いしずえ

第三巻激流の巻

 それは、敵の死を嘲笑しながら見物する冷酷さにもまさる非情を感じさせた。戸松の心の中にむらむらと憤りが込み上げてきた。怒鳴りつけたいのをじっと我慢しながら、彼はこの可哀そうな新兵のために、何かしてやらねばならないと考えた。

 つい半月程まえ、自分もやはりこのように、異国の山の中で、誰一人悲しんでくれる者もない中で、むざむざと死んでいくところであった。人間の肉体から生命が永遠にはなれ去っていくということは、これは重大なことだ。同じ人間ならば共々に、生命との離別を惜しみ悲しんでやるべきではないか。

 彼はベッドを下り、患者の顔をのぞき込んだ。その瞬間である。夢幻の中をさまよっている筈の患者が、急に恐怖の色を満面に漲らせ、がたがたとふるえ、怯え、おののき出したのである。

   (43 43' 23)

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  1. 2019/11/01(金) 08:52:18|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 戸松は驚いてベッドに腰を落とした。患者は戸松の方に顔を背け、逃げ出そうとしてもがいているようであった。戸松は顎髭をぎゅっと掴んだ。この髭だ、と彼は思った。戦地に来てから伸ばした髭が五寸ほどにも伸びていた。この新兵を自殺するほどに恐怖させた上官は、このような髭を生やした男だったに違いない。

 意識朦朧として生死の境をさまよいながら、髭に対する恐怖は強烈にこの青年を支配している。彼の上官への恐怖が、いかに深く切実なものであったかが思い偲ばれた。戸松はもう再び青年の方に顔を向けまいと思った。

 何ときかたった。青年をしきりに水を求めた。もう死期がせまっていた。看護班長が走りよってきて水を与えた。

   (43 43' 23)

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  1. 2019/11/02(土) 13:11:38|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

「うまいなあ、この水は千葉の水だろう」青年は満足そうに言った。

「そうだ、千葉の水だぞ、千葉の家の水だぞ」班長は優しく頷きながらいい聞かせた。

「暗くなってきた。彦っ、提灯をつけてくれ」青年の意識は郷里の家路を辿っている。行けども行けども家路は暗い。青年の顔は青ざめ、心細そうに力を失っていった。

   (43 43' 23)

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  1. 2019/11/04(月) 10:17:16|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 やがて、一つの生命が、たくましく若々しい肉体から静かにはなれ、無限の宇宙へと吸収されていった。その一瞬、生命が明から幽に移る厳粛なるその一瞬が、死というものであった。青年の生涯におけるもっとも厳粛なるこの一瞬を、戸松は哀れなる彼の為に、しっかと見届けてやった。

 小肥りの若き亡骸には、もはや一片の恐怖も苦痛も影を留めていなかった。この肉体の可能性は、ことごとく終ってしまったのである。インテリ班長は、静かに亡骸の両手を胸上に組ませてやった。戸松の胸の中をじーんと悲哀が走り抜け、その後にひたひたと憐憫の波が満ちてきた。

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  1. 2019/11/06(水) 11:16:38|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

「彦もとうとうお陀仏したか」

 向こうの方から冷やかでぶっきらぼうな声が響いた。同室のほとんどの患者が、この新兵の死には無関心であった。もう戦病死にはあきあきしたとでもいうのであろうか。それにしても、弾丸の飛び交う中なら兎も角こうして枕を並べて寝ている同胞の一人が、悶え苦しみつつ死んでいくというのに、人間らしい一掬の思いやりもかけられないというのは、一体どうしたことだというのだ。戸松は、日本軍人の陥りつつある人間的危機を、強く感じた。大日本帝国軍人という虚飾に包まれた、貧弱な人間性の実体が、ここにも剥き出しになって転がっていたのである。

 野戦病院の警備隊々長が兄義彰の妻常子の長兄鈴木多一氏であった。

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  1. 2019/11/07(木) 08:38:08|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

  東 京 大 空 襲

 昭和二十年に入ってからの本土空襲は、四、五日おきから二日おきになり、二月以降は連日続くこともあった。七、八十機から百五、六十機のB29が、東京、名古屋、大阪、九州に、銀翼をつらねゆうゆうと来週した。

 大泉上空は何度か敵の通路になったが、去年の十二月初旬の爆撃いらい、爆弾にみまわれることはなかった。

 東京の二月は小気味よく晴れ、春の訪れを思わせる日が多い。そうした小春日、敵は東京の空の飛行をたのしむかのごとく、美事な編隊をみせてやってくる。

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  1. 2019/11/08(金) 10:05:18|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 この頃では、わたくしはもう防空壕にも入らず、B29の大群と対決するような気負った気持で、縁側に立ったままじっと空を見つめていることが多かった。

 時々、どこから現れたのか、日本の戦闘機が一、二機、編隊の一角を狙って攻撃していることがある。接近して離れ、上になったり前に回ったり、戦闘機は燕のような素早さを見せながらB29に手強く食い下がっている。と見えたのは束の間のことであった。次の瞬間、B29は戦闘機の上空を滑るように飛び、戦闘機は黒い煙を吐きながら落葉の舞い落ちるように、ひらひらと散り落ちていく。

 それはあっという間の出来事であった。編隊はすでに屋根の彼方に姿を消し、わたくしが庭下駄をひっかけて門の前に回ったときには、何事もなかったように、はるか東の空に遠ざかっていた。そしてその中の何機かは、金魚の糞のような黒い細長い塊をつづけざまに放下していた。

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  1. 2019/11/09(土) 13:28:08|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 そのあたりには軍需工場があるらしく、高射砲がしきりに打ち上げられている。白い破裂煙が、ぽかっぽかっと中空に浮かんでは消えた。しかしそれは、B29の高度よりはずっと下空においてであった。敵機の去りゆく中空に、糸をひくように落下していく無数の黒く小さな固体が、破壊や恐怖とは無縁のものの如く、軽々と伸びやかに群がり落ちていくのが見えた。

 この夕のラジオニュースでは、昼間の空襲で何機かの日本戦闘機とB29が墜落したことを報じていた。

「体当りしたんだな、きっと。何しろB29は空の要塞といわれている代物だ。日本にはB29を撃ちおとせる性能をもった戦闘機は数少ないそうだよ。日本が空軍に力を入れるようになったのは支那事変が始ってからだそうだからね。航空力に違いがあり過ぎるんだ。もう攻めるも守るも特攻戦法の時代になったなあ」

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  1. 2019/11/10(日) 13:27:06|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 兄は手にした箸も重たげに、沈んだ声で言った。

 この頃のアメリカ空軍は、ほとんど住宅街を狙うようなことはしなかった。日本本土の偵察が完全に行われ、工場地帯が明確になったのか、それとも電波探知機や投弾技術が一段と進歩したためか、誤って民家に投弾するようなことなく、軍関係の建物や工場のみを片っ端から狙い撃ちしているように思われた。

 東京市民の生活に、いく分落着きが戻ってきた。頻繁な空襲も雨や風のごとく、毎日の生活の中に馴染みこんでしまい、

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  1. 2019/11/11(月) 13:26:23|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

「今日はB29は名古屋にいったというから、こっちの方には来ないだろう。ゆっくり遠くまで買出しに行ってくるとしようか」

というように、天気図よりも敵の飛行図をたよりに、生活をくみ立てていく術を身につけはじめていた。こんな状態ならば、空襲下の東京生活もそれほど不安なものではなかった。

 ところが、春もまだ浅い三月九日の夜半から十日の未明にかけて、東京市民の空襲に対する認識を一変させる大事がおきたのである。

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  1. 2019/11/12(火) 13:27:27|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 その夜長い警戒警報ののち空襲警報となったが、爆音の響きもなく闇はひっそりと沈んでいた。わたくし達は武装のまま寝床の中に潜り込んだ。爆音が聞こえたら飛び出すつもりであった。小半時も経った頃だろうか、火急をつげる警備員の声がメガホンを通して町内をながれわたり、やっと、今夜の空襲がただならぬものであることを感じたのである。

 慌てて飲料水や乾パンを防空壕に運びいれ、ほっとして空を見上げたとき、あっ、なんという凄まじい空の色だ。南東の空一面に赤々と火の手があがっている。

「どこですかな、あの方向は……」

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  1. 2019/11/13(水) 13:38:12|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

「下町の方ですな」

「深川あたりかな」

「いや、あの火の工合では、もっと近くですよ」

「めちゃくちゃに焼夷弾攻撃しているようですね」

「今までの攻撃法とは違いますね。この風では、東京中が火になってしまうんじゃないですかなあ」

 垣根ごしに、隣の主と兄が話し合っている。

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  1. 2019/11/14(木) 10:07:06|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 風は二、三十メートルの早さで吹きまくり、焰は強風にあおられているのであろう。火勢は非常な早さでのび走る。

 真赤な夕焼に照りかえったような空に、B29と思われる大きな図体の爆撃機が数機、巨大なカラスの群がとびおりてくるように、低空へとすべるように舞いおりてきた。と思うと、とたんに真昼のような白光がぱっと照りわたり、赤い空の色も黒い飛行機の姿も、一瞬の間消し去ってしまう。敵が照明弾を投じたのである。

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  1. 2019/11/15(金) 08:07:06|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 姿を下界からくらますためか、それとも目標とする地域めがけて攻撃しているのか、遠目には定かでない。敵機は、あるときは数機、あるときは二、三機又ある時は単数で、彗星のごとく赤い空を背景にして現れ、ぐっと低空にすべり下りたかと思うと、再び反対方向に上昇していく。低空に下りたとき焼夷弾の雨をふらせていくのであろう。暫くすると、虹の空に、さらにオレンジ色の焔がぱっと重なり映える。そこへ又数機の来襲だ。左右から探照燈の帯が中空に走り、敵機を捉えようとする。一機が二つの光の帯の十字の中心に捉えられ、もがいている。高射砲の音が遠雷のごとく続けさまに響きわたる。どうやら命中したようだ。敵機は低くすべり下りていった。時々日本の戦闘機が舞い出て勇敢に敵機に絡みついていく。撃ったのか撃たれたのかも分からぬ中に、敵も味方も、空の一端に姿を没してしまう。

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  1. 2019/11/16(土) 16:55:50|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 それは赤い空を背景にした天然色映画の空中戦を見るように、あざやかでスピーディなものであった。

 敵は来ては去り、去っては又飛び来たり、波状攻撃とでもいうのか、磯の波が引いては打寄せ、打寄せては引くように、あくこともなくおし寄せてきては投弾していった。空襲時間およそ二時間、ひょっとしたら三時間ぐらいだったかもしれない。下町はもはや、火の海に埋ったものと思われた。

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  1. 2019/11/17(日) 11:08:35|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 あの赤い空の下に、無数の人たちが焔に包まれ、煙にまかれ、生きながらにして焼け、窒息し或いは踏み殺されているに違いないと想像された。長時間、しかも広範囲に亘る攻撃である上にこの烈風である。逃げても逃げても、火、火、火の渦に突き当たり、無数の人々が死の苦痛と生への執着にもがき、阿鼻叫喚の生地獄を呈しているに違いない。

「こりゃ、震災のときよりも酷いや」

 兄は腕組したまま、うーんと唸り続けている。二時間のあいだ、わたくし達は息をつめて南の空を見つめつゞけていたのであった。

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  1. 2019/11/18(月) 08:28:23|
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第三巻激流の巻

 それにしても、戦争というものは、何んとダイナミックで壮絶なものか。又なんという悪魔的な破壊力にみなぎったものか。それは人類の過熱した感情の衝突を象徴するがごとく、激しく凄まじく狂おしい。

「今度のようにB29が死に者狂いになって空襲したのははじめてだわ。少数ずつだったけど五、六百機は来たでしょうね」

 わたくしには五百機を下ることはないと思われた。

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  1. 2019/11/19(火) 10:08:31|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

「いや、二、三百機だろう。風のために火勢が強くなったけどね。飛行機はそんなに来ていないよ。この分では東京の半分はやられたかもしれないな」

 兄は未だ興奮さめやらぬ声で云った。

 敵の飛行機が去ってからも、火の手は一向におさまらず、空は夜明けまで悲嘆に泣き明かしたごとく赤く、わたくし達は、興奮と恐怖に眠りを忘れていた。

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  1. 2019/11/20(水) 11:17:06|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 いつの間に寝床に潜り込んだのか、ふと気がついたときには、雨戸も障子も開け放したまま、武装姿で横になっていた。外はすっかり白々とあけわたり、夜中の空襲が悪夢であったのではないかと思われるほど、早春の空気は清々しく爽やかに流れていた。

 その朝、人々は寄り合っては焼夷弾爆撃の怖ろしさにおののき合い、従来の防空対策が全く無意味であることを嘆じ合った。同時に、B29の攻撃が飛行場や軍需工場の爆撃から、都市の無差別爆撃に変じたことにも、不安と動揺を深めていた。

 どこの家でも衣類や家財をまとめて荷造りし、生活用品の疎開を始めた。わたくしも母から譲りうけた衣類をトランクにつめ、秋田に送った。

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  1. 2019/11/21(木) 13:56:18|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 この日来襲したB29は約三百機、空襲をうけたのは、浅草区、本所区、深川区、城東区、江戸川区のいわゆる下町と呼ばれる地区である。特に浅草、本所、深川の江東地区は最も酷く、この世のものとは思われぬ地獄絵を展開し、一夜にして見渡す限りの無人の焼野原と化し、焼け爛れた死体が累々として到るところに重なり合っているということであった。

 旬日を過ぎたある夕、学校から帰った兄は云った。

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  1. 2019/11/22(金) 11:10:16|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

「あのあとB29は、三百機前後の大群で、大阪、神戸、名古屋など、片っ端から焼夷弾爆撃をやっている。そのうちに、東京の山の手に攻めてくるだろう。そう遠いことでない。

 硫黄島も玉砕した。今度は沖縄だ。沖縄が玉砕すればいよいよ本土決戦だ。敵の大艦隊や機動隊が、沖縄や九州沖にきているそうだよ。そいつを撃つため、飛行機という飛行機を集め、特攻訓練しているんだ。東京を護る飛行機なんかないのだ。これからは東京が焼野原になるのをじっと見ているだけだ」

 兄は自分の知っている情報を小出しにしては、わたくしと母に警告をあたえた。

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  1. 2019/11/23(土) 08:18:27|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

「東京が護れないようなざまで、これから戦争を続けていけるの?こんなことで勝てると思うの?」

 憤りとも失望ともつかない複雑な感情を、わたくしは兄にむけて投げつけた。彼が軍の代表者であるかのごとく歯痒く思われた。この二、三ケ月来、敵機の試すがままに任せてきた日本防空軍の無力さを存分に罵ってみたかった。しかしそれを口に出すことは憚られた。三月になってから、特攻隊の勇士が次々と死の空に向って飛び立っていたからである。

「勝算があるから戦争を継続しているんだよ」

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  1. 2019/11/24(日) 11:06:33|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 兄は軍人の学校の教官らしく、自信に満ちた口調で云い放った。戦況が逼迫するにしたがって、元来自由主義者であった彼までも、しだいに軍人精神に固まってきたようである。

「軍官たちは本土決戦になれば必ず勝てると言っている。全軍特攻の決意でいるんだと言っていた。国民総特攻の覚悟ができたら必ず勝つというんだ。生徒たちも死ぬ決意でいるね。彼らの燃えるようなきれいな眼を見ていると、心を洗われるような気がするよ。

 本土決戦になれば、東京は空襲や艦砲射撃で地形がかわるほど弾丸を撃ち込まれるだろう。皇居も政府も大本営も信州の方にうつるそうだ。お母さんも君も、早目に田舎に帰った方がいいね。ぐずぐずしていたら動けなくなってしまう」

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  1. 2019/11/26(火) 13:33:00|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

「なにも先を争って田舎に帰ることはないわさ。本土決戦とかになったら、日本中どこにいても同じことだろうさ。ここらは広いから田でも畑でも、どこへでも避難できるさ」

 母はわざとらしい落着きをつくって云った。どんな危険に遭遇しても、念仏を唱えておれば怖くないというのが母の信条である。この二、三ケ月、母は急に老い込んだようである。疲労に弛んだ瞼が、老いの衰えをにじませている。頻繁な空襲は、老人にとっては相当の重圧だったに違いない。だが、兄が東京にいる限り、母も田舎に引揚げる気はない。第一、母には、東京が全焼したり全壊したりするなどということは、どうしても信じられないようであった。

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  1. 2019/11/28(木) 02:32:06|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

「これ以上アメリカが東京を攻めて、宮城や明治神宮や靖国神社に爆弾を投げようものなら、きっと神風がおこるわさ。元寇のときのように、ちゃんと神仏がお守り下さるよ」

 母はそう固く信じ込んでいるのか、ゆったりとした笑いを浮べて云った。当時の神風信仰は母だけのものではなかった。そのことが国民の大半の心の支柱となっていたことは確かである。

 この日から一ケ月のちの四月七日、敵は神風の発生を挑揆するかのごとく、伊勢の神域を爆弾にて犯し、さらに十三日には宮城と大宮御所の一部を炎上させ、明治神宮を鳥有に帰せしめたのであった。

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  1. 2019/11/29(金) 00:35:20|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 民族の魂の要ともいうべき聖所が、敵弾に次々と蹂躪されたことは、さすがに国民を悲憤せしめずにはおかなかった。

 もう神風が起きてもいいころだ。なぜ起きないのか。なぜ奇蹟が起きてこないのか。日を追うて激しくなる空襲に、不安と焦躁にかりたてられながらも、最後に起こりくる何事かを期待し待ち望む気持は、共通の意識となって国民の心を支えていた。

 実際、これまでの日本は、困難に臨むたびに挙国一致の国民的団結がこれを撃ち退け、この機を転機として国運の進展をはかってきたものであった。この歴史的事実が、国体に対する信仰に似た革新を国民に懐かせたものといえる。

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  1. 2019/11/30(土) 23:25:23|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

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國 乃 礎

Author:國 乃 礎
   綱 領
政官財・癒着根絶
マスコミ横暴撲滅
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