いしずえ

第三巻激流の巻

 実際そばについていても、何一つ手出しすることはなかった。母の大きな手は、患部の状態をよく呑み込んでいて、痛みを押し潰すかのように巧みに揉み抑えていく。掌を通して母の強靭な命の波動が伝わっていくのであろうか。父の痛みは、徐々に徐々に薄らいでいくようであった。

 そうした深夜の看病の翌日でも、母の活動力は減退しているようすも見えなかった。母はいつも機関車のように、自ら活力をたぎらせもくもくとして家族をひっぱりながら前進していた。

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  1. 2019/05/01(水) 11:36:00|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 囲炉端に人が集まると、父は必ず昔を語りはじめる。先祖を語り、明治の戦争を語り、歴代天皇を語り、元気旺盛であった青春を語る。時には空想や即興の物語りすら語って、埋れたまま朽ちつつある才能を感じさせることもあった。兎に角、田舎の老人にしては、珍しくロマンチストで、しかも懐古主義者でもあった。

 これに比べ、母は徹底した現実主義者だ。母にとっては、存在の意義は考えることにはなく、行動そのものにあったのかも知れない。現実からはなれた父の話には、いささかの興味をもてないらしい。父が話し出すと、やれやれ又か、というように重い吐息をもらし、やがてのこと、こくりこくりと居眠りをはじめるのであった。

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  1. 2019/05/02(木) 10:35:10|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 兎に角、母の感情や意志は、言葉よりも、瞬間瞬間の動作や行動によって表現される方が多かった。母が過去とか未来とか、あるいは人の批判や陰口や愚痴を語っているのを、わたくしは一度も聞いたことがなかった。母の実父が貧困者の面倒をみて、ついには村の財政を健直した程の有力有徳の人物であったということも、父や他の人からは聞かされたが、母自身は決して語ろうとはしなかった。

 父と母とは、これほど極端な性格の違いがあるのだから、夫婦の間にそうとう激しい葛藤がありそうなものだと、わたくしはひそかに考えるのだが、当の父母は、性格の相違など大して気にしてもいないようであった。

 同じような理想を持ち乍らも、真剣にぶつかり合ってきた戸松とわたくしとの一年間の生活を振り返ってみて、わたくしは不思議でたまらなかった。

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  1. 2019/05/03(金) 10:15:11|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 これは明治の人間と大正の人間の違いであろうか。明治そだちの父母たちは、家長を立て、家を中心に生きることを教えられ、献身と犠牲を当然のものと認めるように育てられている。性格や人生観に百八十度の相違があっても、家というものを中心にするとき、それらは自ずから影をひそめてしまうのである。

 それに比べ、わたくしたち大正昭和そだちの人間は、明治末期からの流行思想である個性の確立のムードの中で、個人の自由と幸福を追求するように育てられている。夫に対しても親に対しても自己を主張し対抗せずにはいられないのである。

 わたくしには、母のように、自己の全てを抑えきり、自信と忍耐をもって、しかも黙々として一家をささえ、献身と奉仕を続けていくことは出来そうにも思えなかった。

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  1. 2019/05/04(土) 13:27:57|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 たしかに、わたくし達大正以後の人間は、知識的には磨きがかかっているといえる。しかし、人間性において、明治の人間には太刀打ちできない脆さがある。犠牲と献身に徹した人間の強靭さには、ただただ圧倒されるばかりである。

 父と母を観察していて、わたくしが面白く感ずることは、父の理想主義的創造力と無欲さと、母の現実主義的行動力と忍耐力が、戸松という一人の人間の中で、見事に結合していることである。

 全く矛盾し相反した父と母の人間性が、一人の息子の中に同在し、怒濤の如き近代思想を遍歴しながらも、着実に現実を歩ませてきたものであろうと思われる。

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  1. 2019/05/06(月) 10:52:56|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

   空襲下の東京

 十一月の下旬、わたくしは突然東京に行くことを決意した。

 父の冬支度をすっかり調えてしまうと、この家にはもうわたくしのなすべき仕事はなかった。それにわたくし自身が、寒さが加わるにしたがって衰えが目立つようになり、このまま酷寒をむかえる自信を失っていた。

 もう一つの大きな理由は、東京においてきた娘の頃の着物を、妹達にもってきてやりたいと思ったのである。亡き姉やわたくしの少女の頃の記念として、大切に保存している母から、それらを取り上げることは無情のように思われたが、娘の衣類を買おうにも買えない戸松の母の困苦を思えばこの欠乏の時代、母の感傷などは贅沢に類するものであった。

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  1. 2019/05/07(火) 07:32:03|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

「着物なんか、わざわざ取りにいかんでもいいでないか。兄が帰るまでどこにも行かんでいてくれ」

 父はしきりに引き止めたが、母は、

「冬の間、ぬくい東京にいた方がよかべし。春になったら、必ず帰ってこらんせ」

と即座に賛成した。

 母は上の妹を弘前に使いに出し、リンゴを三貫目ほど買ってこさせると、それをトランクにつめ、餅と新米をリンゴ箱につめ、さらに長芋を苞にして、これらをリヤカーにのせて、東能代駅まで送ってくれた。はじめて実家に帰る嫁のために、義母の義務を強く感じているようであった。

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  1. 2019/05/08(水) 10:18:05|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 父は玄関に立ったまま見送った。

「わしは駅までは行かないことにする。あんたの汽車が駅を出て金岡(隣駅、急行は停まらない)を通過するころまで、家庭で見送っている。金岡を過ぎるとき、汽車が汽笛を鳴らすが、その時に手をふっている。わしは、兄が満州や上海に行く時も、いつもそうするのじゃ」

と、涙ぐんだような眼をして淋しそうに笑った。

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  1. 2019/05/09(木) 10:02:50|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 金岡の駅をすぎる時、わたくしは裏の川ばたに立って手を振っている父の姿を思い描いてみた。不思議なことに、それは幼い頃死別した実の父の姿そっくりであった。わたくしの父も同じように痩身で、同じように顎の尖った人であったが、二人の父はわたくしの胸の中で、すでに一つのものになろうとしていた。

 二十五日の朝、わたくしは五ケ月ぶりに東京の空を仰いだ。雲一つない紺青の空は、底知れない宇宙の深さを思わせ、人の心を無限の空間へと解放してくれる。ああやっぱり東京へ出てよかった。……わたくしはしみじみと思った。

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  1. 2019/05/11(土) 10:06:55|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 大泉の家では、突然の来訪に、母も義姉も驚き且つ喜んでいた。以前わたくしの部屋であった奥の六畳間は、緑側のガラス戸越しに暖かい日の光がいっぱいに差し込んでいた。庭には数株の菊の花が咲き残り、生垣の向うには、隣りの柿の木の枝に、真赤な実が三つ四つ、貼絵のようにくっきりとついているのが鮮やかであった。

「やっぱり東京はいいわ」

 縁側に立ったまま、わたくしは振返って母に云った。わたくしの荷物を片付けていた母は、

「そうでもない、東京もだんだん怖い処になってきたよ」

と云ってから、ふと何かを思いついたようにこちらへ向き直り、座ったまま二つ三つ膝をすすめて云った。

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  1. 2019/05/12(日) 12:01:11|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

「おまえは未だ知らないのだろうね」

「なに?なんのこと?」

 わたくしも母のそばに腰を下ろした。

「知らないはずだよ。昨日の昼頃には家を出てきたんだろうからねえ。昨日ねえ、アメリカのB二十九という大きな飛行機が、百機も東京を空襲にきたんだよ」

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  1. 2019/05/13(月) 11:10:50|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

「ええっ……」わたくしは思わず驚きの声を発した。なんという皮肉なことだ。わたくしが東京に出立した日に、敵の大編隊の第一号がやってくるとは……。

「どうやら、軍需工場ばかり狙うらしいからまあ民家は大丈夫だろうけどね。それでも気持が悪いよ。この辺は田無の工場があるし、所沢の飛行場だって近いしね。百機、二百機と翼をつらねてこの上を飛ばれたら、やっぱり地獄の思いがするだろうと思うよ」

 口では怖れながら、母の表情はそれほど恐怖を感じているようにも思えなかった。眼にはおどけたような光さえ見えた。敵空襲をまだまだ見くびっているのである。

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  1. 2019/05/14(火) 13:58:02|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

「まあ、そう怖いものでもないけどね。ただ心配なのは、男という男が、みんな戦争に出ていってしまうのでね……」

 そう云いかけて母は急に眉を曇らせた。そしていくらか興奮をおびた声で云った。

「おまえっ、義彰にまで召集がきたんだよ……潔も来年春卒業だというのに、学徒出陣とかで、各務ケ原(岐阜県)の飛行場にいっているんだよ……なんでも、あそこで三、四ケ月訓練を受けたのち、フィリピンに送られるのだそうだ」

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  1. 2019/05/16(木) 10:28:08|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 わたくしの顔に表れる反応を確めるように、一句切ごと休みながら母は云うのであった。

 わたくしは啞然として、言葉もなかった。三兄の義彰までが召集されたということは、よっぽど大規模な動員が行われていることを意味している。彼は背が低く肥満型で徴兵を免除された男である。弟の潔もまだ東大在学中で、これがまた電柱のように痩せてひよろ高い男である。いずれも屈強な軍人にはなれそうにもない。

 長男が士官学校の教官、次男が満州防備の士官、三男、四男が応召、確かに母の云うとおり、男という男はことごとく戦争に駆出されているわけである。

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  1. 2019/05/17(金) 16:50:25|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

「ちっとも知らなかったわ。義彰兄さんまでが征くなんて、もうおしまいだわね……それで、義姉さんや子供たちはどうしているんですの?」

「田舎に疎開したよ。義彰の考えでは、東京はこれから一日ごとに危険になるばかりだというのでね。出征と疎開が一緒で大変な騒ぎだったよ」

 母は何事も運命だというように、無雑作なそっけない口調で云った。息子という息子が、全部戦列に参じてしまうと、かえって肝が据わってしまうのかもしれなかった。

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  1. 2019/05/18(土) 10:51:00|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 三日たって二十七日、再びB二十九が、四、五十機、関東から東海にかけてやってきた。そして二十九日が又東京の夜間空襲である。大本営報道部の発表によれば、いずれもマリアナ基地から来襲したものであった。

 これではまるで東京へ空襲を受けに来たようなものだと、わたくしは独り苦笑した。

 二、三日おきに続いた飛石空襲は、さすがに人心を動揺させずにはいなかった。都心の住民はいざという場合足手まといになる子供達を、競って地方に疎開させた。大泉のような郊外では、それほどまでに切迫感はなかったが、それでも隣り組で頻繁に防空対策の相談会が行われ、家々では庭に頑丈な防空壕を掘った。

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  1. 2019/05/19(日) 15:20:05|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 兄も毎夕帰宅すると、スコップを握り、不器用な手つきで穴を掘りだした。横穴式とでもいうのであろうか。五、六尺斜めに階段をつけて掘り下げ、さらに横に六、七尺ほり、その中に、四、五日間は食べていけるように、罐詰、カンパン類を貯蔵しておくのである。わたくしと母は、毎日土運びを手伝わされた。「おまえは身体が悪いのだから」と母がしきりにとめたが、兄の下手な仕事ぶりを見ていると、とても高見の見物などしておられるものではなかった。

 そうした騒ぎの最中、十一月もおしつまった三十日、とつぜん篠原がやってきた。内地の様子を見にきて、ついでに秋田までわたくしを訪ねて行ったのであるが、三日前に東京に出たということを聞いて、後を追って来たのである。

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  1. 2019/05/20(月) 08:36:01|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 篠原は玄関に直立不動の姿勢をとり、大きな眼を瞠り、じっとわたくしを見つめた後、

「しかし、奥さん、瘦せられましたね。大丈夫ですか」

と、誠意のこもった歯切れのよい口調で云った。

 昼ごろの汽車で東京を発たねばならないというのを、無理やり引き止めて食事を勧めた。わたくしがつねに篠原青年を褒めているせいか、母も義姉も肉親に対するような好意を示し、とっておきの白米や海苔をつかって弁当までつくってやった。

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  1. 2019/05/21(火) 18:20:00|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 丁度食事をしている時であった。空襲警報のサイレンが鳴りわたり、やがてのこと、一機のB二十九が、彗星のごとく大泉の上空に姿を現した。澄みきった大空に、薄い白絹のリボンのような飛行雲を長くたなびかせ、空の女王のような優美さと威風をもって、ゆうゆうと飛んできたのである。

「ああ、偵察機ですね」

 篠原は縁側に出て空を仰いで云った。

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  1. 2019/05/22(水) 13:18:58|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

「偵察機がきたら、二、三日後には爆撃にくるかもしれませんよ。ここら辺だったら所沢かな……しかし、それにしても悠々たるもんですね。すっかり嘗められているんですね」

 そう云いながら座敷にもどり、再び飯を食べながら彼は続けた。

「しかし、戸松先生はよく見ぬいていたものですねえ。この春、内地工作に失敗してかえったとき、『日本の政治家も軍人も馬鹿だよ。戦争をはじめることは上手だが、止める時期というものがわからん。敵がマリアナを占領して、爆撃機をとばすようになったらもう手遅れだ。そうなったら物量戦でおしまくられるだけだ』と云っておられたが、本当に本土が襲撃されるようになりましたからねえ。

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  1. 2019/05/23(木) 18:18:03|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 一つ一つ先生が前から云っていた通りになるんで、恐ろしいようだなあ。ようく先の見える頭ですからね。上海の工作も、僕達だけでは、暗闇に手探りしているようなもので、留守をまもるだけがやっとですよ。

 しかし、戦況が悪化して、工作も思うようにならなくなった今でも、周仏海や熊剣東は我々に以前と同じように援助していますからねえ。彼らの節操の固いのには敬服させられますが、それだけ先生に対する期待も大きいんですよ」

 彼は青年らしく、生々と眼を輝かせながら語った。

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  1. 2019/05/24(金) 17:22:52|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 それから滬西の家の話、呉亜男夫人の話など、次々と上海の様子を話してくれた。昼の汽車で発つと云っていたのが夕方となり、母はついでに泊まっていけとしきりに勧めたが、彼は快活に笑いながら辞退して帰っていった。

 それから三日後であった。篠原が予言したとおり、敵の大群が大泉の空に来襲したのである。

 十二月上旬も小春日和が続いた。その日はたしか日曜日だったのではないかと思う。兄も子供達も、家族が全部そろっていたことは確かだ。

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  1. 2019/05/25(土) 11:00:08|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 昼近くになってとつぜん警戒警報のサイレンが鳴り響き、ほどなく空襲警報となった。義姉は台所の火を消し、庭や家の中で遊んでいた子供たちを呼び集めて、防空壕に退避した。幼い子供たちは隠れん坊でもするように、喜々として母親から渡された防空頭巾や水筒を持って、次々と穴の中に駆けこんでいった。母も「どうせ、こっちの方までは来やしまいけどね」などと、自嘲的な笑いをうかべながらも、子供たちの後から潜っていった。いい年をして命惜しそうに子供と一緒に逃げ隠れするのが、照れ臭くてしょうがないといった様子であった。空襲に対する実感はまだまだ稀薄で、誰もが退所の予行演習でもしているように、幾分はしゃぎ気味であった。

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  1. 2019/05/26(日) 11:12:20|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 わたくしはラジオのスイッチを入れた。すると、アナウンサーの慌てふためいたような声が、激流のような早さと切迫感をもって流れてきた。

「百機と推定されるB二十九の編隊が、東京を空襲中であります」

 和服を脱ぎ捨て、国民服に着替えたばかりの兄は、

「こりゃ大変だ……」

と叫んで、慌ててゲートルを巻きはじめた。

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  1. 2019/05/27(月) 11:22:50|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 二、三日前の回覧板で、空襲中は男は鉄兜にゲートルを巻き、女は防空頭巾にモンペを穿き、子供や老人はいちはやく防空壕に退避させるように、厳しく通達されたばかりであった。

 士官学校の教官といっても、文官であるから、平素ゲートルとか長靴は履きなれていない。そのうえ無類の不器用者である。慌てれば慌てるほど、ゲートルはずるずるして兄をからかっているようであった。庭先からこの様子を見ながら、

「お兄さん、早く早く」

 わたくしはいらいらした声でせきたてた。

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  1. 2019/05/28(火) 08:16:05|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 やっとのこと、無恰好ながらもなんとか巻きおえて、鉄兜をかぶりながら兄が庭に飛び出したときには、既に西の空に無気味な爆音が轟き亘っていた。兄は、庭の片隅に小山のように積み上げた防空壕の土の上に駆けあがると、爆音のする空をじっと見つめた。音は拡大しながら急速に近づき、やがてあたりの空気をびりびりと揺るがし、家も大地も震動しはじめたのではないかと思われるほど間近くせまってきた。

「おまえ達は壕に入れっ」

 兄は顔中を口にして怒鳴った。十三歳になる兄の長男は、空襲に対する好奇心と勇者ぶってみたいという少年らしい虚勢から、少年用の鉄兜をかぶり、庭の真中に立って、父と同じように手をかざして西の空を仰いでいた。わたくしも壕の入り口に立ったまま、両隣の庭を見廻していた。どこの家でも女子供は防空壕に入り、主だけが武装して爆音の方角に眼を凝らしている。

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  1. 2019/05/29(水) 11:00:01|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 兄がわめくと同時であった。敵の大編隊が大泉の空に翼を重ねて現れたのである。三日前に来週したときにくらべ、はるかに低空を飛んでいるように思われた。太陽を背にした機影は獲物をめざす黒鷲のごとく、襲いかかるように頭上にせまりつつあった。その羽撃は大気を波立たせ、太陽の光線は中空で千々に砕けて美しい金波となり、東の空へと波うっていた。

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  1. 2019/05/30(木) 17:10:55|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 ただならぬ空の急変は、発作的に恐怖感と絶望感を呼び起こし、命の終りを直感させた。溺れる者は藁をもつかむというが、わたくしは絶望を感じながらも、大して頼りになりそうにもない壕の中へと、無我夢中で駆けこんでいった。少年の方が、わたくしよりも一足先に転がりこんでいった。その数瞬後、兄も何やら叫びながら落ちこんできた。それと同時であった。だーん、だーん、だーん、と、間近くつづけさまに大地を揺るがす大爆発音が響きわたった。この次はこの壕の上か……自分の首や手足がばらばらになって、土くれと一緒に空高くはねあがっていくさまが、ちらっと頭をかすめた。

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  1. 2019/05/31(金) 13:13:38|
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國 乃 礎

Author:國 乃 礎
   綱 領
政官財・癒着根絶
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