いしずえ

第三巻激流の巻

 はじめの間は、客がどんな用件で来訪したのか、すでに食事をすませてきたのか、それとも家で食べる気でいるのか、さっぱり見当がつかなかった。わたくしと堀下夫人は、家族の人数分の食器を、わけもなくガチャガチャと動かしながら、まごつくばかりであった。

 「家で一緒に食事をしようといって連れてきたんだ。みんなの分を少しづつ減らして二人分ぐらい出来るだろう。それでいいんだ」

 戸松は料理店の給仕にでもいいつけるように、けろりとした顔で無雑作にいった。仕方なしに、わたくしはいいわけをしながら、家族向きの惣菜の皿を、客の前にならべねばならなかった。

   (43 43' 23)

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  1. 2018/01/01(月) 00:00:00|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

謹賀新年

謹みて新年の御祝詞を申し上げま寿

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  1. 2018/01/01(月) 10:00:00|
  2. 未分類

第三巻激流の巻

 こうして、或時は味噌おでん、ある時は五目鮨、ある時は精進揚というふうに、平凡な一品料理の饗応がくりかえされたのである。

 ぜいたくな食卓になれた潘三省の通訳などは、すっぱい五目鮨に、辟易しているようであった。どういうものか、わたくしと堀下夫人の共作の鮨は、いつも酢っぱくなってしまうのだ。客の渋りがちな箸のはこびを見て、わたくしはいたたまれないような羞恥に、心をけずりとられる思いであった。

 「この鮨は、一寸酢っぱいですなあ。嫌いなら残してもいいですよ」

   (43 43' 23)

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  1. 2018/01/02(火) 00:00:00|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 戸松は平然とした顔でいった。

 食事はいたって粗末で鄙びたものであったが、そのあとの歓談が御馳走そのものであった。盆に盛り上げた南京豆のからをカサカサむきながら、話は上海と東京を中心として、全アジア、全世界の戦争、政治、文化にとひろがっていった。そして最後にはよく、ヒットラー、ムッソリーニ、スターリン、チャーチル、ルーズベルトなど、世界をひきずりまわしている巨額の人物評や、蔣介石、汪精衛、東条などアジアの指導者の品定めがおこなわれた。

 客達は時の移るのもわすれて談笑に興じ、今夜の食事は実にたのしかったと、わたくしに厚く礼をのべて帰るのが常であった。

   (43 43' 23)

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  1. 2018/01/03(水) 00:00:00|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 わたくしは何度か、客を食事にまねく時には、前もって知らせてほしいとたのんだ。人を招いた以上は、出来るかぎりの準備をととのえて待つのが、女の常識であった。

 しかし、戸松には、女の細かい心づかいは通じなかった。日頃自分の食べる物を、分けあってたべながら、心ゆくまで語りあうことが、最良のもてなしであると、彼は思っているのにちがいなかった。

 たしかに、厳密な意味では、それが本当の饗応というものかもしれない。

   (43 43' 23)

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  1. 2018/01/05(金) 13:20:24|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 一汁一菜の粗飯の後に、質素な茶室にこもって、宇宙の神秘に耳をすまし合い、心の底をぎりぎりの点まで見つめ合った戦国の茶人たちの茶会にしても、そうだった。けっして、御馳走の多寡が問われたのではなく、いっぱいの茶の湯をとうして、心と心の結びに重点がおかれたものである。

 そこには、御馳走しているんだという気負いもなければ、ひけらかしもない。ましてや、無理や負担も感じない、一椀の茶を、一皿の肴を、ともに等しく分かちたいという、心の真実があるだけである。

 裸の心は、そのまま、あらゆる達道の域に通ずるものであるらしい。戸松は野人のままにて、修練の極致にたっているすぐれた佗茶人の心に通じているといってもよかった。

   (43 43' 23)

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  1. 2018/01/06(土) 15:54:37|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 「旨いでしょう、どうです。もう少し」彼はなんの躊躇もなく、こんにゃくの味噌煮を客にすすめた。

 ホテルで、洋食ばかり食べているという公爵令息は、

 「うまいですよ。もう少しもらっても御迷惑じゃないですか」

と、遠慮がちにお代りをするのだ。

 この令息は、こういう料理ははじめて食べたので、実に珍しいといった。わたくしは恥入ったまま、背をまるくしてうつむいた。こんにゃくの味噌煮のようなものは、料理の中に入らないと思っていたからである。

   (43 43' 23)

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  1. 2018/01/07(日) 14:41:19|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 わたくしは、客の給仕をしながら、よく吉川英治の描く武蔵と光悦母子のことを考えていた。

 蓮台寺野の丘で、吉岡清十郎を斬り倒した武蔵が、血臭い匂につつまれたまま野末にさまよい出、そこで野点をたのしんでいる光悦の茶席によび入れられる。光悦の母の妙秀尼のすすめる茶碗をどう扱ってよいかに、彼は一瞬とまどう。

 「作法が茶事ではない、作法は心がまえー武骨者なら武骨者らしく飲むのがよい」という妙秀尼の言葉に、彼は茶碗をむんずとつかんで、がぶりっと飲んでしまう。彼は心しずかに茶碗をおく、彼はさらにその茶碗の美に心うたれ、作者が光悦自身であることを知って、その力量と人物の深さに驚愕する。光悦母子の心は、彼にゆったりとしたやすらぎと充実感をあたえ、さらに彼の心の眼をあらたに広く深く開いたのであった。

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  1. 2018/01/08(月) 14:02:10|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 ありのままなる野性にて、彼は茶の型をこえて茶の深奥にふれ、光悦のきわめる芸術の世界にまで肉迫し得たのである。

 わたくしは、戸松の常識をはずれたような客のもてなし方に、達人武蔵の野性的真実を、しばしば感じた。そして、はじらう自分よりも、彼の方がはるかに誠実で正しいのだと、我と我心にいいきかせつづけたのであった。


  招 集 令

 「奥さん、御主人がおよびよ」

 庭で洗濯物を干していると、堀下夫人が二階の窓から顔を出してよんだ。

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  1. 2018/01/09(火) 11:14:08|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 残りを手早く干して、二階に上ってみた。客間には、戸松と篠原がテーブルをはさんですわっていた。戸松はわたくしの顔を見るなりいった。

 「又、日本に帰らなきゃならんよ。今度はあんたもいっしょだ」

 わたくしは、きょとんとして彼をみつめた。

 ふと、和平工作が新段階に入ったのかな……という思いがちらついた。

 「帰っても、多分もう一度上海に帰ってこられるとは思うけどね。しかし、はっきりしたことは解らないのだよ。或いは、帰ってこられないかもしれない。だから、あんたも一緒に連れてかえることにする」

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  1. 2018/01/10(水) 15:43:41|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 何時も単刀直入にいう彼に似合わず、いやに遠廻しないい方をする。なにか複雑なわけがありそうだと感じた。

 「いったい、何事がおきたというんですの?はっきり仰云ったら、どうですの」

 戸松は、もっともだ、というように苦笑した。そしていった。

 「父から電報がきてね、十三日正午までに、近衛師団に入隊しなければならない」

 「なに……入隊ですって……それじゃ、召集されたんじゃありませんか」

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  1. 2018/01/11(木) 16:16:08|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 突然、足をすくわれたように、わたくしはへたへたと、そばの椅子に腰をおとした。

 篠原が、手をあげて何かいおうとした。しかし、同時に発した戸松の声におされて黙ってしまった。

 「いや、今も篠原君と、これは何かの間違いではないかと話していたところなのだ。なにしろ、父からの電文だけでは、令状の内容はよくつかめない。現に今、現地で軍務についているんだから、召集令がくるというのが、おかしいと考えているところなんだよ。やはり日支事変解決運動で東条及び軍当局が応召処分に出たのであろう。だとすればもはや免れることは不可能だ。つまり事故召集、罰則処分召集だろう。でなければ十三軍司令部にいる者を近衛師団に応召する筈はない……」

 戸松は再び電報文をたしかめるように凝視した。

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  1. 2018/01/12(金) 10:20:46|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 「令状がきたことは確かなんだ。とにかく行かねばならん。行って事情を訴えれば、あるいはもう一度帰ってこられるかも知れない。しかし、当にはならん。軍の命令は、手違いから発せられたものであっても、従わねばならないことが多いからだ。十三日まで五日しかない。おそくとも明日の船にはわり込むことにしよう。船に乗ってから航行が遅れたのは弁解が通るが、上海でぐずぐずすることはゆるされない。さっそく、帰国の用意にとりかかってくれ」

 わたくしは、しばし黙然としたまま動かなかった。身体中の神経が、一度にふっつりと切れてしまったかのように、あらゆる感性が停滞し、植物のように、考える力も動く力も失っていた。

 「このごろは、手荷物は一人二箇しか送れませんよ。よく考えて荷物をまとめて下さい。荷造りはぼく達がやりますから」

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  1. 2018/01/13(土) 10:23:34|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 篠原の声が、行動をうながすように、きびきびとひびいた。だが、やっぱりわたくしは、ぼんやりと虚空をみつめたままであった。

 「おい……今日中に荷物をまとめなきゃ駄目なんだよ」

 戸松がどなりつけるようにいった。わたくしが頷いたのをたしかめると、彼はさらにつけ加えた。

 「荷物は二箇しか送れないそうだからね。行李と蒲団包みを一つづつしか送れないよ。トランクと支那かばんに着物をつめるだけつめてくれ。それはぼくが手にさげて行く。着物と蒲団以外のものは置いていくことにしよう。さあ、すぐ整理にかかりなさい。

 ああ、そうだ、篠原君……」

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  1. 2018/01/14(日) 14:06:26|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 戸松は立上りざま、今度はあわただしげに篠原によびかけた。

 「君、いそいで村上君に連絡とってくれ。船の交渉は彼にたのんでおいた方がいい。切符がとれたら、今夜、こっちにまわって来るように。今度のことを打合せよう。

 ぼくはこれから熊剣東に会って来る」


  熊剣東将軍の友情

 戸松は内地から帰って一ヵ月余になるが、まだ周仏海に会っていなかった。

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  1. 2018/01/15(月) 13:40:44|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 なんといっても周は南京政府の大黒柱である。上海に来ることも稀れであったし、在海中も、多くの政治経済の問題をかかえて多忙であったから、二、三日前に面会を申込んで簡単に会えるという代物ではなかった。

 それに、この三月、汪主席が病気療養のため名古屋帝国大病院に入院してからは、陳公博とともに、名実ともに、国民政府の要としての存在になっていた。

 戸松は一ヵ月前、周の腹心である熊剣東に、内地工作の結果を報告し、尚これからの方針について、周仏海と話し合いたいという希望をのべておいた。熊は快くひきうけ、今度行政院長(総理)が見えたら、時間をもらっておきましょうと約束したが、未だにそれは実現されないままであった。

 しかし、出征ときまった以上は、もはや瞬時もぐずぐずしてはおられなかった。自分の考えを、せめて熊にだけでも徹底しておかねばならない。

   (43 43' 23)

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  1. 2018/01/16(火) 17:34:54|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 荷物の整理を放ったらかしにして、彼はすぐさま熊剣東の邸宅をおとずれた。熊の邸は五、六丁はなれたところにあった。

 門前や庭に立って警護していた兵隊達は、戸松とはすでに顔馴じみになっていたから、愛想よく来訪を奥に通じた。運よく、熊は在宅であった。

 熊は戸松の応召にひどく驚いた表情をした。

 「軍務についているあなたが、あらたに召集されるということは、一体どうしたことですか」

 彼はゆっくりした日本語できいた。

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  1. 2018/01/17(水) 15:54:54|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 「さあ、どういう事になっているんですか。郷里の父の電報だけでは、どう判断していいかわかりませんが、いずれにしても、国家の命令ですから、躊躇することなく一応駈けつけていかねばなりません。

 なにかの間違いならば、又帰って来られます。しかし、わたくしの予感では……」

 戸松はふと言葉を切った。いいかけて、あとの言葉をいいしぶった。同志だといっても、相手は外国人である。祖国の敗勢につながるような悲観論は、いうべきではなかった。

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  1. 2018/01/18(木) 14:23:08|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 すると相手は、戸松の言葉のつづきを読みとってしまったかのように、ずばりといった。

 「時局はいよいよひっぱくして来ましたねえ。戦況が逆転しそうになりましたなあ。

 日本軍は、連合軍の攻勢にそなえて、あわてて部隊の大移動をやったり、民間人を片っ端しから徴収しているんじゃありませんか」

 「ぼくも、そうではないかと思っているのです」

   (43 43' 23)

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  1. 2018/01/19(金) 00:00:00|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 戸松は自分の心の中に、無二の同志である熊剣東にすら、祖国の劣勢を知らせたくないという、本能的祖国愛ともいうべき根強い心理がはたらいていることを感じて、思わず苦笑した。相手は世界のニュースをあるていど正確に、しかも詳細にあつめることの出来る立場の人間である。いまさら、外見をとりつくろってみたところで、それはむしろ滑稽というものだった。

 「なにしろ、満州から中国、ビルマ、タイ、マレー、太平洋諸島と、四面に戦線を張っているのですから、兵力に余裕があるはずはありません。そこへアメリカの猛攻勢が内南洋にせまろうとしているのです。大陸現地から部隊をひきぬいて、フィリピンやマリアナ諸島に送らなければならないでしょうし、五体健全な男は、どんどん召集して兵力を増強しなければならないわけです。

 しかし、まあ、いずれにしても内地に帰ってみなければ、はっきりした事はわかりませんが……」

   (43 43' 23)

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  1. 2018/01/20(土) 00:00:00|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 戸松は戦争の現実を直視しながら率直にいった。

 熊は椅子のうでに頬づえをついて、かすかに頷きながらきいていたが、眉のあいだに二つ三つひだを刻んで、残念そうにいった。

 「周総理は、中国現地にいる青年将校が和平運動に立上り、軍上層部を説きふせ、揺り動かしてくれることをひそかに願っていました。戸松さんが勇躍風をおこして走りまわっておられることを、大変よろこんでいたのですが、そのあなたが、不可解な召集によって運動を中断しなければならないとすると……」

 「いや……」

 戸松は熊の声をさえぎっていった。

   (43 43' 23)

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  1. 2018/01/21(日) 12:53:07|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 「ぼくがいなくても、あとに残っている同志に、この運動を継続させるつもりです。今日はそのことについて、御相談したいのですが……。

 彼らは運動の方針をよくのみこんでおりますし、継続していく能力ももっております。今後は、派遣軍の辻大佐を説得して畑総司令官を動かし、辻大佐の協力のもとに、運動をおし進めていこうと、十分に計画をねりつくしていたところです。また外に北支に横山勇将軍あり南、支に阿南惟幾司令官、矢崎勘十将軍機関長あり、李済深軍に堀下がおります。一つ、これからは、熊将軍に問題の大小にかかわらず、彼らの相談相手になっていただきたいと願いたいのですが……」

 「あなたのあと、誰が中心人物になってやりますか」

   (43 43' 23)

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  1. 2018/01/22(月) 11:30:27|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 「これはまだ、誰にも発表していませんが、ぼくは村上と篠原を中心にやらせようと思っております。アジア同盟のメンバーは沢山おりますが二人が一番よい。村上は考えが大ざっぱで粗雑なところはありますが、人物が大きく、人を抱きかかえていく力量をもっている上に、私心に乏しく、公のこととなると、男々しく立ち向かっていける純粋さと強さをもっております。

 村上が頭領の器ならば、篠原はその女房役というところで、彼は、誠実で責任感がつよく、緻密な計画性と確実な行動力をもっております。

 この二人が表裏となって結束していったら、アジア同盟の運動は挫折するようなことはあるまいと信じます」

 「なるほど……」

   (43 43' 23)

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  1. 2018/01/23(火) 10:12:44|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 「この事を熊将軍から周総理にお話し下さって、ぼくが居る居ないにかかわらず、彼らのために従来通り援助してやっていただきたいのです」

 「もちろん、戸松さんの志をついで、彼らが和平運動を続行するからには、同じ理想をもつわれわれとしても、可能なかぎり、責任を果さねばなりません。

 承知しました。その点は御心配いりません。総理もおそらく、御同意下さるでしょう」

 戸松はほっと吐息をもらした。腹の中に溜っていた憂慮が、一度に気体となってもれ出たようであった。彼は自分の応召によって、高くかかげた理想と、出発しはじめたばかりの運動が、挫折することを最も怖れていたのである。

   (43 43' 23)

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  1. 2018/01/24(水) 10:15:50|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 和平運動には、生産はともなわない、一方的に消費あるのみである。今までの運動資金は、ほとんどが戸松個人の人物と行動力に集まったものであった。軍の高級将校(特務機関長 宮崎繁三郎少将(インパール戦の勇将)、泉鉄翁大佐)から、ひそかに出ている資金にしても、潘三省や朱順林の援助にしても、周仏海や熊剣東の後援にしても、すべて戸松個人の誠実と実力を信頼して出されていたものである。

 戸松はそれを内地や中国の同志の工作費として分配し、彼らに日支和平の必要と、アジア平和の理想をとかせ、又若い留学生をつかって、中国奥地ふかく潜入させ、情報をとらせたりしていた。

 戸松の応召によって、資金の道が断たれてしまうとすれば、これまでの運動の芽はいっさい枯れてしまうことになる。たとえ自分が戦場の土に埋没することあっても、自分の志だけは、この世にとどめておきたかった。

   (43 43' 23)

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  1. 2018/01/25(木) 15:12:55|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 運動の芽は、今やっと地上に、あるかなきかのかすかな双葉を見せはじめたところである。せめて実をむすぶところまで、後に残った同志たちに育て上げてもらいたかった。

 とにかく、彼らが動ける程度の運動資金は、なにをおいても確保しておいてやらねばならない。応召の覚悟がさだまると同時に、彼の胸を占領したものは、その一事であった。

 それが簡単に解決したのだ。身のまわりに立ちこめていた靄が、一瞬にして流れ去ったように、晴々とした思いであった。

 熊剣東は、つと立上ると、言葉もなく部屋から出ていった。

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  1. 2018/01/26(金) 11:29:41|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 やがてのこと、彼は細長い紙包みをもって入ってきた。つかつかっと歩みよってくる確かな足音には、軍人らしい力づよさがこもっていた。熊は戸松の隣りの椅子にどんと腰をおろすと、紙包みを戸松の手におしつけるようにしていった。

 「これは周総理及びわれわれの餞別です。あなたに関することは、周先生から一任されておりますので、さしあたりわたくしの一存で、これをあなたにお贈りしたいと思います」

 思いがけない収得だった。いつもの通り百ドル紙幣の包みであるとすれば、相当の額である。ふと郷里の父母や妻の顔がうかんだ。万一戦死でもすれば、思わぬ置土産を残してやることができる。戸松は内心うれしかったが、顔色には出さなかった。

 「いや、どうも」

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  1. 2018/01/27(土) 15:14:20|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 彼は無雑作に礼をのべた。

 「ところで……」

 熊はあらたまった調子でいった。

 「日本も我々南京側の中国人も、これからいよいよ苦境に追いこまれるものと、覚悟しなければなりませんねえ。これからの一年をとりにがしたら、重慶との和平交渉の機会は完全に失ってしまいますよ。

 おそらく、今年の中に、アメリカは中国各地に沢山の飛行場をつくってしまうでしょうからね。もう既に、二十ちかい飛行機の根拠地ができているようです。中には長距離爆撃機用(B29)の飛行場も数箇はできております。

   (43 43' 23)

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  1. 2018/01/28(日) 13:19:01|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 将来、ここから対日空襲の爆撃機が、次々ととびたつようになるのも、そう遠いことではありますまい。中国の内陸線では、御存知のように、米中混合の爆撃機がさかんに銃爆撃をやって、日本軍や和平軍の行動を困難にしております。日本軍の補給線は、昼間はほとんど遮断されて、夜間輸送をやっているというではありませんか。

 アメリカはまるで、機関銃のたまでも放射するようなスピードで、飛行機をどんどんつくっております。重慶には、毎月毎月おびただしい数量の飛行機が配送されているということです。これにくらべ、日本の空軍勢力は、増加しているようには見えませんねえ」

 「増産はしております。必死で生産はしておりますが、とても中国にまではまわって来ないでしょう。アメリカの生産量には、とうてい及ばないですからねえ。

 熊将軍の情報から判断すると、いまにアジアの空は、アメリカの空軍に占領されることになりますなあ」

   (43 43' 23)

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  1. 2018/01/29(月) 10:12:59|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 戸松は苦しげな笑いをうかべた。

 「いや、まったく……」

 熊は膝においていた両手をぎゅっと握りしめ、上体をぐっとのばすようにしていった。

 「日本軍はまんまと重慶と共産軍の策にのってしまったわけですよ。

 奥地へ奥地へと退いて、中国の大半を日本軍にゆだね、日本軍が疲労し、焦燥し、軍規をみだし、戦意を失う時を、彼らは時間という無形の武器にたよって待っていたのですからねえ。

   (43 43' 23)

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  1. 2018/01/30(火) 13:54:59|
  2. 永遠の道 戸松登志子著
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國 乃 礎

Author:國 乃 礎
   綱 領
政官財・癒着根絶
マスコミ横暴撲滅
国賊売国奴殱滅
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