いしずえ

第二巻受難の巻

 当時の日本は、その年の八月に締結した独ソ不可侵条約の衝撃からまださめきっていなかった。ソ連の極東における軍備の増大におそれた日本軍部と政府が日独防共協定(十一年成立)を、さらにつよめて軍事同盟にかためるべくドイツと交渉中、日本に一言の通知もなく、ドイツはソ連と不可侵条約をむすんだのであった。とんびに油揚をさらわれたように、日本の朝野は啞然として欧州の空をながめていた。そして、この責任をとって平沼内閣は総辞職したのであった。

 その時の尾崎翁の話は、もっぱらこのことで終始した。

 翁は小さな顔に不公平をみなぎらせながら云ったものだ。

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  1. 2017/06/01(木) 15:41:36|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「十一年にむすんだ日独防共協定はドイツには有利であったが、日本にはそれほど意義あるものではなかった。

 ことに今度の日独軍事同盟は、ドイツの意向が英米仏をふくんで相手としているから尚更危険である。それを軍部の連中がドイツの云いなりになって強硬にむすぼうとしたのだからあきれたものだ。これは世界戦争へ足をふみいれることである。

 日本の回答にしびれをきらして、ドイツがとつぜん独ソ不可侵条約をむすんで交渉が中断してしまったことは、かえってさいわいであった。あのままでいったら、世界戦争にまきこまれるところだった。

 ドイツの豹変に今更おどろいたり腹をたてたりするのはおかしい。そんな事ははじめっからわかりきっていることだ。日本の政治家や軍人は世界の状勢をみぬく力が全くない。困ったものだ」

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  1. 2017/06/02(金) 11:02:03|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 そのほか、渡欧中にみたヨーロッパの社会情勢など話したあと、色紙を一枚書いてくれた。それには特徴のある字で、

 いまさらに 愕く人の鼻の下
     長きに似たり 知らずいく尺

と書いてあった。これは独ソ協定にあわてている日本の指導者を風刺したものであった。

 その後十五年九月には日独伊三国同盟が調印され、日本はヨーロッパにおけるドイツの勝利にひきずられるようにして仏印に軍をすすめ、ついに十六年にはアメリカと太平洋において決戦することとなったのである。

 あのとき尾崎翁が予測していたとおり、日独同盟はとうとう日本に、のっぴきならない危機をもたらしてしまったのであった。

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  1. 2017/06/03(土) 10:50:33|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 あれから四年目~

 自由主義華やかなりしころには名声をとどろかした老政治家も、軍部独裁の世には訪れる人もないらしく、庭の立木にもうらぶれた淋しさが感じられる。

 玄関に立って案内をこうと、家の中もひっそりとしている。ほどなく出てきた女中らしい中年の婦人に案内されて、ベッドをおいた寝室らしい部屋をとおりぬけて応接間に通された。

 和洋折衷というか、畳の上に応接セットを並べてある。日本間二つをつづけて応接間兼書斎にしたのであろうか、奥の方には事務机やソファーや書物がおいてある。

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  1. 2017/06/04(日) 09:05:06|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 その机にむかっていた小柄な老人が、部屋に入ってきた戸松の姿をみると、事務的な態度で立上り近づいてきた。この前来たときは乗馬ズボンにホームスパンの上衣、蝶ネクタイという、しゃれた英国風のスタイルであったが、今日はワイシャツの上に和服を着用している。あくまでも和洋折衷だ。

 「さあ、どうぞ」

と、戸松に椅子をすすめ、自分もむき合った位置に腰をおろした。

 椅子にもたれるようにして、頼りなげに補聴器を耳にあて、戸松の挨拶にうなずいている姿は、すでに総てがおわった人……という感じである。

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  1. 2017/06/05(月) 11:03:29|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「四年前おたずねしたときは、丁度独ソ不可侵条約がむすばれて、日本があわてているときでした。あのとき先生がドイツとむすぶことは危険だといわれましたが、松岡さん(当時の外相)はとうとう日独伊の三国同盟をむすび、先生の予言どおり世界戦争に突入してしまいました。

 今日もこちらへ来る途々、あのとき話された先生の言葉を思出しておりました」

というと、肉のおちた頬にかすかに生気をはしらせ、うすい白髯につつまれた口をおもむろにひらいて云った。

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  1. 2017/06/07(水) 08:57:04|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「日本のように資源と領土の乏しい国が、孤立主義をとって世界を敵にまわすのは愚の骨頂というものですよ。

 孤立主義はアメリカやソ連や中国のように資源的にゆたかな大きな国のやることで、日本には適しませんね。日本は世界の資源と領土を全人類の利益のために利用するようによびかけ、国際協調主義をとるのが有利です。大国のまねをするのは愚かなことですよ。

 それにヨーロッパ戦争にはあくまでも中立をまもるべきです。そうすれば、英、米、仏はもちろんのこと、独伊もきげんをとりにくるから、外交が下手であっても大変有利ですし、第一次大戦のときのように物資を供給するだけでも経済的に利益がえられます。

 それを、ヨーロッパで戦いがおきると、あわててこちらからわざわざ進んで独伊と同盟したりしたら、自ら火中にとびこむようなものですよ。

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  1. 2017/06/08(木) 11:13:39|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 アメリカという国は、人間の権利と自由をおもんじ、それなくては生き甲斐がないと信じている国で、奴隷となって繁昌するよりも、自由独立の人間として生きていたいとねがっている国ですから、独裁国にはあくまでも反対します。

 日本が独裁国であるドイツやイタリアとむすべば、アメリカの敵意をかりたてることは当然で、世界戦争に発展することは公式のようにあきらかなことですよ。

 ヨーロッパに戦争がおこった以上は、日本が中立さえまもっておれば、諸国がへばったあとに日本とアメリカだけが大国としてのこり、いやでも東洋の主人公になれたのに、そういう天佑があったのに、ドイツと組して共倒れになってしまうとは、ずい分物好きな話ですよ」

 他国の批判でもしているような、第三者的口ぶりである。

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  1. 2017/06/09(金) 14:38:40|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 この人は国会議員としての自分の責任を、なんと思っているのであろうか……

 戸松は少し皮肉をふくめて云った。

 「先生のその卓見を、国策に反映させることができなかったとは惜しいことですね」

 その言葉に反ぱくするかのように、戸松の顔にじっと視線をすえた翁の眼は、憂鬱そうにかげっていた。

 博識をたたみこんだような広いひたい、才気の自由をおもわせるような短くとがった鼻、意志を感じさせる四角な顎、瘦せしぼんではいるが、その顔は八十五歳の精神がまだ健全であることをあらわしている。

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  1. 2017/06/10(土) 13:57:18|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「ちかごろの国会は、反対演説をしようにもできないようになっていますよ」

 翁は不機嫌そうにぽそりと云うと、しばし口をとざし、眼をこらすようにして窓外の一点をみつめていたが、再び戸松の方をむくと、

 「演壇にのぼるには相当数が賛成しなければ登ることができない。その賛成者すらなかなか得られません。

 みんな軍部をおそれて、賛成することに躊躇する状態だ。それでも敢然として主張しようとすれば、命が危くなるからやめろといってみんなで引き止める。

 書類をつくって提出しようとおもっても、議員らが妨害して出させない。新聞には書かせない。演説もさせない。

 こういう状態の中で、国家の安危にかかわる大問題が一部の人間の意志どおりに動いていくのだ。世間はそういうものだとおもって、平気でこれをみのがしている。

 たまたま憂慮する者があっても警告すらすることができない。国家が滅亡するのを黙ってみているより方法がない……」

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  1. 2017/06/11(日) 13:34:22|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 翁は話している中に、だんだんいたたまれない気持ちになってきたのであろうか、椅子をはなれて部屋の中をあるき出した。

 戸松の座っている前を、行ったりきたりしながら言葉はつづく。

 「このままでいったら日本は滅亡してしまう。家でも三代目が一番大切だが、国家でもおなじことです。

 日本も三代目で、もう議会政治はほろんでいる。五十余年政治をやり、政治をきよめ公正にすることにつとめてきたが、日本の政治は、われわれが青年期に理想として抱いていたものとは、凡そかけはなれたものになってしまった。

 日本は官尊民卑の弊がつよく、政党政治はそだっていきそうにもない。西洋の政党を日本にもってくれば、ちょうど軍隊のようになってしまう。結束あるを知っても良心あるを知らず、党派あるを知っても国家あるを知らぬ。これでは政党ではなく朋党だ。

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  1. 2017/06/12(月) 10:11:09|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 しかも、翼賛会のような官制の強力な新運動がおきると、われもわれもと解答してその傘下に走ってしまう。

 もう政党にも日本人にも、ほとほと愛想がつきました。

 こんな社会はつまらない、生きていても面白くもない。早く死んだ方がいい。この年になって自殺するわけにもゆかないし……」

 老人は国家経綸から脱線して、だんだん愚痴っぽくなってきた。

 「安部先生もやっぱり同じ気持でおられるだろう。頭山君などは、暴力で世の中を正そうとしていたが、わたしは安部先生とおなじように政治で正そうとした。

 わたしは頭山君のようないき方はきらいだ。

 だが、わたしの弟は頭山君と一緒に支那革命にいきましたよ」

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  1. 2017/06/13(火) 16:06:08|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 小さな老人が、哲学者のように沈重な身ぶりで「頭山君 頭山君」といいながら歩く姿は、なんとも云えないこっけいさを感じさせる。

 宇宙の真理を五体におさめきったような力づよい頭山翁の人間的魅力にくらべたら、尾崎翁は、知識と才能に支えられて立っているといった感じである。

 尾崎翁は三月事件、十月事件のクーデター首謀者橋本欣五郎大佐と、或る会場で同席したことがあるが、その時、二時間余も隣合わしていたのに橋本は終始ニコニコしているのみで遂に最後まで一言も口外しなかった。彼は仲々の思慮のある賢い人物だ、尠くとも東条よりは器が大きいと評していたことを思い出しながら戸松は翁の言葉に耳を傾けた。

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  1. 2017/06/14(水) 09:16:55|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 歩きながら吐きすてるように怒りをばらまいていた翁は、つかれたのか再び椅子にもどってきた。

 「お話をきいておりますと、先生はもう日本は負けるものとお考えになっているようでありますが、ぼくもこの三ヵ月ばかり日中事変解決と日米戦の和平停結のため走りまわってみて、同じ結論に達しています。

 われわれが意見を主張したり危機を警告したりすれば、国賊のように追いまわす。これでは日本が誰の国家であるのかわかりません。

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  1. 2017/06/15(木) 10:48:17|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 みわたすところ、世界の各国にはイギリスにチャーチルあり、アメリカにルーズベルトあり、国府に蔣介石あり、ソ連にスターリンあり、ドイツにヒットラーありで、その国を代表するような人物が責任をもって政治に献身していますが、日本には国を代表できるような大人物はおりません。居てもみんな舞台からひきずりおろされて、茶番劇のように三流四流の人物がかわるがわる出たりひっこんだりしているにすぎません。

 まったく、政治の無責任時代というほかありませんが、先生はこれをどうお考えになっておりますか」

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  1. 2017/06/16(金) 10:54:06|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 翁は補聴器をとおしてひびく戸松の声をききとろうとして、眼をこらし必死になっていたようであったが、

 「あなたはフランス語やドイツ語を挿入して話すようだが、耳がわるいと日本語でないとよくききとれませんから、一つは日本語だけで話して下さい」といった。

 戸松は思わず吹き出しそうになったのをやっとがまんした。語学の天才も老衰してしまったものだ。彼の東北なまりを、フランス語かドイツ語とまちがえているらしい。

 そこで彼はもう一度言葉に気をつけながら、同じことを繰返さねばならなかった。

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  1. 2017/06/17(土) 00:47:48|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 今度はわかったのか、翁は何度もうなずきながら、

 「どこの総理大臣でもみな命がけで働いているのに、日本だけがぐらぐら変るのはどういうわけかわたしにも分りませんね。それが陛下の思召しでないことだけはたしかだが……

 国務大臣たるものは命のかぎり国家のために尽さねばならんはずなのに、日中事変がおきてからでも総理大臣が七、八回もかわっている。これで本当の仕事ができるはずがない。

 先方の蔣介石はちゃんとああしているのに、こっちばかりぐるぐるかわる。こっちが蔣介石を相手にせずと声明するまえに、向こうでこっちを相手にする気がなくなってしまうだろう。

 蔣を相手にせずと云いながら、ちゃんと相手にして戦っているんだからおかしな話ですよ。

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  1. 2017/06/18(日) 14:41:13|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 昔流にいうならば、内閣をなげだした連中は、みな割腹して責任をはたせなかったお詫びをしなきゃあならんところだ。今はまあ、そういうわけにもいくまいから、再び世表に出ないというぐらいの気概をもっていなければならんとおもうが、みんな平気なもんだ。

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  1. 2017/06/19(月) 08:38:09|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 近衛さんなんか何べんも出たり入ったりしたからね、見識のないこと甚々しいよ。日本の政治はまずこれを改めなきゃ駄目だ。

 ところで、あなた方若い人は戦争というものを、どういう風に考えていますか」

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  1. 2017/06/20(火) 08:42:21|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「そうですね、戦争は必要悪ですね。

 これまでの人類の歴史をみると、戦争が社会の革新と進歩をもたらしてきたことはたしかです。

 頭山翁はよくアジアは一つ、世界は一つといわれますが、一つの世界観こそ人類の最終の目的であり、理想だとかんがえます。

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  1. 2017/06/21(水) 08:46:52|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 リンカーンが白人としての優者の立場から黒人を解放しようとしたのも、人類は同胞であるという一つにむかっての一つの動きであったとおもいますし、またキリストが奴隷民族の反抗を愛にかえて人類愛をさけんだのも、やっぱり一つにむかっての志向であったとおもいます。マルクスが貧しい階級の救済をさけんだのも、やっぱり最終理想をめざしたものであったと思われます。

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  1. 2017/06/22(木) 08:51:30|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 すぐれた人々はみな人類の理想をめざして、大衆をひきつれて前進しようとしたのでありますが、現実の社会で解決しようといそいだ者は革命とか戦争を引おこし、未来に夢をかけた者は神をとき道をとくことになったのだとおもいます。

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  1. 2017/06/23(金) 08:57:35|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 人類の理想は『競争本能・協力本能・情意本能』の三つの上に築かれた精神によって営まれるものと思われますが、戦争はこの競争の発展的段階における一形態であります。とにかく生命が存在するかぎりは競争はたえません。競争の変化したものとして戦争を取扱う限りは有効でありますが、本能的価値を超えて破壊、否定、崩壊にむかうことは無益であります。むしろ、この競争本能を戦争に向けないで道徳的闘い、芸術上の闘い、不正や不義、無知、薄情に対する闘いに切替えて行くべきものだと考えて居ります。要するに文化競争に方向を向けるべきだと思います。

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  1. 2017/06/24(土) 09:02:32|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 大衆というものは戦争がきらいなくせに、すぐ戦争したがります。競争している中は無意識にやっていますが、それがはげしくなるとだんだん相手方が目ざわりになり、邪魔になり出して、干渉しあうようになり、ついには戦争せずにはいられない心理状態になるのではないかとおもいます。

 しかし、戦争を重ねるたびに、その破壊とぎせいの度が大きくなり、それが罪悪であるということがはっきりしてきたものですから、だんだん話しあいによって同じ方向に前進しようとする傾向になってきたのだとおもいます。

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  1. 2017/06/25(日) 09:10:33|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 今に、すべての人類の理想と方向が一致するようになり、競争本能を共通の利益のために活用するようになると戦争はやらなくなるでしょう。

 ですから、戦争ずきな国は後進国であると云うべきであります。

 先生はさっき、日本のように資源の少ない国は協調主義の方が有利であるといわれましたが、ぼくは損得をこえて、人類は共通の目標をかかげて当然調和していくべきだとおもいます」

 翁は一言一言吟味するような面持できいていたが、

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  1. 2017/06/26(月) 13:21:52|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「さすがは安部先生の弟子だ。

 戦争は遠い将来にはなくなるだろう、わたしもそう思います。

 戦争の原因は、すべての国家が道義を基礎とせずに力を基礎として、狭隘な国家主義にたっているからで、まずこの国家主義を解消しなければだめだ。

 明治のはじめに諸藩が解体して国家が成立したように、国家も又世界に統一されなければならん。それにはまず、国家主義に席をゆずって、今後の国際争議は正邪善悪をもとにして裁かれなければならん。

 軍部はわたしを非国民だといっているそうだが、非国民で結構だ。非国民でなかったら人類の理想にむかって本当の仕事はできません。

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  1. 2017/06/27(火) 16:54:28|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 徳川時代は藩民が中心であったが、明治の大改革をなしとけたのは脱藩した浪人だったから、彼らは非藩民だ。

 これから本当に世界のためにはたらくとすれば非国民ならざるをえない。これは名誉ある言葉で非難の言葉にはなりません」

 話をきいている中に、小さな老人の顔がだんだん空想をゆめみる少年のように見えはじめてきた。

 すでに人生の終末にきている老人の頭脳に、かくもみずみずしい夢がつめられているとは思いもかけないことであった。立憲政治の確立にうちこんでいたこの人が、いつからこのような世界主義にすすんだのであろうか。

 翁の言葉はつづく。

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  1. 2017/06/28(水) 09:39:38|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「戦争の一大原因である国家主義を解消するには、偏狭な国民教育をやめて世界知識をそだてる教育をしなければなりません。

 それにはまず国際語をきめて、これを義務教育として学ばせる。国際語としては英語が適当でしょう。

 政治は英国式の議会政治が一番いい。

 わたしはこういう日本を理想として、五十年の政治にうちこんできたのだが、もうだめだ。日本は道義国家どころか、世界のごろつきになってしまった」

 太い息をもらすと、後はもう何もしゃべりたくないというように、むっと口をつぐんでしまった。

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  1. 2017/06/29(木) 13:11:04|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 この人も、人類の理想をゆびさしながら、空しく朽ちていく人だ……理想に生き、理想にくちようとしている老人の青白い顔を、戸松は今あらためてまじまじとみつめた。

 彼は老人に反ぱくしたかった。というのは老人が人類の理想にむかっての国家の独自性の役割を、全然無視しているからである。政治でも教育でも英国式になることが国際性につながるという考え方は戸松には承服できかねる。彼は世界の国々が個性的に完成したとき、はじめて人類の大調和が可能であると考えている。人間の男女でも、それぞれ別個に個性をのばして成長した暁でなければ結婚できないではないか、人類の統一も同じことであると彼はかんがえる。

 だが、彼はそれを言葉に出して云わなかった。老人の夢をかきみだしたくなかったからである。

 五十年のあいだかかげつづけてきた理想をふみにじられ、失望の中にたたずみながら、たった一つ人類に期待している希望の灯はそのままそっとしておいてやった方がいい。

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  1. 2017/06/30(金) 10:08:55|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

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國 乃 礎

Author:國 乃 礎
   綱 領
政官財・癒着根絶
マスコミ横暴撲滅
国賊売国奴殱滅
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日米安保破棄

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