いしずえ

謹賀新年

桜島初日の出

 謹みて新年の御祝詞を申上げます

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  1. 2016/01/01(金) 21:41:05|
  2. 未分類

第二巻受難の巻

 この夜も、戸松は永井、荒木に会って話しあった次第をかいつまんで話し、戦局は楽観できないこと、世相は身動きとれない程にゆきづまり、傍観していられない状態にあることを語った。

 「それは、弱ったことだ」

 先生は沈痛な顔でつぶやいた。いっとき心の中で、なにか思案していたようであったが、やがて真面目な表情でいった。

 「これはやっぱり、永井君に動いてもらうべきでしょう。直接東条さんに交渉しなくても、閣僚何人かにわたりをつけて、あなたの案をとりあげてもらうように、はたらきかけてもらった方がいいと思いますね」

 「しかし、永井さんはあの調子だと腰をあげてくれそうに見えませんね。先生から声をかけていただけば、あるいはしぶしぶながらでも動くかもしれませんけど」

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  1. 2016/01/02(土) 07:08:58|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 この前の面会の雰囲気からおして、戸松は永井氏にはあまり期待をもてなかった。

 「そうだなあ、あなたの考えはもう永井君にはわかっているんだから……よろしい……わたしから、懇意の閣僚に交渉してくれるようによく頼んであげましょう」

 先生は無雑作にいった。功なり名をとげた老大家は、青年に依頼され、青年のために奉ずることを当然としているようであった。

 先生から見たら、名誉と地位を蓄積した永井氏も、無名微官の戸松も、後輩としては同列にあるのだ。名声や地位は先生の念頭にはない。あるのは思想と人物と行動のちがいだけであった。若輩といえども、その考えと行動がすぐれている時には、無条件にこれをたすけるのが先輩の責任であり、又、力ある後輩に援助せしめるのが己れの義務であると考えているようである。

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  1. 2016/01/04(月) 13:14:56|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 その公平さは凡庸でない。戸松はあらためて先生の無私にして広大なる精神を仰ぎみた。

 すでに神の接近しつつあるこの先輩は、事あるごとに、神の側にたった人間の姿を表現してみせてくれる。それは頭山満翁の風格とともに、戸松の人間形成には万巻の教書にも価する影響をあたえるものであった。

 若者の胸に、どのような感懐が去来しているともしらず、先生は静物のごとくおだやかな表情でじっと戸松をながめている。

 それは、自信と勇気と活力をあたえる慈愛の視線であった。

 「それでは一つ、永井さんの方はおねがいいたします」

 戸松は先生の眼をじっと見返したまま、かるく頭を下げた。園田も無言のままそれにならった。

 「……」

 先生は黙って深くうなずいた。

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  1. 2016/01/05(火) 15:24:35|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 中野正剛の自刃

 しばし、話がとぎれると、先生はふっと大事件を思い出したというように、いく分感情的な声になって、

 「中野君は気の毒でしたね、おどろきましたよ」

と、とつぜん云い出した。

 戸松も園田も一時きょとんとしていたが、戸松はすぐに感じとり、

 「中野正剛のことですか、中野さんがどうかしましたか」

 「ああ、まだ知らなかったんですか。ゆうべ、いやもう今朝ですかね。零時に自刃しましたよ」

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  1. 2016/01/06(水) 10:13:21|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「ほう~一寸も知りませんでした。今日はホテルの部屋にこもって書類や手紙をかたずけていたものですから、まだ新聞もよんでいません。君も知らなかったのか」

 隣りの園田に問いかけた。

 「知らなかったなあ、今日にかぎってロビーへ新聞を見に行かなかったからね」

 園田も啞然とした表情である。

 「中野さんはなぜ自害したのですか。ぼくは二、三日中に中野さんを訪問してみたいと考えていたところですよ」

 戸松の胸に、ふと、気魄にみちた中野正剛氏の風貌がうかんだ。気性のつよい彼が、死を決するからには余程のことがあったにちがいない。

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  1. 2016/01/07(木) 14:34:57|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「さあ、自決の原因はさっぱりわからんようですね、一週間前の朝自宅で検挙されて、五、六日留置されていたそうですが、そのあと憲兵隊に拘引されて、昨日憲兵に護衛されて帰宅したばかりだったといいますね」

 先生も不審そうに小首をかしげた。

 「検挙……憲兵隊……」

 戸松は疑惑をこめた眼を園田にむけた。園田も我身につまされたような顔をして見返した。

 「先生、どういう理由で検挙されたのかわかりませんか。反戦運動でもしていたのですか。もし、そうだとすると、ぼくらも第二の中野になりかねないですからねえ」

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  1. 2016/01/08(金) 15:07:05|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 数日前から第一ホテルの戸松の部屋に警官や憲兵が時々出没するのを、不愉快に思っていた矢先である。この事件に神経質にならざるをえない。

 「さあ、わたしもくわしい事は知りませんが、今日来た知人の話によると、東条さんと相当深刻な対立関係にあったということですね。中野君が言論を封ぜられたのは、あれは去年の暮だったと思います。

 日比谷の公会堂で戦局の悪化を警告したことと、政治を批判攻撃したことが大変問題になって、治安維持法によってですか、とにかく弁論を封じられてしまったんですよ。

 そのすぐ後でしたが、朝日新聞に掲載された中野君の戦時宰相論が、また東条さんの気に障ったというんですね。

 わたしはもう論文をていねいに読む根気はないので読んでおりませんが、人の話では、この論文は反戦とか反政府とかいうものではなく、過去の英傑の例をあげて、戦時の宰相は、誠忠、謹慎、廉潔であれという一般論だったそうですが、それが東条さんの気にいらなかったとかで、朝日は発売禁止になってしまったそうです。

 中野君はそれ以後、完全に筆を折られたかっこうとなり、彼のたたかいの武器であった独自の弁論も文筆も、全く無役になってしまったわけですよ」

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  1. 2016/01/09(土) 14:03:18|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「ほう……東条という男は、思ったより気の小さい奴ですね。又、中野さんもなんだってそう大見得をきって大胆に反撃したんだろうなあ。二人とも同じように才気煥発な男ですからね。才能と才能で対立したらお互にゆずれないんですね。

 それにしても、あの剛気な中野さんが、闘争の武器を封ぜられたからといって、なぜ簡単に自ら敗北者の道をえらんだのですかね」

 「口を封ぜられ、筆を折られた中野君は、東条内閣の打倒を策したんではないかといわれていますね。しかし、これは、どの程度事実かわかりませんよ。

 中野君の性格からおして考えると、ありそうなことだと思われるが、具体的にはどういう事をしたのか、はっきりわからんというのだから、たとえそんな考えが中野君にあったとしても、検挙の対象になるほどはっきりしたものではなかったのでしょう。

 原因はやっぱり、去年の日比谷の講演会に深い根があるんじゃないんですか。

 政府が推薦議院制や言論集会結社の臨時取締法を議会に提出した時、中野君の東方会は真向から反対したそうです。ところが、この二案とも通過してしまったんですね。そして推薦を拒否した東方会は選挙に惨敗してしまった。おまけに、その取締法によって、政治結社は翼賛会一つのこして東方会など全部解散を命じられたわけです。

 これが中野君をして、堂々と日比谷公会堂で反政府をかかげて大演説を決行させる動機になったんでしょうが、反対に東条さんの憎しみを一層深刻なものにしてしまったんですね。この頃から中野君は、東条を打倒しようとし、東条さんは中野君を粉砕しようとして、二人の対立が尖鋭していったものと考えられますね」

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  1. 2016/01/10(日) 16:07:51|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「ふーん、さすがは中野さんですね。その勇気と気概はあっぱれなものですよ」

 「この時から、憲兵隊は中野君と東方会の弾圧にやっきになったものと思われるが、東方会は言論では政府批判をしても、政府打倒の直接行動を計画していたわけではないから、検挙の対象にはならなかったようです。

 ところが、最近、東方会の会員に、中野君が戦争は負けるといったとかで、造言飛語の罪名をこじつけて検挙したんだということですがね。

 その外、不敬罪でひっぱられたんだという説もあるようですが、その方はどうも信頼できませんね」

 「それなら、尚更のこと、中野さんはそんなことを否認して堂々とたたかうべきですね」

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  1. 2016/01/11(月) 15:48:10|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「いや、なんでも検事局では証拠不十分というので起訴しなかったということです。検事の中にはなかなか背骨(はいこつ)のたくましい人間がいますからね。政治にひきまわされるようなことはありませんよ。

 ところが、釈放の朝、憲兵隊から身柄をひきとりにきて連れていったそうですが、おかしいことには、警視庁ではしらべられても取り合わなかった中野君が、憲兵隊では罪状を自白したというんですね。

 そこで自刃を決意するほどの、何かつよい圧迫をうけたのじゃないかと判断する人もあるんですが、それも中野君自身の口から出たわけではなく、第三者の推測ですよ」

 もし、それが事実とすれば、いや、前後の事情を綜合するとどうも事実のように思われる。憲兵隊ににらまれたら最後だからね……と前田中将がいっていたのは、中野氏を自決においつめたこの冷酷な強圧を意味していたのであろう。

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  1. 2016/01/12(火) 10:29:46|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 憲兵といえば、これまで、陰険でうるさい存在だと無条件にきらってきたが、彼らの手には、東条政府に反する言動をとる者を、ことごとくからめ取って消してしまう怪縄がたくされているようである。

 「ぼく達も、憲兵にはもっと警戒した方がいいなあ」

と、園田は大分度胆をぬかれたらしく、日頃の暢気さにもにあわず、小心そうにつぶやいた。

 「全くおそろしい政治だ。これでは全くの憲兵政治だ。

 中野さんもおそらく、自分が検挙されてみて日本を牛耳っている勢力の狭量さと陰険さにがっかりしたんじゃないんですかね。どんな正論をもって立ったところで、日本はもう駄目だと思ったんじゃないのかな。

 それに政治家として、言論と筆と行動をしばられたら、もう生命を失ったと同じですからね。

 潔く死をえらんだ中野さんの気持が、わかるような気がしますね」

 先生も園田もだまってうなずいた。

 しばし、中野氏の死をさぐりとろうとするかのように沈黙があった。

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  1. 2016/01/13(水) 10:32:48|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 中野正剛の追想

 さき程から、戸松の胸には、切れ味のいい怪刀のような中野氏の風貌が、ある時は笑い、ある時は興奮してうかんでいた。

 この七、八年間に面会したのはたった五回であったが、その印象は強烈に胸底にきざみつけられていて、走馬灯のように次々と記憶の中によみがえってくる。

 彼が最初に安部先生の紹介で中野邸をおとずれたのは、二十二、三の頃であった。中野氏もまだ四十代であったと思われる。

 疳の強い馬のように、顔面を緊張させ全身に力をいれて話す人であった。

 豊富な内容を、言葉巧みに自由自在に語る様は、たえまなく噴出して華やかな弧をえがく噴水のように、その才能が五尺余の体内からあふれ出て、光となってかがやいているような印象をあたえていた。

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  1. 2016/01/15(金) 11:17:36|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 青年を育成することを好んでいたのか、それとも必要としていたのか、常に五、六人の書生を養っていたが、時たま訪れる戸松にも好感を期待を示しているようであった。

 ある時は、戸松をじっと見すえて、

 「安部先生はクリスチャンで、神さまの話ばかりしているのかと思っていたが、君のような虎を飼っているところをみると、思ったより器が大きいようだ。先生を見直したよ」

と、愉快そうに笑っていたことがあった。中年の気魄にたいして青年の気魄をもって応じてみせる戸松を、よほどの闘士と思ったのであろう。

 最後の訪問は、戸松が満鉄に入社して二、三年を経た二十六、七の頃であった。

 この時、中野氏は、東方会に入って青年部で活動してみてはどうかとすすめた。

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  1. 2016/01/17(日) 15:34:09|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 しかし、戸松は中の氏の傘下で政治活動をする意志は毛頭もっていなかった。それに、どういうものか中野氏の人物そのものが好きになれないのだ。当代の逸材であるとはおもっているが、魂にジーンとふれて心から心服せしめるものに欠けているのである。

 婉曲に言葉をかざることをしらない青年は率直にこたえた。

 「ぼくは政治家になるんなら、新党を樹立し代議士になり院内に勢力をかため、その力をもって政党政治の腐敗を一掃し、政治を根本的に改革したいものだと思います」

 云いおわらぬ中に、中野氏の形相はみるみるけわしくなっていった。

 そして上体をぶるぶるふるわせてどなり出した。

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  1. 2016/01/18(月) 13:50:34|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「馬鹿な奴だ。今までは筋のいい青年だと思っていたが、なんという下らん考えをもった奴だ。お前のような人間を立身出世主義の害虫というのだ。そういう連中のため、日本がどれほど毒されているかわからんだろう。俺はそういう連中と生涯たたかう決意を固めているのだ」

 誤解しているようだな……と、戸松は感じた。

 そこで、自分は立身出世主義の立場にたっているのではないということ、若し政治家になるならば、東方会とは別途の立場で出発したいと思うのだということを云いたかった。

 二言、三言云い出してみたが、かんかんに怒った中野氏は、更に反発してきたものと曲解したのであろうか。今度は大声をはりあげて、

 「誰かおらんか……」

と呼び立てた。

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  1. 2016/01/19(火) 09:23:34|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 その声にすいよせられたように、腕っぷしの強そうな青年が三人、ヌーッと部屋に入ってきた。

 「この男を外につまみ出してくれ。この青年はなかなか見どころのある奴ではあるが、心掛けが実に怪しからん。君達の部屋につれて行ってよく云いきかせてやれ」

 顔を痙攣させるようにしながら指図した。

 戸松もむっとなったが、ここではもはや堂々と自分の考えをのべられそうにないと感じた。この親爺をこれ以上怒らせたところで面倒な事態になるばかりだ。彼は青年等について大人しく部屋を出た。

 別室にあつまった若者達は、同年輩のよしみですぐに打解けあった。

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  1. 2016/01/20(水) 15:50:52|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「うちの先生は云い出したらきかん人ですから、今日はまあ、我々と大いに意見をたたかわせようじゃありませんか」

 彼らはこういう目には何度かあっていると見えて、主を怒らせた以上は、どんなに弁解してみても無駄だと思いこんでいるようである。

 若者達は思想について、政治について、外交について、大いに議論をたたかわせた。結局、根本的なかんがえは同一で、その理念は国内の革新とアジアの解放にあった。

 中野氏は青年時代、頭山、犬養にしたがって孫文の辛亥革命に関係をもち、中国大陸の状況をつぶさに見つめた上に、孫文や黄興の風采にも親しんだ体験をもっている。それ以来、彼はアジア解放の夢をもつようになった。

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  1. 2016/01/21(木) 15:52:09|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 その上、第一次世界大戦後、イギリスに留学しての帰途、アラブ、アジアにかけて、船のよる港という港が、ことごとくイギリスの領土であるのを見て、今更のようにがくぜんたる思いに圧せられたのであった。

 更に、二度目の欧州旅行でパリ講和会議の視察後はその思いは固い信念にまですすみ、彼の終生の政治思想となってしまったのである。

 又、彼は天性の官僚ぎらいであった。まだ政治云云を論ずる資格も無い中学時代、級の中では一、二番を下ったことのない秀才でありながら、官立の高等学校をきらって早稲田大学をえらんだ。

 その頃、中学校の秀才は官立の高等学校から官立の大学へ進むのが出世街道にむかう一級コースとされていた。そのコースをすすむ自信のないものが私立大学にむかうのである(これは今も大体かわりない。日本人の一種の精神的病癖のようなものだ)。

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  1. 2016/01/22(金) 14:13:46|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 一級の出世コースをすすむために、肉親の愛情や交友との友情をあたためるいとまなく、只、その門を突破することだけを人生の目的のごとく考えている友人や、又官学生であるということに優越感をもち、知脳的階級主義に偏している先輩をみると、彼の眼には、彼らが一種の出世主義者としかうつらなかった。

 彼は私学にあって、官学生に一歩もゆずらない学力を身につけようとして、よく勉強した。もともと勉強家であったから、世に出ても終世読書をおこたらず東西の学問にひろく通じていた。そのため、相対して話していると、日々学を積みつづけている人の知識的厚みとひらめきを、びーんと感じさせられるものがあった。

 とにかく、中野氏は官立学校をきらうばかりでなく、官僚制度をも嫌悪し、官僚その人まで憎悪していた。彼が官僚攻撃をはじめ出すと戸松は辟易した。官僚制度の悪弊はうなずけたが、その人をまで憎みそしるにいたっては、心から同調することはできなかった。

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  1. 2016/01/23(土) 20:51:26|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 中野氏はよく西郷南洲を語った。南洲が政権の座をしりめにかけ、参議陸軍大臣の軍服をかなぐりすてて、無位無冠の吉之助にかえり、人間としての誠実をつらぬいたことは、彼の景抑して止まないところであった。

 彼も南洲のごとく、男子の偉業は功名富貴にあらず、顕位栄達にあらず、自己の魂をみがき、真善美をきわめるにあると固く信じていた。

 そのため、南洲が常に判断の基準を眼先の利害損得におかないで、道義の鏡にうつしむすんでいたことを賞讃していた。

 中野氏の本質は、たしかに修道者のそれであった。彼は道をもとめ道にあこがれ、道のために死すことを男の本懐とかんがえていたものと思われる。

 少年の頃より、華やかな栄利栄達の門を入ることをきらった彼は、早くより無意識の中に、草ぶかい宇宙の道をさがしもとめていたものであろう。進学にあたっての確固たる態度は、天才達人に通じる片鱗をほのめかしているものといえる。

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  1. 2016/01/24(日) 11:26:20|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 このような天分をもちながら、彼はなぜ紆余曲折をくりかえし、自己の本道に達しえなかったのであろうか。

 彼の政界入門は、犬養毅の革新倶楽部からはじまり、やがて犬養に背をむけて安達謙蔵の憲政会に接近し、更に安達と別れて東方会を組織した。

 この絶え間ない政界の遍歴は、先輩を無視する忘恩行為として世の批判をうけていた。だが、一歩彼の人間性に立ちいってみる時、大南洲や熊沢蕃山、大塩平八郎等の志を理想とした彼が、昭和の先輩にことごとく失望してはなれていった気持ちが理解されるのである。

 中江藤樹や西郷南洲の歩んだ道、又その心境をもとめながら、熊沢蕃山や大塩平八郎のごとく国家民衆の救済に情熱をかけて、がむしゃらに身と心をもやしつづけている彼の進撃な姿勢は、たしかに純真な若者の心を魅了するものがあった。

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  1. 2016/01/25(月) 13:23:30|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 戸松は中野氏にひきつけられていた。だが、未だ行動にとどまるのみで、自らの心境をひらき得ないでいる中野氏は、若者の心をつかみとってしまうところまでにはいかなかった。

 殊に誤解されてどなられてからは「天下の大器にあらず」と、その人物にいよいよ失望してしまったのであった。

 このことがあって数日後、戸松は頭山満翁のもとに行った。中野氏は先輩遍歴中、頭山翁の薫陶をうけたことがある。そこで、中野氏と意見の衝突をして、理解しあわない中に喧嘩別れになってしまったことを話してみた。

 翁は苦笑一つするでもなく、沼のように深い表情をしたまま、ずばりっと、宝刀のごとき切れ味をみせて云ったものだ。

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  1. 2016/01/26(火) 15:11:24|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「中野君は雑草のような男じゃよ。ふまれても蹴られても、たくましい生い茂る雑草のように、どこにでも頭角をあらわして才能のままにつっ走る男じゃ。

 惜しい男だが、あの男は神を知らん。神を知らんような男は天下の器にはなれん」

 はっと戸松の心に感応するものがあった。なるほど、中野氏は自己を主張すれども他を知ろうとはしない。自他を一つにする忍耐と度量のない心には神が見えるはずがない。

 そういえば何時だったか、中野氏はこんなことを云っていたことがあった。

 「頭山さんは、毎朝明治神宮に参拝しているそうだが、ああいう形式的なことを繰返してみたところでなんにもならんよ」

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  1. 2016/01/28(木) 16:09:31|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 神をいたく頭山の姿勢は、道半ばの中野には、つまらぬ行為にうつったのであろうか。これは、行じて神をいだかんとする頭山と、才智によって神をつかまんとした中野の求道のちがいであるといえる。

 この二者のちがいを、後日安部先生に語ったことがあった。その時先生は、

 「ふーん、なるほど……」

とふかくうなずいていたが、

 「中野君という人は直情の人でね。学生時代は明朗活達な青年でしたよ」

と、ぼそりと云っただけであった。

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  1. 2016/01/29(金) 13:43:17|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 日華事変が悪化しつつあった昭和十四年頃、戸松は満州にあって、中野氏の東方会と安部先生の社会大衆党が合同して、新政党を結成することになったという新聞記事を見た。

 おどろいた彼は直ぐ安部先生あてに「再考されたし、氷炭相容れず」という電報をうった。才智あふれるままに奔馬のように政界を駆けめぐっている中野氏と、穏健着実な安部先生とでは、とても歩調が合わないと考えたからである。

 共同宣言までした新党結成であったが、周囲の状況は安部先生の決意をにぶらせ、とうとうこの計画は決裂してしまった。

 その後、中野氏の議会批判の方言が問題になり、除名さわぎまでひきおこし、遂に彼は辞表を提出して野に下った。しばらくは国民運動に専念していたが、十六年頃にはふたたび議席を得、大東亜戦争の開始とともにひらかれた臨時議会では、真向から政府とたたかう体勢に立っていたのであった。

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  1. 2016/01/30(土) 13:41:40|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 中野氏は一級の政治家と肩をならべ、大臣にも総理にもなれる人であった。だが、彼は大勢におもねることも機略や策略を用いることも不得手であった。常に政治的理想を高くかかげ、すべての政治家の堕落無能を憤激し罵倒した。

 そのため、大衆の喝采はうることができたが、玄人的政治家の側からは毛嫌いされ、疎外された。政界にうごめく凡俗の徒輩に互することをきらって故山にひきこもった南洲の志は、人を変え形をかえて、中野氏をして凡俗とたたかわしめたものであろう。

 もし彼に頭山翁のごとく神を抱き神にぬかずく随順の心があったなら、彼の行動と国民運動は、日本の指導力としてゆるがぬものになっていたにちがいない。

 常にもとめ、常に走る彼の行動は、日米間が切迫した十五年の頃には、世界情勢に刺戟されて枢軸論にかたむき、ヒットラーやムッソリーニに傾倒した。

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  1. 2016/01/31(日) 15:00:08|
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