いしずえ

第二巻受難の巻

 森川氏は尚もつづけて長舌を展開していった。彼は国体をかたり、昭和の維新をかたった。

 この数年来、天皇機関税問題が議会で表面化していらい、国体明徴運動がさかんに行なわれ、戸松も十三軍司令部にいるとき、古事記と日本書紀の研究をさかんにやらされたものであった。しかし、一度唯物論的分析主義をへた彼の顔は、神話の中から発生している国体なるものに多くの懐疑を感じたものである。ところがどういうものか、天皇という存在には深い郷愁があった。彼はこの感情を手がかりにして古本の中をさまよっている中に、ついに国体なるものの内容をつかみ得たのであるが、まだ、理論的にはっきりと把握できているというわけではなかった。日本の国体には科学的理論を越えたものがあるからであろう。そして国体と政体とは別箇のものであり混同してはならないものであることを覚っていたのである。

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  1. 2017/08/01(火) 05:34:00|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 彼は森川氏の当世流の国体論に耳をかたむけながら、この理論をこえたものをはっきり理論だててみたいという思いにとりつかれ、だんだん自分の考えの中に引きこもりがちになっていった。

 無口になった戸松を、森川氏はつかれたと思ったのであろうか。話を途中で打切って、

 「さて、寝ましょうか」

と、云いながら立上った。


  日本の矛盾

 寝床にはいってからも、戸松の頭脳は一つの思いに占められていた。

 日本は基本的に矛盾の上に立っているといった森川氏の声が、もう一度闇をぬうてひびいてきたような気がした。それは戸松自身がつねに考え、究明しつつあることでもあった。

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  1. 2017/08/02(水) 14:25:55|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 森川氏の国体論をきいている中に、彼はその基本的な矛盾が憲法の中にあるように思えてきた。

 「大日本帝国統治の大権は天皇に存する」と規定しながら、統治の実体は勅令をうけた内閣がおこない、天皇という制度は国家の最高官職のような状態になっている。これでは「主権は国家にあって、天皇はこれを行使する最高の機関である」

と議会に重点をおいて軍官の専制を封じようとした美濃部達吉氏の天皇機関説は正しいとみとめざるを得ない。

 しかも天皇機関説が議会と政党政治を重視しているというので、軍部はこれを国体に反する不敬な学説だとして攻撃し、ついに美濃部博士を政治的に葬り、政府(岡田首相)に国体明徴の声明をおこなわせたのであるが、こういう国家の根本問題が、天皇の意思を無視して勝手に論議され決定されること自体おかしいことだ。

 天皇制が強化されればされるほど、天皇御自身の意思とは別に、天皇が制度に利用され、民衆への抑圧となっているように思われる。

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  1. 2017/08/04(金) 14:16:39|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 天皇の官吏、天皇の軍隊、天皇の警察は、国民の上に重くのしかかり、わずかな言葉じりや行動をつかまえては不敬罪だ、反国体だといってわめき立てる。

 天皇制は国家主義の渦巻の中で動脈硬化をおこしているとしか考えられない。

 伊藤博文は憲法の草案を作製するにあたって、

 「ヨーロッパでは宗教が国家の機軸をなしている。しかし、日本には機軸となるべき宗教がない。わが国で機軸とすべきものは皇室のみである。だからこの憲法では、君権をそこなわないことに意をそそいだ」

とのべているが、彼はおそらくヨーロッパのキリスト教にかわるものとして、現人神としての天皇にたいする国民の信仰を考えたものであろう。

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  1. 2017/08/06(日) 14:25:18|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 天皇が宗教的役割をはたし、政治と社会の倫理化の中心であるとするならば、この点もはなはだ不徹底である。明治の中期、キリスト教を信仰する内村鑑三が、第一高等中学校で教育勅語の奉読式がおこなわれた時、礼拝は天皇と神とすることだといって最敬礼をしなかったため、学校を追放されたという事件があったが、この例などは天皇信仰が、日本人の魂の深部においては救い主となっていないということをはっきりと示している。

 日本人の大半は、ある者はキリストの神にその精神を捧げ、ある者はインドのシャカにその魂を托し、ある者はマルクスに生涯をかかげ、ある者は富と金のみにかしずいていて、天皇を信仰の対象に日々その心を養い高める修養をする者はすくない。これでは信仰の対象としてもすこぶるあいまいである。

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  1. 2017/08/07(月) 13:46:23|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 又もし信仰の対象にならないような幼帝とか病帝だった場合にどうなるのであろうか。

 キリスト教や仏教が経典と行をもって神仏にむすばれていくように、やはり教義と行をとおして、永遠性のものを天皇を中心として具現化していくのでなかったら、国民精神の基軸としての役割を果すことは出来ないのではないかと思われる。

 日本の矛盾をぎりぎりの点までおいつめたとき、彼はこういう問題について明快な回答をあたえてくれるような先輩のいないことを残念におもった。そして、これは今後自分自身の力によって解明していくべき問題であるかもしれないと考えたのである。(天皇と神ながらの道の関係?)

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  1. 2017/08/08(火) 13:50:39|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

  官尊民卑の風

 翌日は水戸市で講演した。やはり四、五十人ほどの聴衆であった。閉会後さらに少数の人との座談会があった。

 ここも石岡の場合とおなじように、中国からの全面撤兵の必要なこと、太平洋戦争は今が講和の機であることを理解させることはむずかしかった。

 彼らの考えはこうであった。

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  1. 2017/08/09(水) 13:58:41|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 それほど国運に関するほど重大なことならば、政府がすばやく手をうっていくだろう。そのための政府ではないか。それを反対に、政府や軍部が必勝をとなえて国民を鼓舞しているところをみると、勝算があるからであろう。ハワイやマレー沖などの華々しい戦果をみても、海軍の強大さはわかるではないか。弱音を吐くなーーー。

 戦争という名の急行列車にのった民衆は、目的地にむかうことしか考えてはいない。しばし止まって客観的にかんがえてみる余裕はないのである。そんなことをしていたら、汽車において行かれてしまう。とにかく機関手に運命をまかせて、しがみついてでも乗っていくことだと思っている。

 いつの時代にも人間というものは、その時代の流れに遅れまいとしてあせるものであるが、戦時下にあってはとくに、それが愛国心の表現につながる行動でもあった。

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  1. 2017/08/10(木) 14:53:13|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 アジア同盟の理想をといても、一応賛成はするが、官制の団体でないかぎり、進んでとびこんでくる気にはなれない。

 政府や軍部が大東亜共栄圏の理想をとなえて戦っているのだから、民間でまでやる必要はないだろうーーーとある者はいう。

 いや、日本の政府や軍部は、中国でも世界でも信用がないから民間運動が必要なのだ。中国と日本が手をむすばなかったら、アジアの平和は期待できない。ここに至ってはその空気を、民間の協力によってたかめていくより方法がないのだーーー

と説くと、ようよう賛成はするが、まだ心から納得したような様子は見えない。それは、絵にかいた餅を食べろといわれたに等しく、実感がともなわないもののようであった。

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  1. 2017/08/11(金) 18:44:55|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 八十年前に封建制はたおれても、自由民権の嵐の中をくぐってきても、以然として民衆の政治意識はひくく、自分の意思、自分の判断、自分の理想を、政治の中にどう生かすかということにかけてはまったく無能であるというほかはなかった。

 いかに正しい主張でも、いかに立派な理想でも、無名の人間が説けば価値が乏しい、いかにつまらぬ内容でも、高位高官の人間がとけば、金言でも得たかのように直ちに同調していく。官尊民卑の風は流行病のように民衆の心に巣喰っていた。

 事大主義的日本人には主体性自主性という自我意識が乏しい、これは家族主義の一断面である欠陥弊害から来ているのではないか。

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  1. 2017/08/12(土) 13:04:53|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 その夜、東京にかえった戸松は、翌朝東芝ビルに電話をかけてみた。さいわい、前田中将は東京に出ている。

 時間を見はからって会いにいった。精神的に疲れているときには、何んとなく会ってみたくなる人である。

 「やあ、元気だったかね。動きすぎてひっくくられているんじゃないかと心配していたよ」

 闊達な笑いをうかべながら、椅子から立上って迎えた。

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  1. 2017/08/13(日) 08:52:41|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「御忠告どおり、憲兵と特高にはうるさいほどつけねらわれました。とくに東条に直接進言しようとして面会を申込んでからはひどかった。暗殺団の一人と間違えられたのではないかとおもいますが、とにかく一挙手一投足きびしく監視されました。いたたまれなくなって、秋田へ逃げていきましたよ」

 「それは大変だったろう。しかしまあ、それくらいですめば君の為にはいい体験になったよ。

 東条もこのごろ、大分神経質になってきているようだからねえ。陸軍内部でも、成り行きを心配する者がぼつぼつふえてきているよ。そういう連中はみな無期限に突入していく戦争に反対しているんだ。しかし、これは相手の肚がわかっていないと、誰にもかれにも云えないことだがね」

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  1. 2017/08/14(月) 10:07:30|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 中将は相変らず、豪放のようで用心ぶかい。戸松には日本の指導階級のこうした態度が、どうにもにえきらないように思えてしかたがない。そういう考えの軍人がなぜ結束して主張しないのだろうかと不思議に思うのである。

 「ぼくは昨日、一昨日の二日間、石岡と水戸で講演をしましたが、もっぱら講和による和平論をといてきましたよ。聴衆にはどうもピントが合わなかったようでした。みんな軍を信仰していますからね」

 中将は大きな眼を一層大きくして、

 「そういうことを公言してよく無事だったねえ。警官が入りこんでいなかったのかね」

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  1. 2017/08/15(火) 14:18:16|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「そういうことを公言してよく無事だったねえ。警官が入りこんでいなかったのかね」

 「いや、きていましたよ。暴力で妨害しようとしましたが、司会者の森川君がなかなかの人物ですから、反対に威圧して堂々と最後までつづけました」

 「今の時節、なかなか元気のいい話だ。青年がうらやましいよ。われわれがそういう演説したら『軍事上の造言飛語罪』かなにかで逮捕されるかもしれんよ。

 今の世の中は主戦論者は愛国者で、和平論者は売国奴ということになっているからね。

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  1. 2017/08/16(水) 13:00:53|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 新聞関係の者がいっていたが、英国の『国民評論』とかいう雑誌に、同盟であった日本や、友邦であったイタリア的に駆りたてた英国の外交を、なじっていたということだ。英人の大部分はむやみに日本を攻撃し、さかんに米国をけしかけているが、しかし、そういう少数の批判をゆるしているわけだ。

 日本ではとても駄目だね。言論の統制がきびしいからね」

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  1. 2017/08/17(木) 09:17:27|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「それがデモクラシーの長所といえば長所になるかもしれませんが、しかし、戦争に突入してから、その原因をああだこうだと非難したところでなんにもならんですよ。それは愚痴というものだとおもいます。そんな詮索は戦争がおわってからでいいですからね。戦争を有利に終結させるにはどう手をうつかという意見なら意義がありますけどね。

 日本も戦争継続か、講和かぐらいの意見発表は弾圧しないでくれるといいんですがねえ。とにかく、すぐに国体に傷をつけるとか、親米派だとかと、妙な風にこじつけて圧迫してきますからね。これでは国民は啞になったも同然ですよ」

 彼はさらに昨夜の独想を思いおこし、あらたまった表情で云った。

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  1. 2017/08/18(金) 13:15:48|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「閣下、ぼくはゆうべ、日本の矛盾について考えてみたんですが、天皇と天皇制は国体と政体との関係であって同一のものではないにもかかわらず殆んど混同しているように見受けられます。どうも天皇制という制度の中にその根があるように思うのです。天皇の大御心とは関係なく、天皇という制度が時の権力者に利用されているとしか考えられないんです。

 君主専制の名をかりた軍官専制だと思うのですよ」

 中将もすかさず相呼応するかのように、

 「それはたしかにあるね。

 東条は天皇尊崇の第一人者のような男だがね、彼は陸相時代主戦論の強硬論者だった。おそらくそれが天皇に奉ずる軍人の道だとかんがえていたのかもしれんね。

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  1. 2017/08/19(土) 14:22:08|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 ところが首相を拝命して宮中に参内してから、大御心がわかったのであろう。いっとき強硬論をおさえる方にまわっていたということだ。そういう点から考えると、天皇陛下はアメリカとの戦争をさけたいという御意思だったと拝察される。

 そのご日米交渉がいよいよ険悪になって、軍も国民の世論も戦争にかたむいていったため、東条自身も元の強硬論にかえってしまって開戦ということになったんだが、一時和平論者になったのは、陸下の大御心がわかったからだと思うね。

 とにかく、日本の指導者は東条のように、めいめい勝手に自分の考えどうりの天皇の意思をいただき、自分のやっていることが天皇親政の道で、反対する者は反国体だとかんがえている傾向は大いにあるよ。

 しかし、君はこれからのびていく人だ。そういうことをつっついて怪我をしてはいけないよ。まあ、アメリカに負けても、そうひどい目に会うことはないだろう。注意すべきはロシアだよ」

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  1. 2017/08/20(日) 16:28:41|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 中将は戦争からも時代からも、はや超越した立場に立って語っていた。その関心事は、日本がどういう敗戦をむかえるかということにあったのかもしれない。

 戸松はさらに石原莞爾中将との面会の模様を報告した。中将は終始にこにこと面白そうにきいていたが、石原中将が癇癪を起して云った言葉を語ると、「わっはっは、わっはっは」と大笑いし、

 「石原の仏がかりと、君の神がかりとの勝負はさぞ見物だったろう。一緒について行って見たかったものだよ」

と云いつつ愉快そうに笑いつづけた。

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  1. 2017/08/21(月) 09:10:35|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

  伊勢神宮参拝と祈願

 亜細亜同盟の別働隊の活動を合せ 現地軍総軍 畑俊六総司令官、北支軍横山勇司令官、中支軍沢田茂司令官、南支軍阿南惟幾司令官、そして関東軍司令官梅津大将、朝鮮軍司令官板垣大将等の諸将軍に賛成支持激励され乍らも日本では殆んど手も足も出なかった。早急に旗を巻いて上海に帰るべきであったが、今、既成事実をつくっておくことが他日(戦後)芽を吹き、革新運動に役立つことになるであろう。現は無駄であるが、種を蒔いておくことはやがて芽生え稔る時が必ずくる。日本民族の将来のためにやれるだけやるまでだと戸松は決意した。

 昭和十八年十二月三十日夜、戸松と園田氏は東京駅をたって西にむかった。

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  1. 2017/08/22(火) 14:32:02|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 秋田からわざわざ送りに出た鈴木次郎氏が、古びたオーバーの衿を左手でかき合わせるようにして、右手を高くふりながら汽車を追っていた姿が、東京での活動の一切の結論であるかのようにわびしかった。

 明後日は十九年元旦、二人は日本での年始を、伊勢の皇大神宮でむかえ、民族の祖神をあおぎつつ、わが魂の自覚をあらたにするつもりであった。

 あら玉の年のはじめのことほぎとは、自分自身のあらたなる自覚にほかならない。心をあらたにして、喜び勇んで出発することが新年の意義であると、戸松はかんがえる。

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  1. 2017/08/23(水) 14:42:24|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 日本における活動に、失敗という終幕をとざした今、伊勢の大御神のまえに立って、清浄無垢な心で、日本人としての真実の行動をもっと深くかんがえてみたい、そして神の足下であらたな決意をかためて出発をはじめたいというのが、彼のねがいであった。

 年末のせいであろうか、車内は大きな荷物をもった乗客がいっぱいで、汽車が動き出してからも座席をもとめる人々が、車から車へわたりあるいて、しばらくの間右往左往がたえなかった。

 戸松と園田氏は、車の中程に向きあって席をとることができた。

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  1. 2017/08/24(木) 14:05:37|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 川崎に近づくころには、車内もすっかり落ちついてきたので、カバンの中から本を一冊ぬき出して、膝の上でぱらぱらと頁をめくってみた。しかし、どうも本気になって読む気がおきてこない。

 車内の照明がくらいせいもあったろうが、なんとなく心身がたるみきってしまったという感じがあった。

 「なんとなく疲れたよ」

 独り言のようにつぶやくと、新聞に眼をとおしていた園田氏が、顔をあげると、おだやかな慰めるような表情でいった。

 「そうだろう……ゆうべも汽車だったからねえ、今頃になって疲れが出たのだろう」

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  1. 2017/08/25(金) 10:36:00|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 茨城県での演説会のあと、伊東からひきあげてきた園田氏といっしょに、在京中世話になった先輩や知人を一まわりし、そのまま連れ立って秋田にかえり、一週間後にふたたび旅立ってきたのである。

 しかも、今度の旅は、日本での行動に終止符にひとしく、もはや内地の人間にたいする期待は一切すてきったつもりであった。

 戸松は本をとじ、膝横におくと、オーバーの衿をふかく立てて、その間に顎をうずめるようにして、じっと眼をつむった。

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  1. 2017/08/26(土) 14:28:34|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 べつに眠いというわけではなかったが、ひどくつかれていた。それは園田氏のいうように、昨日からつづいている汽車旅行のためばかりではなさそうである。疲れの根はふかく、心の底に密着していて、身心のエネルギーをどんどん吸いとっていくのではないかとさえ思われる。

 三ヵ月の間、先輩をときあるき、陸軍省に意見書を出し、あげくのはてに憲兵と特高警察においまわされ、それにもめげず民衆にうったえつづけてきた一切の行動が、水泡のごとくにむなしいものになってしまった今、そのことが彼の全神経、全感覚をじわじわとしめつけて、疲労の底にたたきこんでいるのであった。

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  1. 2017/08/27(日) 21:48:52|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 中国の現地にあって、彼は大陸の眼をもって日本を見ていた――日本は蔣介石を相手にして戦っている。蔣さえたおせば中国は思いのままになると考えていること自体が偏見である。大陸に根をはった共産党が、中国と日本をねらっている以上、おそるべき勢いで興隆しつつある八路軍や新四軍の力をおさえて、蔣の中国統一をたすけてやることこそ、日本の大陸政策の本筋でなければならない。根本的には親日反共の思想にたっている蔣介石を敵にまわして血みどろになって戦うことは愚策である。――大陸における彼の体験による分析は、日本の方針に不信をいだかせ、さらに彼の直観は、四面を敵にした日本の戦略に危険をかんじさせた。

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  1. 2017/08/28(月) 09:20:46|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 現地でえた知識と体験をもってぶつかっていったならば、先輩はいうまでもなく、東条首相をもうごかすことが出来るのではないかと、彼は信じていたのだが……しかし、これは大きな誤算であった。

 大陸から見た眼など、日本には通用しなかった。大陸の状況を分析してみせて、日本の態度をかえねばならないことを説得しても、賛成はしても本気になって解決しようと考えている者は一人もいなかった。もう総てがおわっているにもひとしかったのである。

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  1. 2017/08/30(水) 16:14:47|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第二巻受難の巻

 「おそかりし、由良之助……」と、あきらめきった態度で戸松の背中をたたいた萱野先生――

 「もう戦争には負けているよ……今に見てみろ、北から南から、日本人がこのせまい国土へみんな引揚てくるようになるから……」と激怒していた石原将軍――

 「戦争は負けるよ。君達若いものは、戦後どう建設するかということを考えておいた方がいいよ……」と、活発にうごきすぎて傷つかないようにと忠告した前田中将――

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  1. 2017/08/31(木) 10:02:03|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

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國 乃 礎

Author:國 乃 礎
   綱 領
政官財・癒着根絶
マスコミ横暴撲滅
国賊売国奴殱滅
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