いしずえ

第二巻受難の巻

 「もちろん信頼していたからであることは間違いない。だが孫君の心はもっと深くにある。

 中国の再興には、日本の力が必要であることを彼はよく知っていたのだよ。

 日本は中国から千年余の間、まなびとるだけまなびとった。その土台の上に西洋の技術文明をとり入れて、一躍近代国家としての成長をとげたんだ。その日本の革新を半世紀おくれ、今中国がやりとげようというのだ。

 すばやく転回して、たくましく伸びていく日本の力、あの力はなんだ、あの力の根源は……孫文が日本にたよったのはその力なんだよ、戸松君。

 日本民族の血液に脈々とながれているその力の根源こそアジアをまもる武器であり城砦であると彼は考えておった。

                  (43 43' 23)

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  1. 2016/05/01(日) 20:53:47|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 アジアの安全は、日本の実力と中国の健全にかかっている。中国の混乱と動乱は日本にとってもけっして対岸の火事ではない。日本の平安をねがうならば中国の平安をねがわねばならず、中国の発展をのぞむならば、日本の協力を得なければならない。

 日本と中国は一つだ……と、孫君はかんがえておった」

 「孫文がそれほど日本を知り、日本をたよっていたにもかかわらず、なぜ彼の後継者はその意志をつがないのでしょうか」

 「そこだよ、むずかしいところは。

 日本が中国の革命をたすけてやったところまではいい。しかし、そのあと日本は中国に恩をきせ、中国を悔蔑することを止めなかった。それに、ロシア攻略からアジアをまもるためにむすんだ日英同盟は、イギリスの中国における利権をまもることとなり、中国は依然として西洋のとりこになったままであった。

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  1. 2016/05/02(月) 22:45:58|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 日本は武力をもって中国に南下してくるロシアにたいしては、敢然として攻撃をくわえていったが、経済をもって北上し、中国を亡国化しようとするイギリスの資本にたいしては何ら警戒しなかった。むしろ彼に追従していったのだ。日本の中国にたいする態度は、すこぶる自己本位で中途半端なものだったよ。

 そこへもってきて中国共産党の興隆だ。内部に大きな悩みをかかえ苦しんでいる中国にたいして、日本は依然として悔蔑外交をつづけ、満州はおろか、北支までも、自国の勢力下に掌握しようとする傾向をみせてきたのだ。中共にそそのかされた中国民が、国内的爆発を日本にむけて排日をさけびだしたのも無理ないよ。

 皮肉なものだねえ、日本が中国におしえてやった民族主義は、あにはからんや、日本にその鉾先をむけてきたのだからねえ。

 孫君が存命だったら、なんとするだろう。中国の敵は日本ではないはずだ。又、日本の敵も中国ではないはずだ。日本と中国の敵は、アジアの侵略者のはずだからねえ。日中事変は、長びけば長びくほど結果がわるくなるだろう。しかし、人間というものは互いに我をたてて徹底的に争った後でないと、真実がつかめんものかもしれないねえ。いずれは二つの民族が賢明に立ちかえるときが来るだろうけどね。それを信じておるべきだよ」

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  1. 2016/05/03(火) 13:31:52|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 孫文が後事を托したごとく、先生も又戸松に後事を托しているのだろうか。魂の授受をねがうがごとく、誠実をこめて語ったのである。


 日中和平交渉

 萱野先生は中国国民党の顧問として、これまでに何回か日中の国交の調停をはかってきた。しかし、日本の政界には、つねに危機を救おうとするこの志士の誠意をさまたげようとする底流があった。

 萱野先生と犬養木堂翁とは、青年時代からの親交があった。

 犬養が首相となった昭和六年頃は、日本の社会は混乱をきわめていた。

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  1. 2016/05/05(木) 13:26:44|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 浜口内閣の極端な緊縮政策の影響をうけて、農村漁村はいうまでもなく、中小商工業は深刻な不況になやみ、崩壊のせとぎわにたっていた。

 この機をねらって反対党の政友会は総攻撃をあびせかけ、陸海軍の青年将校をはじめ、青年という青年はことごとくファッショ的革命思想にかたむき、ひそかに機の熱するのをまっていた。

 このように、無気味な妖雲がただよっているにもかかわらず、政党や財閥や特権階級の中には、国家の行詰りをしりめに私利私欲にかたむき、国防をわすれ、国利民福よりも自己の栄達をはかる徒輩が多かった。

 そこでこの悪の根本をたちきろうというので、暗殺団が結成され、井上準之助、団琢磨、総理大臣浜口雄幸等、つぎつぎと名士がそのぎせいとなって葬り去られたのである。

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  1. 2016/05/06(金) 11:21:44|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 まさに日本政治の暗黒時代であった。思想には理想を、政治には政治を、実力には実力を……というような、堂々たる対抗をもってするには、日本の社会はあまりにも無秩序であり、未熟であった。

 権力者は自説をまもって他説に耳をかさず、政敵の憎悪をいっそう深めていくばかりであった。ここに思想を異にするもの、政治的に偏向したものにたいして、剣をもってむくいる気風がおきてくる。

 しかも、鮮血によって解決をはかろうという無謀な空気は国内に横溢していたばかりでなく、大陸にむかっても剣をもって制圧していこうという傾向が、軍部内に猛然とたかまってきた。

 名宰相原敬亡きあと、達人いまだ世表にいでず、日本は大ゆれにゆれていた。

 この時犬養首相は、悲壮な決意をもって立ったのである。彼はなんとかして軍部を牽制し、満州問題を和平裡に解決したいとかんがえ、萱野を中国要人と交渉させるためにひそかに渡支させることにした。

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  1. 2016/05/07(土) 09:33:42|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 萱野が上海埠頭につくと、国民政府の要人である居正、徐端霜、馬伯援、殷汝耕の四氏が出迎えにでていた。これらの人々は、すべて萱野を中国の恩人、先輩とあおいでいる人達である。

 宿はキャセイホテルであった。その日の夕方には広東から陳中孚もやってきて、犬養首相の和平案を協議した。

 彼らは、犬養首相が和平の方針をとって、中国への侵略を阻止するならば、中国側も忍びがたきをしのび国辱をこらえて国民の不満を圧え、和平への道をひらいていこうと云うのであった。

 翌日から萱野は、南京、広東、上海の間をいそがしくとびあるいて、やっと和平条約を成立させ、両国から重要な人物を満州に派遣して、大連で和平の手打をするところまで話し合いがまとまった。

 中国側からは、居正が全権として特派することになり、萱野は日本からくる全権を紹介することになった。

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  1. 2016/05/08(日) 13:26:30|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 和平条約は次の三ヵ条であった。

 一、日本は満州から撤兵する。
 二、中国はただちに排日行為を全廃する。
 三、満州に親日的な政府を樹立し、日本の権益を保障する。

 萱野はさっそく首相に長文の電報をうち、その返事をまってすぐ上海から大連にとぶつもりでいた。

 ところが、どうしたわけか首相からも秘書官の令息健氏からも返事はこなかった。催促の電報をうったが、やはり返事がない。

 中国側は心配して焦れだしてきた。そこで萱野は居たたまれなくなり、直接犬養にあうために上海を発った。

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  1. 2016/05/09(月) 22:39:38|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 東京につくとただちに首相官邸にかけつけた。犬養首相は伊勢参宮のため不在で、書記官長(官房長官)の森格がいた。萱野は内心「ハ、ハアー」と深くうなずくものがあった。

 そこで単刀直入、

 「貴公が上海からの電報を盗んだのであろう」

と、あびせかけた。

 「そうだ」

 森も悪びれるようすもなく応じてきた。

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  1. 2016/05/10(火) 10:20:01|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「恩顧の犬養を売るのかッ、獅子心中の虫とは貴公のことだ」

 「大義、親を滅すだッ」

 「貴様の大義とは、軍部に媚びへつらうことかッ」

 二人の声は一問一答ごとに、はげしさを加えていく。

 「俺は君が上海からよこした電報をみておどろいたぞ。さては犬養の親爺、中国と直接交渉をはじめていやがるな、これは容易ならざる陰謀だとかんがえた。だから軍にしらせて、しっかりしろと激励しておいたんだ」

 森は昂然として云い放った。

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  1. 2016/05/11(水) 05:24:00|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「うーむ」

 萱野の胸の中は煮えくりかえるようだ。たぎりたった怒りは、今にも勘忍袋の緒をきって吹き出してしまいそうである。それをやっとの思いでおさえて、

 「泥棒の尻押しはやめろッ、悪の栄えたためしはないぞッ」

 「貴様こそ国家の進展をさまたげるなッ」

 「なにッ」

 ついに萱野の拳固は森の頭にとび、二人は組打って床にころげまわった。

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  1. 2016/05/12(木) 15:59:46|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 格闘数分ののち、

 「匹夫、国を亡ぼすか」

 萱野は悲痛な声でさけぶと、無念の泪をながしつつ首相官邸をとび出した。

 二、三日して、犬養が西の旅からかえってきたので電話で連絡してみると、感冒にかかって寝ているという。かなり重態だというので、面会もならず悶々と数日をすごした。

 ところが~ああ万事休す~ついに上海事件が勃発してしまったのである。

 萱野は早朝、犬養邸にかけつけた。犬養も病床をけって起き出し、憤怒に興奮しているところであった。

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  1. 2016/05/13(金) 23:42:04|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 狼のようにやせこけた犬養の顏は、妖鬼のごとく蒼白に凄み、凹んだ両眼が激憤にもえていた。

 「もう勘弁ならん。おい萱野君、最後の御奉公だ。こうなったら勅命を奉じて軍の賊を討とう。錦旗のもとに何個師団が従うかはわからんが、内乱を経ずして軍閥を膺懲することはできん」

 老首相は、病後の瘦軀にいよいよ決意をかためたようであった。

 その三ヵ月後、犬養は昭和七年五月十日の政友会関東大会で、

 「近頃、わが国一部の間に、自由主義を否定し、立憲政治を抹殺し、すべて軍刀をもって処断しようとする者が存在するが、政治は断じて暴力で改善できるものではない。われらは断乎として、この暴力を屈伏せしめねばならぬ」

と獅子吼して、軍閥勢力に敢然と宣戦布告したのである。

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  1. 2016/05/15(日) 00:18:15|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 それから五日目の日曜日の午後、萱野は首相をたずね、上海からの情報を報告した。犬養は黙々ときいていた。萱野はさらに軍閥征討の革命をうながして辞去した。

 それからいくばくもたたずして、首相官邸は海軍中尉三上卓のひきいる将校団におそわれ、犬養は彼らの銃弾にたおれたのである。

 「待てッ、話せばわかる」

と、沈着に制した彼の言葉もむなしく、

 「問答無用ッ」

の叫び声とともに、銃声はひびきわたった。

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  1. 2016/05/15(日) 13:34:13|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 報らせをうけて萱野は鎌倉からかけつけた。午後九時であった。

 重傷の首相は、萱野を見て、

 「心配するなよ」

と反対になぐさめた。が、これが犬養の最後の言葉であった。

 又、昭和十三年、武漢三鎮攻略の前夜、萱野は中国政府からたのまれて、攻撃中止、和平停戦の交渉に、国民党の要人をひきつれて東京にやってきた。

 時の内閣総理大臣は近衛文麿で、陸軍大臣は板垣征四郎であった。

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  1. 2016/05/16(月) 14:05:08|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 まず近衛に面会するや、

 「萱野君、中国は北支の五省を日本に割譲するとでもいっているのかね」

と、まるで小馬鹿にしたようなあしらいである。

 不拡大主義の近衛が、おかしな事を云うものだと思っていろいろ調べてみると、その裏に中共の策動が暗躍していることがわかった。

 つまり、萱野使節が上海を発つと同時に、中共は高宗文と同盟通信の松本重治を飛行機で送り、近衛、板垣に対面させ、「中国は敗北の寸前にある。武漢陥落に成功すれば、中国は日本の思いのままになるだろう。過去四十年間の諸問題はたちどころに解決される」と煽動し、又中国政府にたいしては「日本は経済崩壊の寸前にある。今こそ徹底的に反撃し、全面撤退の日まで戦うべきである」と、打電させていたのであった。

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  1. 2016/05/17(火) 00:29:46|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 この時も万事手遅れとなり、萱野はすごすごと広東にひきあげていった。

 このように萱野先生は、日本と中国の間にあって何度か和平交渉に心血をそそいできた。

 しかし、いつも日本軍部か中共の巧みな画策に邪魔されて、ついに志をはたすことができなかった。

 先生は国際上の活動舞台にたって、華やかに演出する大政治家的野心は毛頭もっていなかった。

 ただ、日中をいかに平和にし、親密にし、アジア百年の安泰をはかるかが生涯をつうじての念願だったのである。

 この無私、無欲なる日中の父は、アジアの危急せまった今、日本政界から疎外されて、鎌倉の海辺に、波を友にひっそりと漁っているのである。なんという大いなる日本の損失であろうか。

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  1. 2016/05/18(水) 05:20:00|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 野生の大木

 昭和十八年、日華の関係は中国共産党の思うつぼにはまりこみ、もはや万策つきた格好になってしまっていた。その上、南太平洋には、すでに危険信号が発せられている。

 日本と中国を見すてて遁世してしまった日中の掛橋を、今一度東支那海の空にたくましくかかげてみたいものだ……戸松は一縷の希望を抱いて、萱野邸をおとずれたのであった。もちろん園田もいっしょである。外に中井(戦後共産党に入党し活動した。)も加わった。

 先生のよろこびは一方でない。往年北一輝が「神来る、神天より降り来る」と先生に抱きついたように、抱えんばかりにして三人を奥の部屋に招じ入れ、床の間にすわらせて、御馳走をならべ、老酒をすすめた。

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  1. 2016/05/19(木) 14:32:34|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 東京では、とうてい手に入りそうにもない新鮮な鰹の刺身や中国酒を口にはこびながら、戸松は日中事変解決法案を説明し、さらに、この案をもって東条政府に日中の和平をうったえたいのだが、東条に会うことすらむずかしくて困っている旨を話した。

 先生は盃をかたむけながら「成程々々」とうなずいてきいている。

 一通りききおわると、若い三人の盃に老酒をなみなみとつぎながら、

 「軍人にはわからない」

と、つぶやくように云った。

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  1. 2016/05/20(金) 14:06:41|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「?」

 若い三人はきょとんとして、先生の顔をみつめた。

 やがて静かに盃をとると、先生は三人の顏を交互にながめながら云った。

 「戦争がおわってからのことを考えようではないか。勝つことはあるまいが、負けてからのことをね」

 三人はぎくりッとして顔を見合わせた。ややたって、戸松は半身をのり出すようにしてきいた。

 「先生は負けるとお思いですか……」

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  1. 2016/05/21(土) 11:12:26|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「まあね」

 「……」

 三人は棒をのんだように、息をつまらせたまま言葉がない。

 戸松の頭に、ふっと前田中将の言葉がうかんだ。~戦争は負けるよ。君は負けてから後どうするかを考えておいた方がいいよ……あの時も、いきなり横っ面をはりとばされたような衝撃であったが、再び今、脳天をうちのめされたような打撃をうけたのである。

 国を愛し、中国を愛し、アジアを愛することにかけては、我を越えるとかんがえていた先輩から、なんらの苦悩の色もなく、さりげなく、負けてからあとのことを考えようではないかと云われたのだ。

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  1. 2016/05/22(日) 20:37:33|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 しばし、彼の心は混乱した。そしてそのあとにどっと押しよせてきたものは、いたたまれないような焦燥感であった。

 彼は、あたかも、瀕死の肉親を見放してしまった医師にとりすがるかのように、

 「先生、戦争を中止するならば今です。今こそ、われわれが命がけで和平につくすべき時ではないでしょうか」

と、せまっていった。

 老人は、青年をあわれむかのようにじっとみつめていたが、やがて、穏やかにおしえさとすように云った。

 「道義がこう滅んでいたのでは、勝ったとて滅んでいくよ。況んや敗け戦のときは非道いぞ。其の英雄達人は、そういう時にはじめて現われるものだよ」

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  1. 2016/05/23(月) 22:34:16|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 三人の青年はもはや返す言葉もない。箸をとることも盃をあげることもわすれて、日本の現実に見限りをつけた老人の顔を茫然とみつめていた。

 先生はつと立上ると、やがてのこと筆と紙をもってあらわれ、さらさらと漢詩をしたためて戸松にわたした。それは、「人間というものは、十年に一度働く機会にめぐまれるものだ。もがいてもわめいても、決して事成るものではない。不運逆境のときは、静かに気を養い時の来るを待つべきである。やがてその時がきたならば、明日の生命など考えることなく、全身全霊をうちこんでこれに集中すべきである」

という意味のものであった。

 日中の和平に全力をつくした時機はすでに過ぎさった。自分にとっては今は早やその機ではない。日本がもし敗れたならば、その時こそ再び起って、惜しみなく老軀を国に捧げよう……という先生の心境を、見事にうったえたものであった。

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  1. 2016/05/24(火) 01:08:36|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

と、同時に、若き三人にたいしても、一つの暗示をあたえていた。

というのは、先生が敗北を断言しながらも、戸松の和平運動には反対の色をしめさず、むしろ励ましてくれたところにその深意がうかがえるのである。

 この詩は戸松に語っていた~先輩の眼からみるとき、運動の失敗は目に見えている。しかし、青年は前進すべきである、青年の失敗は彼を成長にみちびくであろう。失敗したならば、もがくことなく、わめくことなく、内に力をたくわえて次の機を心静かに待つべきである~

 先生は深い思いをたった数行の詩にたくし、黙ったまま筆をかたずけると、再び盃をとりあげて一口ゆっくりと酒をふくんだ。そして云った。

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  1. 2016/05/25(水) 00:17:04|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「相手が周仏海と熊剣東ならば、筋はまずよい。さらに重慶をうごかすには、胡宗南か李済深が一番いいだろう。君達の若さと情熱をもって体当りしていったならば、丈余の堅氷も、あるいは破れるきっかけができるかも知れん。

 君はわしに顧問になれというが、君達亜細亜同盟の役にたつならば給仕でもいいよ。

 戦いがおわったら、その次は君達の時代だ。われわれの時代は日本の敗戦とともにほろびるのだ。われわれ老人のやってきたことは、祖国の敗戦という結果をもって正直に評価されるだろう。

 中国と印度と西洋の思想をとりこんで、さらに西洋の技術を身につけて、中国以上、西洋以上になったと自分の力に酔うたわれわれ世代の人間は、彼らの教えと彼らの技術をもって、彼らにたちむかっていったのだ。うかつな偽者だったよ。

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  1. 2016/05/26(木) 05:16:00|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 君達は先輩の轍をふんではならん。君達は日本の宝をほり出して、それをもって立上ってくれ。君達青年といっしょなら、顧問どころか給仕でいいよ」

 老人の声は熱をおびてふるえていた。

 戸松はここに一つの時代の悲壮な臨終をみたような気がした。彼が今まで壮気満々としていると思っていたこの時代は、この老人の言葉の中でははや死滅の淵によこたわっているのである。

 今若者に必要なものは、この死滅しつつあるものから、ひきついだ生命だけである。青年がこの生命の火をしっかりとうけつぐ時、滅びゆく時代の残骸は、未来をそだてる肥料となり大地となるであろう。

 もえ出ずる新しい生命の芽、それは汝ら青年である。わが時代はおわった。次の時代の主幹は汝ら青年である。汝らの足下にあって我はその大地となり肥料とならん……と老人は訴えているのである。

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  1. 2016/05/27(金) 13:24:34|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 これは、真に国家を愛し真に人類の未来を信ずる者の言葉である。戸松は万感胸にあふれるを覚えた。

 機構の中で才と能力を競い、高位高官をほこる先輩にくらべてみるとき、浪人萱野の人間的深さ大きさは底知れない。野性的に自力で生きぬいてきたこの大木のごとき人間は、庭園の中に枝ぶりをきそう小木のごとき人間どもが、とうていはかり知ることの出来ない人生の妙致と深奥に到していたのである。

 つるべおとしの晩秋の日は、いつしかとっぷりと暮れ果てて、縁側のガラス戸を浜風がことこと絶えまなくゆすった。二人ははじめて長居したことに気づき、いとまを告げた。

 先生は奥から鰹を三本ぶらさげてきて、

 「これを安部先生に土産にもっていってくれ。今朝、わしが海でとってきたものだ」

といって、女中に命じて一本ずつ渋紙につつませた。

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  1. 2016/05/28(土) 01:00:50|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 先生はインバネスをひっかけると、三人を電車の停留所まで送ってきた。

 電車はなかなか来なかった。夜気はひんやりと衿元にしみる。

 先生はふと思出したように、

 「君が頭山さんのところへいた時、中野正剛の話はでなかったかね。中野君が頭山さんに遺書をのこしていたというが、何が書いてあったか聴かなかったかね」

ときいた。

 「安部先生のところでは話がでましたが、頭山さんでは出ませんでした」

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  1. 2016/05/29(日) 00:14:11|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「そうか、今度頭山さんに行ったらそれとなく聴いてみてくれ。わしが改まって聴くよりは、君が率直にきいた方がいいだろう」

 「ぼくも知りたいですから、この次はきいておきましょう」

 先生は中野正剛氏の死について、もっと話したいような様子であった。しかし、上りの電車が丁度近づいてきたので、三人は一様に驀進してくる車窓の灯に眼をむけた。

 やがて、車に乗りこむ戸松の背中を、先生は後からぽんとたたいた。そして、右手をあげ動き出した電車に向って叫んだ。

 「おそかりし、由良之助」と。

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  1. 2016/05/30(月) 01:37:15|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 受難の上海生活

 自信のない人生

 雑居生活というものは、なんとなく落着かないものである。人間には孤独の時間がなければならず、家の中に一定のおちつくべき場所もなければならない。

 牧谷一家は日本間に起居し、青年達は階下の洋間にたてこもっていたが、わたくしと掘下夫人にはきまった部屋がなかった。

 強いていえば、ひろい客間の壁ぎわに、ぴったりすえつけられた大きな二つのベッドが、わたくし達の占有のとまり木であった。

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  1. 2016/05/31(火) 01:42:52|
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Author:國 乃 礎
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