いしずえ

第二巻受難の巻

 「閣下、東条総理に紹介状を書いていただけませんか」

 よほど唐突に感じたのであろうか、司令官ははっとして戸松の顔をみつめていたが、しばらく黙って考えた後、ぽつりと云い放った。

 「わたしの紹介では東条は会いませんよ」

 どうもおかしい。一つ一つみんな期待がはずれていく。

 「しかし、閣下が大臣の時、東条総理は次官だった人ではないですか」

 さらに突っ込んでいった。だが、司令官はそれには答えようとしないで、

 「東条に会おうと思ったら、東京へいって誰か適当な人をさがして下さい」

と、いわくありそうな印象をあたえたまま、そっけなく逃げてしまった。

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  1. 2015/09/01(火) 15:28:58|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 満州ではあれ程有能な軍人として噂高かった板垣将軍も、さっぱり元気がなくなったなあ……戸松は内心さびしかった。

 それにしても、なぜ東条は先輩の紹介では会わないのであろうか~

 二人の将軍は現在仲がわるいのであろうか~

 戸松は心の中に反問しつつ、不可解な疑いを胸にいだいたまま、司令部を辞去したのであった。

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  1. 2015/09/02(水) 14:19:19|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 よびとめると、堂々たる上半身をさっと斜めにひくようにしてふりかえり、大きな眼におどろきをこめて、

 「やあ、君か……どうしたんだ、今頃」

 「閣下こそ、どうされたんですか。フィリッピンにおられたのではなかったんですか」

 「フィリッピンからは、去年かえってきたよ。今は西部防衛軍司令部にいるよ」

 「閣下が内地におられたのなら、閣下にもぜひきいてもらいたい事があるのですが」

 「君はこれから東京にむかうのか」

 「そうです。次の東京行でたつつもりです」

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  1. 2015/09/03(木) 15:20:56|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「それでは時間の都合もあろう。ここで立話も出来んから、いずれ東京で会うことにしよう。二、三日したら参謀本部に出る用事がある。その頃、ここに連絡してくれないか」

 東京と福岡の連絡所を記入した名刺をわたすと、

 「じゃあ……」

と、ゆたかな微笑を残したまま、出札所の方にむかってゆったりとあるき出した。

 「西部防衛軍司令部……」

 戸松は口の中で小さくつぶやくと、去りゆくかつての上官の後姿を凝然と見送っていた。

 フィリッピンの守攻にかけては、軍の第一人者であると思っていた前田中将が、どういうわけで後方の内地防衛軍におさまっているのであろうか、何かわけがありそうだ。

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  1. 2015/09/04(金) 14:12:30|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 板垣大将から感じたあの期待はずれの頼りなさ、さらに又、前田中将から受けとったこの不審、戸松の頭脳は敏感な計量器の針のように、一瞬微妙に振動した。

 この二、三年来、尊敬と期待をもって仰ぎ見たこれらの将官の上に、何かがおこっていることはたしかだ。積年の軍部内の対立がいよいよ激化しているのであろうか。それとも、中将がなにか戦略的な失敗でもしたのであろうか~疑惑につつまれながら、戸松は上りホームへといそいだ。

 前田中将は、既述のとおり、上海十三軍司令部参謀長のおり、荒木大将にたのまれて戸松を軍に採用してくれた人である。

 中将は、大尉時代に民間人としてフィリッピンに入国し、電球売りに化けて軍要地を調査したことがあった。

 この旧知識がものを云って、太平洋開戦がきまるや、フィリッピン攻略の策戦に重要な人物と目され、第十四軍の参謀長に任命せられ、大本営の作戦会議の列席の後、ただちに実践指導のため南方に進発したのであった。

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  1. 2015/09/05(土) 14:09:51|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 コレヒドール要塞がおちたのは去年(昭和十七年)の四月下旬で、一応比島攻略はおわってはいたが、フィリッピンは南方作戦上重要なところであるから、敵の反撃にそなえて、その守備と治安工作はゆるがせに出来ないはずである。

 この重要な時期に、重要な人が、前線をはなれて戦後の防衛にまわされている……どう考えてもおかしいのである。京城以来の謎は、いよいよ深まっていくばかりだ。

 今度会ったらよくわけをきいてみよう。東京へいったら、すべての事情がはっきりするかも知れない……一切の解決を東京工作に托して、戸松は汽車にのりこんだ。

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  1. 2015/09/07(月) 13:34:50|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 前田将軍戦況を語る

 東京に着くと、まず、第一ホテルに宿をとった。日中両民族をメンバーとするアジア同盟の代表として東条首相に面会を申込むからには、やはり名の通ったホテルに堂々と陣どっている必要があると考えたからである。

 次に、安倍先生をたずね久闊の挨拶をすませると、親類、知人を一通りたずねて、それとなく世相をさぐってみた。一般の庶民の東条首相への信頼はつよく、戦いは必ず勝つものと確信しているようである。

 物資は日に日に窮乏していたが、これも戦いに勝つための当然の不自由であると、何らの懐疑もなく大らかに考えていた。

 わたくしどもの媒酌をした米倉夫人は、珍しい来客に何か御馳走しなければ申訳ないというので、虎の子のように大切にたくわえていた砂糖をとり出して、有り合せのうずら豆で汁粉をつくってくれた。中には餅のかわりに小麦粉の団子が入っている。

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  1. 2015/09/08(火) 15:02:19|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 彼女はこの苦心の傑作をすすりながら、

 「うずら豆のお汁粉も、思ったよりおいしいものですねえ。戦争になってからいろいろ工夫するようになって、変ったことを次々覚えますわ」

と、愉快そうに笑った。乏しきに耐え、貧しさの中に工夫することが、銃後にあるものの当然のつとめであると素直に受けとっているのである。

 この正直で、勤勉で、素直で、絶対に上を信頼し服従している庶民にたいしても、是が非でも東条に会って意見具申し、和平への道をひらいてもらわねばならない、先輩を一人一人ゆさぶって、彼らにも立上ってもらわねばならない……と、戸松は痛切に感じたのであった。

 着京三日目、福岡駅での約束どおり、数奇屋橋のたもとの東芝ビルに前田中将をたずねた。

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  1. 2015/09/09(水) 09:53:02|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 中将は中国の事情にも南方の状況にも通じている人であるから、戦争の大局的な見解がきかれるかも知れないという期待があった。また今回の自分の行動目的を話して、意見もきいてみたかった。

 通された応接室には中将が只一人、くったくない笑顔でまっていた。

 戸松の挨拶に答えるかわりに、吸いさしの煙草の灰をぽんぽんとはらいながら、

 「中支の方はその後どんな工合になっているかね」

と、くだけた調子できり出した。

 「閣下のおられた頃と少しも変っておりません。大陸の状況は全くストップしたままで、年々に頽廃と弛緩が加わるばかりのように思われます」

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  1. 2015/09/11(金) 09:34:02|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 戸松は若者らしい義噴をこめて報告した。すると、中将は至極あたり前のような顔をして、

 「そうだろうねえ、こうなってはもう誰の手の下しようがないだろう」

と、すべてを見透かしているかのようにつぶやいた。

 「それよりも閣下、南方の戦況はどういう工合になっておりますか。又、なぜ閣下はフィリッピンを引きあげて来られたのですか。差し支えなかったら、それをきかせて下さいませんか」

 戸松は福岡から抱きつづけてきた謎を、まず第一番に解決したかった。この青年らしい率直な問いに中将も思わず苦笑して、

 「うん、話してやるよ。君になら言っても差し支えないだろう」

というと、短かくなった煙草を一口ゆっくりすいこんで、その火を灰皿の底でもみ消すようにした。

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  1. 2015/09/13(日) 00:09:50|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 煙草一本で譲し出されたこの僅かなしじまは、次の言葉をじりじりと待たせるのに効果的であった。戸松はじっと息をころして待った。

 中将はゆっくりと椅子の背によりかかると、

 「ぼくはね、フィリッピン攻略半ばで、参謀長を罷免されてしまったんだよ」

と、人事のように、さりげなく云い放った。

 「えっ……ほんとうですか……そうだったんですか……やっぱり軍部内の対立なんですか」

 若者は矢つぎ早に云うと、怪しからんと云うように肩をそびやかした。

 中将はそれを微笑をもって眺めていたが、やがて解説でもするかのように、じっくりとした口調で話し出した。

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  1. 2015/09/14(月) 14:00:52|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「もちろん、そういうこともある。皇道派の将官はほとんどもう予備にまわされてしまったからね。

 ぼくがフィリッピンに渡る時、荒木閣下から注意されたよ。皇道派の陣営で、現役にのこって活動しているのは君一人だから、自重してやってくれ……とね。男をすてた気で上意に従順になる覚悟でいけというのだ。

 ぼくもそのつもりでいた。だから大本営の作戦会議でも、強硬に意見を主張することはしなかったんだよ。

 ぼくは、フィリッピン攻撃は、マニラよりもバターン半島が主戦場になる可能性がつよいと見ていたから、大本営の図上演習の時、両方を攻撃するには十四軍の兵力量では不足であることを指摘した。だが、大本営はバターンは全然眼中になく、マニラ市の攻略を終局目的とみているから、ぼくの提案をとりあげようとしなかった。

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  1. 2015/09/15(火) 13:27:24|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 五十年前のアメリカとスペインの戦争の時、スペイン軍がマニラをすててバターンに籠城して長い間戦いつづけた実例もあることだから、アメリカはバターンに長期間たえうる陣地をきずいているものと、ぼくは見ていたんだよ。

 そこで、繰返し意見をのべてみた。だが、あくまでもマニラ占領を作戦目的において、ぼくの意見をいれてくれなかった。男を立てて喰い下がって激論してみたところで、好結果を得られるはずもないと思われたから、しぶしぶ大本営方針を奉じてフィリッピンに渡ったんだよ。

 リンガエン湾からマニラまでの間、敵をうちながら強行軍で進撃して、やっとマニラに近ずいてみると、どうだろう。マニラは藻抜のからだ。敵は一人のこらずバターン半島とコレヒドールに逃げてしまっているのだ。

 大本営の作戦目的は無血占領で終ったわけだ。作戦どおりならば、バターンの敵は勝手に籠城させておいて、どんどん比島の安定工作にかかるはずであった。

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  1. 2015/09/16(水) 13:44:32|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

新聞 いしずえ 秋季号 10月1日発行 №33

新聞 №33

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  1. 2015/09/16(水) 22:21:22|
  2. 新聞

第二巻受難の巻

 ところが君、今度は大本営から、第十四軍はマニラからバターンにむかって進撃し、敵を撃滅せよという新命令が出たんだ。これには驚いたなあ。本間司令官とばくは顔を見合わせて、それ見たことか……と笑ったよ。

 しかし、戦場だ。大本営命令にはぜったいに従わねばならん。すぐに全軍駈け足しでバターンに向かうことにした。

 ところがだ。出発第一日目に又大本営命令がきてね、十四軍の主力である土橋兵団(九州男子の兵団で勇敢であった)は、ただちにジャワに進出せよというのだ。もっとも、はじめから土橋兵団はマニラ占領がおわったらジャワに転出することになっていたのだがね、しかし、作戦が変更になったのだから兵力だけ移動されたんじゃ困るわけだ。十四軍はまるで骨抜きのかっこうになってしまったよ。

 そのあと直ちに奈良兵団が補充されてきたが、この部隊は老兵部隊でへ、守備隊か治安工作隊というべきものだ。猛戦の出来るような戦闘部隊ではないのだよ。土橋兵団の機械化部隊にくらべて装備も旧式で、まあ小銃部隊ともいうべきものだろう。

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  1. 2015/09/17(木) 15:16:39|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 ジャワに行く土橋の機械化兵団が、リンガエン湾の乗船地にむかって車をつらねて走っている同じ道を、その車の巻きおこした砂塵をかぶって、奈良兵団が炎天下を汗だくになってバターンにむかって駈け足したものだ。しかも二百キロの行程だ。

 サンフェルナンドの司令部で、汗とほこりにまみれた彼らを迎えた時は、心から御苦労だったと云ってやったよ。

 ところが、本当の苦しみはそれからだった。バターン半島は地理も不明の上に全くジャングルでねえ。ジャングルの中を進撃するのはまるでトンネルを掘りながら進むようなものだ。途中で食糧がなくなって苦渋する部隊や、せっかくジャングルを抜け出しても、敵の陣知の近くにひょっこり飛び出したりして全滅する部隊もあってね。

 とにかく、その苦闘は容易でなかった。

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  1. 2015/09/18(金) 14:12:40|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 そのうちにバターンの防禦線が非常に堅固なものであることと、アメリカ軍は無限に砲弾をもっていて、惜しみなくうってくるということがわかった。とてもとても精神力と肉弾だけでは突破できるものではない。

 ところが、現地の様子がわからない大本営からは、戦況が発展しないという理由で度々叱嘖してくるんだなあ。

 そこで、真相をうったえて作戦の再出発を要請することになった。

 ぼくはあくまでも封鎖線を主張したよ。アメリカの東洋艦隊は全部南方に逃げてしまっているのだから、海上封鎖も容易にできるしね。それに敵の全兵力が半島の中に入ってしまっているんだから食糧が欠乏して向こうから手をあげてくることはわかりきっているんだ。こういう場合、封鎖線は戦略の常道だよ。だが、大本営はあくまでも攻撃を固持するんだなあ。

 山下軍のマレー占領と、本間軍のフィリッピン占領を同時期とみていた大本営は、シンガポールが堕落したのに、バターンはいつまでもぐずぐずしているんだというので、大分焦っていたようだった。

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  1. 2015/09/21(月) 15:53:12|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 敵の宣伝にも相当刺戟されていたんだろうねえ。アメリカはその頃、シンガポールは陥ちたが、アメリカはフィリッピンで日本を喰い止めているんだと大宣伝していたようだったからね。

 とにかく、世界的にも国内的にも、軍の威信をそこねたくないというつもりなんだろう。有力な兵団をもって「わっ」と攻め立てて、目に物見せてやろうというわけで、強力な歩兵、砲兵、空軍の三軍が、たちまち増強され、全く予想もしていなかった堂々たる大陣容になった。

 はじめからぼくの意見を入れて、これだけの軍力を持たせてくれたら、無駄な犠牲を出さなくてもよかったのだ。とにかく、三倍にも増強された戦力をもって、これではじめて有力な突破戦を指導できると思ってよろこんだのだが、それも束の間だった。

 突然、一令で馘になってしまってねえ」

 「ほう……」

 戸松は眼をまるくしておどろいた。

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  1. 2015/09/23(水) 00:56:51|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「そんな無茶なことがありますか。自分の見当違いからさんざん苦労させておいて、これからという時にぼんと馘にするなんて……それで、罷免の理由はなんですか」

 「表面はバターン戦滞渋の責任だが、実際のところは、大本営の作戦にはじめから批判的だったのが、気に喰わなかったのだろうねえ」

 「おかしいですねえ。バターン攻撃の初期の失敗は閣下の責任ではなくて、むしろ大本営の責任でしょう。閣下の意見をはじめから入れていたら、そういう失敗はなかった筈だと思いますがね。それに、黙って放っておいても時機がくると降参する籠城兵を、軍の威信や面目にしばられて、がむしゃらに大仕掛な攻撃することだっておかしいですね」

 「そうなんだよ。作戦というものは、なるべく兵を傷つけずに勝つことを前提にねられなければならない。ぼくは自分の見解は、今でも間違っていなかったと思っているよ。しかし、猛攻撃派から見ると、余程邪魔なんだろうね。とうとう免職を仰せつかってね、すごすごと内地に帰ってきたよ」

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  1. 2015/09/24(木) 15:14:31|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 失意の将軍は、ここで始めて深い吐息をもたらした。顔の表情は深刻ではなかったが、ぐっと口を結んで引いた肉づきのいい顎のあたりに、敗れた意志が無言の怒りをただよわせていた。

 冷静な判断をもつ者や、意見を異にする者を、ことごとく陣営から外し、猪突猛進型や諂いの徒によって戦いが指導されているというのか~

 「閣下、そういう話をきけば、ぼくは一時も早く和平締結を急がねばならないと思います。何か、とんでもない事になりそうな気がするんですよ」

 戸松は今度は自分が代って話し手になり、日中事変解決方案をくわしく説明しだした。そして、だまって腕組したままきいている中将に、

 「閣下、この案を政府と軍に提出したいと思っているんですよ。協力ねがえませんか」

と、せまるようにして云った。

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  1. 2015/09/25(金) 11:27:39|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「うーん」

 中将は返事に窮したのか、低く呻るような一声を発し、ぐっと声の調子をおとして云った。

 「君の意見そのものは全く賛成だよ。ぼくが東条なら、すぐその案をとりあげるね。

 しかし、しかしだ、政府も軍も、おそらくその話はきかんだろう。反対に軍からにらまれて、身の危険がせまるのが関の山だと思うなあ。

 ことに、周仏海の名前は絶対に出さんほうがいい。彼は重慶に通じているというので、軍からにらまれている人物だ。

 戦争を喰い止めようとする人間は、軍の強硬派から見たら、皆スパイであり国賊なのだ。周に利用されているように思われたら、スパイと見なされて銃殺されるぞ。憲兵ににらまれたら禄なことはないからなあ。余程注意した方がいいね」

 中将のこの消極的な意見は、若い心を本能的に反発させた。

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  1. 2015/09/26(土) 13:24:50|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 それはもう覚悟の上だ……と云わんばかりに、戸松は肩を怒らせ、眼をぐっとすえて、

 「若し、憲兵に嫌疑をかけられたその時には、閣下、一つわたくしの為に大いに弁明して下さい。

 スパイする意志も、反軍運動をするのでもないということは、閣下が一番よく知っておられるのですから」

と、おしつけるように云った。

 前田中将は黙ったまま静かにうなずいた。しばしの沈黙がつづいた。

 やがて、中将は思案深そうに、ゆっくりと、

 「これは口外してくれるなよ」

と、前置してから、

 「ぼくはもう戦争は負けると考えているよ」

と、今まで大切にしていたものを、ぽんと投げ出すような調子でいった。全く不意な言葉だ。

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  1. 2015/09/27(日) 14:01:10|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「君達若い者は、負けてから後どうするかということを、今からじっくり考えておくべきだよ。敗戦後の日本こそ、君の本当の活動の場所だ。現段階では危険はなるべく避けた方がいいねえ」

 その声は極くおだやかではあったけれど、戸松はいきなり大きな手で横っ面をなぐりつけられたような気がした。腰がぬけるほどの驚きとは、この事であろうか。

 前田中将は今、はっきりと敗戦を断言したのだ。必勝を信じきっている世論を裏切って、敗けてから後のことを考えておけと云うのだ。

 まるで脳組織が一度に分解してしまったように、戸松は数瞬、虚脱の中にたたずんだ。

 「閣下、それは本気で云われるのですか」

 衝動が去ると、戸松は一膝のり出すようにして、子供のでも念をおすように聴きなおした。

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  1. 2015/09/28(月) 09:01:17|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「こんな事を笑談に云えると思うかね。これは君だから云うのだよ。外にはもらさないようにしてくれよ。なんと云っても戦いの最中だからね。国内を攬乱するような事になってはいかんからなあ。

 ぼくはね、便所に世界地図をはっているんだよ。腰を下すと、丁度眼の前に日本が来るようになっているんだ。

 毎朝それを見て考えるのだが、よくもまあ、南方一円に戦域をひろげるだけひろげたものだと驚いているよ。陸大で学んだ作戦にも、それから後、多年にわたって研究した軍作戦にも、実力を超えて戦線を拡大するような愚劣な戦法はなかったよ。

 太平洋上の島という島に兵隊をばらまいておいて、一体どうしようというのだろう。後方から補給路を断たれたら、いっぺんにまいってしまうだろう。

 見たまえ、ガダルカナルの敗退を、アッツ島の玉砕を、キスカ島はまあ撤収に成功はしたものの、やっぱり敗退の一つだ。

 なんのために、誰が、こんな馬鹿げた作戦をするのか、さっぱりわからん。大局から眺めて、勝つために軍を動かしているのではなくて、軍の名声のために、華々しい戦果をねらって、思い思いに軍を動かしているようにしか思えないよ。とにかく、軍全体が冷静さを欠いている。

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  1. 2015/09/29(火) 16:09:49|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 一兵といえども無駄死にっせてはならんという明治の軍指導者の精神を、一体何人の将校がもっているだろうか。

 自分の功績を高め、自分の面目をたてるために、部下を犠牲にするような軍が、勝利をおさめるとは思えないよ。

 作戦上からみても、軍人精神の低下から見ても、ぼくは負けると判断している。

 君達若い者は焦ってはいかん。と云っても、君の気性ではじっとしておれんだろう。青年なんだから、志をたてたことはやりたまえ。しかし、自重してかからなきゃいかんよ。下手をすると殺されるからなあ。

 本当の仕事は、戦後にあるということをわすれないでくれよ」

 和平案をもって説得しようと思っていた中将から、反対に説得されて、戸松はすっかりめんくらってしまった。

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  1. 2015/09/30(水) 14:18:34|
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國 乃 礎

Author:國 乃 礎
   綱 領
政官財・癒着根絶
マスコミ横暴撲滅
国賊売国奴殱滅
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