いしずえ

新聞 いしずえ 春季号 4月1日発行 №35

新聞 №35

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  1. 2016/04/01(金) 10:56:48|
  2. 新聞

第二巻受難の巻

 「金は天下のまわりもの」とは、頭山のような人にしてはじめて昻然といえることである。彼が金を必要としてこれはと思う人物に申込むと、何人もこれを拒むことはできない。恐れ入って献上したものであった。この無から有を生む不可解な力の根源は、名利なく、一片の私慾なく、無そのものに徹していたことにあるといえよう。

 彼は又、非常に多くの女を愛した。それはあたかも草花を愛する人が、花という花をことごとく愛でいとおしむように、公平無私な愛しかたであった。

 ほとんど玄人の女のみを相手にしたせいもあろうが、女の心次第にまかせ、自分からおぼれるようなことはなかったから、女によって心や行動を束縛されるようなことはなかった。その風が花園をさりげなく通りすぎていくように、彼は淡々と女人を遍歴したのである。これは無慾無私の頭山のような人にして可能なことであって、欲望のかたまりのような世の俗物がこれを真似たとしたら臭気粉々末世的頽蕩の観を現ずることであろう。

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  1. 2016/04/01(金) 11:17:18|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 頭山の学問は高場塾の儒学にはじまり、後年は老荘の思想に徹したものと思われる。

 壮年期の多くの逸話には、あきらかに荘子の思想をしのばせるものがある。つねに世間の意表に出て、現実を楽観し、自ら思いのままに言動しながらも誠にかなっていたという、非凡な道学者荘子の生き方を彷彿させるものがある。

 戸松が接した晩年の頭山には、老子の日本再現を思わせるものがあった。

 人間というもの、社会、国家、世界の実体はいうまでもなく、宇宙生命の実相をもきわめた翁は、歴史の大道と、現実社会の交叉点にたって、時世を達観し、紆余曲折きわまりない時流に、永遠の本流をさししめしていたのである。若い時代の荘子的自恣にくらべ、これは又、いみじくも枯れさびた老子的老成ぶりであった。

 徳富蘇峯翁が頭山を評して「老子の思想を身をもって行なった人である」と語ったことがあったが、青少年期の逸話からみて、本質的に老荘的なものが内在していたことも事実であるが、翁自身が老子をめざして自己完成をはかったであろうことは容易にうなずけるのである。

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  1. 2016/04/03(日) 20:57:09|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 あるとき、翁が戸松にこんなことをいったことがあった。

 「あなたはその気性では喧嘩するでしょう。われわれの若い時もずい分乱暴な奴がいて、くだらぬことで直ぐかかってきたものだが、木の葉がおちたぐらいにしか思わなかったものだ。

 殴られても、夕立にあったと思えば何でもないことだ。たとえ切られても、三日後に痛いというようでなければ天下はとれませんぞ」

 何回か面会している中に、戸松が感激性にとみ敏感な性質であるのを見てとり、もっと鈍感にならねば大業を成就することはできないということを教えたのであろう。

 実際翁は若い頃、何度も人におそわれたことがあった。そのときの落着きと度胸は俗人ばなれしたもので、体当りされても、襟髪をつかまれても平然として、懐手のまま素知らぬ顔をしていた。

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  1. 2016/04/04(月) 09:46:12|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 相手が図にのって威猛だかになると、あっという間に電光石火の早業でなげつけ、へたばっている相手を圧えつけ、この挨拶で余計か不足かと見下して、にやりっと笑ったものであった。これにはいかなる相手も降参したものである。

 玄洋社をはじめる前、山奥に隠遁して修行していたときのことであろうと思われるが、翁が座禅していると、山犬があらわれ、やにわに太股にかみついた。翁は追い払おうとしないばかりか、見向きもしないで座りつづけていたため、山犬の方がおそれをなして逃げてしまった。

 いかに無空の境地をめざす行者とはいえ、これはいささか現実ばなれしていて凡俗には信じがたい。そこで戸松は翁にそのことを正してみたことがあった。翁はだまって看物の裾をめくり、古い傷跡を見せてくれた。

 戸松はその傷あとと翁の顏を見比べながら、天下の絶品というものは、決して偶然にできあがるものではないということをつくづく感じたのである。

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  1. 2016/04/05(火) 06:00:56|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 功名富貴を塵芥のごとくかろんじ、世俗からまったく解放されて、人間としての真の自由を呼吸していたこの達人の風格は、真善美の結晶であり真の平安と幸福に達した人の姿であるといえる。

 だが、この頭山的人生は、天才、達人的素質の者によってのみ、あやまりなく現出されるのであって、凡人がこれを真似ようとすれば、往々にして曲解しやすく、あやまって頽廃と堕落をまねくこととなるであろう。

 頭山翁と会ったのは前後八度である。一番最後が熱海の鶴屋の離れであった。四度目か五度目の時、戸松が、頭山になり度い、頭山にはなれないが、織田信長や高杉晋作にはなれると思う、と云ったところ、頭山翁はにっこり笑い、私はその織田信長、高杉晋作に憧れたがとうとう落第してしまった。頭山になるよりは信長や晋作になって下さいと云われた。このことをのちに安部先生に語ると、あなたは織田や高杉に似ている、似ている、と云われたそうである。

 こうした優れた先輩に体当りし、心と心でぶつかり合うことがどれだけ戸松の人間形成に役立ったか知れない。これは精神、魂をつくる一つの大きな財産である。自己を磨く武者修行とはこういうことをいうのではないか。

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  1. 2016/04/06(水) 11:33:22|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 中国革命の志士萱野長知

 頭山満翁とならんで中国に精通し、中国人に尊敬されているのは萱野長知先生である。中国的生命にふかくふれている点では、むしろ萱野先生のほうが一歩長じていたかもしれない。

 人間的にもこの先輩は、頭山、安倍の巨峯につぐまれにみる秀峯であった。

 中野正剛氏や永井柳太郎が小高い山か丘陵であるとするならば、その後方にどっしりとそびえている山が萱野先生であり、尚そのはるか後方に雄峯を並べているのが、頭山翁と安部先生であった。つまり、青年戸松の眼には、泰山としてあおぐ萱野先生の後方に、頭山、安部の両先輩が、一段とたかくそびえて見えたのである。

 しかるに、この巨峯的人間はすべて黙して動かず、山と名づけるのもおこがましいような丘陵的人物が、国運をになってわめいているのが日本の現状であった。

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  1. 2016/04/07(木) 16:01:13|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 頭山翁と安部先生はすでに老齢であったが、萱野先生はまだ矍鑠としているにもかかわらず、世にむかえられることなく、鎌倉の浜辺に閑居して晴れれば海に漁り、雨となれば家にあって読書の日をおくっていた。

 戸松はこの鎌倉の磯に、不出世の豪傑、中国の恩人である萱野長知先生をたずねた。

 わたくしは今、萱野先生を不出世の豪傑とよんだ。たしかに先生は、日本においてはその名をあまり知られていない。

 頭山満といえば、草深い農村の翁でもその名を耳にしたことはあるだろうが、萱野長知という名は、もろもろの知識のうずまく都会にあってさえ、一般にはあまり知られていない。只、先生の人格と行動を知るもののみが、その大勇と至誠を敬慕していたのである。

 昭和十八年十一月初旬、戸松が日中事変解決法案を持って、かつて中国の歴史をつくった大先輩と語りあった内容を記すまえに、これまでにいたる三年余の先生と戸松のまじわりと、萱野長知とはどういう人であるかを紹介することにする。

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  1. 2016/04/08(金) 14:10:25|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 昭和十五年春、上海にわたった戸松は、多くの日本人や中国人とまじわりをむすんだが、中でも彼がもっと興味を感じ、心を裸にして交わることのできたのは、かつての中国革命に青春を投じた松本蔵次老人と呉亜男女史であった。この二人については前にもふれてきたので、ここでははぶくことにする。

 その年の初冬のある日、戸松はちょっこりとチヤポ路の萱野公館に松本老をたずねた。そこではじめて萱野先生を紹介されたのである。

 萱野長知という人物については、それまでしばしば松本老からきいていたが、それはあくまでも松本老の眼識でとらえた萱野であったため並はずれた豪傑であるというだけにとどまったもので、後年彼自身が感じとった人間萱野のえらさというものは、ふくめられていなかった。

 彼は豪傑としてはなんら変りばえのしない、平凡そうな老いの顏を、しげしげと眺めたのであった。

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  1. 2016/04/09(土) 14:24:40|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 先生は丹前をきて、少し前こごみになって坐っていた。

 白髪の多い三分がりの頭と、打ちくつろいだ柔和な顔は、田舎の炉端にくつろいでいる百姓爺さんのようで親しみやすい。これが命をはってアジアをとびあるいた人であるとはとうてい思えない。

 先生のそばに、やはり丹前をきてむっつりと坐りこんでいる二人の老人がいたが、戸松は彼らにはあまり関心をはらわなかった。この二人が重慶政府の要人、居正と徐瑞林で、萱野先生が広東から連れてきたものであることなど知る由もなかった。

 「戸松さんは、日中事変をどう思いますか」

 萱野先生は、さりげない調子できいた。

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  1. 2016/04/10(日) 22:15:57|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 この親しみやすいかつての豪傑の前で、青年は憚りなく自己誇示の色をみせ、気負った声でこたえた。

 「若しわたくしが中国人だったら、無礼きわまりない日本人を一人残らず徹底的にやっつけるまで戦います。しかし、わたくしは日本人である。だから、日本の誠意がわかるまで、重慶、昆明はおろか、中国全土を屈服させるまで前進攻撃をつづけます」

 身分のわからぬ二人の老人は、膝をのり出すようにして緊張の色を顔にみなぎらせた。二人とも日本語を解せたのである。

 萱野先生はニタッと笑うと、松本老にむかって、

 「おい松本、君は常々自分は二十五歳の青年だと誇っているが、どうだ、本当の青年を見たまえ、やっぱり青年だな。青年でなくてはこの迫力は出てこないよ」

といった。

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  1. 2016/04/11(月) 11:22:07|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 万年青年を自称して、気力の旺盛さをほこっていた松本老は、くすぐったいような顔をして、ニヤニヤッと笑っている。

 このことがあって以来、萱野先生は特別に戸松に心をかけてくれた。安部先生のように、長い年月、ある時は起居をともにしてまで教えを受けることはできなかったが、この人には一種の同志愛的な親しみと傾倒をおぼえたのである。

 中国の不可解な民族的風土の中に、暗中模索の思いで動いていた戸松は、萱野先生を知ることにより、清明なる一条の光を得たように、中国の実体、生きた中国というものを知ることができたのであった。

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  1. 2016/04/12(火) 13:44:57|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 孫文と萱野

 「先生は、どうして中国革命に関係されたのですか」

 あるとき、戸松はきいてみた。

 「そうだな、それを話すならば、まずわしの青年時代をかたらねばなるまい」

 先生は新しい同志に、自分の前歴をかたってきかせるかのように、あらたまった顔になってぽつりぽつりと話し出した。

 「わしの若い頃は、土佐では青年という青年は、ことごとく板垣退助の思想に啓蒙されて、自由民権をとなえておった。わしもその一人で、藩閥打倒に情熱をかたむけたものだった。

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  1. 2016/04/13(水) 21:29:05|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 幸徳秋水とは竹馬の友でねえ。そのうちに彼から無政府主義共産主義理念をこんこんと吹きこまれている中に、いつしか共産主義の信奉者になってしまっていた。

 ところがだ、日本人の血というものは不思議なものだ。

 観念的には全く共産主義理論に傾倒しておりながら、幸徳から、日本の共産主義革命はその癌である天皇をまず打倒しなければならぬと決意をせまられたときには、まったく精神的混乱におちいってしまってねえ。

 理論としての共産主義は、思想的に未熟な青年にとってはたしかに魅力であり理想だよ。

 だがね、これの実現のために天皇を打倒するということは、日本人としてしのびないことだ、それは主義、理想のために、お前の親爺をさし殺せといわれたのにも等しかった。

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  1. 2016/04/16(土) 13:37:57|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 そのころは今のように、思想的根底にたって天皇を日本の生命としてとらえていたわけではない。まったく本能的な心の発現であった。このあいまいな社会を、なんとか改造しなければならん。だが天皇を日本からとり去ることはできん。

 さて、この空拳をいかにせん……と悶々としているとき、興中会の連中と知りあう機会を得たのだよ。

 そのころ、興中会の意気は大変なものだった。牛込の宿に宋教仁や張君毅ががんばっていてね、彼らのもとに在日留学生が参加しておったよ。清朝政府の官費で留学しているかれらが、清朝をたおすことに青春をかけていたんだ。満州民族である清王朝と、中国を植民地化しつつある西欧列国の勢力を追放して、漢民族による中国を復興させようというので、その意気天をつくの勢いであった。

 彼らにせっしている中に、その純粋な中国革新の熱情にうたれてね。ようし、日本で出来なかったことを中国でやってやろう、彼らを助けてやろうと考えるようになった。

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  1. 2016/04/17(日) 13:53:55|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 その中に亡命してきた孫文とも親交をむすぶようになり、やがて彼らと兄弟のちぎりを誓い合って中国にわたり、武漢革命(武昌、漢口におこった第一革命)には、日本浪人の先端をきって戦火の中にとびこんでいったよ」……と。

 この人は、まさしく俺の人生の先輩だ。この人の道は俺の道でもある……と、戸松は話をききながら考えていた。彼はふと、自分が上半身をぐっと前にのりだしているのに気がついた。よほど熱心に力をいれてきいていたものらしい。

 「先生もずい分多感な青年だったんですねえ。先生の話をきいていると、ぼくの二十二、三のころをそのまま語られているような気がします。ぼくも共産主義に心酔して、天皇の問題にずい分と苦しみました。

 思いあまって、安部先生に相談したところ、国体と政体の社会主義はなんら対立相反するものではない、主義のために国体を見失うようでは駄目だとはっきり云われましたので共産主義をすてて満州にわたりました。

 複雑怪奇な日本の社会にいや気がさしたことも事実ですが、満州で自分の理想を生かしてみたいと思ったものですから……」

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  1. 2016/04/18(月) 15:27:22|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 同じように多情多感の青春の思い出をもつ老人と青年は、思わずにっこりほほえみ合った。二人の間には、年齢をこえた同志的親しみが交流し、互いの胸をそくそくとゆさぶっていた。

 「松本先輩の話によりますと、先生は豪傑だということですが、中国革命ではずい分冒険的な行動も多かったことでしょうね」

 戸松はさらに問いかけた。彼の眼は好奇心と期待にかがやいている。彼は、この平凡そうな小柄な老人の体内にひそんでいる勇気と英断を、今ここにあらためて引出してみたかった。

 先生は相かわらず真面目そのものの顏でかたりだした。けっして雄弁とはいえない。ひくい声でぽそりぽそりと語るのだが、不思議にも、思わず乗り出してきき入らずにはいられないような魅力をもっていた。

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  1. 2016/04/20(水) 15:46:33|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「そうだなあ、何度死線を突破したかわからないねえ。身に危険がせまってきて、ひそかに逃げ出さねばならん時など、ずい分苦心したものだったよ。

 苦力になって、袁政府の官憲の眼をごまかしたこともあったし、孫君など首脳に日本の紋付を着せて、山高帽をかぶらせて虎口を脱したこともあった。帽子の下はみな弁髪だからねえ。もし帽子でもはぎとられたら化けの皮はいっぺんにはげてしまう。

 わしが先頭にたって取り調べの役人を煙にまいたものの、内心はやっぱりひやひやしていたね。弁慶の安宅の関と同じようなものだった。まあ、くわしいことは、わしの中国革命秘笈をよんでくれたまえ」

 先生はごそごそと机のまわりをさがしていたが、一冊の古びた本を無雑作にさしだした。萱野長知著「中国革命秘笈であった。

 「ありがとうございます」

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  1. 2016/04/21(木) 14:48:42|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 戸松は早速本を手にとって、パラパラとめくってみたが、やがてそれを膝におくと尚も未練らしく問いかけた。

 「二、二六事件の北一輝も、中国で先生と一緒に行動していたとききましたが」

 「うん、北君を中国革命に案内していったのはわしだ。彼は暫らくぶりに会うと、いきなり抱きついてきて叫んだものだった。『神来る、神天より降り来る』といってね。得難き好漢をころしたものだよ」

 中国革命に並行して、日本の内政、外政を一新すべし……と、となえつづけ、維新の旋風をまきおこし、ついに二、二六事件の関係者として処刑された天才北一輝の面影を、今、ほうふつと思いうかべたのだろうか、先生はひくい声を一層しめらせて、

 「北は生かしておくべきだったよ。あのするどい洞察力は日本に必要なものだったよ。アジアも世界も、北の云っていたとおりになりつつあるからねえ」

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  1. 2016/04/22(金) 22:31:38|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 戸松も北一輝は好きだ。もやもやとした腐爛沈滞の根源をさっと堀りあてて、誰憚ることなくその因果を指摘し、さらに新たなる建設的方向をさししめすあの大胆さとするどい頭脳には、男として心ひかれずにはいられない。

 又、彼が、事件に直接参加していなかったにもかかわらず、死刑を宣告されたとき、一言の不平も抗議もなく、ニタッと笑って従容と服刑した態度には、万感胸をつくるものがある。

 「北一輝の中国革命外史をよむと、孫文をずい分こきおろしているようですが……」

 「うん、中国革命党の内部にも、南方の広東派と中部の浙江派の両派があってね。北君は中部の宋教仁や黄興の主張を正当として、南部の孫文を植民地主義だといって批判していたようだった。

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  1. 2016/04/23(土) 15:14:40|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 しかし、方法論的なくいちがいがあったとしても、帰するところは中国の自立であり、民族主義革命であったことに間違いない。

 何しろ中国の経済組織は混乱状態にあったからね。民族革命をたすけるには、中国ブルジョアジーの体勢がぜんぜん整っていなかった。孫君が革命資金を海外にもとめたのも仕方のないことだったよ。

 アメリカの共和制を参考にしていたことも事実だが、なにもアメリカ化をねらったものではなく、あくまでも東洋的共和制をねりあげようと骨折っていたからねえ」

 「しかし、北一輝の説もたしかに真実だという気がしますね。

 外来勢力を排して漢民族の国家をつくるのが革命のねらいであるならば、宋教仁や黄興の主張のように、中国の伝統にたって中国人自身の手によって成しとげるべきでしょうからね。なまじっか日本やソ連を信頼したために、革命が不徹底におわり、いつまでも尾をひいているのではないんですか」

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  1. 2016/04/24(日) 21:45:28|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「もちろん、革命というものは、明治維新のように自国の中から盛り上がった力でやりとげねばならないものだ。中国革命も、その点ではなんら遜色はないよ。

 日本は彼らの盛り上った力を、側面から援けてやっただけだ。事実日本の応援がなかったら、とても革命をやりとげることはできなかったろうからねえ。

 あのとき、革命を指導したのは、ほとんど日本の留学生だったよ。日本で学んだ彼らが、日本によって国家民族主義にめざめ、漢民族の復興をめざして立上ったのだからね。

 そういう点から見ると、たしかにたねしかけも日本にあったといえるね。しかし日本の指導がなかったら、中国の前途は崩壊と列国の分割が待っているだけだったよ。

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  1. 2016/04/25(月) 14:19:05|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 日本の明治維新にならって、彼らも中世的中国をぬぎすてようとした。だが、中国は日本の明治維新のように、西郷と勝の談合で一決するようなわけにはいかないよ。あまりにも国情が複雑すぎる。

 革命も何度かくりかえさなかったら、本来の目的をとげることはできん。みたまえ、いまだに革命の続行中だ。革命はまだ成熟していないよ、孫文はその端緒をきりひらいたにすぎん。

 当時の革命党の中では、なんといっても孫逸仙はずい一の人物だったよ。彼の人格には中国特有の陰謀のごときものは全然なかった。あの公明正大さが、中国革命党を統一したんだよ」

 「孫文はずい分先生を信頼していたそうですが……」

 「信頼などという程度のものではない。一心同体のようなものだった。人間というものは不思議なものでねえ。志を一つにして死闘をくりかえしていると、骨肉をこえて結合するものだよ。

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  1. 2016/04/27(水) 00:39:44|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 彼といっしょに革命資金を獲得するために、仏印、蘭印などの南方諸国やハワイなど何度も飛び歩いたものだった。あのときの華僑の協力も大きかった。

 もちろん、日本にもきたよ。

 第二革命のとき、やはり孫君と武器弾薬と軍資金を調達に日本にやってきた。武器弾薬の方は陸海軍の払下品をもらい、松方幸次郎(正義の息)が船を出してくれたよ。

 軍資金は久原房之助が百万円ほど出してくれた。孫文と二人で久原の家へ資金依頼にいったところ、申込額をあっさりひきうけてくれてね。ずい分と歓待してくれたものだった。

 帰りに玄関まで送って出て『萱野君また遊びに来てくれ』というから、『うん来るよ。だが君のところへ来るときは、金をもらいにくる時だけだ。金持にはそれ以外に用はないよ』といってやったら『ワッハッハ……』と笑っていたものだった」

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  1. 2016/04/27(水) 18:04:18|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 その時の様子を思い出して、先生は上体をふるわせて「ウッフッフ……」と、こみあげるような笑い方をした。

 だが、戸松は笑えない。それどころか眼をみはって、ずんぐりした老人の顔をみつめていた。

 三十年前(今からでは約七十年前)の百万円といえば大したものだ。隣国の革命に莫大な私財を投ずる久原もえらいが、いばって大金を出せる萱野の自信と度胸も凡俗ではない。

 明治の空気を呼吸した人間の中には、俗人ばなれしたえらい奴がいたものだ。明治を遠のくにしたがって、人間の根情はだんだん虫けらに似てきたようだ。

 自分の一個の保全と出世に汲々としている人間がうずまいている昨今では、こういう風格をもった金持や志士はおそらくいないだろう。

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  1. 2016/04/28(木) 15:46:25|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 この老志士のあとにつづくべし……多感な青年はおもった。

 「孫文が北京で死ぬ前、神戸で別れたが、その時わしをそばに呼んでねえ、『萱野君、中国をたのむ』と遺言したよ。

 彼の後継者である胡漢民、蔣介石、汪精衛の三傑をまえにして、なぜに彼が日本人のわしに中国の後事を托したか、君にはわかるかね」

 青年は小首をかしげた。とっさにきかれても、会ったことのない孫文の心がわかるはずがない。

 「先生を信頼していたからでしょう」

 単純にこたえた。老人は眼の奥でかすかに笑ったようだ。しかし、表情はいぜん真面目なまま、

                  (43 43' 23)

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  1. 2016/04/29(金) 15:32:00|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

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