いしずえ

第三巻激流の巻

 職務に忠実な男だ……ちらりと一瞥をくれながら、戸松は思った。

 この時の印象が、この男をいっそう意識させるようになったものであろうか、その後も度々敵襲下でこの男の姿が眼についた。彼はいつも、行季や私物を背負いこんで、無我夢中で逃げまわっていた。

 戦友が眼の前で爆死しようが、戦傷者が足元で呻いていようが、彼には全く関係ないもののようであった。彼の命すら、記憶の貴重さにはかえられないと考えているに違いなかった。

   (43 43' 23)

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  1. 2018/10/01(月) 10:57:06|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 たしかに、戦攻記録を戦火の中にまもり通すことは、彼自身の功績となるに違いなかったが爆撃の野にさらされ、生と死の境を彷徨っているような日々の中にあっては、その異状なとらわれ方は、非人間的なものとうつったのである。

「あの男には驚いたよ。彼は部隊が玉砕しても、一人行季をせおって逃げていくだろうな」

 或る日、戸松は戦友の高井軍曹に語った。高井は早大出のインテリ―であった。(戦後京都駅長)インテリ―軍人というものは、批判にすぎて勇敢な行動力に欠けているものであるが、中には高井のように、知力、胆力、行動力を兼ね備えた者も何人かあった。彼らこそ真の勇者であり、また真の知者であった。

   (43 43' 23)

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  1. 2018/10/02(火) 15:13:02|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 高井軍曹はその広い額を曇らせ、暗いかげを帯びた声でいった。

「あの男は、戦友の生死よりも、戦功記録の方が大切なんだ。戦友の命よりも、彼がどんな働きをしたかという記録の方が大切なんだ。

 彼は記録の忠僕なんだ、ただそれだけのことなんだ。それだけが、彼の国に報ずる道なんだよ。日本軍の形式主義は、あらゆる点で動脈硬化しているねえ。兵隊よりも、制度や記録や武器や馬の方が大切なんだよ。

 人間以上に大切なものが多くあるということは、その社会が虚偽であるということだ」

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  1. 2018/10/03(水) 00:00:22|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

「たしかにそうだ。軍隊は人間の真実を無理矢理に歪めている。確実にするつもりで形式や法規で人間を縛り上げかえって人間性そのものを歪めているのだ。その為に機能がいよいよ動脈硬化していくのがわからないのだ。

 中央から野戦の果まで、日本軍の動脈は老化して鬱血しているよ。つまり、立身出世という病気、精神にとりつかれているのだ」

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  1. 2018/10/04(木) 13:37:26|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 戸松も力のこもった声でいった。彼らはともに三十を幾つか過ぎて応召されたせいもあって、社会の実相をみる眼が開いていた。それに彼らの頭脳は、極端に統制された軍隊生活のなかにあっても、麻痺することなく、瑞々しい態度を失わないでいた。

 つい四、五日前のことであった。戸松らの中隊は、その日、モールメンに近い橋の構築を命じられた。

 現場に行ってみると、鉄橋は川面に高く伸び伸びとかかり、爆破のあとは全然なかった。

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  1. 2018/10/05(金) 13:57:57|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 ここでの作業というのは、橋ゲタのまわりを電柱や枕木の用材できっちりと囲み、太い針金でがっしり縛りあげる仕事であった。

 戸松には全く無意味な作業におもわれた。彼は中隊長に近付いてきいてみた。

「壊れてもいない橋に、どういう訳でこんなことをするのですか」

「敵の空襲をうけた時の用意をしておくのだ」

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  1. 2018/10/06(土) 10:05:10|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 中隊長はけろりとした表情でいった。自分の命じていることに、少しも疑問を感じていない顔だ。戸松は可笑しさが込上げてきた。しかし、彼は真面目な口調でいった。

「それはまるで、弾丸にあたらない前に腕に繃帯をしておくようなものじゃありませんか。繃帯をまいたぐらいで弾丸が防げるものではありますまい」

「……」

 中隊長は顔を歪め、不興の色を露骨に示した。戸松は怯まなかった。

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  1. 2018/10/07(日) 13:07:53|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 「それと同じですよ。鉄筋と木材ではどっちの方が丈夫かは、考えなくてもわかることです。鉄筋のビーア(橋ゲタ)のまわりに、木製の電柱や枕木で囲いをしたところで、爆破を防ぐことが出来るわけのものでもありません。かえって修理が面倒になるばかりです。こんな無駄なことにかける金と時間の余裕があるんなら、兵隊に甘いものでも食わせて、ゆっくり休ませるべきだと思います。兵を休め、養うことも戦術の一つではないかと考えます」

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  1. 2018/10/08(月) 10:08:11|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 中隊長の表情には、しだいに横柄さは消え失せていた。彼は無言のままうなずきながらきいていた。そして、声をおとしていった。

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  1. 2018/10/09(火) 10:00:50|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

「全く、お前の云うとおりだ。俺もそう思う。しかしこれは上官の命令だ。野戦鉄道司令部参謀の命令なんだ」

「上官の命令でも腑に落ちないことは、どしどし意見を述べたらいいではありませんか」

 戸松の前歴を知っている中隊長はぐっと喉を詰らせたようであったがすぐに、卑屈なほど素直に云った。

「お前が中隊長だったら堂々とやっただろう。お前ならやるだろうが……」

 戸松はそれ以上切り込んでいくことは出来なかった。

 彼は今、あの時、中隊長の眼の中にあらわれた狼狽の色を思い出したのである。

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  1. 2018/10/10(水) 13:55:10|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 中隊長にしても、かの下士官にしても、組織の中の一部に硬化してしまって、人間としての自己を見失ってしまっているのではないか……。中隊長のあの狼狽の色は、はっと自己に立ち帰った戸惑いだったいに違いない。

 中隊長にとっては、上官の命令は、批判も懐疑もゆるさない絶対の権威だったのだ。それは天皇の権威に直結するものであると、彼らは叩きこまれ、また信じてきたのである。

 この階級的権威に対する信従ならしめ、考えを硬直させているのであった。そしてそれは、もはや彼らの習慣となり、惰性となってしまっているのである。

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  1. 2018/10/11(木) 13:58:51|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 戸松は高井軍曹に、なおも言葉はげしく語り続けた。

「軍隊の制度と伝統的慣習が、人間性を麻痺させてしまったんだ。だから、命よりも武器や記録を大切にし、兵の苦しみや犠牲よりも、部隊のメンツや体裁を重んずるようになるのだ」

 高井軍曹は深く肯きながら聴いていたが、彼も慨嘆の吐息をもらしながら云った。

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  1. 2018/10/12(金) 10:01:35|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

「いやはや、もう、この頃は将校も兵隊もみんなおかしくなっているよ。戦争に来ていることを忘れたように、私物をこつこつためている奴が多いからねえ。日本にかえる時の土産にするつもりなんだ。空襲ともなれば、そいつを抱えて逃げまわるだけだ。ビルマまで何をしに来ているつもりかねえ。

 部下に大和魂をおしつけて、部隊の名前をあげようとする将校もおれば、馬鹿の一つ覚えのように行季ばかり背負ってあるいて、天皇のためにと叫んでいる奴もいる。かと思えば、口では天皇のため国家のためと云いながら、暇さえあれば女や物を漁ることばかり考えている奴もいる。

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  1. 2018/10/13(土) 17:50:08|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 こういう状況で、一体戦争に勝ち抜いていけるものであろうか。

 戦争に敗れる前に、軍の基本が崩れているように思われて仕方がない。

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  1. 2018/10/14(日) 17:50:06|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 インパールは破れた、北辺も崩れた……と口々に慌てたように騒いでいるが、自分がこの戦いの責任をとっていかねばならないと考えている者はいったい幾人いるであろうか。こんなことでは、これから先が思いやられるよ」

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  1. 2018/10/15(月) 09:25:53|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 高井軍曹が憂いているとおりであった。当時の日本軍の忠君愛国の思想は、その根底が未熟で貧困だったのである。

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  1. 2018/10/16(火) 21:02:32|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

「天皇のために……」と叫びながら、実は自己の立身出世のために、無意識に天皇を利用しているに過ぎない場合が多かったのである。

 自己の出世や自己の立場や体面を保持するために「皇国のために」「天皇のために」という言葉がいかにおくめんもなく利用されたことか。

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  1. 2018/10/17(水) 10:38:07|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 一まい皮を剥せば、そこには戦功と出世の利害打算にとらわれた自我が生々しく息づいていた。天皇と忠君愛国は、そうした醜我の群団を美しくつつんだ表皮であったといえよう。

 インパールの悲惨な敗退を招いた統帥の不統一も、ミートキーナ、拉孟、勝越の無惨な玉砕も、これと無関係なものではなかった。

 忠君愛国という表皮をささえる人間個々の内面の貧困は、戦運が傾くにつれて、いっそう生命と人間性を無視する方向へと傾いていったのである。

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  1. 2018/10/18(木) 16:35:06|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 退却という軍の不名誉を糊塗するために、水上少将の如き有能な将官を、むざむざと玉砕せしめ、軍の体面のぎせいたらしめたり、未練にひかれて撤退を躊躇し、金光少佐や太田大尉の如き若く忠勇なる将兵を決死線に散らしめたり体面、形式にとらわれるの余り、むざむざと人間生命をぎせいにしていたのである。

 無意味に作業に、兵を牛馬の如く駆使する参謀の麻痺した頭脳も、制度の虫となった下士官の挙動も、ともに内面の貧困によるものであった。

 つまり、人間生命と人間性が、根本において無視されたとき、純粋、高潔であるべき忠君愛国の思想は、虚偽に歪められていったのである。

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  1. 2018/10/19(金) 16:35:26|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 戸松は当時、大局的な実情はわからなかったが、彼自身の地点から直観的に把握し、日々の記録のなかに、次のように書きとめたのであった。

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  1. 2018/10/20(土) 16:38:27|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

「日本軍に仰ぐべき天皇はあるが、民族として踏むべき共通の道がない。形式はあれども真実がない。将兵は自己の立身出世と勲功をもとめる利害打算のみにとらわれ、人間性と自己を見失っている……」

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  1. 2018/10/21(日) 15:38:18|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

  戦地からの便り

 東京も夏であった。梅雨のあがったあとの暑さは一段とむしかえるようであった。

「おまえ、瘦せたなあ、どうしたんだ」

 団扇片手に、縁側にでてくるなり、兄は大仰な声でいった。

   (43 43' 23)

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  1. 2018/10/22(月) 10:07:10|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 むき出しになった両の腕を、わたくしは交互に撫でてみた。そして、右手で左の手首の上をぎゅっと握りこんでみた。一年前までは、右手の中指と親指が、やっとくっついていた。しかし、今は五粍ほども重なっている。たしかに痩せた。

 母や義姉は、わたくしが上海から帰ってくるなり「どこか悪いのではないか」と、しきりに聴いた。盆のようにまるい顔だったのに、肉がすっきりおちて長い顔になり、生々とした大きな眼だったのに、草臥れたような力ない眼になったというのである。

 わたくしには、病気だという自覚はなかった。それでは旅の疲れだろうとまわりでがやがや云うのであるが、疲れているという感じもなかった。

   (43 43' 23)

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  1. 2018/10/23(火) 10:15:20|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 戸松が南方に出動したあと、わたくしは早く彼の郷里に発たねばならないと思った。わたくしは田舎にかえる準備にとりかかった。まず、妊娠のために蝕まれた歯を四本治療した。医者にかよう二十日ばかりの間に、北国の生活に適するような下着や上衣やモンペを何枚も縫った。

 六月はじめには、帰り支度もすっかり整ったのであるが、母は「おまえの身体は、どうも前とは違うような」と云って、引き止めることしきりであった。

 一時的に主食の配給をうけていたし、兄の書架には読みたい本もぎっしり詰っていたし、わたくしも何となく、腰をあげるのが億劫であった。

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  1. 2018/10/24(水) 10:16:25|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 肉親の愛情というものは、おうおうにして人の心を鈍らせ、怠惰にしてしまうものである。二ケ月ほど母のもとで暮している中に、あれほど強烈に心のすみずみ、身体のすみずみまで支給され、活力を供給されているように感じていた戸松の印象も、少しづつ少しづつ霧の彼方に遠ざかるように、薄れていくようであった。

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  1. 2018/10/25(木) 17:16:05|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 そして、戸松の強く逞しい個性の光りに影をひそめていたわたくし自身の本性、柿田登志子の自我が、もやしの伸びるように、むくむく、むくむくと、頭を擡げはじめていたのである。

 わたくしは、自分の心の危機を感じた。このまま母の情にひかされていたら、ついには戸松の父母を心から疎んじる我儘な人間になってしまいそうだと思った。

 母自身も、複雑な心境にあるようであった。娘の婿の出征は心痛事には違いなかったが、そのため娘が自分の手元にかえってきたことは、やっぱりよろこびであったのだ。母の愛情は、結婚前よりも一しお密度を増していた。

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  1. 2018/10/26(金) 13:31:25|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 今の母には、娘をどんな家庭に送っても恥しくないように躾ねばならないという責任感はなかった。むしろ、娘が不幸なあわれむべき者に見えたのである。労っても労っても、まだ心を尽し足りないように思われたのである。肉のおちたわたくしの頬は、大陸での生活が幸福でなかった事を示しているように思われたし、これから先何年か、夫の郷里で夫の父母や弟妹、親戚の厳しい注目の中で(母にはそう思われた)過さねばならないことが、一層不憫さを誘いたてるのであった。母はしきりに東京で戸松の帰りを待ってはどうか、とすすめていた。

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  1. 2018/10/27(土) 13:25:16|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 兄はわたくしの一身の変化には、全くの無頓着であった。といって、別段冷淡を装っているわけではなかったが、肉親らしいこまやかな関心を示すような事は、殆んどしなかった。

 兄にとっては、国家が戦争しているとき、男が戦場に出ていくのは当然であったし、女が銃後で苦労するのも、あたりまえの事だったのである。彼の勤務する陸軍士官学校は、四六時中戦争と直結していたし、彼の教え子は、大陸に、南の島にあるいは北辺の地に、南海の孤島に散在し、日々生死のはざまに立って戦い続けているのである。

 彼はまた、陸士の教官であるいぜんに、物理学者でもあった。夜おそくまで、こつこつ量子力学に取組んでいて、家族の一人一人と親しく語るようなことは滅多になかった。

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  1. 2018/10/28(日) 15:26:31|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 第一彼には家族が多すぎたのである。十四歳の長男を頭に、幼子がじゅず玉のように続いていたし、郷里から母が出てきて、この二年前からどっかと尻をすえたまま動かないでいた。そこへ又、わたくしが帰ってきたのである。彼は学校からかえると、応接間兼書斎になっている一室に閉じこもって、二、三冊の原書を開いたまま机の上に並べたててペンを走らせていた。出窓の下の袋戸棚には、細かく罫をひいた巾広い用紙が幾〆も幾〆も幾〆も積み重ねられてあった。研究論文でも書こうと志しているのかも知れなかった。

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  1. 2018/10/29(月) 09:26:05|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 それに、彼はもともと酷いものぐさで、自分に直接関係のないことには気を払わない男であった。

 彼は二ケ月以上もたったいま、やっと妹が痩せたようだと気づいたのである。

「大陸から肋膜や脚気になって帰る者は随分多いからなあ……食慾はあるのか?」

 兄にしては珍しい問であった。

「いやだわ、お兄さん。病気じゃないわよ。そろそろ痩せる年頃になったのよ」

「うむ……」

 そうかも知らん……というように頷いて、兄は黙ってしまった。

「わたし、二、三日中に秋田へ帰ろうかと思っているの」

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  1. 2018/10/30(火) 10:23:12|
  2. 永遠の道 戸松登志子著
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國 乃 礎

Author:國 乃 礎
   綱 領
政官財・癒着根絶
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