いしずえ

第三巻激流の巻

 ガダルカナルの惨敗、ラバウルの敗退、アッツ、タラワの玉砕等、戦域全般の戦況が濃い敗色に包まれはじめたころであったから、日本陸軍の功名心とあせりを隠そうとする強気と、牟田口軍司令官のはげしい性格は、これを強行せずにはいられなかったに違いない。

 もし決行しなかったとしても、機械化の完備した連合軍の総反撃の前に、日本防備軍の兵力では、とうてい勝利をうることはできなかったものと考えられる。

 とにかく、大本営は、ボースの旗あげを機に、インパール作戦を許可したのであった。

 牟田口軍司令官は、作戦の実施を、十九年三月八日に定めた。そしてこの作戦に参加する部隊は、第十五軍の主力「祭」「烈」「弓」の三個兵団と決まった。

 祭兵団は中央から、弓兵団は南から、烈兵団は北から、日本軍は三つの支隊にわかれて出発した。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2018/07/01(日) 13:39:00|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

新聞 いしずえ 夏季号 7月1日発行 №44

新聞 №44の1 続きを読む

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2018/07/02(月) 13:22:57|
  2. 新聞

第三巻激流の巻

 国境をこえるには、大河を渡河し、人跡末路の大山岳を踏み分けて登っていかねばならない。大砲など持っていける地形ではない。そこで砲兵隊は河岸に残しておいて、歩兵だけで三週間分の弾薬と食糧をもって進んでいった。

 敵の空襲はますますはげしくなり、あらゆる種類の飛行機が自由自在にとびかい、一兵たりとも見のがすまいとして、急降下して銃撃したり爆弾を投下してくる。日本軍は、昼間はほとんど行軍できないため、夜行軍をつづけていった。

 けわしい山岳にいどみ、深い密林とたたかいながら、約一ケ月、牟田口中将が三週間でインパールをおとし入れてみせるといった言葉どおり、三兵団は国境をこえ、敵の砲撃や戦車群に苦しめられながら、同中将の作戦どおりインパールを包囲した。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2018/07/02(月) 13:52:53|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 敵は袋のネズミだ、もうひとおしだ---包囲すれば必ず勝つという、これまでの兵法にたよっていた日本軍は、航空の進歩によって従来の戦法が効を失っていることを忘れていた。

 地上は包囲されても、空に自由にあいていた。敵は航空力による補給で一向に衰えないのにくらべ、日本軍はもってきた三週間分の弾丸も食糧もすでにつきはて、一日一日衰えをみせはじめていた。

 作戦にあって、一番心配されたのは補給であったが「補給については絶対に心配いらん」と断言していた軍司令官の言葉は裏切られ、前線へは一つぶの米も一発のたまも届いてこなかった。

 日本軍は、服はさかれ、靴はやぶれ、食う物もろくにない上に、たたかうべき弾丸もなく、敵を眼の前に包囲したまま衰弱していったのである。

 四月もすぎ、五月も半ばをすぎた。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2018/07/03(火) 13:50:01|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 六月からはこの地方特有の雨期である。雨期になれば一日に何回も滝のような雨がふりそそぎ、谷も、道も、橋も濁流にのまれた。進むにもしりぞくにも身動きとれなくなり、兵士は密林の中で飢え死するよりほかはない。日本軍にとって、敵よりもおそろしい絶体絶命の季節が目の前におとずれていたのである。

 それを予告するかのように、日に二、三回、叩きつけるようなはげしい雨が降りはじめてきた。雨が降りはじめると、マラリヤやアメーバー赤痢が猛威をふるってくる。日本兵は、敵とたたかわずして、空腹と病魔とたたかわねばならなかった。

 インパール前線の将兵が、こうした地獄の苦しみにあえいでいる時、戸松らの鉄道第十一聯隊はビルマ戦線にむかうべく、昭南に到着したのである。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2018/07/04(水) 14:20:36|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 ビルマにはすでに野戦鉄道司令部の下に鉄道七聯隊と五聯隊がいて、輸送路を警護していたが、敵の爆撃は連日連夜、鉄道を寸断するはげしさで続けられていた。

 これに対して、日本軍の飛行機は、あるかなきかの影の薄い状態であったから、国境ちかくへの補給は困難となり、飢えとマラリヤに苦しむ前線は、後方と切断されたも同然になってしまったのである。

 安東部隊の前途には、こうした爆撃にさらされながら、河橋を構築し、鉄道を補修する危険な仕事がまち受けていたのであった。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2018/07/05(木) 14:56:28|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 安東部隊は昭南市に三日間滞在していた。競馬場の観客席は、かっこうの寝台であった。将兵には公平に煙草、紙、タオル等の日用品や缶詰が配給された。それらはすべて英国製で、シンガポール占領の際の戦利品であった。

 内地では手に入りそうもない品々に、兵隊たちは珍しがった。そして煙草をのまない者は市中にもっていって、腕時計などと交際したりして喜んだ。

 彼らはバナナをたらふく食べて、暫らくの間戦争の中の平和を味わったのち、再び狭い貨車に詰め込まれ、マレー半島を北へ北へそして西へ西へと送られていったのである。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2018/07/06(金) 15:29:10|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

  ビルマ進撃

 バンボンという町は、泰緬国境にあった。もちろん、インパールと同じように、今まで戸松が一度も耳にしたことのない地名であった。

 三日間、狭い貨車の中にすし詰めにされたまま、マレー半島を北上した四千余の将兵は、バンボンでやっと窮屈な生活から解放された。

 前線に出動した部隊が建てたものであろうか、竹材でつくった長い小屋のような兵舎が残っていた。安東部隊は一時的にここに集結した。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2018/07/07(土) 10:26:29|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 この辺りは、竹林の多いところなのかも知れない。太い孟宗竹を二つ割にしたのが、くねくねと長く続いている床に、ぴっしりと敷き詰められていた。壁という程のものはない。腰板程度の高さに、椰子の葉を二つ折りにしたのが、二段になってぎっしりとぶら下がっているだけである。上の方は開けっ放しのままであった。いかにも、南国らしい開放的な兵舎であった。

 タイ国は、日本と攻守同盟を結んでいたが、直接の交戦国ではないから、切迫した空気も、空爆による破壊のあともなかった。食べ物も比較的ゆたかで、野性の茄子や南瓜がそこここに茂っていた。

 ここに三日間滞在したのち、部隊は再び前進にうつった。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2018/07/08(日) 13:59:43|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 国境をこえれば、もはや戦闘地域である。しかも、この国境がなみなみのものではない。険しい山岳、深い谷、底知れぬ密林が、無気味な暗さをよどませて、どこまでも続いている。

 遠くは数百年の昔、タイとビルマが戦争をしたとき、タイ軍が進攻に苦難したところであり、又二年半前に十七年一月には、緒戦の華々しさに気勢をあげた日本軍が、進攻の意気にもえて猛進していったところである。

 泰緬鉄道は、この密林をぬけて、バンコックとラングーンをむすび、さらに中心部マンダレーから、ラシオまでのびていた。

 安東部隊は、この鉄道の修理、架橋工事をしながら、ビルマ領内を西北にむかって進んで行くことになった。

 ビルマの状勢は二年前、進攻作戦軍が、怒濤の勢いをもって敵をおいまくっていった当時とは、大分様子が違っていた。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2018/07/09(月) 14:16:10|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 当時のビルマは、六十年ちかいイギリスの支配から脱出して「ビルマ人のビルマ」をうちたてようと、独立の気運が各地に渦巻いていた。

 いったい、ビルマがイギリスの支配をうけるようになったのは、一八八五年(明治十八年)いらいのことで、それいぜんは伝統的な君主国家だったのである。つまり、インドや仏印等の南アジアの植民地と同じように、十九世紀ヨーロッパの東洋支配のぎせいになっていたのである。

 そのビルマが、日露戦争に日本が大国ロシアを打ち破ったことに刺戟されていらい、忽然として東洋人としての自覚と自信にめざめ、自分らも独立しようという意思と勇気をもつようになったのであった。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2018/07/10(火) 02:18:37|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 その後、ビルマの独立運動は徐々に徐々に盛り上ってきたのであるが、昭和十六年、日米の雲行きがいよいよ怪しくなってきたころ、その実現は急速にすすめられていった。

 すなわち、日本軍の占領下にあった海南島に、こっそり、首相バー・モーがえらんだ青年三十名がおくられ、日本軍の参謀部員によって指揮官としての厳しい訓練が行われ、筋金入りの熱血の独立義勇軍がたんじょうしたのである。

 彼らはビルマに帰るや、全土にちって青年達を説得しつつ、運動の勢力をかため、機会を狙っていた。独立の機会とは、日本軍がビルマに進攻する時であった。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2018/07/11(水) 10:33:01|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 つまり、日本軍と協力して、イギリスの勢力をビルマから法逐し、完全な独立を得ようというのである。

これにたいして、日本政府も、

「日本のビルマ進攻の目的は、イギリスの軍事拠点を潰すとともに、ビルマルートを断ち切ることにあるのであって、ビルマ民衆を敵とするものではない。ビルマ人がイギリス人の支配からのがれて独立をのぞむならば、目的達成のために協力を惜しまないであろう」と、呼びかけたのであった。

 兎に角、日本軍は、ビルマの多年の宿願を達成させてくれる救いの神となったのである。そのため、独立義勇軍は、地理にくらい日本軍をいたるところで援けて戦いを有利に導いてくれたし、民衆は同じ有色民族が白人種を追い払いつつ勝ち軍をすすめていく姿に、感動と感謝の眼差しをもって奉仕してくれたものであった。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2018/07/12(木) 19:04:29|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 こうして、三ヶ月余ののちには、ビルマの敵軍を一人のこらず追放し、ビルマルートも完全にたち切ることが出来たのであった。そして、十八年八月一日には、古くからの民族運動の指導者であったバー・モーを首班とする独立国ビルマが新生したのである。

 だが、あれから僅か一年の間に、日本人に対するビルマ人の期待と信頼は、たなごころを返すが如くに変化してしまっていた。

 というのは、日本政府が掲げている「大東亜共栄圏」のスローガンの受け取り方が、日本側と現地側との間で、少なからず食い違いを生じていたのである。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2018/07/13(金) 11:12:07|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 ビルマは日本の軍事力を利用して自国の独立をはかろうとし、日本は軍事上の要求から、首相バー・モーを煽動してビルマを独裁的な指導者国家にして、思いのままに操ろうとした。結局、バー・モーもこれに応じて独裁者となり他の民族主義者から浮き上がっていったのであった。

 つまり、日本は安易な開放感と独立のよろこびにひたっているビルマ人にたいして、寛大であることは出来なかったのだ。日本が現地人に求めるものは、戦争遂行への協力と日本の指導への服従にほかならなかった。日本は満州国のごとく、南方の各民族にたいしても、独立という美名をあたえたのみで、その実は植民地的制限を加えていたのある。

 たしかに、「大東亜共栄圏建設」の理想そのものは立派であった。しかし、独立を勝ちとることに苦悶している南方植民地の原住民に、その理想をおしつけ、思いのままに引きずっていこうとしたところで、全面的な彼らの理解と支持をえられるはずはなかった。彼らのアジア観と世界観は、まだそこまで成長していなかったのである。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2018/07/14(土) 15:08:48|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 したがって、彼らの協力もいたって自己本位のもので、日本の武力に便乗して、独立を勝ち取ることのみにとらわれていたのであった。

 戸松らの部隊がいよいよビルマに進入していった六月中旬は、ビルマの戦局は日に日に崩れるごとくに悪化し、民衆の経済的生活は日ましに困難におちいっていた。一年前までは親日的であったビルマ人も、日本との協力に不安と不満をいだくようになり、反日感情は日一日と深刻化していたのであった。日本軍の訓練をうけた指揮官階級までが、日本軍への抵抗組織をつくり、日本にそむくことによって、英国からの独立を勝ち取ろうという考えにたちいたっていたのである。

 国境の密林地帯をぬけてビルマに入ると、そこには敵の空爆によってめちゃめちゃに破壊された鉄橋や鉄道がまっていた。安東部隊は三個大隊にわかれて、輸送路の確保に挑んでいった。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2018/07/15(日) 14:31:13|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 この部隊は鉄道隊即ち工兵隊であるから、応召前は国鉄に関係していた兵隊や、大工、左官、とび職等の、いわゆる職人といわれていた兵隊がかなり多く集まっていた。インテリ―もおれば、一字も書けない文盲もいた。背中一面に刺青をほった、いわゆるやくざ者も三百人ほどいた。

 ひとたび仕事にかかると、士官学校出身将校やインテリ―よりも、職人ややくざ者の方がよっぽど有能な工兵であった。

 彼らは鼻歌を歌いながら、無雑作に生木を切り倒してくる。そして、めちゃめちゃに破壊されて手の施しようもない橋を、手順よく構築していくのであった。

 そのころ、すでに構築資材は欠乏状態にあったから、生木を切り倒してきては木橋をつくっていた。彼らは身軽に木材から木材へ飛び移り、巧みに橋を築いていった。

 さらに、職人出身の兵隊は、仕事をするにあたって組織的協力精神をもっていた。それぞれの能力を生かしながら、たすけ合いつつ合理的に仕事をすすめていくのである。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2018/07/16(月) 09:29:46|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 木を切り倒す者、運搬する者、正確に切りそろえる者、組立てる者、それぞれの分業がその能力に応じてさだまり作業は機械的にすすんでいった。

 日頃の習慣というものは、おそろしいものだ。家を一軒建てるにしても、とびの仕事、大工の仕事、左官の仕事、屋根屋の仕事というように、組織的、有機的に仕事をすすめていく習慣が、彼ら自身の才覚、能力となって身に刻み込まれているのであった。青少年期から、それ一筋にたたきあげてきたその実力は、知識や学問ではとうてい太刀打ち出来ない肉定的経験的な底力となっていた。

 前進がとび職で、しかもやくざであったことを自慢にしている中村という男がいた。見るからに因縁でもふっかけて来そうな奇怪な容貌をしていたが、性格もいたって気分本位な気まぐれ者で、人間として、まともに付合っていけるような種類の男ではなかった。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2018/07/17(火) 14:53:31|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 作業のない日には同類を集めて博打をうつ、どこからか酒を運んできてはだらしなくあおる。酔えば何や彼と上官にからんでいく。

 彼は華中戦線から転送されてきた古参兵で、人間としても汚れて垢まみれになっていたが、兵隊としても擦れきって洗んでいた。彼は軍の秩序を乱すその行状ゆえに、いぜんとして万年一等兵の不名誉を担わされていた。

 その中村にも、誰にもできない一つの特技があった。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2018/07/18(水) 09:25:59|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 あるとき、彼は八貫(三〇キロ)もある枕木を、ひょいと肩に担ぎ、三十メートル余もある大木の幹に、猿のようにするすると登っていったのである。全隊員があれよあれよと、その身軽さと怪力に驚嘆している中を、彼は高い枝の一つにまたがり、あっという間の素早さで、持っていた枕木を手玉のように軽々と一回転させて担ぎなおし、再びするすると降りてきたのであった。それいらい、彼は困難な架橋には、なくてはならない重要人物となった。

 人間社会は実に複雑にして多彩なものだ。軍隊はその多様な社会を圧縮したものであった。兎に角、様々な人間がいるのだ。しかも、それぞれに何かしら一つの特徴をもっているから面白い。戸松は作業にあたっての中村のはなれ業のような仕事ぶりや、職人出の兵隊達の機敏な仕事ぶりをみる度に、人間を千差万別の能力者にうみわけた宇宙の神秘を思わずにはいられなかった。

 しかし、やがて、仲間の活動を感心して見ている余裕など全くない日々がやってきた。国境からモールメンの間の輸送路を、安東部隊が補修構築していることを感づいた連合軍の爆撃機が、連日連夜、爆撃にくるようになったからである。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2018/07/19(木) 11:25:02|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 構築したばかりの橋や鉄道は、片っ端から破壊されていった。つくっては壊され、つくっては壊され、まるで、敵の爆撃の目標をつくってやっているようなものであった。鉄道や鉄橋を爆破されている中はまだよかった。その中に、敵は部隊を襲うようになったのである。

 前にものべたように、ビルマ原住民の親日感はすでに反日にかわりつつあるときであった。彼らは日本軍が野営している地点や休息している地点を、白煙筒をたいて敵機にしらせたりした。

 椰子の密生している下蔭をえらんで、ここなら大丈夫と気をゆるして昼食をとっている最中に、敵襲をうけたこともあった。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2018/07/20(金) 13:39:32|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 椰子林の中に日本軍のいることをすでに知っている敵は、遠くからエンジンを止めて忍び寄るようにそっと滑りおりてきたのだ。そして、とつぜん頭上から爆弾の雨をふらせ、エンジンの音も高らかに、悠然と飛び立っていったのである。

 吹き飛ばされるような爆風に眼もくらみ、はっと気づいた時には、さっきまで二、三間向こうで食事をとっていた数人の兵隊の姿は、椰子の木々とともにどこかに消え失せていた。

 そして、誰のものかわからぬほど寸断された手や足が、あたり一面に散乱しているのであった。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2018/07/21(土) 11:15:48|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 地面はあそこもここも無惨にえぐり散らされ、椰子の木々はめちゃめちゃに切りさかれ、静かな椰子林は、つかの間に、この世の地獄絵と変りはててしまったのである。爆撃機は、一波、二波、三波と、数機づつ群をなして襲ってきた。

 兵隊たちは巣を破壊された蟻の群のように慌てふためき、飛行機の方向も投弾の位置も見定めることなく、思い思いの方向に逃げまどうだけであった。

 はげしい爆撃の嵐がさると、今度は小型のあらゆる種類の飛行機が入れかわり立ちかわり飛んできて、椰子の葉すれすれに低飛行しながら、逃げまわる日本兵を狙い撃ちした。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2018/07/22(日) 14:58:51|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 この敵の攻撃にたいして、日本軍は全くの無抵抗であった。反撃を加えてくれる飛行機もなく、高射砲もなかった。兵隊のもっているものは、日露戦争当時のものかとおもわれる旧式の小銃だけである。中には山砲射撃に自信のある勇敢な下士官もいて、椰子の木蔭に身をひそめて身構え、降下してくる敵機をめがけて発射した。見事に弾丸は命中し、日本兵の武装をみくびって、上体を見せて低空を飛んでいた敵機は火を吐いて地上に吸い寄せられるように堕落して来た。次の敵機もまたこの下士官に撃墜された。

 戸松は木蔭にじっと立ちすくんだまま人間の世界のものとは思われないこの修羅場をじっと見守っていた。ここでは生と死が、あまりにも生々しく同在していた。一挙手一投足によって、生死ははっきりと分かれていた。慌てて逃げまわることは、生を追いつつ、かえって死に追われることであった。それはいたずらに敵の目標となることだ。戸松は敵機の動きを眼で追いつつ、椰子の幹を背にしたまま動かなかった。

 近代的な空軍部隊と無防備の地上軍では、野獣に襲われた幼児のごとく、敵の蹂躙にまかせるほか手立はなかった。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2018/07/23(月) 10:36:43|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 爆音がきこえる度に兵隊達は右往左往しいたずらにそこここと逃げまわった。気休めに入れるような防空壕もないのだ。敵の機影をみながらじっとしていることは死ぬほど辛いことであったに違いない。

 しかも、この逃げまわる兵隊の殆んどが、作業にあたっては身軽く仕事上手な連中であった。ことに平素、どんな高い地点でもどんどんかけのぼり、危ない架橋作業を平気でやるような兵隊が、不思議にも敵に向ってはまるで意気地をうしなってしまうのである。

 反対に作業にかけては無能な将校が、敵機の下にあってはもっとも沈着で大胆であった。彼らはやはり、戦うべく訓練された人間であった。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2018/07/24(火) 11:01:57|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 三、四十分ののち、敵機はことごとく去った。それは、激しい衝撃にみちた長い長い時間のように思われた。人も木も暴風の去ったあとのように放心したまま呆然と立ちつくしていた。人間の死体、切りさかれた樹木、えぐりとられた土魂の散乱する中で、人々は自分の手足を確かめつつ、生きていることの奇跡をおもった。

 戸松の分隊には死者はなかった。しかし小隊、中隊、大隊となると、相当数の死傷者を出したようであった。

「山上もやられたよ」

 他の分隊の一人の兵隊が頓狂な声をあげた。

「ほんとうか」

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2018/07/25(水) 14:26:07|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 兵隊たちは思わず互いに顔を見合わせた。山上は千人針の腹巻の中に、何十という神社仏閣のお守りやお礼をしまいこんでいて、

「俺には絶対に弾丸は当たらないんだ。日本中の神仏が俺を守っていてくれるからな」

と、人毎に吹聴している男であった。その男が、一番最初の空襲に戦死してしまったのである。

 彼は神や仏の加護をいうものが、どういうものであるのか知らなかったのだ。木の葉を両手にいっぱい掻き集めて、大木にすがっているような錯覚をおこしていたのである。すなわち、肉身縁者が集めてきたお守りやお札を山のように腹にまきつけて、無数の神に守られているものと妄想していたのである。

 神や仏は自らが求め、自らが信じ、自らの心の中に刻み込んだ時、はじめてその加護が実現するものであることを知らなかったのである。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2018/07/26(木) 14:20:06|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 自分が肌身はなさず持っているお守りの神を信ずることもなく、また神の道をふみおこなおうとする敬虔な心もなく、神の自覚もなく神の加護にのみを期待する兵隊は、山上のほかにも数多くいた。

 戸松は、日本人の信仰の浅薄さをさびしく思った。

 日本人の心の中には、多くの雑多な神が雑然と同在しながら、その一つすらも、心ふかく刻みこまれ、宇宙観、生命観として定着していないのである。その宗教観は御利益と取引だけである。

 日本人が、こんなに趣味のごとく、神をもてあそぶようになったのは、いったい何時の頃からであろうか。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2018/07/27(金) 13:56:56|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

「われに苦難をあたえたまえ」と神に祈った山中鹿之助や、「五這宝剣、祖仏共殺……仏陀を貫き、達麿をも貫いて、吾が道を切りひらいてきた」と遺偈をのこして静寂な死をとげた利久や、生涯古事記を手放さず、臨終にのぞんでは壁の達麿の絵をめがけて短剣を刺し通し、がっくりと事きれたという武蔵の神仏観は、現代日本人の及びもつかないはるけきものであるといえる。

 戸松はこれまで、神を信仰しているという自覚をもったことはなかった。しかし、一切の生物を生成化育する神の実在は信じていた。神をみとめ、神を信じるとき、人間は自己の生命の永遠性をさとることができるものであるということも、先哲の教えによってわかっていた。

 それは死を超越することでもある。生死が抱きあっているような戦場にあっては、ことに死をおそれてはならない。死は永遠に生きることの別名であることを信じなければならない、と彼は思った。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2018/07/28(土) 11:41:31|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 彼は自分が、信仰の本質にせまりつつあることに気づいていなかった。

 彼は自分の生命がこの肉体をはなれる瞬間まで兵士として最高の精神を持ち続けていかねばならないと、自らの心に云いきかせたのである。

 最初の敵の空襲が、兵隊にあたえた衝撃は大きかった。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2018/07/29(日) 21:11:25|
  2. 永遠の道 戸松登志子著
次のページ

プロフィール

國 乃 礎

Author:國 乃 礎
   綱 領
政官財・癒着根絶
マスコミ横暴撲滅
国賊売国奴殱滅
現行憲法廃棄
日米安保破棄

最新記事

カテゴリ

未分類 (6)
提言 (1)
理念と使命 (1)
目的・活動 (1)
遺言状(救國法典) 戸松慶議著 (660)
生存法則論 (第二巻 思想篇) 戸松慶議著 (3)
永遠の道 戸松登志子著 (2158)
新聞 (17)

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

ブログランキング

にほんブログ村 政治ブログ 政治思想へ
にほんブログ村

ブログランキング

FC2 Blog Ranking

月別アーカイブ

アクセスカウンター

天気予報


-天気予報コム- -FC2-

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

このブログをリンクに追加する

QRコード

QR