「お母ちゃんはもう死んじゃうからねッ」
牧谷夫人は再び悲愴な声をあげた。子供を叱る言葉にしては激烈にすぎるようだ。平素おだやかな彼女の言葉にしては、大分調子が狂っている。
子供も敏感に何事かを感じとったのであろうか、おずおずと母親に近づいてきて、じっと母親を見上げた。そして鏡のふちをそっと撫でながら「ごめんね、お母ちゃん、ごめんなさい……」といった。
この子は尚義のような強い個性はなかったが、素直で愛らしいところのある子供である。母親はこの子のこの性格を愛していた筈であったが、今朝は様子がちがっていた。
「お母ちゃんが死んだら、今に新しいお母ちゃんが来るから、隆義はそのお母さんの子になりなさいッ」
(43 43' 23)
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テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済
- 2017/04/03(月) 13:47:24|
- 永遠の道 戸松登志子著
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