いしずえ

第二巻受難の巻

 最高の指導者となれ

 再び常盤松にとって返した二人は、残念そうにこの次第を翁に報告した。

 翁は相変らず黙然として、沈重なおももちできいていた。秀三氏の眼が、太刀をかまえた緊迫感にあふれているとするならば、これは又、剣をすて無手のままの剣聖の瞳である。

 若い二人の様子をじっと見つめていたが、やがておもむろに口をひらいた。

 「今日からはあなたが日本における最高の指導者になりなさい。自信をもって日本全土に命令をかけなさい。かからなかったら、かかるまでかけておくべきじゃ。いつかはかかる時がくるだろう」

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  1. 2016/03/04(金) 20:22:31|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 まったく、意表をついた言葉だった。あの人、この人と担ぐことはない、お前自身が日本の指導者になったつもりでやるべきだ……と、翁はいっているのである。

 一言の中に満腔の誠をこめて吐く翁の言葉である。一時の気休めや慰めでいっているのではない。この言葉の中に、戸松にたいする未来への期待が托されているものと感じとっても、決して思いすぎではなかった。

 主君に期待をかけられて、平伏して感涙する若武者の至純を、今、戸松は、この大先輩のまえに身をもって感じたのであった。彼の全身は、わなわなとふるえていた。

 自己の発見……そうだ、自己発見とはこういうことをいうのであろう。今までは先輩の志を仰ぎ自己の鏡とすることにのみつとめてきた。だが今、自己こそ基準となるべきであるという自覚をあたえられたのである。

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  1. 2016/03/05(土) 15:45:39|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 翁の言葉は、お前が指導者と仰いで担ぐにあたいする人物は日本にはおらんぞ。お前自身の道を切り開いていくべきじゃ~といっているものと思われる。

 既成の勢力をもった剣士に追随することなく、独自の剣法をもって完成していった宮本武蔵のように、名声にあまんじている当代の勢力家をあてにしてはならんというのである。

 よーし~戸松は腹の底に、万貫の自信と覚悟をおぼえた。

 俺が生きているかぎりは、日本の理想、アジアの理想を実現してみせるぞ~彼は翁の教訓と期待を裏切ってはならないと思った。

 安部先生によって長年そだてられた戸松の人間性は、さいごに頭山翁が一筆点じた竜眼によって生き生きと生命の躍動をはじめたのである。

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  1. 2016/03/06(日) 14:05:10|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 この言葉にまさる教訓がほかにあるであろうか。これにすぎる偉大な教育が又とあるだろうか……少なくとも戸松の場合はそうであった。

 二人は感激のまま一礼して座を立った。すると翁も立上って二人の後からついてきた。

 玄関に下りて靴をはき、ふりかえってみると、翁は敷台に立ったまま見下している。左足をななめ後にひくようにし、老体をまっすぐに起して、ぐっと見下しているその後には、すぐれた伝統的芸術品のような、幽玄そのものの風格があった。

 二人が頭をさげると、

 「うむ」

 ゆっくりとうなづいて、玄関を出ていくのをそのままじっと見送っていた。

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  1. 2016/03/07(月) 16:03:34|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 計り知れぬ大人物

 ここで頭山満という人、又翁と戸松とのこれまでの関係を少しく説明する必要があるように思われる。

 戸松が翁にはじめてあったのは、たしか二十三、四の頃であった。

 日本の政界の外にあって、不思議な実力をもって政治を左右していたこの大人物に興味を感じた彼は、一度実物にせっしてみたいという意慾にかられていた。

 ある日、親友の伊藤友一氏(ビルマで戦死)と、二人で頭山邸にくりこんでいった。

 長い廊下を案内されて、奥まった部屋にとおされると、まるい大テーブルをかこんで上座に翁が陣どり、ずらりと先客がならんでいた。

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  1. 2016/03/08(火) 11:22:16|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 二人は、案内係りの老人のさしず通り、テーブルの一端にかしこまって座った。

 先客は五人である。その一人一人が皆別々の用件できているのであった。

 翁は上体を真直ぐにたてて、胸をはり、じっと話し手の方をむいている。だが、その眼は相手の顏を見ているのではなかった。相手の胸をつらぬいて、その背後の空間をみつめているような瞳である。右手は終始、かたわらの火鉢の火箸をぎゅっとにぎっていた。

 一人の客が用事をすませて立去り、二客の番になった。この頃には年若い二人はすっかり空気になじんでしまい、前におかれた菓子に手をのばし、最中を二つともぺろりと平らげてしまった。

 食べおわった二人は、ふたたび手持無沙汰になり、窮屈そうに、足をごそごそうごかしては坐りなおしたりしていた。

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  1. 2016/03/09(水) 14:10:32|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 すると、翁がパンパンと大きく手をうった。何ごとだろうと思っていると、隣室から小間使いがあらわれ、しとやかに膝をついて翁の言葉をまった。

 「若い方におかわりを……」

 翁は言葉少なに命じた。

 間もなく羊羹が二切づつ運ばれてきた。若者はこの羊羹にも遠慮なく手をだした。先客の前には、手をつけない最中が、飾りもののようにおかれたままであったが、二人は食べ物を見過してしまうには若すぎた。

 ことに、戸松と伊藤氏は大の甘党で一緒に下宿しながら、ときどき小豆を一升づつ煮ては一日で平らげてしまう豪の者である。

 二人はふたたび、為すこともなくじっとしていた。

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  1. 2016/03/10(木) 15:35:09|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 翁はもう一度手をたたき、小間使いをよんだ。

 「鹿児島から送ってきたみかんがあるだろう。あれを箱ごともってこい」

 二人は思わず顔を見合わせた。箱ごととは面白い、この一言に頭山の面目がにじみ出ているぞ……と、考えながら待っていると、大きな盆に、山のように積みあげたみかんが運びこまれた。

 二つ、三つも食べたころ、先客が全部かえっていよいよ二人の番になった。

 そこで、戸松が代表して、

 「先生、わたくしは中学生のころ、巨人頭山伝をよみ、感激のあまりすぐにも上京して、不思議な頭山という人に会ってみたいとおもいました。

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  1. 2016/03/11(金) 13:44:44|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 志をたてて上京してからも、機会があったら先生の風格にせっしてみたいと考えておりましたが、会うためには会うだけの心の用意がいるとおもい、もっともっと自分を磨いてから会うべきだとおもいました。

 しかし、よく考えてみると、先生とわたくしでは年齢的に相当のひらきがあり、会える自信ができたときには先生はもう生きておられないかも知れません。そこで、今日勇をふるってあがったわけであります。

 今眼の前に、日頃あこがれていた先生を見ることは、なんともいえない感激であります。」

と、誠実をこめていった。

 翁はかるくうなずきながら、無口のままじっと二人を見つめている。

 戸松は、さらに言葉をつづけた。

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  1. 2016/03/13(日) 21:38:18|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「これが最初にして最後の面会になるかもしれません。生涯わすれないように、先生のお顔をしばらく拝ませて下さい。

 いずれ先生を理解できる日がきたとき、今日の思いでは貴重なものとなるでありましょう」

 およそ三十分ぐらいも翁とにらめっこしたであろうか。

 翁は右手を火鉢の火箸に、左手を膝に、微動だにせず、深山につつまれた湖水のように、神秘な静寂の中に静まりかえっている。

 二人は息もできぬほどの緊張感にしばられながら、それでも丹田に力をいれてにらみかえした。真剣勝負そのものの迫力である。まるで、老年の塚原ト伝にかかっていく若武者武蔵のようなものであった。

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  1. 2016/03/14(月) 23:24:12|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 この半時の間の圧迫感に、二人の心はへとへとに疲れてしまった。

 翁は……と見ると、依然として空寂の悟性の中にしずまっているもののようである。眼だけが磨きあげた魂の光をたたえていた。

 「これで充分です。生涯わすれないでありましょう」

 頃合をはかって戸松はいった。二人は鄭重に挨拶すると、仙境をさまよい出ていくような思いで立上った。

 すると翁は人を呼び、自分も立上って、ぞろぞろ玄関まで送ってきた。

 先客がかえる時は、軽くうなずいてみせただけの翁が、どういうわけで二人をわざわざ玄関まで送ったのか、若い二人には全くの謎であった。なぜだろう、なぜだろう……二人は首をかしげながら渋谷駅の方にむかってあるいていった。

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  1. 2016/03/15(火) 13:07:41|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 そのあと、翁に会ったのは、昭和十四年の冬であった。

 満鉄に勤務していた戸松は、日本の満州政策に不満をもち、官史となって直接満州国の政治経済に関係してみたいとかんがえた。そこで満鉄をやめて内地にかえり、荒木大将に希望がかなうように頼みこんだのである。

 大将は、日本の難事は満州よりはむしろ中国にあることをさとし、上海で活動できるよう方策をこうじてくれることを約束した。

 いよいよ中国にわたる方針が確定すると、戸松はさっそく頭山邸をたずねた。

 この時も何人かの来客がかえったあとであった。戸松は、

 「先生、今日本は中国で進むもならず引くもならず、進退きわまっているようですが、今回わたくしは荒木大将のお世話で中国にわたり軍に属して活動することになりましたので、一つ思いっきり働いてみたいと考えております。今日はそのためのご挨拶に伺いました」と、まず中国の状況を報告した後、事変解決の希望を訴え、我が意図を蔣主席に述べ解決の緒を掴みたい、との意志を打ち明けた。

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  1. 2016/03/16(水) 13:48:05|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 従ってまず重慶に入り、事変解決に身命をかけてみようと思っております。

 しかし、わたくしのような無名の者が、蔣介石に面会をしたいと思っても、かえってスパイと目されて誤解されるばかりでありますから、一つ蔣介石宛の紹介状を書いていただけませんでしょうか」

 率直に申込むと、翁は一考をも要しないもののごとくに、そっけなく

 「ならぬっ」

と一言いって、ピタリッと口をとざしてしまった。

 翁と戸松の間に、冷たい鉄扉がおろされてしまったような、きびしい一言であった。

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  1. 2016/03/17(木) 21:38:53|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 もはや取りつく島もない。戸松は次の案策もたたず、いたずらにじりじりとした思いをいだいたまま小半時をすごした。

 すると、六十年配の小柄の男があらわれて、

 「あなたの面会時間はすぎました」

と、つげた。秘書の山本老人である。

 口を開くきっかけを得た戸松は、渡りに船とばかり、山本老にむかって自分のやり場のない気持をなげつけた。

 「わたくしは貴方の指図をうけるためにきたのではありません。自分の要件を達するためにきたのです。

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  1. 2016/03/18(金) 15:41:45|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 横合いから、面会時間がすぎたのなんのと、まるで芸者の線香みたいな云い方をするとは何事か。いやしくも天下の頭山家にあるまじき態度と言葉だとおもう。わたくしは、用事を果すまでは帰りません。貴方の世話をうけんでも、帰るときには帰ります」

 山本老人は、びっくり仰天してしまった。

 頭山翁の面前で、これだけの啖呵をきった面会人はおそらく一人もいなかったことであろう。

 泰山のごとく、素知らぬ顔で黙している主と、てこでも動きそうにない若者との間にはさまって、老人は年甲斐もなくおろおろするばかりであった。

 そこへ、丁度土佐からきたという新しい客が入ってきた。

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  1. 2016/03/19(土) 15:09:03|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 白髪白髯の風貌からおしてみると、八十はとっくに過ぎているとおもわれる。自由党時代の旧友であろうか、親しそうに語らっていた。

 その間、戸松はどうして頭山をうごかそうかと考えつづけた。頭山という人は、一度いやだといったら最後、どんなことがあっても応じない人であると伝記にかいてあった。もしそれが事実だとすると容易なことでは承諾してくれないであろう。

 このまま諦めてかえるべきか、それともねばりづよく喰い下がっていくか、しばしためらったのち……相手が天下の頭山だからといって、なにも遠慮して引下ることはあるまい。

 大器にいどむこそ、男の本懐ではないか。よし、今日はこの怪物と勝負する覚悟でかかろう……彼の心はきまった。

 しばらくして老人は帰っていった。そこで戸松は、太刀を大上段にふりかぶって切りつけるような思いで、

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  1. 2016/03/20(日) 13:24:09|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「先生、昔から後輩は先輩にたいして礼をつくせ、無礼であってはならぬということをよく申します。しかし、後輩にたいして先輩が礼をもってあたれということは云われていないし、書かれてもいません。

 その上、世人はよく、今の青年は役立たぬ腰ぬけばかりだと非難します。その役立たぬ腰ぬけが、たまたま事を挙げようとすれば、先輩は理由なくことわる、これでは青年が役立つはずはありません。

 今日から、先輩が後輩のために無礼にならぬよう、邦家の先途のためにかんがえるべきだと思いますが」

とせまっていった。

 「ウ、ウー」

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  1. 2016/03/22(火) 14:50:30|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 翁はみじかくうなった。ややたって、さっと顔色をやわらげ、

 「近頃珍しい奴だのう。よし、書いてやる、書いてやる」

といって、山本老をよんだ。

 やがて持出された色紙にかいたのが、只一文字「一」であった。

 筆をおくと翁は戸松に、

 「この字義がわかるか」

と、たずねた。

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  1. 2016/03/23(水) 14:41:13|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 蔣介石宛の紹介状が「一」一文字では、なんのことかさっぱりわからない。二十八歳の青年には一の中にふくまれている深遠な哲学思想はわかるはずもなかった。

 「わかりません」

 正直にこたえると、翁はするどい眼光をじっと戸松の顏にすえて云った。

 「百万言をもってする紹介状をもっていっても、一という意のわからぬ者には何事もなしえないであろう。

 世界は一つ、日中は一つじゃ。一がわかったらこれをもって重慶に行きなさい」

 今度は戸松が「ウーム」とうなる番であった。紹介状を書かぬといった翁の心がやっとわかったのである。

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  1. 2016/03/24(木) 15:22:36|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「一」となにげなく書かれたみずみずしい筆の跡を手にして、戸松は自分の思想的未熟さを痛いほどに感じとったのであった。

 参った!!やっぱり俺の負けだった~彼は腹中にさけんだ。

 中国問題に頭を突っ込むようになってからは、日本に帰るたびにかならず頭山邸をたずねることにした。

 端然と座している白髪の老人の姿は、アジアの未来を暗示し、アジアそのものを感じさせたからである。

 翁の志は早くよりアジアにあった。西欧帝国主義の植民地となっているアジア各民族を解放し、アジアの国々が一丸となって共通の理想にむかって繁栄していくことが、翁自身の理想であった。

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  1. 2016/03/25(金) 13:09:07|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 そのためには、アジア同胞の相剋を解消しなければならないと考えていた。

 翁は若い頃からすすんでアジア各国の志士とまじわり、彼らの運動をたすけてきた。又、事破れて日本に亡命してくる彼らを、身をもって庇いつづけたものである。朝鮮の志士金玉均、中国の国士孫文、黄興、印度のビハリ・ボース、現在抗日の鬼と化した蔣介石等、かぞえきれないほどの志士の面倒をみてきた。

 翁は福岡の産で、青年時代はうすぼんやりした男であった。

 ふだんは尻端折に草履ばき、しかも褌をしたことがなかったから、一見あほうのような風采にみえた。暗闇から牛をひっぱりだしたようにむっつりとして、余程のことがないかぎり口をひらこうとしない。

 ところが、何時もそうかというとそうではなかった。時には激烈な議論をたたかわせて、相手を圧倒することもあるし、思いきった乱暴をすることもある。そういう時の頭山には、誰も手出しができなかった。人の意表をつき、快刀乱麻の早業で片づけてしまうからである。

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  1. 2016/03/26(土) 13:45:14|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 頭山の学問と人間形成に、もっとも影響をあたえたのは、高場乱という憂国の老婦人であったといわれている。

 乱は野村望東尼と親交をむすんだ評判の女傑で、少しく気骨のある青年は、われもわれもと乱の門に走り教えをうけたものであった。乱の養子になった某氏が、彼女をよんで「家の爺父が……」といっていたと云うぐらいだから、よほど豪気な女性であったものと思われる。

 頭山の無類の豪傑ぶりは、おそらく高場塾でうけた修養が大きく影響したものであろう。

 彼は明治の勃興期に青春をむかえ、人々が立身出世の街道を競って進みつつあるとき、名誉や地位を人間につく垢のごとくにかんがえて、自由自在な浪人生活をまっとうした。

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  1. 2016/03/28(月) 13:14:43|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 社会に名前もあまり知られない頃から、一文も持たずに待合に宿泊し、半年も居座ったまま宿料を払おうとしないため、ずい分女将をやきもきさせたものであった。人の気も知らぬげに平気然としている姿は一見馬鹿のようにも見えたが、日数をかさねるにしたがって、その横着さは只者ではないという感じをあたえるようになった。

 明治の末期には、人間同志が損得をはなれて、お互いに心と心を計りあう精神的余裕があったから、待合の女将といえども「客が客ならこちらもこちら、何時まで居られるものかためしてやりましょう」と、気概をもって応じるものがあったのである。

 だが、結局は女将の方がぬかれる側であった。客はいたって暢気でだらしないように見えながら、機会が来ると何処からともなく大金をもってきて、宿料をきれいに精算し、多分にすぎる花代茶代までそえて、鳥が飛立つようにさっと立ち去ってしまったからである。

 十円の金(今の一万円)がなくて途方にくれている者がいると、事情をきいた上で袂に手をつっこみ、一つかみの紙幣を取り出してあたえる。その一つかみが、二十円であろうと五十円であろうと、彼の関心事ではなかった。

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  1. 2016/03/29(火) 14:19:15|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 十円の金(今の一万円)がなくて途方にくれている者がいると、事情をきいた上で袂に手をつっこみ、一つかみの紙幣を取り出してあたえる。その一つかみが、二十円であろうと五十円であろうと、彼の関心事ではなかった。

 志を天下国家において活動する者のためには、惜しみなく金を分かちあたえていたが、中国の志士孫文をはじめ、多くのアジアの志士のためにも乞われるままに莫大な運動資金をつくってあたえていた。

 すなわち社会、国家のために一身をなげ出して活動する彼らのために、無用過剰の金を独占している者から出さしめてあたえたのである。

 頭山に集る金は右から左にはげしく動く金であった。金があるのがまことか、無いのがまことか、人間の呼吸が吐くと吸うを合わせて一つであるように、頭山の場合は有と無は一つであり、自在であった。

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  1. 2016/03/31(木) 15:19:26|
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國 乃 礎

Author:國 乃 礎
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政官財・癒着根絶
マスコミ横暴撲滅
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