いしずえ

第二巻受難の巻

 先輩はもはや過去の光と化してしまった。その光は、背後から、戸松の前進に勇気をあたえ、自信をあたえたが、行方をみちびく光にはなりそうにもない。

 たしかに、日本は負けるかもしれない。又勝ったとしても、軍部はいよいよ驕慢となり、日本をあやまった方向にひきずっていくにちがいない。しかし……だからといって、軍の圧力をおそれ、時世に見限りをつけてこのまま放置しておくことができようか。それは彼の若さと情熱がゆるさないことである。敗退者としての老人の体験は、そのまま若者のものにはなりえない。若者は前者の失敗にふるいたって立上り、自からの頭脳で、自からの行動で体験すべきものなのだ。そしてそれは、やがて新しく第三次の社会をきりひらいていく力となるのである。

 先輩が前進せよ、我をふみこえて前進せよ……というのは、このことを云っているのであろう。彼らは人間を熟知し、若者をとおして自己が未来に生きるものであることを知っている。

 上海にあるときは、予想もしえなかった日本の実体を次々と見せつけられ、先輩にことごとく失望しながらも、戸松の決意はついに変らなかった。

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  1. 2016/10/01(土) 11:33:00|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 安部磯雄の姿勢と態度

 この二、三日来、園田は痔痛をうったえて、ときどき苦痛の色をみせるようになった。

 晩秋の空気が急に冷えこんできたためか、配給制度の食糧下で、旅行者などには十分な食べ物があたえられなかったためか、持病がおきてしまったのである。

 彼をしばらく休息させることにして、戸松は単身安部先生のアパートをたずねた。

 戸松の顔を見るなり先生はいった。

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  1. 2016/10/02(日) 19:51:14|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「戸松さん、どうもだめです。永井君が青木大東亜大臣などにずい分連絡をとってくれたようですが、さっぱり反応がありません。

 なんでも、東条さんの強圧政策に反対する動きがぼつぼつあるそうでして、ひそかに暗殺を計画している者もいるそうです。

 憲兵によって、そういう動きは事前にかぎつけられ、つみとられているそうですが、それだけに警戒もきびしいわけですね。東条さんは容易に人と面会はしないようです。

 それに、もう外部の意見をきく耳はもたないのでしょう。今はもう、どうしてこの戦いを勝利にみちびくかということに囚われているのですね。

 なんでも、軍は中部太平洋を戦いの天王山とかんがえて、全力を内南洋の防備にあてているということですから、戦いはこれからだと思っているのではないんですか。永井君の判断では、東条さんは戦争には、絶対の自信をもっているようだということでした」

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  1. 2016/10/03(月) 09:00:54|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 先生は気の毒そうな眼で青年をじっとみつめた。戸松ががっかりするだろうと思ったらしい。しかし、戸松は予期していたかのように平然とした顔色で、

 「いろいろお骨おりいただいてありがとうございました。

 今回いろいろ工作してみて、戦時下の日本の実体がやっとつかめました。卓見をもった巨材がことごとく時流から排斥されて時代の化石になっているようでは、日本は正常な進展をすることはできないとおもいます。

 物云わば唇さむしならまだいいですが、物云わば命危しの時代では、正論をとなえる人間はいなくなってしまうでしょう。

 軍がマーシャル群島の攻防に、それほどの自信をもっているならば、その戦いに勝った曉でもいいとおもいます。その時を好機として和戦へふみきってもらいたいものですねえ。

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  1. 2016/10/04(火) 08:44:01|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 四面を敵にして、完勝することなど不可能なことですし、第一、戦争は目的があって行なわれるものでありますから、一応勝負の山場にきたら、次の和平交渉によって目的を可能な限度に果すようにすべきだとかんがえます。

 交戦国がへたばるまで戦いつづけるということは、決して賢明な策だとはおもえませんし、又仮りに、米英のような物量の国とたたかって勝ったとしても、日本も当分立上れないほどに破壊され疲弊してしまうのではないかとおもわれます。

 その時はロシアに無抵抗に蹂躙される時でしょう。米英と血みどろになって戦ったあげく、共産革命という重圧をこうむることになるわけです。わたくしは日本が、疲弊しない中にアメリカとも中国とも手をむすぶべきだとおもいます。

 日露戦争のとき、満州軍総司令官大山大将や総参謀長児玉大将は、時の政府にたいして、この戦争は奉天会戦をもって最後とし、あとは外交交渉をもって有利な講和へみちびくよう主唱したということですし、元老伊藤博文も、開戦と同時に金子堅太郎と杉山茂丸を米国に派遣して、後日のポーツマス会議の素地工作をさせたときいております。

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  1. 2016/10/06(木) 09:15:34|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 とにかく、明治の為政者や将軍は、非常に思慮があり大局を見る目があったとおもいます。

 それにくらべて今の政府と軍首脳部には人物がおりません。

 人材はことごとく野にはじき出されて、言動を封じられ、綜合的洞察力と判断力の不正確な連中が、小我にたよって指導しているとしかおもわれません。

 第一この戦争の目的は、そもそもの初発が自国の権域の拡大というところにあり、それがだんだんに侵略的な形になり、ついには大東亜共栄圏の確立という大理想に発展していったわけでありますが、理想そのものは立派でも、あくまでも自分の行為を正当化し合理化するために、後からかぶせた冠でありますから、実質がてんでととのっておりません。

 理想そのものはたしかに立派でありますから、日本民族の誇りにかけてやりとげるべきですが、武力だけで一挙になしとげられるものとはおもわれません。これだけのことを為し得るには、まず日本内部をもっと整えねばなりませんし、日本人自身が高い道義を身につけて、道をもって屈伏させていく方法を講じなくてはならないと考えます。とにかく、戦いは中部太平洋で一応けりをつけるべきだとおもいます。

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  1. 2016/10/07(金) 09:57:15|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 その前に、中国と和平をむすんで、中国を介してアメリカに交渉すべきです。」

 老いた先輩に説くことがいかに無駄であるかを知っていながら、戸松は拳をふるわんばかりにして熱心に語りつづけたのであった。

 先生は純情な少年のようにベソをかかんばかりにして感じ入ってきいている。先輩と後輩の位置が逆転してしまったようだ。

 「頭山先生は軍事のことはわかりませんから、大いに戦ってアジアの敵を駆逐すべきだという、一切なりゆきにまかせるという見解に立っているように見えますし、萱野先生は、戦争は負けるにちがいない、道義がほろんでいては勝ったとしても決してよい結果が生まれるものでないとして、負けてからあとのことを考えておくべきだといっていますし、前田中将などもほとんど同じ考えにたって、時世の外に手をこまぬいております。

 それに現政府の閣僚ですら東条を動かす力が皆無であるとするならば、一体誰が日本の危機をすくうことができるのでしょうか」

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  1. 2016/10/08(土) 10:50:34|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「うーむ」

 先生は腕をくんだまま深く考えこんでしまった。しばらくたって、

 「和平工作を劃策する者は、案外ほかにもいるかもしれません。中野薫が圧殺された原因も、そこいらにひっかかっているのではないかと云う人もおりますからね。

 親英派の人達がごそごそ動いているのを、東条さんが神経をとがらして探索しているということです。近衛さん(文麿氏)と中野君あたりが通じあっていたというので、近衛さんの身辺は憲兵に厳重に監視されているということもききました。しかし、これは口外しないで下さい。あくまでも噂であって事実を確認した話ではないですからね。

 まあ、そういう噂があるからには、和平工作にうごいている人が何人かいるということを物語っていますね。ただ、それが、いたって困難で危険であるということは事実のようです」

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  1. 2016/10/09(日) 10:39:03|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「こうなったら、東条に直接ぶつかってみようと思うんですよ。人から人へいろいろ工作してあるいていると、神経質な東条には何か暗策しているようにうつるでしょうから、正々堂々と意見を提出し、面会をもとめてみようとおもいます」

 戸松は昨日からの決意をひれきした。

 先生は「うーん」と心深く嘆じているかのような表情で、しばしおし黙っていたが……やがて、ぐっと眉をあげて力づけるようにいった。

 「それもいいでしょう。あなたらしい態度です。東条さんも軍人です。堂々と名乗りをあげてゆく者を敵視することはしないでしょう。自分の信ずる道を堂々と訴えていくことは、正義の士のとる道だとおもいますね。

 しかし、もし、東条さんがあなたの案を無礼な態度で拒否した場合はどうしますか」

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  1. 2016/10/10(月) 10:07:56|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 気性のはげしい戸松にたいして、先生はちょっぴり老婆心をもらした。

 戸松は思わずニヤッと笑いをうかべ、

 「ぼくは東条を殺害したりなどはしません。東条を説得できれば本望で、これにすぎる満足はありませんが、まあ、一蹴される可能性がつよいとみなければなりませんね。

 もし拒否されたら、上海にかえってもう一度方法をねりなおしてみることにします。今の状勢では、東条一人を抹殺したところで、ただちに政府の方針が軟化するとは思われませんから。

 なんでも、戦争に批判的な人間はどんどん召集されて、前線の危険地帯に送られているということですが、ひょっとしたら僕もその部類に入れられるかもしれません。

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  1. 2016/10/11(火) 09:32:18|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 事成らずして若しそうなったら、その時は又その時で、もっとも勇敢な兵士として戦うつもりです。あたえられた場にたって全力をつくすというのが、僕の人生態度ですから……

 楠正成が自分の意見を用いられず、討ち死にを覚悟で湊川に出陣していったあの態度は、決して古い時代だけのものではありませんね。現代にも立派に通用する武士道であるとおもいます」

 「実に立派な態度ですね。わたしも、アメリカに長く学びアメリカに友人を沢山もつ人間ですが、若し日本が危くなってアメリカ兵が本土にせめてきたら、その時は老骨をもって戦います。たとえ一兵たりともたおしてみせます。国土がおかされた時には、老人といえども座していることはできません。竹槍でも手にして立上っていくのが国民の道ですからね」

 先生は若者のように頬を紅潮させた。

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  1. 2016/10/12(水) 11:05:36|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 つねには平和と人道をときながら、いざとなると民族的立場にたった情熱と背骨をみせる先生を、戸松は今更のごとく、たくましく底力ある国士として見直したのであった。

 先生はキリスト者である以前に愛国者であり、社会主義者である前に立派な日本人だったのである。平和と人道の名におぼれて本末、自他の区別をわすれるようなことはなく、主義にとらわれて国体をわすれるようなことはなかった。

 戸松はふと、胸の中に安部、萱野、頭山の三つの完成された人間像を並べてみた。いづれも非凡な人たちであるが、その求め進んだ道のちがいによって、人間としての香りと色彩を異にしているといえる。

 安部先生の老いて尚少年のごとき純情、円熟し洗練された個人主義、現実社会の救済に一身をささげてきたキリスト教的社会主義、それでいて、国体と日本思想を尊重し信奉する愛国者としての風格……日本の大地にどっかと根をはった巨大な楠木のような人格だ。

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  1. 2016/10/13(木) 10:32:17|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「天つ神われ愛でたもうわれはただ為すべきことをなせば足るなり」

とよんだ老境の先生の心は、キリストからも社会主義からも超越して、日本そのものにかえっていたのであろう。

 安部先生にくらべると、萱野先生と頭山翁は、中国思想による完成者だといえる。

 天の時、地の利をはかって軽挙せず、ゆうゆう自適、不遇の時をたのしむ萱野先生は、いかにも儒教的不惑の人で、日本型諸葛孔明である。これは磯風に鳴吟する老松といえようか。

 頭山翁にいたっては、宇宙の玄道にたつことまさに老子のごとく、平和も戦争も、日本も中国も世界も一つのものである。こうした広大深遠な思想にたちながらも、日本人としての立場をつねに自覚し発現してきたところに、雲をよび雲を発して動かざる霊峰富士の風格を感じさせるのである。

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  1. 2016/10/14(金) 09:16:42|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 これは又、人跡未到の深山に、千年におよぶ年輪をきざんで、黙然として天地を一つにむすぶがごとくそびえている巨杉であるといえよう。

 よき師にめぐりあったものよ……戸松はしみじみと思う。そして又、いつの間にか自分がこれらの師の志を後継する立場にたちいたっていることにおどろく。

 (安部先生から杉山茂丸のことを聞かされていたので杉山については十分知っていた。歴史の上では金子堅太郎が表面立って活動しているが、日米交渉を伊藤博文に、献策したのは杉山であった。この杉山は安部夫人と従兄妹であって、而も小村寿太郎の側近山座円治郎と先生は幼友達であったから、もし同志社に学ばず東京遊学していたら玄洋社の幹部として活動していたであろうと云われていた。頭山翁も先生のことはよく知っていて、安部は黒田藩、武道指南役岡本権五衛門の二男であると語ったことがあった。)

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  1. 2016/10/15(土) 08:51:43|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 憲兵と特高の追求

 その夜、戸松はホテルにあって、首相兼陸相である東条英機閣下に提出する書類をかきつづけた。

 まず、中国現地の状況を報告し、それに立脚した自分の事変解決法案(大略は梅津関東軍司令官との対面の場に掲載)を書きつらね、さらに和平締結を急ぐべき理由を提言してこれをつよく要望した。

 翌朝彼はこの書類をもって陸軍省副官部に出頭した。応待にでてきた大尉に書類をわたし、陸相にこれを読んでもらいたいこと、尚くわしくは直接申し上げたいから面会の時間をあたえてほしい旨をつたえた。

 大尉は、書類だけはあずかっておくが、面会は確約しがたい。しかし、大臣から面会してみるという声があれば、追って日時を知らせることにする……といって、宿泊所である第一ホテルの電話番号を書きとった。

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  1. 2016/10/16(日) 13:31:14|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 宿にかえった戸松は、ゆっくり読書しながら陸軍省からの連絡をまつことにした。おそらく即日というわけにはいくまいから、一週間や十日は気をながくして待たねばなるまいと思った。

 ところが、三、四時間ほどもたったころ、憲兵が二人どかどかと部屋に入ってきた。五、六日前から彼らの来襲はひんぱんになっていたので、又かと思うぐらいでそれほど深刻には考えなかった。時間的にも、今朝の陸軍省における交渉とこの憲兵の闖入とを、むすびつけて考えるには早すぎた。

 しかし、彼らの態度は大分強硬で厳重であった。一切の書類をしらべ、書きかけている手紙を覗いては、誰にかくのか、何をかくのかと、まるで尋問するかのようにききただす。

 一通り検閲してしまうと、今度は入口に椅子を二つ運んできて、これに腰かけていかめしい顔をして監視しはじめた。

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  1. 2016/10/17(月) 09:59:13|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 食堂にいっても、便所に立ってもついて来る。とてもたまったものではない。直接堂々と陸軍省にのりこんだことが、けっきょく足先に引火する結果になってしまったことに戸松は気づいた。

 おそらく、書類など真剣に読んでくれなかったのであろう。それどころか、意見書をふところに単身面会をもとめてきた青年を、暗殺団の一人とでも思ったことであろう。

 なんという無茶な弾圧政治だ!! 戸松は胸の中に熱湯のようなものがたぎるのを感じた。

 陸軍省はもはや日本国民のものではない。日本国内に築かれた敵城のようなものだ。そこでは彼らは自分の意にしたがう者のみを是とし、彼らの意に追従しないものをことごとく非として、物云わぬ石地蔵のようにしてしまおうとする。

 近衛前首相が、英国に和平の糸口をもとめようとして策動し、憲兵につきまとわれて軟禁状態におかれているという風聞も、おそらくまことであろう。

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  1. 2016/10/18(火) 13:07:51|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 日本の危機を暍破して東条に抵抗し、自ら命をたった中野氏の死が、圧殺であると噂されるのも、なるほどとうなずかれることだ。

 とにかく、この憲兵の監視から、なんとかしてのがれなければならない。このままでは軟禁されているのも同然だ。

 二人は憲兵のすきをねらって、逃げだすことをしめし合わせた。

 三日目の朝、運よく憲兵の姿が見えなかった。それっ今だっ……というので、荷物をまとめて逃げ出し、こっそりと丸の内ホテルにうつってしまった。

 「やれやれ、これでやっと落着いた」

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  1. 2016/10/19(水) 10:44:29|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 二人はほっとしてくつろぎ、今までがまんしていた東条内閣への不満を口角泡をとばしてぶっつけあった。

 しかし、この自由も半日にすぎなかった。夕刻にはどこでどうしらべたのか、今度は警視庁がかぎつけてやってきた。又二時間おきの臨検である。

 「国家の危急を心配して奔走している愛国者にたいして、なんという無礼なあつかいをするのだ。国家国土を監獄にし、国民を悉く囚人に取扱って戦に勝てると思うか」

と文句をつけてみたが、彼らの答えは単純であった。

 「上司の命令だ。君達は危険分子だ」

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  1. 2016/10/20(木) 10:38:57|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 命令一つで動いている彼らには、正義は通用しない。彼らは良心で共鳴しても、行動では検束しなければならないのだ。悪法の下僕である彼らに正論をもってさからうよりも逃げ出すにこしたことはない。

 不運なときには悪いことが重なっておきるものであろうか。園田の痔病がいよいよ悪化して、放置できないような症状になってきた。

 そこで一先丸の内ホテルを引きあげ、園田は入院して手術をうけ、戸松は米倉宅(安部夫人の友人)に身をかくすことになった。

 二、三日たって、大泉の長兄と大塚の三兄の家を訪問した戸松はおどろいた。多少でも縁故のあるところには、ことごとく特高警察が立ち廻っていたからである。

 そのうちには、米倉宅にいることをかぎつけて、ひんぱんに姿を見せるようになった。

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  1. 2016/10/21(金) 09:05:28|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 なんの為に、かくまで執拗につきまとわねばならないのか、戸松にはまったく気狂い沙汰としかおもわれない。

 あれほど堂々と運動目的と意思表示をしてみせたにもかかわらず、それを信じようとはせず、陰謀を劃する者として疑い、白紙に証拠の筆跡をさがすような徒労をつづけているのである。

 もっとも、特高自身はこれまでの戸松の行動や、運動内容をしって追いかけているわけではなく、上部からの下命どおり、危険な反戦主義者であると思いこんで、彼らの職務に忠勤しているにすぎなかった。

 このように異常性にとんだヒステリックな状勢のもとでは、おちついて本をよむことも、気楽に先輩や知人を訪問することもできない。一応東京をはなれて、次の方策をたてた方がよさそうである。

 園田は一週間で退院するや、そのまま伊東温泉の古久屋に療養をかねて退避してしまった。そこで戸松も、郷里の能代にかえって、しばらく静かに時をまつことにした。

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  1. 2016/10/22(土) 11:03:06|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

  胸中に生かしてくれ

 彼はこのことを安部先生に報告すると、さらにその足で頭山邸をおとずれた。

 あいにく翁は不在であった。病気療養のため、熱海の鶴屋にいっているという。たいした病気ではないということなので、そのまま熱海に追いかけていった。

 旅館について案内を乞うと、翁は今海岸にでて散歩しているという。「あがってお待ち下さい」という番頭の声をふりきって、海岸づたいにさがしていった。

 翁は丹前の上に羽織をかさね、秘書の山本老人と旅館の男衆二人を供につれて、のんびりと漫歩していた。

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  1. 2016/10/23(日) 13:37:54|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 いそぎ足で近づいて声をかけると、ゆっくりと振返って、

 「おう……」と一声、合図のような返事をして、君もいっしょに歩け……といわんばかりに、悠然と散策をつづけた。

 歩きながら、男衆相手にかるい笑談をとばしていたが、つと頭に手をやると、

 「最近、髪の毛が黒くなってきたよ。これから大いに若返るじゃろう」

と、みんなを笑わせ、自分も愉快そうに笑った。

 翁がこのように、くだけた態度で笑談をいっているのを見たのは、初めてである。戸松は空高く雄飛していた鷲が、急に鶏に変じたような親近感をおぼえた。

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  1. 2016/10/24(月) 13:39:46|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 ここには深山のごとく幽寂な古老な姿はなく、若さに心ひかれる侘しい一人の老人がいるだけであった。

 身近にいる小人には、天才偉人もただの人に見えるものであるというが、旅館の男衆に互しては、天下の頭山翁もただの老人にかえってみせるのであろうか。

 黒潮をわたってくる生暖かい風にふかれながら、三十分ほどもぶらぶらと歩いたのち、翁と戸松は鶴屋の一室に対座した。

 戸松は、支那事変解決法案をもって登場をうごかすことが不可能であること、意見具申すらも正常に受けとってもらえないことなどを説明し、こんな状態では、おそらくみじめな結果をまねくことになるであろうと慨嘆した。

 翁は終始「うむうむ」とうなずいてきいていたが、自分の意見は一言もはさもうとしなかった。只その一つ一つのうなずきの中に、戸松の意見を肯定するひびきがこめられているように思われた。

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  1. 2016/10/25(火) 10:12:10|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 やがて、翁はおもむろに云った。

 「あなたがこうして度々尋ねてきてくれることは、まことにうれしい。

 だが、頭山はもう年をとりすぎて、あなたの期待にこたえるものは何ももっておらん。あなたはこれから天下、国家の要材として、大いに活動していく人であるから、今日からは一つ、頭山をあなたの胸の中に生かしてもらいたい。

 いよいよ老いこんでいく頭山に会いにくるよりも、あなたの胸の中にあるこの頭山を、いつまでも生かしつづけてもらいたいのじゃ」

 翁の眼はいつになく慈愛にかがやいているように見えた。戸松はかつて、かくまで信頼と愛情をむき出しにした翁を見たことがなかった。

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  1. 2016/10/26(水) 11:03:23|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 さきほど海辺で、これから大いに若返るのだといっていたあの言葉は、その場の座興にすぎなかったのだ。翁はすでに自分の肉体が老衰をきわめ、かっての偉大なる頭山の偶像になりつつあることを悟っていたのである。

 無力になりつつある頭山を憬仰するよりも、頭山の精神をいだいていってくれ……と、翁は魂の継承をのぞんでいるのであった。

 翁はついに老いた。翁は今、遺言をたくしているのだ。日本の未来を祈念しているのだ~と、戸松は思った。

 翁は言葉には出さなかったが、日本の指導者があやまった執念にとりつかれてしまっていることも、戦争に負けるであろうことも知っていたのかもしれない。

 魔力にとりつかれたように奔走する日本の大勢は、実力者といえども一人二人の力では防ぎようがないということもすでに見ぬいていたことであろう。

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  1. 2016/10/27(木) 12:51:07|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 そして、翁も萱野先生とおなじように、日本の指導者と軍部に見限りをつけ、敗残の中から立上る新しき日本の建設者に、期待をかけているのかもしれなかった。

 戸松は深い感慨につつまれたまま、しばし言葉もなく翁の眼を見つめたままであった。全身の機能は流動を停止したかのごとく硬直し、彼の精神だけが微妙な感応にふるえていた。

 やがてのこと、彼は黙ったまま大きくうなずいた。言葉にはならなかったが、翁の志をついで立つことを翁に約すとともに、自分自身にも誓ったのである。

 老人と青年は沈黙のまま、心と心で語りあうかのごとく、しばし互いの顔をみつめあっていた。

 そこへ山本老人が、二人の様子を怪訝そうにうかがいながら入ってきた。

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  1. 2016/10/28(金) 13:39:12|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 つづいて、女中が茶菓をはこび、部屋の空気がざわざわと動いた。

 この変化に戸松も、今までの緊張をとき、平静にかえって云った。

 「先生、中野さんが自刃したとき、先生宛に遺言がのこされていたということでありますが、差し支えなかったら何がかいてあったかお話しいただけませんか」

 これは萱野先生からも頭山さんにきいてみてくれと頼まれていたことであるが、戸松自身にも関心ふかいことであった。

 翁は「うむ」と、かすかにうなづくと、

 「天下、国家のことについては何もかいてなかった。あとをよろしく頼むと書いてあっただけだ。大きな封筒に≪護国頭山満先生≫と首書してあった。

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  1. 2016/10/29(土) 06:47:25|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

その中に先輩、同輩、東方会員、遺族、使用人にいたるまでの袂別の辞と、断片的な心境をかいた紙が十二、三枚いっしょに入っておったよ。それらのものを、この頭山立会いの上で披瀝してもらいたいという中野君の意志だったのじゃろう」

 「断片的な心境の中には、自刃するにいたった直接の原因らしいものが何かあったでしょうか」

 「ない……はっきりしたそういうものは何もなかった。ただ≪決意一瞬、言々無滞、欲三日閑、陳述無茶、人二迷惑ナシ、忠孝父母、母不幸≫とかいた一枚の中に、特高警察と憲兵のとりしらべにたいして、何かがまんならんものがあったということはわかる。それ以外はなにもわからん」

 「僕は今回、憲兵や特高にしつこく追いまわされて、中野さんの気持がほんとうにわかったような気がしました。

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  1. 2016/10/30(日) 11:01:03|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 中野さんが自刃した直後は、勝算のない戦争へみちびいた政治家の責任を強くかんじて自裁したのだろうと考えておりました。

 しかし、自分で和平工作に奔走してみて、もう日本は少数の力ではどうにもならんということがよくわかりました。

 中野さんが日本の危機をさけんで、政府に抵抗すればするほど荒縄で自分の身体をしばりあげるような結果になり、ついには自分一人の努力ではどうにもならんと悟った心境がよくわかります。

 座して敗戦を待つよりも、潔く自決することが、愛国者としていかに志に生きるゆえんであると考えたのだと思います」

 じっと一点を凝視したまま、戸松の言葉をきいていた翁は、それには直接答えず、

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  1. 2016/10/31(月) 10:18:01|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

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國 乃 礎

Author:國 乃 礎
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国賊売国奴殱滅
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