いしずえ

第三巻激流の巻

「八右衛門のお父さんに相談してみてやれ。あの人だば、会社に知っている人が多いだろう」

 母に向って云ったのである。

 気の小さい母は、父とわたくしの気色ばんだ遣り取りを、さっきからからハラハラして聞いていたのであった。父とわたくしの顔を交互に見比べながら何か言いたそうに、口を開けたり閉めたりしていたのである。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2020/03/02(月) 17:21:55|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 八右衛門家は十四、五代前に戸松の家から田村の先祖となる人に嫁に行った後、嫁の家を本家として今日に至ったものである。八右衛門というのは恐らく先祖の名前であろうが、これが世間一般の呼び名となっていた。田村家の主は温厚な人格者である上に、相当な資産を背景にもっているため、村の指導的地位にあった。父と同じように底抜けの善人で、時々身体の弱い父を訪問し、茶を飲みながら長時間話し合っていた。田村家の主の友人が秋田木材会社の人事課長をしている関係で、わたくしは七月からこの会社の鋳物工場の事務関係の仕事をすることになった。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2020/03/04(水) 17:53:05|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

  就 職

 七月一日の朝、わたくしは秋田木材会社に出社した。

 鋳物工場は能代駅のすぐ近くにあった。道を挟んで事務所と作業場が向き合っていて、いずれも粗末なバラック建であった。恐らく戦時に入って臨時に増設したものであろう。

 入口に立つと、十五坪ほどもあろうかと思われる事務所の中は、一見して見渡された。半坪ほどの土間の奥は板敷の低い床が続き、土足で上るらしく、板の継目も分らぬほどに土がしみ込んでいた。入口近く三つあるいは四つづつ向き合っている机の群が並び、その奥にある一段と大きな机に国民服の中年男が座っていた。この男が工場長であった。三分刈りの頭にロイド眼鏡を掛けた小柄な工場長は、机の脇に腰かけている来客らしい男と会議中であった。バタバタと、草履の音をたてながら、女事務員がわたくしを彼のそばに連れて行った。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2020/03/05(木) 08:18:51|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 わたくしが初対面の挨拶をすると、彼は腰を浮かせて返礼し、珍しいものでも観察するように、暫し眼鏡のレンズを真っ直ぐにわたくしの顔に据えた後、

「小坂君」

と入口近くの机の群に声をかけた。善良そうな三十そこそこと思われる小坂君が近づいてくると、

「この人だ」

と云ったきり、再びせかせかと客の方に向き直ってしまった。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2020/03/06(金) 08:33:30|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 小坂君は自分の席の左側の、入口に一番近い机にわたくしを案内した。彼の右にも前にも机は並んでいたが、そのときは皆空席になっていた。

 小坂君は仕事の説明をしてくれるでもなく、向こうの方から物珍しそうにこちらを見ている女事務員達に紹介してくれるでもなく、机にかじりついて黙々と自分の仕事にとりかかった。わたくしは手持ちぶさたのまま、ぼんやりと部屋の中を見まわしながら、招かれざる席におしかけてきたような、一種の疎外感にとらわれていた。

 二十分程もすると小坂君は、点検しおえた書類をわたくしの机の上に差出して云った。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2020/03/07(土) 13:50:33|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

「これを三通コピーして下さい。あなたには暫くの間コピーをして貰うことになりました」

 見ると鉛筆で車輪の原型が書いてあり、その右横に寸法が細々と記載してある。帳面のように綴じた複写用紙の間に二枚の複写紙を挿んで、わたくしは丹念に写し始めた。けっきょく第一日目は、三枚の原図をコピーしただけであった。

 第二日目からは、空席になっていた机に、それぞれ人が座っていた。わたくしの前には四十がらみの画家に成り損なったという生気の乏しい男が、ひっそりと座っており、小坂君の前には小学校を出たばかりのような少年が、右には小栗鼠のようによく立働く娘が座っていた。少年と娘は雑用を兼ねて事務をとり、小坂君と画家と私の三人が受注の品の図面を作製したり、受注と納入の書類を整理したりするのである。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2020/03/08(日) 08:13:58|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 工場長は気の忙しい男で、のんびりとしていることは殆んどなく、日に何度となく出たり入ったりし、昼過ぎには、現場か本社か或いはもっと外に行く処が多かったのか、とにかく外に出っ放しのことが多かった。カーキー色の乗馬ズボンと地下足袋に身をかため、緊張感を発散させながら、多忙そうに一人で張り切っていた。

 彼が居なくなると、事務所の雰囲気が急にだらける。誰からともなく雑談が始まり、わたくしや小坂君の机の周りでは、いつしか小栗鼠のような娘が話の中心になってしまう。彼女の下膨れのした立体的な顔は、水密桃のようにふくよかで、くるりと反り返った長いまつ毛が、夢想的で愛らしい影を滲ませていた。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2020/03/09(月) 17:56:17|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

黙っていれば清らかで素朴で、それでいて華やいだ楽しい雰囲気を醸し出す容貌であったが、一度口を開けば品性の粗雑さが目立ち、世間馴れたませた口を聞くのが嫌味であった。まだ二十一才だということであったが、四十女のように世話好きで気軽く人の面倒をみていた。からっとした人馴れした態度は、能代という港町に育った娘の典型的タイプといえるかも知れない。この娘を中心とする話題は、近く行われる慰安演芸会に集っていた。社員とその家族の慰安と懇親を兼ねたようなもので、本社のホールで芝居や舞踊や民謡を演じたり唄ったりして、互いに楽しみ合うのだそうだ。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2020/03/10(火) 10:55:08|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 小杉の一字を捩って「杉さん」と呼ばれているこの娘の、芝居への熱の入れ方は大変なもので、午後になると当日の打合せに各仕事場を駆けまわり、時には向こうから五、六人の娘達が杉さんの周りに集ってきて、雀の群のように賑やかに囀りかえっていた。

 小坂君や前の小竹少年は、娘達と同じように演芸会に興味をもっているようであったが、大方の中年以上の男や女は、石原莞爾の東亜連盟に異状な関心をよせているようであった。

 或る日、他の職場の中年の女がやってきて、今日石原先生が来社され、午後六時から講堂で講演があるから聞きに来ないかとしつこく勧めた。

「一時間だけでも聞いたらどうですう。後で必ず良かったなあと思うわんて、まんず一遍きいてみなさい」

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2020/03/11(水) 13:55:33|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 彼女は強引で命令的で、何人も石原莞爾の講演に魅了されるものと、深く信じているようであった。

 石原莞爾は、緒戦の頃、東条首相の主戦論に対してアジア五族の平等と協和を唱え、大陸からの全面撤兵を主張し続けて東条政権に対立し、二年前、予備役に退けられて郷里の山形県鶴岡市に蟹居を命ぜられていた。一年半前、戸松が上海から北支・満洲・朝鮮・東京と、軍首脳や民間人に体当りして和平運動をまき起こした時、わざわざ鶴岡まで石原将軍を訪ね、意見を交している中に互いに激し、言々火を吐く議論を戦わしたことがあった(既に第二巻で述べた)。戸松の話では、恐ろしく気性の激しい豪快な面と、優しく質朴な面との、相反する両面をもった勇将だということであった。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2020/03/12(木) 08:05:33|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 東亜連盟は、将軍の思想を中核に、アジア民族の協和を推進する団体で、一時はアジア一円に亘ってもり上っていたようであるが、東条政権の弾圧をうけてからは、ひっそりと影を潜めていた。恐らく東条政権が倒れた後、再び鶴岡を中心に組織活動が活溌化してきたものであろう。

 秋木会社における将軍の人気は、教祖に対する信仰にも似ていて、彼が会員に勧めているらしい健康薬の酵素を、くだんの女は「こうそ様」と読んで有難がり珍重がっていた。彼女に誘われるまでもなく、わたくしも石原莞爾なる人物を直に見、現在の彼の思想の一端を直接聞いてみたいと思った。しかし、夜になっても帰ってこない嫁を待って心配する戸松の父母のことを思うと、思いのままの行動をとることは出来なかった。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2020/03/13(金) 13:30:08|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 石原ムードにも演芸ムードにも無縁のまま、十日経っても二十日経っても打ちとけ合って語るべき友もなく、わたくしは孤独であった。朝から机に向って休みなくこつこつと仕事を続けていると、午後にはその仕事すらもなくなり、孤独と時間を持て余してしまう。退屈そうなわたくしの様子を見て小坂君が云った。

「仕事をもう少しゆっくりやって下さい。こっちでどんどん仕事をしても、作業場の方で製品が出来ないんだから駄目なんですよ。三月も前の注文の品がまだ出来てこないんですからね」

「どうしてですの?工員が足りないんですか」

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2020/03/14(土) 13:58:38|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

「いや、原料がないんですよ。割当配給の原料が少しかないんですよ。だから、注文はどんどんくるけど製品の納入ができないんです」

 働く意慾はあっても、材料がないのでは工場の空気が弛緩し沈滞していくのは無理もない。工場長が落着きを失ったように、せかせかと出たり入ったりするのもそのせいであろう。原料の闇入手は、工場長の腕にかかっているのであろうから……。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2020/03/16(月) 13:38:15|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 しかし、それにしても、仕事がなく半日は殆んど遊んでいるような状態にありながら、会社は何故わたくしを採用したのであろうか。小坂君は二月前に出征した人の補充だろうと云ったが、現に仕事が減少しているというのに、新採用する必要はなかったのではないのか。多分紹介者である八右衛門の主の依頼が熱心で誠実であったため、その知人の人事課長がその熱意に負けたものであろう。実際これだけの仕事をするのに、現人員の三分の一で、十分間に合いそうに思われる。この非常の時に、なんという人間の無駄使いをしていることか。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2020/03/17(火) 16:05:30|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 小坂君から工場の実状を知らされてからは、わたくしは仕事に対する熱意と張合いを失ってしまった。自分の存在が会社の増産に些かなりとも意義をもち、微力ながらも仕事を通して戦争に参加することができると信じていたからこそ、つまらない図面のコピーに精根を打ちこんでいたのである。仕事がなく、居ても居なくてもいいような存在ならば、給料欲しさに居座っている態のいい乞食に過ぎない。わたくしの誇りは傷つき、一日、一日と憂鬱になっていった。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2020/03/18(水) 16:29:01|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 その中に演芸大会も終り、それに纏わるさまざまの話題もぱったり影を潜めたが、娘達はその余韻を楽しむかの如く、同じ劇を演じた者同志が、時間を選ばず友情の交流を続けていた。会社を社交場と間違えているのかも知れなかった。よく云えば和気藹々としているとも云え、悪く云えば不統一で無秩序な空気が流れていた。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2020/03/19(木) 15:22:01|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 工場長は、相も変らず乗馬ズボンに地下足袋姿で、本社に現場にと駈けずり回り、出陣兵のような壮気と緊張感を発散させていた。時々見せる彼の鎮痛な表情は、怠惰で無信仰な民を率いて苦悩する旧約聖書のモーゼを思わせた。モーゼは神を背にして民を強迫し訓練した。だがこの工場長は都下に甘く、放任したままであった。部下は何をどうしてよいのか分らない。だから暇に任せて雑談を楽しみ、用もないのに他の職場に出かけて行くのである。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2020/03/20(金) 11:30:55|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 夜業に次ぐ夜業で、従業員が心身をすり減らしている兵器工場もあれば、世相の逼迫の陰に隠れて、男女工員の性関係が乱脈を極めている工場もあるという(これは東京からの記者の中で、近くにいた男同士が話していた)。かと思えば、原料不足で手を拱いている工場もある。

 日本の産業は蠅取紙に足を捕られた蠅のように、やたらに羽を羽搏かせるのみで、その胴体は、麻痺し膠着状態に陥っているものといえる。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2020/03/21(土) 13:30:38|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 二十日も通った頃、わたくしの意志は既に退職に傾いていた。殊にわたくしの給料が、高女卒の事務員より高額であるということを耳にしたとき、自分の就職の意図がまるっきり違った形に受取られていることを感じた。毎日六、七枚の図面のコピーをして、弁当を食べて、雑談して、それで仕事量を越す給料を貰うという生活が、多くの将兵が家庭も命も投げ出して戦争にかり出されている今日、許されていいものであろうか……。

 この矛盾をどうして、このまま見過しておられようか。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2020/03/22(日) 15:01:16|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

  鈴木貫太郎終戦内閣

 ある日、雑談の間に小竹少年の家が苺の栽培をしていることを知った。さっそく少年に頼んで退社後持ってきて貰うことを約し、一時間以上も待って、既に貴重品化した苺の実を五百匁ほど手に入れることができた。これを土産に持って帰って、退職の意を告げ、父と母を再び説得するつもりであった。父は気まぐれ者だ。世間知らずだと云って怒るかも知れない。母は「八右衛門のお父さんに悪い」と云って止めるかも知れない。いずれにしても両親は不興の色を見せるだろう。どっちを向いても憂鬱なことだらけだ。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2020/03/23(月) 08:58:08|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 東能代の駅を出た頃には、長い夏の一日も既に暮色が漂い始め、大気は昼間の暑気にぐったりとなえ、そよとの動きもなかった。

 駅前通りを左に曲ろうとしたとき、向こう角から父が飄々とした歩みで近づいてきた。浴衣を裾長く着た姿は、女のようにすらりとして華奢に見えた。

「お父さん、どちらへ?」

 わたくしは近寄りながら声をかけた。

「あんたの帰りが遅いので、多分この汽車で帰るんではないかと思って、さっきからここで待っていたのじゃ」

「心配して下さったんですね。すみません」

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2020/03/24(火) 20:35:08|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 わたくしは父に苺の包みを見せ、遅くなった訳を話した。わたくし達は国道を五十メートル程行ってから、田圃の小道にと折れて行った。この道は林道(杉原本運搬馬車鉄道の跡)と云って国道よりいくらか遠回りになるが、田圃の中を横切って家の裏庭に通じている。見渡す限りの青田は、休息の夜を心静かに待っているかのごとく、寂として静まりかえっていた。わたくしは父の一歩後から歩みながら、肩越しに自分の心情を訴えた。

 父は瘦せた背をいく分猫背にして、顎を前につき出すようにして黙ったまま歩いている。どんな表情しているのか、後ろからは読み取れない。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2020/03/25(水) 08:31:38|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

「戦争はこれから一層苛烈を極めていくでしょうし、鉄材や石炭はますます不足になるでしょう。あの会社では、わたしは明らかに不要な人間です。居るべきところではありません。ですからもう会社を辞めようと思います」

 わたしは繰返し強調した。そのとき丁度わたくし達は、家の裏庭を望む地点にきていた。父は立ち止まった。そして、木立の向こうの我家を眺めながら云った。

「その方がいい。あんたはわしの跡取り息子の嫁だ。息子からの大切なあずかりものだ。人から蔑まれたりしてはいかん。そんな事情なら行くことはない。とっとと辞めたがいい」

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2020/03/26(木) 13:33:08|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 あれほど父を遣り込めて職に就いたのであるから、皮肉の一つも云われるものと覚悟していたのであるが、父はかえって満足そうであった。このとき、我家をのぞみ見ている父の骨ばった横顔は息子の誇りを尊重する恩愛の情に光っているように思われた。

 翌日辞意を表明すると工場長は云った。

「ここ一、二ケ月の間に、中堅の工員や事務員が櫛の歯が抜けるように出征してしまいましてね。女のしっかりした人が欲しいと思っていたところだったんですよ。今の処、一寸仕事がはかばかしくありませんけどね、その中に又忙しくなりますよ」

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2020/03/27(金) 13:55:18|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 もう少し様子を見てから切り出すべきだった。少し早まったかな、とわたくしは思った。再考してみることにして四、五日が過ぎた。その間にもコピーした図面は溜まる一方で、一向に捌ける様子もなかった。それどころかやっと納入した製品がどんどん返品されてくるのである。寸法が違っていたり、ひびが入っていることが主なる理由であった。有能な工員が不足していたからであろう。

 それから二、三日してわたくしはいよいよ辞職の決意を固めた。製品にならない図面をせっせとコピーすることの無意味さを、しみじみと思い知らされる時が来たからである。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2020/03/28(土) 10:08:08|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 天皇を中心とした国家指導部に、和平両論が暗黙のうちに対立していたことは前にも述べてきた。天皇は厳然たる日本の真中でなければならないのに、側近たちは軍部の鼻息を恐れ、天皇と軍部の間を離間させてはならないというので天皇自身の決断を一日のばしに引き延ばしてきた。和平派の重臣たちも、軍部に気づかれないように、秘かに和平締結の密談をしていた。

 当時の首相、鈴木貫太郎大将は天皇の御親任も厚く、和平を願う重臣の推薦によって首相になった人物であったが、もともとが武人であるため、和を結ぶにしても、まず敵に一撃を与えた後という考えに立っていた。重臣や側近たちが即時和平の希望を首相に率直に訴えなかったことは、不思議とも思えるが、それ程軍部の勢力が強く、国内の空気が決戦色濃厚であったともいえる。和平派の側近と重臣は、これに立ち向かっていけるだけの信念と識見と結束がなかったのである。戦前も戦後も天皇の側近たちは、天皇と時の国内勢力との間を離間させまいとして、天皇を時流に迎合させ、時代の波と共におし流していく傾向があるようだ。天皇が国の真中、国の礎たることを放棄し、時代の子となったとき、この国の永遠の光は閉ざされてしまうのである。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2020/03/29(日) 13:29:33|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 軍首脳部は、そのころ日米戦力は五分五分であると信じていた。緒戦に勝ち、中戦に負け、最後の本土決戦に再び勝つという、三戦二勝の確信を抱いていたものといえる。五分五分ならば戦うにこした事はない。軍人ならば当然の判断であった。

 戦力のある間に有利な降伏をし、国土の破壊を免れようとする和平論者、不敗の伝統に傷をつけることなく、日本国民の意気を世界に見せようとする主戦論者、いずれも愛国の至情に固まっていたものといえるが、当時は主戦論を唱える者が愛国者で、和平論を唱える者は、売国奴と考えられていた。こうした中にあって、和平を高唱することは決死の勇気を要するものであったから、余程の見識と自信と勇気がない限り、堂々と和平論をきり出すことができなかったのである。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2020/03/30(月) 15:33:01|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第三巻激流の巻

 しかし、前にも述べたように、五月、六月とひき続く敵機の本土空襲は、大都市はいうまでもなく地方都市まで片っ端から破壊し、その勢いは向こう二、三ケ月の間には小都市から町村まで、焼き尽してしまいそうに思われた。

 この時まで、沈黙を守ったまま主戦論に圧倒され続けていた天皇側近の和平論者は、もはや一刻の猶予もならずというので、はじめて和平の声を上げ、「木戸提案」という形をもって天皇に早期和平の試案を奏上したのであった。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2020/03/31(火) 11:10:12|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

プロフィール

國 乃 礎

Author:國 乃 礎
   綱 領
政官財・癒着根絶
マスコミ横暴撲滅
国賊売国奴殱滅
現行憲法廃棄
日米安保破棄

最新記事

カテゴリ

未分類 (6)
提言 (1)
理念と使命 (1)
目的・活動 (1)
遺言状(救國法典) 戸松慶議著 (660)
生存法則論 (第二巻 思想篇) 戸松慶議著 (3)
永遠の道 戸松登志子著 (2158)
新聞 (17)

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

ブログランキング

にほんブログ村 政治ブログ 政治思想へ
にほんブログ村

ブログランキング

FC2 Blog Ranking

月別アーカイブ

アクセスカウンター

天気予報


-天気予報コム- -FC2-

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

このブログをリンクに追加する

QRコード

QR