、先天的に奴隷性を帯びているのであろう。

 あたえられた仕事を型どおりに片づけ、あたえられた理念を型どおりに暗んじているにすぎないのだ。中国の伝統も民族性も、このような頭脳にかかっては、まったく無視されてしまうにちがいない。いや、事実無視されているのである。

 こんな奴らに中国をまかせてあるんだからなあ。抗日の火の手が根づよくなるのは無理ないよ~ちぐはぐに食い違っていく話に、戸松は嫌怠をおぼえてきた。

 「そろそろ引きあげるとするか」

 「そうだなあ……」

 酒ずきな園田は、名残惜しそうに盃をおいた。

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  1. 2015/06/27(土) 09:46:32|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 無能な征服者

 彼らに別れて酒場を出ると、二人は肩をならべてぶらぶらと歩いた。

 「ああいう連中が東大を出たというので、社会の中軸にあって指導しているんだからね、かなわんよ」

 戸松は嘆息するように云った。

 園田は自分の計画が無意味におわったことに幾分がっかりしていたが、今まで自身で気付き得なかった先輩の凡俗さを、今新らたにはっきりと見たような気がした。

 「いやあ……まったく……おどろいたなあ……。今までは相当の奴だと思っていたのに、君と話しあっているのを見ると、馬鹿に見えるから不思議だよ。案外、内容がなかったんだなあ」

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  1. 2015/06/28(日) 14:14:24|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「いや、彼らは怠け者なんだよ。自分で現実を見きわめ、自分の力をそこにどう生かすかを考えたこともないのだ。自分の責任において、何をなすべきかを知らないのだ。

 例えばだ……ここに赤痢患者がいるとするよ。そこへ上部から今流感がはやっているから、熱の高い患者にはこれこれの手当をするようにと指令が来るとする。医者がそれを忠実にまもって、赤痢患者にも流感の薬をのませていたとするとどうなるかね。

 人間の生命をあずかる医者は、道徳的医術的責任において、そんな事はしないだろう。ところが、日本は中国でそれに類した事を平気でやっているのだ。

 華北はこの二、三年来早魃つづきだった。農民は何を食って生きてきたのか。そこへ八路軍がゲリラ戦でじわじわとせめて来る。そのたびに農民は日本軍のために手伝わされるんだ。壕をほれ、橋をきずけとね、たまったもんではあるまい。生きることがやっとの彼らだからねえ。

 日本人は彼らのために、何をしてやれるかをもっと考えなきゃならんよ。彼らの村を、彼らの生活を護ってやることを、まず心がけなければ民心を把握することは出来ん。それが占領者の責任だよ。

 われわれは、中国の大地に耳をあてて、この国の鼓動をききとらなきゃ駄目だ。この国と民族の生命力を無視しては、ほんとうに彼らを心服させ、アジアの恒久的な平和をきずくことは出来ないよ。

 あの連中はそれを考えたことがあるのかね。赤痢の患者に外科の手術をほどこしているんじゃあないのかな」

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  1. 2015/06/29(月) 09:45:05|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「なるほど……はずかしい話だ。この俺自身、今まで原住民のためにそこまで考えた事はなかったよ。われわれは彼等を馬鹿にして、魯鈍な民族ぐらいにしか思っておらんかった。それどころか、この中国の大地を、日本が思いどおりに料理出来る日を想像していたよ」

 「まあ、それが日本人の一般的な考えかもしれんなあ。政府や軍は支那には野心がないと云っているけどね、戦争に勝てば第二の満州になることは間違いないだろう。

 だが、武力による征服には限界がある。

 アジア一円の民族に、腕力にものを云わせて形だけ皇大神宮を拝ませたところで、アジア統一の基礎が出来るとは思えんなあ。それぞれの民族の伝統と固有性とを尊重してやらんとね。

 南方の低い文化しかもたない小国や植民地ならばともかく、絢爛たる文化的遺産を誇っている中国人は一すじ縄ではいかないよ。

 とにかく、日本の政策は、国内的にも国外的にも基本をはずれているように思われるなあ。いや、基本そのものがないというべきかも知らん」

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  1. 2015/06/30(火) 14:52:02|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

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Author:國 乃 礎
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